第55話 学院長の頼み
ユリウスはふと疑問に思ったことを彼女に問いかけている最中である。
「で、ソニアも二天龍の片割れなのか?」
「ああ、そうだ。あれは勇者に殺されたんだとさ。貴様が我を殺したのと同じ技で殺されたようだ」
「勇者が神を殺すなよ。やってること魔王と同じじゃねーか」
ユリウスは呆れ顔で言い放つとゾーイもうんうんと頷く。
二人ともまさか勇者が神殺しを成すとは思っていなかったようだ。
勇者がソニアを討つ前に神殺しをしていると、ゾーイは風の噂で聞いたことあるようだが、自分より下の存在のことなど興味がなかったらしい。
その証拠にソニアの口からそれを聞いて、初めて勇者が神殺しをしていたことを知ったような表情を浮かべたと言うのだから。
そしてユリウスへの頼みごとを思い出し、ゾーイは真剣な表情を浮かべる。
「お前にこの学院の長として一つ頼みがある」
「なんだ?」
「学院のダンジョンの最終階層までの完全攻略を依頼したい。マッピングも含め全部だ」
「は?」
ユリウスは驚くというよりも、とてつもなくめんどくさそうな単語を聞き、素の声が漏れた。
そして一瞬考えるそぶりをするときっと聞き間違いだと考え、再びゾーイに問う。
「学院のダンジョンがなんだって?うまく聞き取れなかったからもう一回言ってくれ」
「ああ、何度でも言うぞ。ダンジョンのマッピングを含め、最終階層までの完全攻略を依頼する」
「マジで言ってるのか?」
「無論だ」
ユリウスはうわー、という表情を浮かべつつも理由を尋ねる。
すると意外にも真面な意見が返ってきたことに少し驚いていた。
「完全攻略されていないダンジョンが学院にあるのは流石に危険だ。だから貴様の腕を見込んで頼んでいるのだが、まあ当然受けてくれるよな?」
「ああ、断る!」
「何!?何故だ?」
ゾーイは彼が喜んで受けてくれる物だとばかり考えており、予想外の返答に驚きを隠せないでいた。
「そんなの決まってるだろ、めんどくさいんだよ。それにお前がやれば済む話だろ。一応は学院長なんだから生徒に頼むな!」
「今の我では攻略出来ないからこうして嫌々お前に頼んでいるのだ」
「お前一応は元神龍だろ?」
「ああ、そうだ。だがこの器ではまだ我が力を十全に発揮できないのだ。仮に封印している魔力を開放すれば間違いなく体が消滅する」
その言葉を聞き、ユリウスはなるほどなと納得はした。
何せ彼もまた似たような状態の為、素直にその意見は聞き入る。
だが腑に落ちない点もあった。
何せ最強の神龍の魂を受け入れることが出来る程の器が、彼女の本来の魔力が使えないわけがない。
そう考える彼を見てゾーイが口を開く。
「何となくだが今、貴様は何故我の本来の力が使えないのかと考えているだろ」
「ああ」
「それは簡単な話さ。この体に転生するとき我の権能や魔力などをすべて引継ぎ、さらに力が減衰したりしない様にしたら体そのものが崩壊しかけたからだ。その結果ただでさえ小さい器がさらに小さくなり、力を保持出来なくなったのだ」
「………」
ゾーイは悲痛な表情を浮かべなら語っていた。
そしてユリウスは余りにも馬鹿な理由で呆れて何も言えなかった。
「ってことはソニアもそうなのか?」
「いや、奴は違う。あれは我が壊しかけた器の一部を使って、作り上げた器、つまり複製体だ。だから力を封印しないとどちらにせよ入れなかったのだ」
「器を複製とか、流石神だな」
会話が脱線しているのに気が付くと彼女は咳ばらいをして直ぐに本題に戻す。
「そんなわけで今の我では無理なのだ」
「ちなみに第何階層まで攻略した?」
「六十階層までだ。あそこのボスが強くて攻略を断念して撤退したのだ」
「なら期待に応えられんな」
彼の返事にゾーイは首を傾げる。
「何故だ?」
「そりゃ俺も七十階層のボスを攻略出来なくて敗走したからだ」
「!?……ほんとか?」
「ああ、剣は折れるし、体は反応しないしで大変だった。おかげでボロボロだ」
ユリウスは治癒魔法でも癒し切れていない傷を見せると、彼女は目を丸くして驚く。
そしてユリウスもかなり弱体化していることをそこで初めて知った。
ゾーイはユリウスを一目見たときに、彼も弱体化していることに気がついたが、まさか自分と同等まで落ちているとは予想もしていなかった。
そして当てが外れた彼女はダンジョンの件をどうしようかと頭を抱えようとした時、ユリウスが何かを話そうとしているのに気がつき、期待の目を向ける。
「期待に溢れた視線を俺に向けるな!……とりあえずその依頼は受ける。だが攻略するのはいいがお前も来いよ?後、今回の補習をなくせ、いいな?」
「ふーむ。まあわかった、我は行かないが補習の件請け負った」
あくまでも自分は行く気はないと視線でも訴えているのだった。
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