第46話 ダンジョン探索授業2
戦闘が終わるとユリウス達は素材回収を始めようとしていた。
「なぁユリウス、どうやって素材を剥ぎ取ればいいんだ?」
「まあ見てろ。ゆっくりやるからそれを真似してみろ」
そう言うとユリウスは腰の後ろに装備してある剥ぎ取り用のナイフを抜き、死体の口に入れて牙を切り落とし始めた。
ユリウスは宣言通りゆっくりと牙を剥ぎ取り、メンバーの質問にも応えながら教えていた。
「とりあえずこんな感じかな。わからないことがあれば手取り足取り教えるから実践してみ」
それを聞いた三人はユリウスと同じく剥ぎ取り用に持ってきていたナイフを抜き頷くと、近くの死体に近づき剥ぎ取りを始めた。
ルナとアレスは見様見真似だが上手く剥ぎ取りを行っていたが、ソフィーはまったく剥ぎ取りが進んでいなかった。
「ソフィーわからないとこでもあるのか?」
ユリウスがそう聞くとソフィーは首を横に振った。
「え、えっとね。やろうと思ったんだけど何だか可哀そうになってきて……」
「ソフィーは優しいな。恐らくはそれが普通の反応なんだろう。だけどな、殺した以上は殺した相手の素材を有効に使わないといけない。それが殺した側の責任って言うのかなこの場合は。だから今はそう思ってやれば気持ち的には少し楽になるんじゃないか?あとは無意識的に抵抗を感じてるのかもな」
「そ、そうだね。私ももうちょっと頑張ってみる」
気持ちを入れ直して頑張るアピールをしたソフィーを見るとユリウスも大丈夫そうだと判断し、剥ぎ取り作業に参加し始めた。
「えーと、ルナさん?」
「ルナでいいわよ。それでどうしたの?」
ルナは視線を剥ぎ取っている死体に向てたまま声だけで聞くと、それに続いてアレスが続きを話し始めた。
「ユリウスのあの説得の仕方いいと思うんだけどちょっとあれだよな」
「たしかにそうね。素材の有効利用って言ってもそれは魔物に対してだけだから、魔物以外を殺した時の踏ん切りが難しくなりそうね」
そう話しているとユリウスがまだ剥ぎ取りが終わっていない死体を取りに来た。
「いいんだよ今はそれで。何事も最初の一歩が大切だからさ」
「そうだな。ユリウスの言う通りかもしれないな」
アレスが納得するとルナも声には出さなかったが軽く頷いていた。
ユリウスは死体を回収すると剥ぎ取りを再開した。
一通り剥ぎ取りが終わると、ユリウスは魔石の剥ぎ取りの仕方を教えたが、流石にそれをやる勇気は三人にはなかったようだ。
一通り終わると四人は探索を再開した。
奥に進んでいると、先の様な戦闘を何回も繰り返してたおかげで、徐々に連携も取れるようになっていた。
危なげなく進んでいると何回か少し広い部屋の様になっている所を見かけていた。
潜ってから時間も結構経過してため、近くで見かけた部屋の様な半球状の窪みに入り、一行はそこで休息を取ることにした。
「ここいらで少し休憩にするか?」
「そうね、そうしましょう。流石に少し疲れたしね」
ユリウス達は背負っていた荷物を降した。
ユリウスは荷物の整理の為、鞄の中身をいくつか出し、大まかに入れた素材などの整理も一緒に行った。
「なあユリウスその魔道具はなんだ?」
ユリウスが荷物の整理の為に出していた小型の魔道具をアレスは手に持ち、それに興味を持った。
「ああ、こいつね。これは防音と消臭の効果が付与されてる魔道具だよ」
「そんなのいつ使うんだ?」
「パーティーでダンジョンに潜ってるときにトイレに行きたくなった時に使う。プライバシーが守られるからな」
「へーなるほどね。トイレ用なのか」
アレスが一気に興味を失せたのを見ていたユリウスは、追加で他の用途も話し始めた。
「まあ実際はそれだけが使い道じゃないんだけどな。アレスはどんなのがあると思う?」
「そうだなーうーん……あー思いつかねー!他の使い道ってなんだ?」
アレスはユリウスのそれを聞くと、少し考える素振りを見せたが結局何も思いつかず聞くことにしたようだ。
