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第52話 落ち着く場所

 ユリウスはダンジョンの入り口前に佇んでいた。


「……向こう側から鍵が掛けられているな」


 ユリウスはダンジョンの出入り口にある扉を少し強めに押す。

 しかし扉は少し動くものの、外側から掛けられた鍵によって開くことはなかった。

 そしてユリウスは溜息を吐くと共に剣を抜く。

 

「仕方ない……か。このまま何もしないよりはマシだよな」


 そう言うと扉の隙間に剣を振り下ろす。

 そして振り下ろされた剣により鍵は真っ二つに切れる。


 

 同時刻、その付近を三人の少女が歩いていた。


「ねぇルミア、最近お兄ちゃん見かけてないなの。どこかで見たりしなかった?」

「見てないよ。教室にも顔を出してないしどこ行ったんだろうね?……ソフィーちゃんはどう?」

「私もユリウス君は見てないよ。もしかして何かあったんじゃっ!」


 ソフィーは心配そうに言う。


「大丈夫なの!あのお兄ちゃんがそこらの相手に後れを取るわけないなの!」

「確かにそうだね。ユウ君が負ける姿なんて想像できないもん」


 ルミアとアリサの二人はソフィーの心配を拭う様に笑顔で自信ありげに話す。

 それを聞いたソフィーもそうだねと言って可愛らしい笑みを浮かべる。

 

 そしてしばらくすると彼女らの後ろから二人の人物が現れる。


「わあっ!」

「ひゃっ!」


 そしてソフィーが後ろを振り向くとそこにはゼナが立っていた。


「もービックリさせないでよ!」

「ごめんごめん。いつもいい反応してくれるからつい……」


 ゼナは頬を掻きながら話していると、もう一人の人物がアリサに話しかける。


「やあアリサ」

「やっほーギル!」


 アリサは元気そうにギルの元に駆けていく。


「そういえばユウがどうたらって聞こえたけど、どうしたの?」


 ギルはアリサに問う。


「お兄ちゃん、最近見てないからどうしたんだろうって話をしてたなの」

「たしかに見てないね」


 そういうとギルは何かを考え込み、小さく頷いて何かに納得したような表情をしながら口を開く。


「もしかしたらダンジョンに潜ってるんじゃないかな。こんな身近に居て、二日も合わないとなるとそれくらいしか思いつかないよ」

「えっ!?で、でもダンジョンは許可がないと……」


 アリサの言葉を遮るようにギルが話し始める。


「あのユウがそんなこと気にすると思う?戦いが好きで、さらに強い相手と戦うのが面白いと感じてる人が、目の前に面白そうなのが合って行かないと思う?」


 ギルの言葉にアリサとルミアの二人はあー、という表情を浮かべ、どこか納得気味な感じで頷く。

 ゼナとソフィーは長い付き合いではないため、あまりしっくり来ていない様子だった。

 だが許可を取る取らないを気にしないという点では二人とも納得した。


 そしてそんなことを話していると、突然ダンジョンの出入り口にある扉が少し動いたの目撃する。

 すると、それを見た五人は警戒態勢に入る。

 アリサとルミアは目を合わせると頷き合い、ルミアが後方に下がり、ハクタクに指示を出す。

 そしてギルとアリサが剣の柄に手を掛け、いつでも抜ける準備をしながら前に出て前衛を買って出る。

 ソフィーは後方へ移動し、ゼナはアリサ達同様に剣の柄に手を掛け、ソフィーを護衛できる位置に移動する。


 一同が警戒していると、扉の錠前が地面に落ちるのが見えた。

 錠前が落ちると同時にゆっくりとダンジョンの扉が開く。

 一同もより警戒するがそこに現れたのは全員がよく知る人物であり、お互い目が合い絶句した。


「「……………」」


 そして体感的には長い時間が流れたが、実際に一、二秒くらいしてからあっ、という表情を互いに浮かべる。


(あ……やばっ!なんでこいつらがここにいるんだよ)


