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第45話 ダンジョン探索授業

 ユリウス達は現在学院内にあるダンジョンに潜っていた。

 そのダンジョンの中は薄暗くも、ダンジョン特有の鉱物が放つ光で周囲を目視できるほどの光源は確保されていた。

 だがそれでもランタンや松明があった方がよいくらいの明るさであった。

 一行が進んでいると先に入って行った者が倒した魔物の屍をちょくちょく見つけていた。

 魔物の屍は素材だけ剥ぎ取られ、魔石までは回収されていなかった。


「みんなちょっと待ってくれ」

「どうしたんだ?」


 先頭を歩いているアレスが後方を振り返り、立ち止まっているユリウスに声をかけた。


「この辺の魔物の死体にはまだ魔石が残ってるみたいなんだ」

「まじか!?でもあれ剥ぎ取るとなると難易度高いんだろ?」

「まあ、見てろ」


 ユリウスはそう言うと腰の後ろに装備している剥ぎ取り用のナイフを抜くと魔物の腹に突き付けた。

 ナイフを刺すとそのまま腹を裂くように横に切り、ユリウスは腹の中に片手を突っ込み魔石を力づくで無理やり抉り出すと、ナイフで魔石についている魔物の筋繊維を切り落とし、魔石の摘出に成功した。

 それにかかった時間は数秒だった。


 それを見ていた三人は顔を引きつらせていた。

 特にソフィーは顔を背けるほどのえげつない光景となっていた。


 魔石を摘出された魔物の死体は、魔石が無くなるのと同時に消滅した。


 この世界のダンジョンにいる魔物は魔石が無くなったり、破壊されると肉体を維持できなくなり消滅することが多いが、稀に保有魔力がずば抜けて高い個体は数分間消滅しないことがある。

 魔石が無くなるもしくは破壊するより前に魔物の体から切断されたものは、消滅することは無いので先に素材を剥ぎ取るのが鉄則となっている。

 そして体内に魔石を残したまま放置した場合、肉体が魔石に吸収され死体が魔石化する。


 アレスが言っていた通り、魔石の剥ぎ取りは初心者の内は結構大変とされている。

 なぜなら魔石を傷つけると価値が落ちるのは当たり前だが、他にも理由があり、傷をつけると脆い物ではちょっとの傷で破壊してしまうことがある為、意外と繊細に扱わなくてはならない点が難しいと言われてはいるが、慣れればそのようなことがほとんどないことから、初心者の登竜門と冒険者関連の人達には言われている。


 剥ぎ取った魔石を袋に入れると、ユリウスはナイフに付いた血を払ってからしまった。


「お前よくこんなこと平気でできるな」

「慣れだよ慣れ。俺はよく魔物相手に修行してたからな。こういう行為には抵抗が無いだけだよ」


 それを聞きくとないないと言いたげな表情を三人は浮かべていた。

 流石のソフィーもこれに関してはフォローの言葉が出なかった様だ。


(まあ慣れないうちはこんなもんか。……俺も昔はこいつらと同じ反応してたしな)


