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第47話 ダンジョン探索授業3

 背負っていた荷物をその場に落とす様に置き、ユリウス達は対面している魔物の群れの動きを観察しながら戦闘態勢に移行し始めた。

 

「アレスはいつも通りに頼む。ソフィーはアレスのフォローを、ルナは召喚獣による牽制を頼む。俺は銃撃による各個撃破に努める」


 ユリウスの指示で即座に陣形を整え、アレスが第一波を防ぎ、それを合図にするかの様に戦闘が始まった。

 アレスは受けては斬りを繰り返し、敵の体力を徐々に削っていきアレスが作った隙を突くようにユリウスが魔物に銃弾を浴びせていた。

 今回ユリウスは魔物の頭部よりも胴体を狙っていた。

 理由は単純で、量が量の為、弾を外すくらいなら確実に仕留めて戦うことで、量を減らそうと考えていたからである。

 もちろん狙える時は頭部も狙っている。


 ルナはユリウスの指示の後に二つのクリスタルを地面に叩きつけ、二体の召喚獣を呼び出し、魔物の群れへと嗾けて足止めを行っていた。

 召喚獣への支援としてちょっとした強化魔法も掛けている。


 ソフィーは群れ後方にファイアー・ボールを放ち、後方の体力を削り、運が良ければ倒し切る支援砲台としていつも通りの戦い方をしていた。


 時間はかかっていたが臨機応変に戦い、これまでの連携を生かしていることもあり、危なげなく立ち回れていた。

 しかし目に見えるほど敵の数が減ってきた頃、ユリウス達の背後から追うような形で徘徊していた魔物の群れが合流した。


「ちっ!アレス背後の群れを押さえてくれ!」

「え!?こっちはどうすんだよ?」

「こっちは何とかするから後ろを頼む。合図したら後ろに回れ」

「わ、わかった」


 アレスの声は慌てているときのそれで困惑が混じっていた。

 そしてユリウスはルナへと質問を投げかけた。


「召喚獣はあと何体出せる?」

「残りの魔力的に一体か二体が限界ね」

「了解だ。なら一体を召喚して残りを強化に回してくれ」

「わかったわ。でもどうするの?」

「ルナは引き続き足止めを頼む」


 ルナは一つ頷くとユリウスの指示通りにもう一体召喚獣を召喚し、強化魔法をかけた。

 そしてユリウスは再びアレスに向けて合図を出した。


「今だ!アレス抜けろ!」

「了解」


 アレスが抜けた瞬間、彼が押さえていた魔物が一気に押し寄せたが、幸いなことに体力は削られているため、ユリウスが撃破していき、その途中で銃のリロードも挟んでいた。

 ユリウス達の後方にいる魔物の群れの先頭が彼らを認識した瞬間に走り始めた。

 ちょうどそのタイミングでアレスは群れの前に出て盾を構えた。


「ったく……俺の盾はそこまで大きくないだよ!」


 アレスは群れを受け止める瞬間にそんな文句を言っていた。 

 

 そしてユリウスがソフィーに指示を出した。


「ソフィーはアレスの援護に回ってくれ。こっちはあと少し何とかできそうだから」

「う、うん」


 ソフィーはその場で回れ右をし、後方を向いて詠唱に始めた。

 

 後方の群れは疲れ始めているアレスに容赦なく攻撃を仕掛けていた。

 ずっと壁役をやっていた為、アレスは精神的な疲れで一瞬隙を作ってしまった。

 その瞬間を魔物たちは見逃さず、すかさずガードが間に合っていない場所に嚙みついた。


「ぐっあぁぁぁぁ!クソっ!」


 アレスは苦悶の表情を浮かべながら噛みついた魔物の頭部を剣で突き刺し、魔物を絶命させたがその隙は大きく一気に防御が崩れ攻撃をもらっていた。


「ルナ!五秒持たせてくれ!」


 ユリウスはそう言うと後方を向き、アレスの付近にいる魔物を乱雑に銃撃し、撃破兼足止めを行った。

 乱雑に撃ったせいで血しぶきが上がり、アレスはさらに真っ赤になっていた。


「今のうちに回復してくれ」


 ユリウスは腰のポーチから回復ポーションをアレスに向かって投げた。


「助かる!」


 アレスは受け取ったポーションを一気に飲み干し、空の瓶を乱雑に捨てると、瓶が割れる音と共に魔物がさらに勢いを増した。

 ポーションを渡し終えたユリウスは自分の役割に戻り、魔物を各個撃破していき、殺すのが難しいタイミングでは脚を撃ち抜いて足止めした後確実に殺していた。


 ソフィーの魔法での処理が追いつかなくなってきた頃、ユリウスは未完成だったとある武器をポーチに入れてあることを思い出した。

 そのことを思い出したユリウスは相手の隙を伺いながら戦い、相手が飛び出した瞬間に前方の魔物の脚を撃ち抜いて転ばせると後方の魔物も予期せぬ事態に体を止めることが出来ず、脚を撃ち抜かれた魔物に躓き転んでいた。


