第50話 元剣聖、今世初のダンジョンソロ攻略3
第六十階層のボスを倒してから第六十一階層以降の階層攻略を始めたが、魔物の強さが六十階層を境にして、尋常ではないほど強くなっていた。
ユリウスが六十一階層に入ってから最初に出会った魔物に数秘術を使い、不意を突いた攻撃をしたにも関わらず、魔物は無傷でその場に佇んでいたのだ。
ユリウスの攻撃を受け、初めて彼の存在に気づいた魔物は前階層の魔物とは比べ物にならない程の身のこなしで襲い掛かったのだ。
その時ユリウスは本能的に剣を抜いて、一瞬のうちに魔物を片付けていたが、彼が剣を使わなくてはならない程の硬さをしていたのだ。
そしてそれ以降に遭遇した魔物にも試しに数秘術を撃ち込んでいたが、やはり効果がなかったようだ。
効かないと分かるとユリウスは数秘術を使うのをやめ、剣で戦うようになった。
流石に剣を使ったユリウスにダメージを与えられるほどの魔物は居らず、接敵した瞬間には既に首を切断されているのがほとんどだった。
そして現在、ユリウスは第六十四階層を攻略している真っ最中である。
「クソ~やっぱかてーな」
ユリウスはそんな事を言いつつも魔物の首や胴などを難なく斬り裂いていた。
ユリウスの目の前にいた複数の魔物も、成す術なく殺されていた。
返り血を数秘術で落としながらユリウスは素材として使えそうな綺麗な部位をインベントリに入れ、首を切断した魔物は首と胴のセットで回収している。
「この階層の魔物はいい品質をしてるな。これならいい武具を作れそうだ」
ユリウスはそう言いながら胴真っ二つに切断した魔物の皮や牙など剥ぎ取っていた。
そしてしばらく歩いていると、六十層代に入ってから初めての鉱石を見つけ、そこに近寄って行った。
鉱石に近づいたユリウスはそれをまじまじと観察し始めたのだ。
観察しているとインベントリから小さな鉄鉱石を取り出し、それを見つけた鉱石に向かって軽く叩きつけたのだ。
すると周囲には金属同士がぶつかり合う音が響いた。
「音的にこの鉄鉱石?はミスリルを少量だけど含んでないか?」
ユリウスは口元に手を当て考えていたことを漏らしながら、鉄鉱石をインベントリに入れてから鉱石を触ったりしていた。
そしてユリウスは結論を出すと鉱石の一部をインベントリから取り出した小型のピッケルで採取し始めた。
ミスリルが含まれていない部分は採取せずにそのまま放置して次に向かったようだ。
ミスリルが取れるとわかると次の階層へ行くための道を見つけてもそこには行かず、ユリウスは階層を満遍なく探索して、少しでも多くのミスリルを確保するつもりのようだ。
ミスリルの採取のついでに光を放つ結晶やそうじゃない結晶もちょこちょこと採取していた。
そしてマッピングが完了したのを確認するとすべて採取したと判断して、次の階層に向かった。
それ以降の階層攻略はミスリルを確保するため、あえて全部回ってから次の階層に行くようになった。
そして順調に探索をしていると第六十九階層に到着した。
六十九階層からはまた魔物の強さが上昇し、攻略難度も上昇している。
それでもユリウスは一太刀で魔物を仕留めながら、攻略をしていた。
そして進んでいると行き止まりの場所に宝箱の様なものを発見した。
ユリウスは一瞬目を輝かせたが、すぐに目を細めると近くに落ちていた小石を宝箱目掛けて投げたのだ。
するとコツンという音が鳴るだけで何も起きなかった。
そうして安全がわかると再びを目を輝かせて宝箱に近づいて行った。
「どうやらミミックじゃなさそうだな」
ミミックとはダンジョン内で宝箱に擬態して、宝目当てに近づいた人間や不用意に近づいた魔物などを捕食する魔物の事である。
無警戒で近づいた冒険者達を何人も屠っているため、この魔物による被害は意外と多く報告されている。
そしてユリウスが宝箱を開けると中には歪な金の延べ棒みたいな形をした金と、防具が入っていた。
防具は一式ではなく、どうやら篭手だけだったらしい。
しかし大きさが小さいためユリウスはそれをすぐに装備せずインベントリに入れた。
