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ジュリ&エリス

やっっと出せました...!

飛んでもな2人が出来上がる過程です。

 私が孤児院に来たときは6歳だったか…


 家での記憶はあまり覚えていない。

 気がついたら誰もいなくて、エリスと乱雑な家の床で2人揃って倒れていた。

 死にかけていたところを、近所の人に発見され、孤児院へ預けられるようになったと聞く。


 ここへ来て良かったのは、温かいご飯が食べられるようになったこと、体が臭くなくなったこと。

 院には他にも子供が沢山いたけど、興味を持てず、常に2人で居た。


 私にはエリスしかいないし、エリスにも私しかいない。それ以外はどうでも良かった。



 それが変わったのは、身なりの良い子が院に来るようになってから。


 みんな少し離れて見ていたけれど、そのうち距離を詰めて、いつの間にか笑って話すくらいになっていた。


 ある日、身なりの良い子が黒い板を院に持ってきて、手のひらくらいの大きさの白い棒を院の子に渡していた。


 子供は楽しそうに白い棒を黒い板の上を滑らせていた。そのうち身なりの良い子は、白い棒を受け取ると、何かを描いた。


 院の子の名前だった。それを見てエリスが呟いた。



「エリスってどんな風に書くんだろ…」



 エリスがそう言うので、自分の名前の文字を見てみたくなった。

 黒い板は沢山あると言っていたので、受け取って、身なりの良い子の顔を窺いながらエリスと一緒に差し出した。



 ーJuri ーElis



 黒い板に描かれたそれは、なんだかとっても大きく感じて、エリスと一緒にじっと見つめていた。

 もっと知りたくなって、院で始まった文字の勉強にのめり込んだ。


 暫くすると綺麗な絵が描かれている本が、侯爵家から贈られた。贈ったのは、あの身なりの良い子、侯爵家のエリオット様だった。


 ーああ、あの字を書いてくれた子か。


 ふぅん。としか思わなかったけど、その絵本をエリスと一緒に読むうちに、物語に夢中になっていった。


 全て読み切ると、どうしても他の本も読みたくなった。


 院に居た子に聞いたら、年長の子が、院で始めた護身術の上級者版を侯爵家の屋敷で受けていて、その屋敷には、本がたくさん詰まった部屋があると聞いたとき、エリスと見合わせて同時に頷いた。


 そこからは文字の勉強以外に、院でやっていた基本マナーや体術などの訓練、数字の勉強もした。


 全て合格をもらえたときに、院の大人ー職員さんに、上級者向けの訓練を受けたい、お屋敷に行きたいと話したら、エリオット様とよく一緒に来る男の子ーウィズリー様がやって来た。


 上級者向けは、普通に生活する上では必要がないこと、これまでとは違い、訓練中に打撲などの痛みが多少発生する事があると思われること、それでも受けたいなら、侯爵家の力となってゆくゆくは仕えることになる場合があることを、淡々と説明していった。


 私もエリスも何も持たない。


 物語が読めるなら、教わったことを役立てるくらい安いものだと思った。


 そうして週に1、2度侯爵家に行って訓練を受ける事と、いろんな物語を読むことに没頭した。


 侯爵家の本には読めない文字を使った本が偶にあった。

 エリオット様が言うには他国の言葉だそうだ。絵を見るととっても気になる場面が描かれている。どうしても気になって2人で口を尖らせていたら、「そんなに気になるなら勉強してみる?」と言われたので、2人で頷いた。