「ソフィーこれを使え!」


 魔物たちが態勢を整える前に、ユリウスはソフィーに向かって間隔を開けて、液体の入った小瓶を幾つか投げた。

 いきなり声をかけられ肩を跳ねらせて驚いていたがすぐにユリウスの投げた小瓶をキャッチしていった。

 詠唱しながらキャッチした幾つかの小瓶を一つだけ手元に残して、残りは腰のポーチに入れていた。


「これは?」


 ソフィーはファイアー・ボールを放った後ユリウスに尋ねた。


「そん中には普通の油より少し燃えやすい油が入ってる。だからそれを群れに投げて燃やせ」


 ユリウスは正面の敵を撃ち殺しながら話していた。

 ソフィーはそれだけを聞いて後は何をすればいいのかを悟り、行動に移した。


「えいっ!とりゃっ!」


 ソフィーはなるべく群れの奥に届くように全力で小瓶を投げ、さらに広範囲を燃やせるように幾つかの場所に分けて投げていた。


「火よ、我が元に集え!ファイアー・ボール!」


 魔法を瓶を投げた中心地に放つと、その火は油に燃え移り徐々に群れの一部を燃やし始めた。

 燃え上がった瞬間ユリウス達は結構な熱を肌で感じ取った。


「アレス、燃えたまま魔物が突っ込んでくるかもしれん気を付けろよ」

「あいよ!」


 ユリウスはアレスに注意を促した。

 だがその時であったユリウス達が相手にしていた魔物の一体がルナに重なるように動き、ユリウスの射線から逃れ、ルナに飛び掛かった。

 ルナもそれに気づき、回避行動をしたが間に合わなかった。

 ユリウスがルナの回避行動よりも先に動いていた為、回避が遅れたルナを弾いて、自らの左腕を盾して魔物に噛みつかせる事に成功した。


「いってーな!」


 ユリウスは自らの左腕に噛みついている魔物の頭部をゼロ距離で撃ち抜いた。

 魔物は血しぶきをあげながら絶命し、ユリウスを赤く染めた。


「すまんルナ。仕留め損ねた」

「別に大丈夫。それよりもユリウスの方は?」

「俺も平気だ。それよりもあともう一息だ!殲滅するぞ」


 ルナは不敵の笑みを浮かべる、ユリウスを見て一つ頷く召喚獣への命令を足止めから殲滅に変えた。

 召喚獣は命令に従い、魔物の急所を攻撃し始めた。


 二人の攻撃を受け、最初に接敵していた群れは壊滅し、後は残党の処理だけとなった。


「アレス、ソフィー行けるか?」

「すまん勢いが強くてうまく逃げれない」

「私はなんとか大丈夫だよ」


 二人は近況報告を行い、懸命に戦っていた。


「ルナ残党は頼めるか?」

「これだけなら何とか魔力も持つから行けると思うから、あんたが後ろの救援に行っても大丈夫だよ」

「じゃあ任せる」


 そういうとユリウスは背後の魔物の群れの方を向いて、援護射撃を始めた。


(そういえば数秘術を今回使ってなかったな。……なんか今更感あるけど使った方が良さげかな~)


 ユリウスはそう思うと数秘術を発動し、幾つかの火球を作り群れに向かって放った。

 

「おいユリウス!そんな技があるなら初めから使えよ!」

「すまん!忘れてた!」


 ユリウスは苦笑いを浮かべ、銃のリロード作業を行いながら応えた。

 ユリウスの援護が加わったおかげで、アレスへの負担が減り、戦いやすい状態になった。


 後方の群れの一部が焼死し始めた頃、前方の群れの殲滅が終わりいつでも逃げれる状態になった。


「こっちは終わったわよ」


 ルナの手には三つのクリスタルが握られていた。  

 それを仕舞いながらルナが言うとタイミングを見計らってアレスが戦闘から離脱した。

 それを合図に一行は走り始め、魔物の群れから逃走を開始した。 

 ユリウスは逃げながら追ってきている群れに数秘術をお見舞いして殲滅を狙っていた。


 この時点で後方の群れは一部が焼死し、火より後ろの魔物の大半は追えないと判断し、逃げていく者が大半で群れは半壊状態になっていた。


「ユリウスはなんでまだ攻撃してんの?」

「運よく殲滅出来たら素材がうまいなと思ってな」

「よくこんな状況でそんなこと考えられるわね」

「ついいつもの癖で……」


 ユリウスは苦笑いを浮かべらがら話していると、ルナが呆れたような表情を浮かべた。

 