 ユリウスは昔の自分を思い出し、懐かしい気分になっていた。


「ま、いずれお前らもできるようになるぞ」

「たしかに冒険者でもやってればできるようになりそうだな」


 アレスは苦笑い浮かべなら言うと、女子二人も苦笑いしながら納得していた。

 そしてしばらく歩いていると先と同じく魔石が残った魔物の死体が転がっており、ユリウスはその死体を縄で縛りあげると探索用に持ってきていた鞄に縛り付けた。


「ユリウス君そんなに持って重くないの?」

「いやそこまで重くないぞ。しいて言えばちょっと重いくらいかな。試しに持ってみるか?」

「うん」


 ソフィーが頷くのを確認したユリウスは、背負っていた鞄を手渡した。

 ソフィはユリウスの所持品に触れてうれしいと思っていたが、それも束の間だった。


「お、重い、すごく重いよ~」


 ソフィーは全力で力を込めていたが、それでもやっと少し持ち上がるくらいだった。

 それを見ていたルナが興味を示した。


「そんなに?それなら私も持ってみたい」


 そう言ってソフィーから鞄を受け継ぐと、その重さに驚愕していた。


「なにこれ!?探索に持っていくような重さじゃないんですけど……」


 そしてルナから鞄を受け取り、ユリウスは再びその鞄を背負い直した。


「よくそんなの持てるわね」

「そりゃ伊達に狩りの後獲物の死体を担いでないからな」

「なんとなくそんなことだろうと思ったわよ」


 ルナが呆れたような表情をしているのに対して、ソフィーが鞄の中身に興味を持ったみたいだ。


「ユリウス君その中なに入ってるの?」

「そーだな。とりあえずさっきの死体と後はたしかポーションがちょっとと、さっきの魔石と重りだな」

「へー意外と普通の物が入って……ん?今お、重りって言った?」


 ソフィーは最後の一言が聞き間違いだと思い聞き直した。


「たしかに重りって言ってたわね」


 ソフィーとのやり取りを聞いていたルナが、気のせいじゃないと言いたげな表情で話していた。


「な、なんで入れてるの?」

「そりゃ危険がない階層の探索をするんならついでに筋トレした方がいいだろ」


 その発言に一同絶句し、辺りは何の音もなくただ沈黙だけがその場を支配ていた。

 そしてその沈黙を破るようにアレスが一番に口を開いた。


「普通ダンジョン探索って時点で、どの階層だろうとそんなことしないぞ」

「え、何でだ?だってお前も鎧着てるじゃん」

「これは身を守るために着けてるだけだ!」

「え!?筋トレの為じゃなかったのか!」

「そこ驚くとこじゃないだろ」


 アレスがユリウスのとんでも発言を聞き驚いていた。

 そんな時一行の近くに敵意を持った何かが近づいてきた。


「魔物が来たぞ。全員戦闘準備してくれ」


 アレスが警告すると一同戦闘準備に入ったが、現れた魔物を見た瞬間にユリウスのやる気が一気に削げ戦闘態勢を解いていた。


「なんだただのスライムじゃねーか。ダンジョンにここまでの雑魚がいるのが驚きなんだが……」


 そこにはぷよぷよした質感のファンタジー世界ではもはやお馴染みと言っても過言では魔物がいた。


「で、でも魔物だから警戒しないと」

「ソフィー試しにファイアー・ボール撃ってこ」

「う、うん」


 ソフィーはユリウスに言われるがままファイアー・ボールの詠唱を始めた。


「火よ、我が元に集え、ファイアー・ボール!」


 魔法が発動すると、その火球は一瞬にしてスライムを倒した。 

 むろん体内の魔石は砕け散り、砕ける前に飛び散った残骸だけがそこらに飛び散っていた。


「え、えーと……なんか想像よりも弱かった。文献だともっと強そうな感じがしたのに……」


 それもそのはずソフィーが読んでいたのは雑魚スライムの文献ではなく、その派生として記録されている硫酸などをばら撒く強い方のスライムなのだから。


「多分ソフィーが読んだのはこいつじゃなくて、その派生の存在に位置付けられてる奴じゃないか?」

「私が読んだのは酸を吐くって書いてあったよ」


 それを聞くと一同あーと言うような表情をしていた。

 勿論ソフィーも言った後に気付いたようでユリウス達と同じような表情を浮かべた。


「ユリウス、お前よく気づいたなこれが普通のスライムだった」

「俺は派生とも戦闘経験があるから色とか気配的なもので、な。後こんな浅い階層にあれは基本でない。クソやばいダンジョンでもない限りわな」

「へーなるほど勉強になったわ」


 アレスが納得したような声音で言うと、女子二人も頷いて納得の色を見せていた。

 それからは何もなくユリウスは定期的にマッピングを行いながら、一同に足並みを揃えて歩いてた。

 そしてしばらく歩いていると先ほどまでとは気配が違う魔物が数匹ユリウス達に方に近づいて来ていた。

 アレスもそれに気づき先と同じように警告をメンバー全員に行った。


 そして接敵した瞬間、敵は一行目掛けて襲ってきた。

 最初の一体は盾持ちのアレスが足止めを行い、その間にルナが手のひらサイズの綺麗なクリスタルを地面に叩きつけ、召喚獣を顕現させた。


「行きなさいハウンド!」