「それは嗅覚や聴覚が優れた魔物から身を潜める時に使うんだよ。ダンジョンだと逃げ場が限られるから、少しでもリスクを減らさないとな」
「言われてみればたしかにそうだな!そう考えるとシンプルで持ち運びも便利だし、なにより魔力も殆ど使わないからいざって時まで魔力を温存できるのか」
「そういうこと。だからダンジョンに潜るときは重宝するんだよ。パーティーで動くなら一人か二人持つだけで済むから荷物にもならない点も魅力的だ」
アレスはもちろんだが、それを聞いていた女子二人も「なるほど」と言いながら頷いて新しい知識として覚えたのだった。
「ま、こんな浅い階層じゃあそんな魔物基本的には出ないんだがな……」
ユリウスは小さい声でボソッとつい心の声を漏らした。
「え!?じゃあなんで持ってるんだ?」
アレスは先に聞いた知識で聴覚等が優れている魔物がいることを想定して持ってきているのだと思い込んでいたが、今のユリウスの言葉を聞き疑問を浮かべていた。
「ってやべ、聞こえてたか」
ユリウスはそう言いながら頭を掻いていた。
「ま、実際は保険とプライバシーの為だな」
「トイレ用で持ってきてるんだと思ったけど、今の言い方的にあれ以外の用途で持ってきたのか?」
「いやいやそんなに深く考えなくていいぞ。これは念のために持ってきてるだけだから」
「と、言うと?」
「やっぱそういう反応をするか」
ユリウスは予想通りの反応をされ、少しうなだれたがすぐにいつものペースで話し始めた。
「普通はあり得ないけど、ダンジョンによってはいきなり強い敵スタートとかの高難易度のダンジョンがたまにあるんだよ。それに転移とかの罠が起動したり、何らかの事故が起きた時とかに備えて常備してる。とは言うものの、ここはそんなことが起きにくいから比較的まだ安全に近い方だと思うけどね」
「それならなんで他の物を持ってきたりしないのかが疑問だな」
「そりゃあれもこれも持ってきたら荷物が持ちきれなくなっちまうからな。念のためで持ってくるなら他にも汎用的な使い道がある方が無駄になりにくいってのも理由の一つかな。ま、要するに複数の使い道があれば本来の用途以外にも使えて無駄にならないからって感じだな」
ユリウスが話し終えると、一瞬の沈黙の後すぐに言葉が発せられた。
「なるほどなー。よくそんな事まで考えられるな」
「これに関しては経験だな。俺も周りの忠告を無視して念押しの準備をしないでダンジョンに潜って死にかけたことがあるからさ」
ユリウスはとても遠くを見るような目で語っていた。
「お、おう……」
そんなユリウスを見て、アレスはそんな言葉しか使うことが出来なかった。
それからほんの少しの間を置き、ルナが沈黙を破るようにユリウスに話しかけた。
「それならこの魔道具借りてもいい?」
「ああ、別にいいぞ。やるなら端の方でやれよ」
それを聞きルナは赤面し、ユリウス達の方を振り返った。
「見たらぶっ殺すわよ」
「見ないから安心しろ。全員お前に背を向けてればいいだろ?」
ユリウスのそれを聞き、ルナに背を向けて座り直していた。
それを確認するとルナは再び歩き始めた。
座り直してから少しするとユリウスは荷物の整理を終わらせ、また別の作業を始めていた。
「ね、ねぇユリウス君は何やってるの?」
「マガジンに弾を込めているんだよ。と言っても流石にわかんないよな」
「うん」
ユリウスは銃を手に持ち、簡単な説明を始めた。
「要するにこの武器に弾を送りこむ装置に弾を入れてると思ってくれればいいよ。ま、そんな感じだから弓よりも沢山弾を持つこともできる」
マガジンをどこに差し込むかを動作で教えた後銃を地面に置いた。
「それなら弓矢よりコンパクトで持ち運び易いね」
「それがこの武器の売りだからな。だけど弓より便利な分危険な一面も多いから触るなよ」
「わ、わかったよ」
ソフィーはもじもじしながら頷いており、ユリウスはそれを目尻に捉えながら話していた。
