第54話 学院長の正体
学院が始まるとマリアーヌがユリウスの方に近づいて行く。
「先生なんかオーガみたいな顔つきになってますよ?」
「誰のせいだと思ってる?誰の?」
「ははは……」
ユリウスは苦笑いをする。
「学院が始まって約一週間くらいで二日もサボるとはいい度胸をしてるな」
「!?……二日!?いや俺は一日しか……」
ユリウスはそこで言葉を切り、ダンジョンにいた時のことを思い出す。
そしてマリアーヌの話で想定よりも長くいたことに気が付く。
彼は言い訳をしようと考えたが、ダンジョンに無断で潜っていたことがバレそうなので流れに身を任せることにした。
ソフィー達はそんな彼を見ながら苦笑いを浮かべる。
「ほー?言い訳をしないか。まあいい貴様への罰はもう用意してある」
マリアーヌはクルリと身を翻すと、プリントが山のように積まれた教卓に歩いて行く。
それを見てユリウスはとてつもなく嫌な予感を覚えた。
その予感は当たり、マリアーヌが山のように積まれたプリント持ちながらユリウスの元に戻ってくる。
そしてそれをユリウスの眼前に置いた。
「三日以内に全てやって提出しろ」
「この量を三日で!?」
「できないとは言わせないぞ?いつも授業をろくに聞いていないだろ。なら、やる時間もたくさんあるわけだ。な?」
「あ、はい……」
ユリウスは絶望しきった顔で、教卓に向かっていくマリアーヌの背中を見ていた。
そして朝礼が終わると、そのまま授業が始まる。
授業中ユリウスはずっとプリントを睨みながら進めていると、不意にマリアーヌに呼ばれ彼は顔を上げる。
「ユリウス、竜と龍の違いを答えろ」
「それまだ習ってませんよね?」
「お前のことだ、知っているのだろう?」
そこまで言われユリウスは渋々立ち上がる。
「竜と龍の違いは現竜と古龍で区別した呼び方で、竜とはワイバーン全般を示しており、古龍が進化した姿だと言われている。その証拠に痕跡器官だと思われる部位が発見されているし、さらに今の時代の生物は基本的に大昔より小さくなっており、絶大な力を持つ古龍は燃費が悪く、小さい生物を喰らっても力を回復させるのに必要なエネルギーの確保が難しいため、力を捨ててまで進化したと言われてます。そして古龍とはドラゴンの事を指し、皆が知っている通り、悠久の時を生きる生物であり、天災の象徴として恐れられてい存在です。……これでいいですか?」
「余分な説明があったが、だいたいそんな感じです。ついでだから、古龍の特徴も説明してみろ」
ユリウスはめんどくさそうにため息を吐くと、説明を続ける。
「古龍は常時自然に干渉するほどの力を持っているが、何故か一つの属性しか使うことができない。そして鱗の色も使う属性に近い色をしている個体が多いという特徴があります。そして彼らは自身が持つ角で莫大な力の制御をしていると言い伝えられています」
ユリウスは言い終えるとマリアーヌを見る。
「よし。続きをやってもいいぞ」
それを聞くと彼は席に座り、課題を再開する。
そして授業が進んでいくと教室のドアがノックされた。
それに気がついたマリアーヌはそちらに近づいて行き、外にいる教師と話し始める。
しばらくするとユリウスの名前が呼ばれた。
「チッ!ユリウス、今すぐ学院長室に行け!」
「今舌打ちしませんでしたか!?」
「さっさとしろ」
マリアーヌはまだまだユリウスに課題を用意していたが、それをやらせることができずつい舌打ちしてしまったのだ。
そして言われるがままに彼は学院長室に向かう。
目的の部屋の前まで到着するとドアの前で立ち止まった。
彼はノックしてから入ろうとしたが、気が変わったのかそのままドアノブに手を伸ばす。
そして何の断りもなく学院長室のドアを開き入って行く。
中に入ると着替え中の学院長がいた。
服は着ておらず、上下とも赤と白のチェック柄の下着を身に着けた姿である。
学院長のゾーイは平然と入ってきたユリウスを見て、一瞬硬直し悲鳴を上げる。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「あ、そういうのいいから」
ユリウスはそう言いながら近くにあったソファーに腰掛ける。
「ユ、ユリウス君、ノックもしないで入ってくるのは礼儀に欠けているのでは?それに女の人が着替えているのですから、せめて後ろを向くのが普通だと思います」
ゾーイは顔を赤く染めながら話していたが、ユリウスはそんなのお構いなしにインベントリを開き、中の整理を始めた。
「別にトカゲの下着姿を見ても誰も喜ばねーよ」
「女性にトカゲって言ってはいけませんよ!」
ユリウスの態度にゾーイは注意を促す。
だが彼はそんなことは右から左に聞き流し、彼女の注意を聞く気がなかった。
「いやトカゲだろ。……すまん神トカゲだったか?」
「そういう問題ではありません!人にトカゲと言っては―――」
ゾーイがそこまで言うとユリウスは言葉を遮るように少し大きめの声を出す。
「間違っていないだろ。なあギアスロギア」
その名を聞きゾーイは目を丸くした後、ため息を吐く。
「いつから気づいていた?」
「一目見た時だよ。人間種にしては異様すぎる程の違和感?みたいなのを感じた。あとはお前が放つ特殊な気配だな。ま、普通の奴なら気がつかなくて当たり前だ。まさか神が人の中に紛れてるとは思いもしないだろな」
「だからこそ驚かせてやろうと思ったのがな。貴様の事を少しばかり侮っていたようだ。まさか気配感知が衰えていないとはな」
ゾーイは先ほどとは違い、女の子らしい態度や仕草などが無くなる。
そしてユリウスの言葉を聞き、残念そうにしていた。
「それにしても随分と人間らしくなったじゃねーか」
「まーな。我も人間に転生し十年以上生きておるからな」
ゾーイは話しながらソファーに向かい、そのままユリウスの反対側に座る。
まだ下着姿だが本人はあまり気にしていない様子だった。
むしろいきいきしているように感じられる。
「てかいつになったら服を着るんだ?」
「別に我は気にしないぞ。前世では服など着たことなかったしな」
「……言われてみればたしかに全裸だったなお前」
「もう少し言い方を考えろ。それでは我が変態みたいに聞こえるではないか!」
「お前の言い方も変態にしか聞こえねーよ!」
彼らは互いに顔を見合い笑い出す。
それは殺しあった友であり、思わぬ形での再会からか、彼らは昔では考えられないこの状況に笑うことできなかったのだ。
「まさかお前とこんな会話をする日が来るとはな」
「我も再会した瞬間に再び殺し合うものだと思っていた。まさかこんなたわいもない話をする日が来るとは予測出来るはずもない」
「俺も同じ気持ちだよ」
邂逅を果たした剣聖と神龍の行く末を知るものは誰も居ないのだった。
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