そして装備しなかったのにはもう一つ理由があり、何の付与が施されているかわからないから、危険を避ける為に彼は装備しなかったのだ。
「あのボスより全然いいのが落ちてるじゃないか!これは帰ったら鑑定にかけてみるのが楽しみだな」
ユリウスは嬉しさに心躍らせながら来た道を戻り、探索を再開した。
探索を行っていると意外とミスリルを含んだ鉱石がたくさん見つかり、それを取っていると結構な時間が経過していた。
そして探索を完了させ、見てわかる範囲のミスリルを含んだ鉱石も採取し終えるとついに階層ボスがいる階層に降りて行った。
そして例の如くボス部屋の外からボスの観察を始めた。
そこに居たのは六十階層にいたボスと全く同じもので、見た目はサイクロプスだか、オークだかよくわからない容姿のモンスターだった。
だが明らかに先のボスとは違っている点があり、それは身に着けている装備と体の大きさだった。
この階層のボスは左手にバックラーやラウンドシールドなどと言われるような円形の盾を装備しており、鉈の様な形をした剣を右手に装備していた。
そしてこのボスの装備は錆びたりなどしておらず、新品のような真新しさを感じ取れた。
体の大きさは前のボスより一回り程大きくなっていた。
流石のユリウスもこのまま戦闘に入るのはまずいと踏んで、ボス部屋から離れたところで休息を取って、探索の疲れを回復させた。
休息を取っている間に腰のポーチにポーション類を補充し、万全の態勢で挑もうとしているため今まで着けていた重しを外して、インベントリに仕舞っていた。
それから十五分ほどの仮眠を取ってから再びボス部屋の前に戻って来ていた。
「さて、いっちょ行きますか!」
そしてボス部屋に入ると同時にユリウスは剣技を放った。
「居合・双空空蝉」
ユリウスの居合は一瞬のうちに相手に無数の連撃を叩き込んだ。
しかし剣の耐久力の問題上、ユリウスはこの技をちゃんとした火力で使うことが出来ていなかった。
それでもボスには有効なダメージを与えはしたが、致命傷には程遠かったようだ。
そして剣技を使っている最中にユリウスは自身の骨が軋む音をしっかりと聞き、さらに後から痛みが彼を襲った。
彼は一瞬まずいと思ったが体がちゃんと動くのがわかると、反動を気にせずに戦闘に集中し直した。
そこから更に追撃を入れようとしたが、ボスが咄嗟にシールドを構えてユリウスの攻撃をやり過ごそうとしたので、反撃を喰らう前にユリウスは一旦下がって距離を取った。
だがユリウスが下がるのとほぼ同じくして、ボスがユリウスとの距離を詰めるためにシールドを体の前に構えたまま突撃していた。
「チッ!盾が邪魔だな」
ユリウスは舌打ちをすると迫ってきているボスをしっかりと視界に捉えると、タイミングを見計らって一気に距離を詰めるために自ら動いた。
距離を詰めて来たユリウスを見てボスは一瞬驚いたような雰囲気を出したが、それもすぐに消え剣の間合いに入ったユリウス目掛けて斬り上げの攻撃を繰り出した。
ユリウスはそれを読んでいたのかボスの攻撃を剣で受け流すようにしてやり過ごすと、二本の剣による攻撃を仕掛けようとしたが、咄嗟に剣をクロスさせボスのシールドバッシュをガードした。
ガードはしたはいいものの、やはり踏ん張る力が足りないため勢いよく後方の壁に叩きつけられた。
「グッ」
壁に激突した際に変な声が漏れていた。
ユリウスはすぐに壁際から離れると、さっきまでいた場所にボスの追撃の一撃が叩き込まれていた。
「あぶねー」
今の攻撃でボスは壁に剣が刺さり、それを抜こうとしている隙にユリウスは剣技を放った。
「一閃・陵」
先のボスを屠った剣技は隙だらけのボスに綺麗に決まったが、防具を着けていない場所も尋常じゃないほど固く、大ダメージには至らなかったようだ。
そしてボスが剣を力ずくで引き抜くと、引き抜いた勢いを利用して回転斬りを放ったが、ユリウスはそれを読んでいたのかバックステップでもう既にボスの間合いにから外れていた。
