第6話 決闘の果てに
「お兄様、私と決闘してくださいなの!」
「決闘ということは模擬戦的なやつか」
「そうなの」
「なるほど。いいぞ。だがルールは相手の頭を軽く叩き枝を剣の代りにするそれでいいか?模擬戦でも実戦過ぎるのはあれだしな」
「それでいいよ。」
(だってどんな条件でも私が負けるはずないもん)
アリサはそう思っていた。
「じゃあギル、審判任せていいか」
そういうとギルは二つ返事で返してきた。
「ああ、ユウ暴れてこい」
「相手が妹なのに暴れてこいは適切ではない気が……はは」
そういうとユリウスは苦笑いをする。
そうしてユリウスとアリサは互いに距離を取った。そして互いに剣(枝)を構えた。
(やっぱり、構えすらまともにできてないなの。あの頃のあれはやっぱり小さい頃の私が何も知らなかったからすごいと思っただけだったの)
アリサはそう思っていた。
ユリウスの構えは無形の型という。
我流で様々な剣技を習得しているため状況に応じて瞬時に構えを変えたり剣技の使用中に別の型の技を使う構えができるのだ。
無論本気で戦う際には別の構えがあり、そして本来は二刀流で戦うためどちらにしろ構えは変わるのだ。
二刀は前前世では認めた相手以外には使わなかったが今世ではそんなことは気にせず楽しむつもりであった。
だがそれでも一本しか抜刀していないということはつまりアリサは相手にならないということだ。
アリサは剣を構えた。
「これくらいの距離でいいか?アリサよ」
「うん、大丈夫なの。いつでも始めていいよ」
その言葉を聞きギルはユリウスの方を向いた。ユリウスはそれに応えるように首を縦に振った。
「じゃあ、いくよ」
そういうと一泊置き「では、始め!」と言う。
その言葉と同時にアリサは背後に回りこみ確実にユリウスを倒しにかかる。
(やっぱり速さについてこれてないなの。これで終わり!)
アリサはユリウスには目の前から突然消えてついてこれてないと思っている。そしてアリサは上段斬りを仕掛ける。その剣(枝)が着弾する瞬間、アリサは頭に軽い痛みを覚えた。
「え?……何が、おきたの」
「まだまだだな。勝利したと確信したとき一瞬気が緩んでたぞ」
アリサは理解が追いついていなかった。
(確かに勝利を確信して気が緩んだけどでもそれで負けるはずが……一体何がおきたの?)
アリサがそう思っている頃ギルが勝利宣言をした。
「ユウの勝ち。流石だね」
「だろ」
ギルがそう話し合っているとアリサが再戦を宣言する。
「もう一本なの」
「いいぜ。何本でもやってやるよ」
そういうと同時にアリサとユリウスは互いに距離を取る。そして先ほどと同様にギルが開始の合図を出した。
合図と同時にアリサは距離を詰め横薙ぎを仕掛けたがユリウスは軽く体を捻り薙ぎ払いを避ける。するとアリサはそのまま突きを仕掛けるがユリウスはそれを体を少し横にずらし攻撃を回避したと同時にアリサの頭を軽く叩いた。
「ひゃん……」
「攻撃が素直だな。もしかして実戦はあまりやったことがないのか?例えば今のような対人戦闘とかな」
「うん。だって先生達は今の私よりもう弱いから」
「なるほど。たしかにな」
「それよりもう一本なの」
そう今のアリサにとってはもう家庭教師たちの攻撃はゆっくりに見えてしまうのだ。経験の差を圧倒するほどの才があった。
そしてまたギルが戦闘開始の合図をした。
するとアリサは連続攻撃を仕掛けた。初撃は下段から行い、そのまま刃を返し横薙ぎをしそのまま左斜め上へと切り上げた。その後も今ある連撃系の剣技そのすべてを使った。だがユリウスはそのことごとくを全て受け流した。連撃が途切れた一瞬の隙を突いてアリサの頭を軽く叩いた。
「まだまだだな。連撃はいいけど途切れた瞬間の隙を補える技を作っておくといいぞ。それとまだ動きが素直すぎるな」
「な、なんで……なんで勝てないの」
ユリウスはアリサにアドバイスを送る。
「俺はスキルがないからそろそろ現実を見て、みたいなことを言うか思い知らせるためにやってるのかもしれないが、ただスキルがないから弱いなどと侮ると痛い目を見るから気をつけた方がいいぞ」
「なんでそんなに強いの?」
「経験の差と積み上げた時間が違うからかな。アリサ、お前はギルと同様に筋がいい、だから慌てずとも強くなれるぞ」
なぜ強いかをアリサに告げる。
かつて自分が通った道でもあるからだ。
「でも……スキルが無くてそこまで強いのは幾らなんでもありえないなの」
「さーな。それは俺にもわからない」
ユリウスはまあ嘘だがなと心の中で言う。
(剣技は前前世の賜物だし、スキルは一応はあるっぽいしな。だけど今はまだ言わないほうが良さそうだ)
ユリウスがそう思っているとアリサがまた再戦をすると言い出す。
「もう一本なの」
「おーけーだぜ」
そうするとまたギルが開始の合図を送った。
(これならどう?)
