生きる屍は汝のまにまに
結構短いんで流し見でもして読んでください。
死ぬとは、何か。苦痛なのか。はたまた楽なのか。その答えは、分からない。というか、分かってはいけない。なぜなら、その瞬間、神の領域に達し、人生という「もの」を全く楽しめなくなってしまう。人生は楽しまないと損。楽しまないと生きている意味、基存在意義がなくなってしまう。つまり、神の領域に達した瞬間、自分の存在意義がなくなるということだ。それは、逆の場合だって同じということ____。
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兵庫県明石市の、空の上に現代神様はのっそりと頓挫していた。この神様四人には、それぞれ任されている、いわゆる「〇〇の神様」的な担当があった。
リーダーっぽい人から、テレホンカード、ポケットベル、七輪、イチゴ専用スプーンの神様である。よって、殆ど仕事がない。ほかのところでは、土偶の神様とかもいて、今活発に動いている神様は全体の1割未満だ。時代は過ぎてゆくものだからしょうがないが、典型的な少子高齢化となっているので、神様界の君主は今紛糾している。ちなみに、高齢の神様を殺せばいいのだけだが、そんなことをすると地方自治体に怒られるそうである。しかも、神様は老衰や病気では死なない。殺されるか自殺するかしないと神は死なないのだ。一体どうすればいいのだろうか。
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かくして神様は多忙を極めるどころか娯楽を極め始めていた。しかしながらネタが尽きたらしく、自殺するものも出てきていた。明石市の空の上では、こんな雑談が繰り広げられていた。
「俺らもそろそろ死ぬか?」
「ま、死んで極楽に行けるなら死ぬけど、地獄の可能性もあるんだろ?」そうポケベルが
落胆した口調で言うと、「それ、違うから」
と、イチゴスプーンが言った。
「そうじゃないなら、どういうことなんだよ!」
「あのね、あたしが思うに、死後の世界は、『無』だと思うの。ただ、無とはいっても、一言では表せない『無』なの。
無であるから、いろんな人の思考が交錯することがなくて、それ故に幾らでも収容できるのよ」
「ん?なに、もっかい言って」
「もういいわ」
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廃神様たちの雑談が終わった頃、その真下では娘と孫、ひ孫に見守られつつ昇天してゆく者がいた。
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「お、来た来た。2日ぶりかな」
「あいつ、なんかいい顔してやがる。むかつくなあ」
「そんなこと言わないの。ナンマンダブツ、ナンマンダブツ……」
「なんでそんな死人を労わるんだよ。死人に感情なんてないし、第一赤の他人だろ」
「いいじゃないの。いいことをするとかえってくるものよ」
「なんで死後の世界は信じないのに、迷信は信じるのかな。これからが思いやられるわ」
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廃神様が口喧嘩をしていたころ、その真下の少し離れたところで仲間割れをして包丁で左胸を刺された少年がいた。
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「なんだこいつ。上に昇がっていくと思ったら、下に下がっていくじゃねえか」震えた口調でポケベルが言う。
「ま、まさか……、地獄?」
「そんなわけないでしょ」間髪をいれずに、「じゃあ、どうなっていくんだよ」とポケベルがちょっと怒った口調で言うと、「幽霊よ。人生に未練を残したからそれを果たそうとしているのよ」
「幽霊ねえ。あの、49日以内に復讐しないといけないやつか」
「まあ復讐っていうか、やり残したことを『幽霊』っていう可視化できる形としてやり直して、成仏できるように…。って、土偶の神様が考えたことなんだけどね」
「へぇ~。尼崎の長老ってそんなこと考えたんだ~」テレホンカードは感嘆の声を漏らした。
「今じゃただのおじいちゃんだけど、昔はすごかったんだね」
「じゃ、あの人は地獄に落ちたんじゃなくて、人への恨みがあったからもう一度人間界に戻ったっていうこと?」テレホンカードがまとめた。
「そういうことだろうね。全く、人間なんてろくでもないのにね。動物は平気で殺すのに、みーんな平気な顔でみている。その割に自分達がAIに乗っ取られる!とか、ほんっとうに」自分勝手にも甚だしいよね、とイチゴスプーンは言った。