 そして腰に付けたポーチからもう一個取り出し、同じように地面に叩きつけた。

 すると同じ召喚獣が現れ、先と同じくルナの命令で敵に向かって行った。


 アレスは慣れた動きで敵の攻撃を盾で受け、相手のスキを見て反撃し、確実に体力を削って行った。


「火よ、我が元に集え、ファイアー・ボール!」


 ソフィーも攻撃魔法でアレスより奥にいる魔物を範囲攻撃で徐々に消耗させていった。

 ソフィーの紋章は第三紋の為、そこそこの連射をすることが出来るが本人が不得意ってこともあり、紋章の力を生かし切れていなかった。

 それでも本人が頑張って習得した短縮詠唱のおかげで威力は上がっており、範囲攻撃で不得意の部分を補うような形になっていた。


 ちなみに詠唱と無詠唱では威力に若干の差が生まれる。

 無詠唱は発動までが早い分詠唱ありに比べると威力が少し低下してしまうのだ。

 だがそれは魔力量や技量でどうにかなる為、基本的には無詠唱の方が強い傾向にある。

 そして上記の通り詠唱ありでは威力が無詠唱より強いが発動が遅い事が難点ではあるが、とある魔導士が詠唱のデメリットを軽減する為、短縮詠唱という荒技を開発した。

 短縮詠唱は詠唱時の威力をそのままに少ない詠唱数で良くする技法であり、術者の技量次第では威力が上がることもある。

 なので状況によって使い分ける魔導士がたまにいる。


 それでも敵を削り切るのに苦労していた。

 まだ戦い慣れていない新米パーティーの為、戦闘中に相手の弱点部位に正確に攻撃できないのが痛手となっていた。


「くっ!二体目か!!」


 もう一体の魔物がアレスの戦闘に参加し、二対一の状況になったがユリウスが後方からハンドガンによる援護射撃を行った。

 その弾は魔物の胴に着弾し、飛び掛かろうとしていたため魔物を転ばせダウンさせることに成功した。

 今回ユリウスは周りを驚かせないようM1911用に作った消音器(サプレッサー)を予め銃に装備させているため、銃声は鳴り響くことはなかった。


「ナイス支援!助かった」

「いいってことよ。その為に俺が後ろにいるんだし」


 ユリウスはすかさず転んでいる魔物にもう一発弾丸をお見舞いしたが、思っていた部位とは別の所に着弾した。


(数秘術なしだと意外とヘッショ出来ねーな。どれだけ頼ってたかよくわかるな)


 そして三発目にしてやっと魔物の頭部に弾丸をお見舞いすることに成功した。

 今回ユリウスが剣を使わないのにはちゃんとした理由があった。

 それは彼が剣を使うと授業にならなくなり、メンバーの成長に繋がらないと言う単純な理由であり、さらに本人も数秘術なしの状態での射撃の命中率を上げる練習をしたかったからだ。

 そして今回ユリウスは二丁拳銃をやらず、文字通り練習の為一丁で戦っている。

 ちなみにヘッショはヘッドショットの略である。


 アレスが一体を捌き終えたのを確認したルナが、指示を出した。


「こっちで押さえてる奴三体流すからお願い」

「マジか!?」


 そう言うと同時にルナの召喚獣が押さえていた魔物を三体アレスの方に流した。


「援護する。アレスそのまま押さえろ」

「あークソ!了解だ」


 アレスに三体ほぼ同時に飛び掛かって襲って来ようとしたが、ユリウスがそのうちの一体の胴を撃ち抜き、攻撃を無力化した。

 撃ち抜かれた魔物はその場で転び、勢いに任せて転がった。

 アレスは盾の構えを変え、二体の同時攻撃を受けきったが勢いに負け後ろに吹っ飛ばされた。

 吹き飛ばされ後方で転がったがすぐに立て直し、前衛に戻って行った。

 

 そして転んだ一体に数発撃ち込みユリウスが一体撃破した。

 そしてもう一体に弾丸を撃ち込み怯ませると、アレスがもう一体に向かって走り出し剣を心臓に突き刺し撃破した。

 そして怯んでいた魔物が体勢を立て直しアレスに攻撃を仕掛けたが、それを上手く盾で凌ぎユリウスがいる方に盾を傾け、魔物をそちらに誘導した。

 その意図を汲んだユリウスは、魔物の心臓部付近に何発か弾丸を撃ち込み、撃破した。


 後方の魔物はソフィーの魔法により数体焼死しており、残った二体の魔物はソフィーの魔法をくらい吹っ飛んでいた。

 魔法が放たれ着弾するより早くにルナの召喚獣は射線をあけ、予め回避行動を行っていた。

 吹っ飛んだ魔物目掛けてアレスが距離を詰めると、その一体を盾で押さえつけた。

 それを読んでいたユリウスも場所を移動しており、確実に当てられる距離にいた。

 そして魔物の頭部に銃弾を撃ち込み一体を絶命させると、立ち上がった魔物に一発撃ち込み怯ませるとそのままアレスが止めを刺した。

 そして戦闘が終了したと同時に、ユリウスは弾切れギリギリだったハンドガンのリロードを行い、再装填を完了させた。

いつも読んで下さり有難うございます。


『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。



これからもよろしくお願いします。


更新は毎週木曜日の予定です。

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