「ソフィーもトイレ行きたいなら行っとけよ」
「だ、大丈夫だよ!」
「それならいいけど、漏らす方が恥ずかしいんじゃないかとは言っとくぞ」
ソフィーはそのやり取りで顔を真っ赤にしながらユリウスの作業を興味深そうに見ていた。
「もーデリカシーがなんだから」
ソフィーは小さい声で呟いた。
「ん?なんか言った?」
「ううん。何も」
ルナが帰ってくると入れ替わるようにソフィーが魔道具を受け取り、ユリウス達の背後の方へ歩いて行った。
「あんたは行かなくていいの?」
「俺は長時間行かなくてもいいように修行してあるから」
そんな発言を聞き、ルナはバカを見るよう目でユリウスを見る。
「病気になるわよ」
「うっせー」
そんなことを話しているとアレスがユリウスに話しかけてくる。
「ソフィーさんの後俺も借りていいか?」
「どうぞ~」
ユリウスは軽いノリで返答した。
弾を込めを終えマガジンをしまうと、次に大雑把に書いていたこのダンジョンの地図を鞄から取り出す。
そしてその地図に細かい部分や記号を入れ、どこに何があるのかを見やすくなるように書き直しを始める。
「あんたマッピングできるんだ」
「まあな。沢山ダンジョンに潜ったせいでいつの間にかできるようになってた」
昔のことがフラッシュバックし、苦笑いを浮かべながら話していた。
そんなユリウスの地図をルナはじっくり見ていた。
「この階層の地図書かなくても学院にあるんじゃない?」
「そりゃそうだけど。渡されてないってことは頑張れってことだろ」
「それもそうね。私もこの部分を書くの手伝うわよ」
ルナは大雑把に書いてある方の地図の一角を指でなぞり、どこの部分かを示していた。
実際にルナがやったのは地図を書くのではなく、どこに何があったかなどの細かい情報を地図に書き込むことをしていた。
ルナが書き込み終わるのを確認すると、ユリウスは書き加えられた部分を見やすく書き換えていた。
地図は意外にも結構見やすいように仕上がり始めている。
ソフィーはユリウス達の元に戻ってくると借りていた魔道具をユリウスの近くに置いた。
「アレスこいつらが使った近くは避けてやれよ」
「わかってる」
アレスは魔道具を回収してユリウス達の背後に歩いて行った。
そんな間も地図書き続け、ソフィーからの意見も取り入れ、現時点までの見やすい地図が完成した。
「おお!いい出来だ」
「思ってたより見やすくなったわね」
完成品を見ながら三人で満足げに頷いていた。
「ユ、ユリウス君今度書き方教えて欲しいな」
「構わないぜ。だけど明日以降にな。今日はソフィーも今以上に疲れると思うし」
「うん!わかった」
ソフィーは嬉しそうな笑みを浮かべながら頷き、ユリウスもそんな表情が見れて内心うれしく思っていた。
(やったー!これでユリウス君と二人きりでお話できる)
ソフィーは今にも小躍りしそうなほど嬉しくて、自分の世界に入り込んでいた。
「ソフィーここはこうやるんだ」
「こんな感じかな」
「おーうまいぞー。その調子その調子」
(そしてゆくゆくは……)
「好きです!私と付き合ってください!」
「いいよ。俺もお前が前から好きだったんだ」
(ってことに)
ソフィーは完全に自分の世界に入り込でいた。
「なぁルナ、ソフィーはどうしたんだ?」
「乙女の事情よ」
「はぁ……俺にはさっぱりだ」
ユリウスは両手を軽く上げ仕草でもわからないアピールをする。
そしてルナはソフィーの元に行き、両肩を掴んで揺らし始めた。
「ソフィー戻っておいで」
それから数回揺らしたところでソフィーは我に返り現実に復帰した。
ソフィーはユリウスを目尻に捉え、そして何を考えていたか思い出すとすごい勢いで顔を真っ赤にしていき、俯いてしまった。
そしてルナがユリウスの傍を通った際に彼の脚を軽く蹴った。
「ユリウスってやっぱ馬鹿ね」
「いきなりひどくねーか?」
ユリウスがルナに文句を言っているとアレスの声をかけた。
