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初めて連載物に手を出しました。暖かく見守ってくださると有り難いです。
ふんわりと中世ヨーロッパをイメージしています。
彼女と会ったのは、まだ7歳の頃だった。
子供同士の顔合わせお茶会という名目の、お見合い。
相手は伯爵家だけど事業も手がける資産家とかで、繋がりを持っておきたい両親の、『分かってるよな?』とグイグイと迫る雰囲気を敏感に感じた僕は、相手の家族が来る前に庭園に逃げ込んだ。
家のための結婚は貴族として理解はできるのだが、いかんせん幼かった僕は、ちょっとした反抗心から庭園に逃げ込んだ。
庭園の池のそばにあるガゼボに隠れてうとうとしだした頃、「バシャン」「パシャパシャっ」と水音が聞こえてきた。
不思議に思い、音を立てない様に気をつけながらそぉっと覗いてみる。すると淡いピンクベージュのワンピースを着た女の子が、思いっきり振りかぶって石を池に向かって投げていた。
『なんだ??なんで石を?』
その子はだんだん真剣さを増してきたようで、ちょっとスカートの裾をたくし上げだした。
「ちょっと君!何してるの?!」
「え??きゃっ」
振りかぶっている途中で思わず声をかけちゃったから、バランスを崩して尻もちを搗いた様だった。
慌てて駆け寄って、上から覗き込んだ僕は心配で声をかけた。
「ご、ごめん、大丈夫?」
「あービックリした〜」
目をパチクリさせながら僕を見上げた顔を目にして、僕は息を飲んだ。
陽に輝いてキラキラ反射する真っすぐな白金の髪。真白な肌にほんのりと色づく頬。湖の様に澄んだ蒼い瞳。桜色の唇。ぽーっと見惚れてしまい手も貸さずに固まってしまった僕に、目を何度かパチパチと瞬いた後おもむろに口を開いた。
「あなたは?だあれ?」
こてりと傾げられた瞬間に、僕の胸に何かがトスっと刺さった様な衝撃を覚えた。
「はっ、えっと僕はエリオット、この家の子だよ」
「私はフランシーヌ。今日お父様とお母様と、ここのお家でお茶会するって。一緒に来たのよ」
「そうなんだ、あ、立てる?」
座ったままにしてはいけないと思って、手を差し出したらジッとその手を見つめられた。
いつまでも掴まろうとしないフランシーヌに、心配になって声をかけた。
「どうしたの?怪我でもしちゃったかな?」
フランシーヌは悪戯っ子の様にニッと口角をあげたと思ったら、僕の手をグイッと思いっきり引っ張られた。
「!ちょっわっっっ!」
隣に膝をついて倒れた僕は「何をするんだ」と文句を言おうとバッと顔を向けた先で、フランシーヌがキャッキャと笑っていた。
悪戯が成功した満足感で「これでお相子ね!」と言う彼女の満面の笑みにまたトストスっっっと何かが刺さった衝撃を受けた気がした。
じわじわと何故か顔が熱い。なんだか胸がドンドコ鳴っている気がする。どうしたんだ僕は!?激しい鼓動に思わず胸を掴んで落ち着け〜!と言い聞かせながらも何故と混乱する僕の顔に、フランシーヌが手をそっと添えた。
「あら?ビックリし過ぎちゃった?顔が赤いわ。ごめんなさい」
クスクスとまだ笑うフランシーヌ。
やめて、なんか良い匂い。いやいや、やばい。だめだ。クラクラする!!
耐えきれず、そのまま芝生へ突っ伏してしまったのだった。
「エリオット?え、やだっ!大丈夫?!」
「だい、、丈夫、ちょっと色々待って」
「そう?無理はだめよ??」
そうこうしている内に落ち着きを取り戻した僕は、取り敢えずフランシーヌの手をとって庭園を散策しながら屋敷に戻ることにしたのだった。
***
「まぁエリオット、どこに行っていたのかと思ったら、フランシーヌ嬢と一緒だったのね!あら、なんだか服に汚れが付いているみたいだわ。着替えてらっしゃい」
屋敷に戻ると早々に見つかった僕らは、直ぐに引き離され、僕は自室へ放り込まれた。
着替えている時も何処かポヤっとした僕に「坊っちゃま、お顔が…」とメイドに言われてしまった。
着替えをさっと済ませた僕は顔を引き締め、フランシーヌがいるであろうサロンへ足早に向かう。
サロンでは、両家対面に座って和やかにお茶を楽しんでいる様だった。
「ああ、エリオット、こちらへ。ご挨拶なさい」
僕に気づいた父が、そう声を掛けてくれた。
「お初にお目にかかります。オースティン侯爵家長男エリオットです。お越しくださりありがとうございます。お出迎えに居らず申し訳ありません。是非お見知り置きください」
にっこりと微笑み、フランシーヌの両親に向かっていたはずが後半はスイーっとフランシーヌへ向かってしまった。何故だ。身体が自動で動いたぞ?
「これはご丁寧に。ウィンダリア伯爵家当主、ダーヴィルズです。こちらは妻のソフィア。そして」
「先ほどは庭園で失礼いたしました。ウィンダリア伯爵家長女フランシーヌですわ」
ゆっくりとカーテシーをして見せたフランシーヌ。だがその顔は、庭園で見せてくれた輝く様な無邪気な笑顔じゃなく、教師や母上がする様な顔で。なんだか萎れた気分になった。
あぁ、あの笑顔が見たいなぁとぼんやり考えていたら、礼を終えたフランシーヌが僕をじっと見つめて『どうよ?』って顔したからまた胸が騒がしくなってきて、何だか楽しくなって僕も満面の笑みで応えてしまった。
その後父と母が『落とせると良いなと思っていたら突き落とされてしまったか』『その様ですわね』とコソコソ話していたのだった。