 ユリウスは慌てて扉を閉めると一目散に逃げていく。

 当然それを追う様に五人も追いかける。


(こんなボロボロの姿、流石にアリサやルミアに見せられねー)


 ユリウスは余計な心配かけさせたくない気持ちもあり、いつもの面子の前から逃げ出したのだ。

 いくら手負いのユリウスが相手でも、アリサ達のスピードでは追いつけるはずもなかった。

 ギルは余裕そうにしていたが、そうしてる方が面白そうだと思い、あえて周りに速度を合わせていた。


 そしてアリサ達は完全にユリウスを見失い、追跡を諦めた。


「はぁはぁ……早すぎなの!」

「た、たしかに。はぁはぁ、流石にあれは追いつけない」


 ゼナはアリサの意見に同意する。

 一同息を切らせながらその場に佇み、息を整える。

 そして疑問を持ったルミアが最初に口を開く。


「ねぇ皆、さっきのユウ君なんだかボロボロじゃなかった?所々怪我をしてるようにも見えたんだけど」

「アタシも服が破れてるように見えたわ。しかも尋常じゃない破れ方だし、防具らしきのも壊れてるように見えた」


 ルミアの問いにゼナが頷きながら答える。

 そしてその意見は、全員が思っていたことでもある。


「明日ユリウス君に聞いてみるよ。多分明日は来ると思うから」


 ソフィーがそう言うと、アリサがそれを否定するように首を振って話し始める。


「もしかしたら明日もダンジョンに行くんじゃないかな?」


 だがその意見をギルが否定する。


「アリサ、それはないと思うよ。防具の損傷具合から見て、かなり強い敵と戦ったと思う。だからそれの対策を取る為に、すぐにはダンジョンには向かわないと僕は思うよ。それに武具の修理にも時間が掛かりそうだしね」


 その意見を聞き、アリサはたしかに、と言って納得すると、ユリウスと話せると喜びの声を上げる。

 そんなアリサを差し置いて、魔法科組がユリウスから事情を聴くことになり、この騒動は落ち着いた。


 そしてユリウスはというと、現在医務室に忍び込んでいた。

 医務室は薬品を置いてある為、入室時には教師に報告するか、医務室に保健の教師が籠っているのを確認して入らなくてはならないのだ。

 しかし学校をサボった身のユリウスには、そんなことが出来るはずもない。


 そして薬品棚や医療関係の道具が置いてある棚をまさぐり始める。

 包帯やら消毒液やらを探し、それらを見つけるとインベントリに必要な分だけ放り込む。

 そして治療用に置かれている劇薬を少しずつポーションの空き瓶に移し替えて拝借を始める。


「よしよし、もう少しいただけば面白そうなのが作れそうだな。……ついでに普通じゃ手に入らないのも貰っとくか」

 

 ユリウスはそんな事を呟きながら、棚に掛けられている鍵を開けるためにピッキングを始まる。

 そしてカチャリ、と小さな音と共に開錠に成功する。

 しかし棚の薬品を拝借しようとした時、ユリウスは医務室に向かってくる二つの気配を感知した。

 医務室から出ようとも思っていたが、薬品棚の鍵が開けっ放しで出ていくと怪しまれそうだと思い、慌てて隠れられる場所を探す。

 ユリウスは近くにあった掃除道具を入れているロッカーに飛び込むと、そのまま気配遮断で気配を消してやり過ごすことにした。

 それから数十秒すると二人の女子生徒が扉を開けて入って来る。

 

「もう気をつけてよ。魔法も一応は危険な物なんだから」

「ごめんごめん。次は気をつけるからさ」

「絶対ウソ。これで何回目?」

「えーと……二回目?かな」

「はぁぁ」


 二人組の少女の内一人は腕に怪我をしているようだった。

 現に傷口から少しずつだが血が流れている。

 どうやら魔法の実験に失敗したようだ。


「ほら、上脱いで。その方が手当てしやすいから」

「え!?でも……」

「どーせ誰もいなんだしさ。ほら」


 怪我をしている少女は急かされるままに服を脱ぎだす。

 そしてフリルが付いた赤い下着が現れる。


(お、おー!これは眼福……じゃなくて、け、怪しからんな。うむ!)