「ユリウス君ファイト」


 ソフィーが可愛く応援していた。


「おう」


 ユリウスは微笑して返すと、数秘術で展開している炎の槍の数を増やして、追ってきている魔物を次々に撃破していった。

 だが追ってきている魔物の数の方が多かったため、きりが無いと踏んだユリウスは攻撃を仕掛けようとしている魔物だけを殺して逃げ切ることに徹した。


 それからしばらく走るとダンジョンの出入り口に到着し、追って来ていた魔物が徐々に諦めたらしくそのままどこかに去って行ったのをユリウスは確認していた。

 そしてユリウス達は息を切らせながらダンジョンから脱出した。

 するとその姿を確認した教師がユリウスらに近づき、授業の目的物と今の状況について尋ねられ、先の事を話した後に目的物を提出した。

 ユリウス達は全体の五番目に目的物を持ってダンジョンから脱出して、かなり早い方だと教師に褒められていた。

 何故早く出れたのかも反省ついでに問われたのでユリウスは簡易的なダンジョンの地図を見せ、彼らのパーティーとしての評価がそれで少し上がったようだ。

 

「あー疲れた!」

「お疲れアレス」

「ほんとだよ」


 四人はそんな会話を笑いながらしていた。

 その時ユリウスはふと思い出したことがあり、ルナに話しかけた。


「そういえばルナって格闘技使えるだろ?」

「え!?なんでわかったの?」

「そりゃーその手に付けてる武器を見ればわかるよ。ぱっと見篭手だけどそれ格闘用の武器だろ」

「ええ、よく気づいたわね。私は召喚術士兼格闘家だよ」



 それを聞いてソフィーとアレスは意外そうな顔をしていた。

 そして当然なんでさっき格闘技を使わなかったのかと疑問に思う者が出てきた。 


「なんでさっき格闘術を使わなかったんだ?」


 アレスの質問にほんの少し考える素振りを見せるとルナはすぐに顔を上げた。


「……だって魔法科だから格闘術は禁止だと思ってた。だからいざって時以外は使わないようにしてた」

「ユリウスを見て使おうって思わなかったのか」


 その回答にアレスはユリウスを指さしながら言った。


「そりゃ思ったけど違反するのは男子の仕事みたいなとこがあるから」


 ルナは迷いなく言い放った。


「男への偏見がすごいな。まあ否定はしないけど……」


 ユリウスが苦笑いをしながら応えると、アレスも同じような表情をしていた。


「ルナは仕方ないとしてユリウスはさっきの状況で何で剣を使わなかったんだ。あれも十分いざって時だと思ったんだが?」

「?……あれは全然いざってときじゃないと思うぞ」

 

 ユリウスがそういうとルナも頷きながらそれに賛成していた。

 そう彼らの価値観とアレスの価値観は当然違っていた。


「ならいざってときはいつなんだ?」

「そりゃー」

「陣形が崩れてパーティーメンバーが死にそうな時、でしょ。ね、ユリウス」

「あ、それ俺が言いたかったやつ」


 ルナはユリウスの言葉を取り、ユリウスは何か言いたげな表情をしたが直ぐに気を取り直した。


「お、おう。……ならユリウス俺と模擬戦してくれないか?」


 アレスは真剣な表情でユリウスに向き直して話していた。


「なんでだ?」

「あの状況を打開できるだけの力があったのか俺に見せて欲しい」


 ユリウスはその一言でアレスが何を言いたいのかを察し、何も言わずにただ頷いて応えた。

 そして模擬戦を始めるためさっきいた場所から少ししたところにある広間に移動した。


「どうせやるんだ序列をかけようぜ。一回はやってみたかったし」

「それはいいけど傷は大丈夫か?」

「ああ、心配ない。ポーション使ったから完全回復だ」

 

 ユリウスは心配そうに言ったがアレスは体を動かして問題ないことをアピールしていた。


「大丈夫そうだな、いいぜ俺もそれに賛成だ」


 ユリウスは楽しそうな表情を浮かべながら賛同し、二人は胸に付けているバッチに触れ、序列戦を開始した。


「ソフィー開始の合図を頼む」

「わ、わかったよ」


 ソフィーは快く引き受け二人の間に立つような場所に移動し、二人の準備ができたこと確認すると開始の合図を宣言した。


「では始めてください」


 勝負は一瞬だった。

 合図が出ると同時にユリウスはアレスの懐に潜り込み、アレスは咄嗟に防ごうと盾を前に出したががユリウスはその盾を流すように受け、そのままバッチを切断し、彼の首に剣を突き立てた。

 

「そ、そこまで」


 ソフィーの合図と共に初の序列戦が終わった。

 ユリウスの速度や剣の正確さを見て、アレスとルナの二人は驚いていた。


「ユリウスお前強すぎないか?」

「だかから言ったんだ。いざって時にしか剣は使わないって」

「ああ、納得したよ。確かにこれだけの実力があれば十分すぎたな」


 アレスはユリウスの実力を知ることが出来て満足そうにしていた。

 そしてその後は授業が終わるまでユリウスがアレスに剣を教えたりして楽しい時間を過ごしていた。


 ちなみにアリサのパーティーは九番目でギルが六番目そしてルミアが十三番目のゴールであった。

いつも読んで下さり有難うございます。


『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。



これからもよろしくお願いします。


更新は毎週木曜日の予定です。

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