アリサがそう心の中で呟く。
アリサは一気に距離を詰める。
「暗殺剣……なの」
アリサがそう言うと同時に剣が消えた。否、消えたように感じるだけなのだ。
暗殺剣は剣の気配を消すことによりほんの一瞬消えたように感じさせ、剣の間合いを瞬間的に狂わす技。速攻でなおかつ初見の剣の間合いだと効果は高い。
そして相手を音もなく仕留めるための暗殺に使われる剣技でもある。暗殺は気配を消さなくてはならない。そのため剣や短剣を振るう時も気配が出てはいけない、故にその時に使う技でもある。
アリサはこの技を三週間以上かけて習得した。本来はもっと長い期間を掛け気配を断つ訓練を積んでやっと習得できるものなのだ。この過程を飛ばしてアリサは習得したどれだけの才があるかはもはや見ればわかるだろう。
だがユリウスはその一撃を軽く体を捻ることで躱した。
「え!?」
アリサは躱されたことへの驚愕を隠せなかった。
躱されたがアリサはすかさず連続で攻撃をしたがユリウスはそれをすべて受け流す。
「ぬるいな」
そういうと軽くアリサの頭を叩いた。
「ふむ……剣の間合いが読まれている相手にその技を使うのは良くないな。それは不意打ちや縮地からの攻撃に使うのがテンプレだ」
その模擬戦でもアリサにアドバイスを送る。
それはアリサを鍛える意味も込めていた。
(なんでこの技についても知ってるの?年齢を考えると私より経験はあったとしてもありえないなの。でも次の技ならきっと一太刀入れられる)
アリサはそう思った。もう心の中では自分は負けたのだと悟っていた。だがせめて一矢報いたかったのだ。
「もう一本なの」
「なるほど次で決めるつもりなのかな」
「さぁ、どうだろうね。お兄ちゃん」
ギルはその会話を聞き合図の準備をしていた。そしてユリウス達が距離を取ったを確認すると開始の合図を出した。
「天罰の剣!」
アリサがそう言い剣(枝)を上段に持ってきた。すると剣(枝)に光が集約され始めた。そしてその光が完全に収束し、それを振り下ろそうとした瞬間アリサは仰向けになっていた。
振り下ろす瞬間ユリウスがアリサの足を払い、剣(枝)をはじき、体勢を崩して軽く頭を叩いたのだった。
気がつくとアリサは仰向けになって倒れていた。アリサは何をされたのかをすぐに悟り負けを認めた。天罰の剣は今のアリサの集大成であった。今日に至るまでの間、鍛錬を積み習得したものであるが故に負けを認めざるを得なかった。
「参ったなの」
「最後のは良かったぞ。だが大技を使うために動かなかったのはいただけないな。それとその天罰の剣はまだ未完成だからもっと鍛錬を積め。個人的には先に星の剣あたりを習得するのを進めるがそこまで形になってるなら近い内に完成に近いものにするのがいいと言っておくぞ」
それを聞きアリサは驚いていた。完成しているものだと思っていたからだ。
そうアリサを教えていた家庭教師達も完成だといったためでもある。
「え!?だってみんな完成だって言ってたなの」
「それは違う天罰の剣はもっと火力がある。例えで言うなら竜種の中位種くらいなら難なく屠ることができるぞ。そしてこの技は天使が使う剣技だしな。まぁ、剣をメインで使うやつらだけだがな」
「そうなの!?そんなすごい技なんだなの。でもなんで知ってるの?本にも書いてないのに」
「あ、いやー、まぁ、うん。とりあえずその技は未完成だ。もっと経験を積めばその技がどれほど凄いか分かるぞ。それまでは精進あるのみ」
ユリウスはアリサからの質問をあやふやにする。
そしてギルが話掛けてきた。
「流石だねユウ。あの大技を捌くとは」
「なーに。発動までの時間が長かったから出来たんだ。そう言えばお前らちゃんと自己紹介的なのしてなくね」
「言われてみれば。じゃあ僕からやるね。僕はギルバート=S=メイザースよろしくな。後僕のことはギルって呼んでくれるとありがたいかな」
そういいギルが先に自己紹介を始めた。
それにならいアリサが続いて自己紹介をした。
「私はアリサ=L=アルバートなの。よろしくお願いしますなの」
「ってことはアリサはユウの妹かな」