「二人とも何かあった?」
戻ってきたアレスは突然そんな状況を見せられ、状況を理解できずにいた。
「いや何も」
それから十分ほど休むと再び探索を開始した。
休憩以降は休まずにダンジョンの奥に進んで行った。
道中で魔物を見かけても、連携が慣れ始めてきたせいか休憩前と比べると比較的簡単に討伐を行えるようになっていた。
ユリウスもだいぶ銃の癖が分かり、ダンジョンに入った時よりかは魔物の頭部への命中率が上がっていた。
そして何回か行き止まりの通路を歩き、引き返すこともあったが順調に危なげなく進むことができ、今回の目的物がある地点まで辿り着いた。
「これが目的物かな?」
「多分そうだと思う」
ルナがユリウスから目的物を受け取り、それを観察しながら言った。
「じゃ、じゃあこれで授業は終わりなのかな?」
「ソフィーさんまだだと思うよ。帰るまでが探索だって先生が言ってたから」
「そうだね。気を緩めないようにしないと」
ソフィーは気合を入れ直すと同時に、目的物を誰が持つかという話し合いが行われた。
その結果ユリウスが目的物を持つことになり、彼がそれを鞄にしまうのを確認すると今度は出口に向かって歩き始めた。
「戻るまでアレスさんも前衛頑張ってくださいね」
「おう!任せとけ」
アレスは胸を叩いて自身満々に返答した。
「女の子に応援されて嬉しそうだな」
「そりゃ男だから元気になるだろ!」
「ははは。たしかにな」
そんなこんなでみんな笑いながら歩いていた。
魔物の対処も容易になり、地図もあるおかげで行きよりも帰りの方が早く出口に近づいていた。
だがユリウスはそこで嫌な予感を覚えた。
「なあなんか行きより魔物の数が少なくないか?それにいきなり魔物と遭遇しなくなったしさ」
「先行してたパーティーが倒したんじゃない」
ルナが言ったことにソフィーも賛成していたが、アレスはユリウスに言われ違和感を覚え始めていた。
「だけど台に置かれてた巻物の数的にまだ来てないパーティーの方が多い感じがしたな」
「言われてみれば……。でも大丈夫よ私たちだって初めに比べたら結構連携出来るようになって強くなったしね」
「そうだな。何かあっても楽勝かもしれねーな」
ルナがアレスの説明を聞いて納得したけどそれでもこの階層だと自分たちの方が強いと思い、少し慢心しているような感じがしていた。
それを見たソフィーは危ないかもと思い、注意を呼び掛けた。
「で、でも油断はダメだよ。何かあったら対処が遅れちゃうから」
「大丈夫よソフィー。私たちもちゃんと警戒はしてるから」
「う、うん。そうだね」
それでもソフィーの顔からは不安の表情が拭え切れていなかった。
(念の為やってみるか)
ユリウスはどうしても何かが引っ掛かる為、今まで解除していた気配探知を使った。
そこでユリウスはヤバい物を感知した。
「お前ら全力で走れ!!」
「え、なんで?」
「このままだと魔物の群れに挟撃される!」
それを聞いた瞬間、ユリウスを除いた一同は顔が真っ青にしながら走り始めた。
(こんな階層でこの量の群れは流石におかしい。人為的でもないとこの量がこの階層で出るはずがない。今はそれより逃げる方が先決か。……まあ剣を使えば余裕で切り抜けられるから、もし接敵して戦闘になったらこいつらにとってはいい経験にはなりそうだな。いざって時まで剣は使わないようにするか)
ユリウスは逃げながらそんなことを考えていた。
走って逃げていたが進行方向の道に魔物の群れが合流する前に突破することが出来ず、一行は魔物の群れと接敵し臨戦態勢に入った。
「挟まれる前に突破するぞ。だけど焦るなよ。焦ればまだ挟まれた方がいい状況になるからさ」
「了解!!」
いつも読んで下さり有難うございます。
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これからもよろしくお願いします。
更新は毎週木曜日の予定です。