 ロッカーの中からユリウスはその光景を脳内保存するような勢いで見ている。


(これは不可抗力だから仕方ない。不可抗力だ)


 ユリウスは何度も心の中でそう言い続ける。


「ね、ねぇ。なんか視線を感じるんだけど?」

「気のせいじゃない?ここには誰もいないしさ」


 治療をしている方の生徒が辺りを見渡しながら言う。


「でも、ほらあのロッカーとか」

「はいはいわかったよ。見てくるからこれ持ってて」


 そう言うと巻いてる最中の包帯を渡し、ユリウスが隠れているロッカーに近づいていく。


(やば!!)


 ユリウスが心の中でそう叫ぶと、世界から存在を隠すレベルの気配遮断までレベルを上げ、常人では視界に捉えることはできない状態になる。

 割とガチでやばいと思ったようだ。


 そしてガチャン、という音と共にロッカーの扉が開かれる。

 

「ほら誰も居ないよ」

「ほ、ほんとだ」

「だから気のせいだって言ったじゃん」

「ごめーん」


 怪我をしている少女は苦笑いを浮かべながら言う。

 そして治療を再開する。


 この時ユリウスは息を止めており、背筋を冷や汗が伝っていた。

 そして彼女が扉を閉めると聞こえない大きさで溜息を吐く。


(危なかったー!!魔物を相手にするよりよっぽど心臓に悪いな。それにあいつら俺のクラスの女子だよな。もしバレたらただじゃ済まなさそう……)