「なにそれ。人間ってそんなに下等遊民の集まりなの?」
「一回下に降りたら?絶望するわよ」
「え~。厭だなあ」テレホンカードはあからさまに人類を批判した。
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日本では、否、世界では、毎日沢山の人が死んでいる。それを神様は毎日誰も知らないところで嘲笑っているのである。逆でも、同じ______。
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「なあ、お前、お化けっていると思うか?」
「いるわけねえだろ。いたにしてもしょうもねえ奴だろ」。
「じゃあ……。幽霊は?」
「う~ん……。いるんじゃない?」
「じゃあ、神様は?」
「いるっぽいな。ほら、○○の神様とかいうだろ」
「ウソだろ!神様なんて、いたって意味ねえんだよ。だって、なあんもしてねえんだよ。人間は『神様のおかげ~』とか言ってるけど、実際は、単なる偶然の重なりに起きた必然なんだよ」
「そうかなあ」
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下であたかも自分たちがいないような話をされていた時、それを見たテレホンカード達は憤慨に燃え、取り付く島もない気持ちに晒されていた。
「なんだよあいつら。俺らを蔑ろにして」
「でもしょうがないじゃないの。幾ら人に見えるようになりたくても、その時のトップしか人間に見えるようにはならないもの」
どーせ見えてもね…。四柱は落胆した。
「あのね、妖怪だって幽霊だって鬼だって、勿論神様だって、あ、あとUMAも。古くから人間に見られちゃいけないの。そういうものなの。昔から人間に見つかってきたのは、間抜けな奴だけなの」
「人間と一緒に遊びたい妖怪もいるだろうに」
「あ、なんかね、『SIGERU』っていう人間が、妖怪が普通に見えて、その見えた妖怪を写生して、すごい人になったらしいわ」
「へぇ~。ハンドルネームかな。かぁっこい~い」
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古くから神様は自分たちを見ていると伝えられている。勿論それは合っているが、だからといって何かをしているわけではない。否、できないのだ。幾ら人を助けてあげたくても、幾ら人を悪い道に陥れたくても、無理なのだ。それを神様は知っていて、人間は知らないのだ。それの捩れが昔から捩れに捩れたことによって今の食い違いが起こっているのだ。人類が知恵を出し合い、皆で協力しても答えにたどり着けることのできないことを神様はすべて知っているのだ。人類は地球を征服したつもりになり、我らは宇宙を治めている!と完全に得手勝手にやっているただの足手まといな生命体にしか過ぎないということも知っているのでアリマス。だがしかし、その捩れを直すものがいるのでアリマス。その捩れは直すことができマスです。直せばよいじゃ。昔の人たちは大抵直そうとしていたんじゃがな。今は。殆どの人がそのことをせずに、ただただ「神様、お助けを~」というのだあ。理不尽でしかないっすよ。……と、土偶の神様は、昭和で生まれた神様に向かって誇らしげに、二〇〇〇年以上の歳月をかけて知った皆が何となく思っているであろう教訓を熱弁していた。途中から語尾が乱れ始め、文の末に至っては、最早渋谷を歩き回り公園で寝ている上京一年の若手芸人みたいな口調になってしまっていた。昭和神様らは、笑いを精一杯こらえるほかなかった。
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「いやいや、なんか下の名前だってよ、『……しげる』っていう名前だから、『SIGERU』らしいよ」
「あっ!なんか聞いたことあるぞ。四年前に亡くなって、亡くなった時妖怪も一緒に天に昇って行った、っていう、あの人でしょ?」
「そうそう。あの時は結構話題になったよね~」
「妖怪を操る人間なんてレアだよね」
「そういや、神様って人に姿を見られたことってあったっけ?」
「ないないない。ありえないありえない。あっちは自分たちが頭が悪いということに気づいていないんだから」
「あ、そっか。まず、分かるレベルじゃないんだね」テレホンカードが真理を突いたような一言を言った。
人は人で同じようなことを言っているのであった。
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「お前ら、幽霊とかは別に信じなくていいけど、妖怪とか、神様とかは信じろよ。俺なんか、神様見たことあるんだぞ!」