 そうしていろんな勉強をして、訓練をして、全てに合格を貰った頃、エリオット様が始めた家人付きの貸し出し会場で、見習いとして働き出した。


 会場を借りるのは裕福な平民、商家だったり、貴族だったり色々だった。


 その日はワインの品評会が行われていた。


 淡々と作業をこなす中、エリスがしきりに会場の窓の外を気にしていたので、どうしたのかと声をかけた。



「主催者の1人と、招待客の連れが外に出たから、暗いのに怪我でもして手間がかかると嫌だなって」

「そっか。確認だけしに行きましょ」



 そうして2人して小さな庭先に出ると、暗いのにも関わらず最奥の生茂る木の影に居た。



「あんなところで何をしているんだろう?」



 小声で話しながら近づき、様子を見ていると、主催者の息子と思しき男は、木に手をつき、招待客と思しき女を囲って何かを話していた。



「……それで………また来月にーー。凄いだろ?なぁ、ところでそろそろ……良いだろ?」

「ふふ、焦らないでくださいまし。…そうですわね。今はこれで許してくださるかしら?」



 そう言うと女は、するりと男の胸から手を滑らせて首に回すと、男を引き寄せて口付けた。


 頭の方向を変えながら交わす深い口付けが終わると、男は興奮したように息を漏らし、女は妖艶な笑みを浮かべた。



「続きは次の週末で…いらして下さる?」

「…あぁ、じゃぁそれまでにもうちょっと…」



 また同じように口付けが始まったので、取り敢えず音を立てずに会場近くまで戻った。



「ねぇエリス……」

「そうだねジュリ……」



 そう、先ほどのやり取りは、まるでいつか読んだ物語の中で描かれていたような光景だったのだ。



「物語だと思っていたけど…」

「実際にあるんだね……」

「「もっとあるのかな」」



 こうして2人の意見は、いつものように一致した。


 ***


 気配を消して密かに探る事数週間。

 分かったことは、物語のようなドラマティックな事は中々起きないということ。あったとしても、精々秘密の情事くらい。副産物として、気配を消して素早く動く事が上手くなった事か。


 ある時、侯爵家での鍛錬後に、また 2人して口を尖らせていると、エリオット様に声をかけられた。



「そうして同じ仕草をしていると、余計にそっくりだね。どうかした?」



 私たちは見習いで働いている先で、色々な事を見た事、物語の中のような事はあまり起きない事を説明した。



「ふぅむ、君たちがどんな物語を読んだかは後で調べさせるとして。重要なのは、言葉に隠された真意。

 視線や仕草が表す心情を乗せると変わる言葉だったりするんだよ。

 例えば、その相手を見た瞬間、一瞬だけ片方の口角に力が入って上がったりすると、本当は軽蔑していたり、関わり合いになりたくないとか。

 話すときに顔を触るのは真意を悟られたくない、隠し事がある時とか。嘘をつくと目を見ずに泳がせる人もいるが、嘘を信じさせようとするときには、目を離さないとか。それを踏まえると、また違った物語が広がっている事が分かるんじゃないかな?」



 「貴族はそういった僅かな情報も見逃さないようにしなければならないんだよ」と肩を竦めて言ったエリオット様は、鍛錬後に1冊の本を貸してくれた。



 ー隠された心ー



 その本は仕草が示す、心の現れについて書かれた本だった。


 エリスと一緒に読んだ後、顔を見合わせ、最初に見た光景を鮮明に思い出していた。


 男が時折鼻下を触っていたのは?

 男が話し終わった直後に、口の片端をあげたのは?

 女が微笑みながらも耳を触っていたのは?


 女が欲しい情報を得てほくそ笑みながら情事に耽っていたのではなく、男が嘲りながら嘘の情報を渡して、女は別のことを考えていた…?


 そう思うと情景の表面がポロポロと崩れて、中身が垣間見えた気がして、堪らなく面白く感じてしまった。


 ニヤリ……エリスが笑っている。

 きっと自分も同じ顔をしているのだろう。


 それからはより人を観察して、意見しあって答えを確かめるために、目についたやり取りをした人物を執拗に追い、紡がれていく物語を興味深く見つめた。



「君たち、人に興味を持ったのは良いが、目的もないのに突き回すのも程々にしなさい。そして隠密技能に長けてしまった2人に、探ってきて欲しい事柄があるのですが良いでしょうか?」



 そう言ったのはウィズリー様だった。


 ある伯爵家に行って、何か不審な動きをしないかを探る。それだけなので簡単だと思った。


 翌週には準備を整えて、2人して伯爵家へ行き使用人として潜り込んだ。

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