 ユリウスは戦慄を覚えつつも、やはり視線は豊かな物にくぎ付けだった。

 そして治療を終えて少女たちが出ていき、ある程度距離が離れたことを確認すると、ユリウスはロッカーから出て、薬品の拝借を再開する。

 それを終えると部屋に戻るのだった。


 部屋に戻り、服を着替えてから食事を取りに食堂へと向かう。

 食堂では顔見知りとは会うことなく、そのまま食事を済ませて部屋に戻ると、拝借した薬品を机の上に並べ、薬品を別の入れ物へと入れ替える。

 そしてその中から手当てに必要なものと、必要ではないものに分ける整理を行う。

 整理を終えると手当てに使うものだけを残して、他はインベントリへと仕舞った。


 ユリウスは応急処置を行っていた場所にある糸を抜き始め、新たに消毒をした清潔な物で傷口を縫い直す。

 そして左腕の傷を縫い終えて、再出血を始めた箇所などに包帯を巻き始めると部屋の扉がノックされる。

 それを聞いてユリウスは慌ててベットの下に治療道具を隠す。

 彼が治療道具をインベントリに入れなかったのは、単に再び取り出すのが面倒だと感じたからだ。

 そして適当に返事をする。


「開いてるから勝手に入ってくれ」


 ユリウスのその声を聞くと扉がゆっくりと開く。

 そして現れたのは寝間着姿のルミアだった。


「よう、ルミアじゃないか。夜に来るなんて珍しいな」

「ちょっと心配になって来ちゃった」


 いつもの明るい笑顔を浮かべながら言うと、ユリウスの隣に腰を掛ける。


「突然どうしたんだ?別に心配にすることなんてないだろ」


 ユリウスのその言葉にルミアは首を横に振る。


「だってダンジョンから出てきたとき、すごくボロボロだったじゃん。私、ユウ君のそんな姿を見てすごく心配だったんだよ」


 ルミアは本当に心配そうな表情でユリウスに話しかける。

 ユリウスはやっぱ見られていたか、と思いつつも何とか誤魔化せないかと考えながら口を開く。


「見間違えだろ。俺がダンジョンに行くわけないだろ。ははは……」


 ユリウスはぎこちなく笑う。


「もーそうやっていつも誤魔化そうとするのよくないと思うよ。心配させないようにしてくれてるのはわかるけど、そうされる方が余計に心配になるんだから」


 ルミアは真剣な表情でユリウスの顔を見ながら話す。

 しかし彼は目が合わない様に横へと逸らした。

 ルミアはそんな反応をした彼を見て、小さく溜め息を吐く。


「本当に潜ってないよ。……仮に潜ってても俺が後れを取るわけないだろ?」


 ユリウスは胸を張りながら言うが、ルミアは信じてはいなかったようだ。


「ならその傷はどうしたの?」

「か、階段で落ちただけだよ」


 ルミアはユリウスの頬にある傷を指さしながら言う。

 ユリウスは何としても誤魔化そうとしたが、ルミアはそう来るだろうと思い先手を打つ。

 彼女は彼の左手を持ち、ユリウスが傷を隠すために急いで着た長袖の上着の袖を捲る。

 そして巻いてる途中の包帯を見てやっぱりなとルミアは思う。


 包帯を見られたユリウスは堪忍したのか、溜め息を吐いてルミアの好きにさせた。

 ルミアはスルスルと巻いある包帯を外していく。

 そして包帯の下にあった傷の量や深さを見て、驚愕の表情を浮かべる。

 

「…………」

「ちょっと油断したらこれだぜ、全く」


 ユリウスは苦笑いを浮かべながら、頭を掻いた。


「もー気をつけてよホントに。こんな傷見たら誰でも心配するよ」

「すまんな」

「ほら上脱いで。回復魔法使ってあげるから」


 ルミアはいつもの優しい笑顔を浮かべながら言う。

 ユリウスも近々回復魔法を誰かに掛けてもらおうと思っていたため、ルミアの指示に素直に従った。

 そして体中にあるたくさんの生々しい傷を見て、ルミアは驚いて目を丸くする。

 しかし彼女は驚きつつも魔法を使う。


「”ヒール”」


 回復魔法によりユリウスの体の傷は消え始めたが、やはり傷が深いものは治りが遅かった。

 そして彼はルミアに問う。


「怒らないのか?」

「どうせ怒ってもユウ君は効かないでしょ」


 ユリウスはうっ、という表情を浮かべる。

 そんな表情を浮かべる彼を見てルミアはフフ、と笑う


「よくわかったな」

「私も長い付き合いだからわかるよ」


 ルミアは優しい口調で言うものの、内心では結構お怒りである。

 しかし彼女は好意を寄せている相手を信じようと思い、あえてその気持ちをぶつけなかった。


「これからは一声掛けてよ。アリサちゃんがすごく心配してたんだから」

「わかったよ。でもついてくるとか言うなよ?かなり深い階層まで潜るから……」

「わかってるよ。ユウ君がこんなになるくらいの敵だもの、今の私たちじゃあ足手まといになるだけだから」


 ルミアは肩を並べて戦えない悔しさとついて行きたい気持ちを抑えながら話していた。

 そして何かを思いついたのかルミアはポン、と手を叩く。


「私たちがついて行かない代りに、冒険話を聞かせてよ。あと偶にでいいから私たちの朝練に参加すること!いいね?」

「そんなことで良いのか?」

「うん!」

「わかった。明日から参加するよ」

「やった!」


 ルミアは嬉しそうに笑うと、敵わないなとユリウスは心の中で呟く。

 

「言い忘れてたけどアリサには内緒にしてくれよ」

「わかってるよ」


 ユリウスが言わずとも、ルミアはすでにこのことを承知している様だった。

 そして傷の治療をしてもらっている間に今回の出来事をルミアに話していた。

 二人は楽しそうに話し合いながら過ごすのだった。

 そしてその頃ハクタクはアリサの部屋で一緒に寝ていたのであった。


いつも読んで下さり有難うございます。


『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。



これからもよろしくお願いします。


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