「ふっ。だから?」
「だからも何もねーだろ」
「いや、あるから聞いてんの」
「ったく、しょうがねえなあ。あのなあ。俺が言ってんのは」想像より創造の世界を大切にしろってことなんだよ。
「なんじゃそりゃ」
「幽霊とかは、元々は人間だろ。だから別に信じなくてもいるのはいるんだよ。なんだけど、妖怪とかは想像なの。いるはずないの。いるはずないから大事にしろっていうことなんだよ」必死に自分の言いたいことを言おうとしている。そんなこと全く関係ない人が共有しようとするはずがないのに。
「へー。で、今、なんつった?」
「あのな」
「もいいわ。だるいし。要は今でいう物語みたいなものだろう?」
「ん~。ま、そゆことだわ」もう完全にいう気力がなくなってしまった。ここいらあたりで神様の怒りが沸々と沸き始めた。
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廃神様は案の定憤怒していた。神様ってなにもしないのに自分達がけなされると急に怒り始める。それって理不尽じゃない?とこの文を読んでいる人の大半は今まさに思っているだろう。全くその通りである。なんでそんなことができるのか自分でも不思議である。そもそも我々神様は……あっっちょっと、あっえっやめてください!うわ、ぶわっふ、ふぇぇぇぇ…うわ~~~~~~~~~~~!!!!
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さてさて、さっきまで訳のわからんことを話していた『自称』神様の言っていることなんかお気になさらず、引き続き貿易の話をしましょう。今ならなんと!旧ブラジル連邦が三兆円のところ、一〇〇分の一にしちゃいます!なんと三〇〇億円です!ついでに旧ユーゴスラビアの俘虜も差し上げますので是非お買い求めください!あ、欲しいのであればさっきの『自称』神様も上げちゃいますよ~。ええと、『自称』神様は…と……あれ?………え?……大臣、大変です!あいつが、『自称』神様が逃げました!あいつが、この、ネパールとモナコとユーゴスラビアとナイジェリアとブラジルと日本しか残らなかった世界を目の前にしたら、きっと、きっと生き残りの私達一六四人にも、きっと天誅が下ります。この地球はただでさえ滅亡に向かっているのに、このままじゃすぐ滅亡です!ああぁぁ、えらいこちゃっちゃ、えらいこちゃちゃら!
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はぁ。やっと逃げられた。神様っつったって実際地球人から見るとただのニートみたいな感じだからなあ。しょーがねーか。
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「あれ?ポケベルどこ行った?」
「あーなんか趣味でラジオパーソナリティになりたいらしいよ」
「え!?それって……自殺行為じゃん!」
「もうそっちんがいいらしいね」
「なんで?ええ?」
「まだなんも言ってないわ。あのね、この部屋から出ると人間でいうと死、つまりポアなの。しかもポアには道連れの作用があるの。その種族を全部消滅させてしまうの。ということだから、私達ももう消滅するのよ。ま、別に今は神様なんて必要ないから別にいいんだけどね。まあつまり、神様の一族はもう終わるってこと」
「そういえば、さっきからやけに静かだなと思ったらそういうことだったのか」
「そうよ。これからもっと静かな静寂が永遠に続くと思うわよ。まあ、森羅万象昔から静寂に包まれてい
るから永遠に続く、というよりも元に戻った、という方が正しいのかしらね」
とっても静かに、冷淡に、ゆっくり、そんなことを皆に告げた。
何を隠そう、イチゴスプーンが。
「そうなんだね。え?まじで?早く逃げなきゃ!」
「無駄無駄無駄。どうせ消え」
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三四二エポックの地球は全て滅んだ正に『無』の世界となり、それを哀れに思った、自らを【ガイスト】と申すその生体はいつしか土からアダムを、そのあばら骨からエブを産み、一つの林檎の木を植えて『無』の世界へと入っていった。否、なだれ込んでいった。その消息を知ろうとする人は、未だ一人も現れていない。あれっ?じゃこれは何?誰も知らないならこれも存在しないはず。誰も知らないならつまりないということ。あれっ?あれれれれ?未だに不明である。今後も不明である。不通である。
読んでいただきありがとうございました。