だがボスもそれで終わりではなく、勢いよくユリウスの元に駆けていくと、力任せの大振りで剣を振り回し始めた。
ユリウスは大振りの隙をついてボスに一撃を入れようとしたが、攻撃を受ける瞬間にユリウスの攻撃速度を上回る速度でシールドを自身の前に構えて、彼の剣を弾いた。
剣を弾かれたユリウスは一瞬だが大きな隙を作り、ボスはその隙を突いて彼に上段からの重い一撃を放ったが、流石のユリウスも予備動作を見て回避するくらいには態勢を立て直していた。
ボスの一撃は地面を抉るほどの一撃であった。
「ならこれでどうだ!……三の太刀無形二刀の型!風刃白虎」
ボスの追撃をやり過ごしてからユリウスは、六連撃の剣技を放った。
その剣技はボスの防具の一部を破壊し、剣やシールドも同時に破壊した。
そして技を使い終わった瞬間に、インベントリから取り出しておいた予備の剣を地面から引き抜き、二発目を放った。
二発目はボスに致命傷を与えるまでに至ったが、まだボスは倒れず死んではいなかった。
「いくら……なんでもこれで……倒れる、だろ」
ユリウスは息遣いを荒くしながら呟いた。
そして剣技の反動で骨の一部に亀裂が走ったり、場所によっては折れたりしていた。
無論予備の剣の刀身も砕け散っていた。
ユリウスは折れた剣の柄を捨て、ボスの行動を観察していた。
するとボスは少し窪みがある壁際まで歩いていき、壁に勢いよく腕を突っ込むと中から大剣を引きずり出し、さらにユリウスが与えた傷のほとんどが再生し、第二ラウンドが始まった。
「おいおい嘘だろ……ふざけるなよ!こっちは技の反動で結構堪えてるっていうのに!」
ユリウスはボスが完全に準備を終える前に、損傷している部位や骨を闇を部分的に展開して大急ぎで修復した。
その時である、先ほどとは比べ物にもならない速度でボスは一気にユリウスとの距離を詰めたのだ。
それと同時に大剣を片腕で勢いよく振りかざした。
ギリギリ反応しきったユリウスはそれを回避したが、ボスがもう片方の腕でユリウスを殴り飛ばしたのだ。
そしてユリウスが壁に激突すると同時にボスが横なぎをするために勢いよく大剣を振ったのだ。
「や、べ!」
ユリウスは壁を蹴ってボスの剣線上から咄嗟に逃げることで功を奏したようだ。
ボスはそのまま大剣を振り切ることで壁に刺さることを防いで、ユリウスに追撃を加えるために動いた。
勢いよく地面を蹴ってジャンプすると空中で一回転して天井を勢いよくユリウス目掛けて蹴ったのだ。
「遅い!……!?体が反応しないだと————」
ユリウスはボスの動作の一つ一つを全て捉えていたが、体が彼の動体視力と反応速度に追いつくことが出来ず、硬直していたのだ。
何とかボスの攻撃をやり過ごすことには成功したが、次の攻撃に体がついていくことが出来ず、剣でガードするしかなかったようだ。
勢いのまま吹き飛ばされていたがそこで態勢を強引に立て直してたことで、壁に叩きつけられても受け身を取ってダメージ軽減には成功したがそれでも吐血するほどには強烈だった。
先の攻撃をガードしたせいで剣には亀裂が入っており、ユリウスはそれを予想していたのかもう既に新しいものをインベントリから取り出していた。
剣を捨て新しいものに替えると同時に、縮地で追撃を入れようとしているボスに瞬時に近寄った。
そして今までとは比べ物にならない程の剣速で二十連撃を叩き込んでいた。
この攻撃は剣技を使用している時よりも火力が大幅に上がっていた。
だがボスはそれも耐えきり更にユリウスに追撃を入れようと三連撃の攻撃を繰り出した。
先の攻撃まで反応に追いつけていなかった体が、ユリウスの反応速度に追いついており、敵の攻撃を全て回避や受け流しでやり過ごすことに成功していた。
「これで終わりだ!一の太刀無形二刀の型!荒刃羅刹!」
ユリウスは技を放ちながら技名を叫んだ。
そしてボスはそれを避けきれる筈もなく直撃したのだった。
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