ギルがそういうとユリウスが答えた。
「ああ。俺の妹だよろしくしてやってくれ」
「うん。ユリウスより礼儀正しそうだね」
「失礼なことを!」
ユリウスはそう返した。
「ギルにぃはお兄ちゃんと何してたの?」
アリサは尾行したあとユリウス達が剣の素振りをしていたのを見て疑問に思ったことを口にする。
何となくは答えはわかってはいたがでも聞いてみたかったのだ。
「……ユウと剣をぶつけて稽古的なのを毎日してるんだ。でもまだまだ追いつかないけどね」
ギルは笑いながら答えた。
「……ねぇ、私もこれから参加していいかな?なの」
「僕はいいけどユウがなんて言うか次第かな」
するとユリウスへ視線が集中した。ユリウスは「はぁぁ」と溜め息を吐き頭を掻いた。
「別にギルが構わないなら俺も願ってもないことだけど……勉強の方は大丈夫なのか」
「うん。夜に予習とかして間に合わせるから大丈夫なの」
アリサはちょっと大変だけどと心の中で呟く。その様子を見てユリウスはしゃーないという感じでアリサに提案をした。
「なら、夜俺の部屋にこい。勉強とか教えてやるから一人だと大変だろ」
アリサは驚いていた。
そんな提案をされるとは思っていなかったためだ。
「え!?いいの……だってお兄ちゃんにその……あんな態度しちゃったのに……」
「アリサ、お前は俺の妹なんだぞ。妹が大変なら兄として手伝ってやりたいし、別にさっきみたいなことをされても気にしないぞ。俺にとっては妹の可愛い我がまま的な感じで捉えてるから。そしてあまり遠慮するなよ。妹ならドンと兄である俺とかにも大いに甘えてくれ」
そうは少し照れくさそうに言った。
そして最後はユリウスがそうして欲しいという願望が混じっていた。
「うん。わかったなの。じゃこれから色々教えてね」
「おうよ」
ユリウスはアリサにそう言ってもらえて嬉しそうだった。
アリサはギルにふと思ったことを聞いた
「そう言えばギルにぃはここにいても大丈夫なの?勉強とか」
「僕はそういうのはあまり受けてないから大丈夫だよ。だいたいは剣の稽古とかだから今とあまり変わらないかな」
「羨ましいなの。私ずっと勉強と稽古で自分で稽古する時間はあまりないなの」
アリサは羨ましいものを見ている目をしていた。
ユリウスは前から疑問に思ってたことを聞いた。
「そういえば兄さんは次期領主になることが確定してるから結構面倒な勉強してたけど、アリサはなんでだ」
「私は昔のお兄ちゃんみたいに期待されてるの。だから自分の時間もほとんどないくらいやってるんだ」
アリサは少し暗い表情をした。
「なるほどなー。……確かにあれはお前にとってはまだきついかもな。俺はもうだいたい分かってたからすぐ終わってたけど。……なら母さんに頼んでみるか。流石にそこまで鬼ではないと思うからな」
「いいの?だってそれはお兄ちゃんだと大変なことなんじゃ……」
ユリウスは手は既に考えはあると言った。それを聞きアリサは小首を傾げた。
「そんなの簡単だ。ばっくれてサボればいいんだ」
「ばっくれるってなに?」
アリサはそう質問した。それにユリウスは簡単に答えた。
「……えーと、簡単にいうと逃げるとかどっかいく的な意味のはず」
「なるほど?」
アリサは何となく理解したようだ。
「でも、サボるのは良くないと思う」
アリサが正論をいってきたためユリウスは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「まぁ、勉強量を減らしたいっていうなら行動で示した方がわかりやすいだろ」
「でも……」
「自由の時間が少しでも欲しいんだろ」
「……う、うん。母上に怒られるの怖いなの」
アリサは怒られることを怖がっていた。
「大丈夫だ。そこは俺に任せてくれ。とりあえず明日サボってここに来い、あとは何とかする」
「わかったなの」
アリサはとりあえず兄を信じることにした様だ。
誤字や脱字があれば上、真中、下と簡単に場所を書いてに報告してくださるとありがたいです。
これからも頑張って書き続けるのでよろしくお願いします。