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第41話 入学試験 後編

魔法試験を終え、現在ユリウス達は次なる試験である実技試験の会場に来ていた。


「ユウ今度は自重してよ」

「流石に人間相手に使わねーよ。あんなの使ったら確実に殺しちまうだろーが!」

「いやユウならもしかしてと思って……」


 ギルは疑いの眼差しをユリウスに向けていた。


「ギル、お前は俺を何だと思ってるんだ」


 ユリウスはそれに抗議するように強い口調で言うと、ギルは淡々とした口調でとある二言の言葉を口にした。


「脳筋。僕はそう思ってるよ」

「くっ!……これまでの行為を考えると言い返せねー」


 ユリウスは悔しそうな表情な表情を浮かべて、唸っていると不意にギルが何かを思い出し口を開いた。


「そういえばさっきから思ってたんだけど後ろの子は誰なの?」


 ギルはユリウスと仲良さげにしている女の子について聞いた。


「ん?ああ、鍛冶屋を探してる時に知り合ったソフィーだ。ほらあの日の夜に宿屋で話したろ」

「ああ!思い出したよ。その時の話に出てきた人か」


 するとギルはソフィーの方を向き、微笑しながら自己紹介をした。


「僕はギルバート=メイザース、よろしくね」

「ソ、ソフィー=エルニクスです。よ、よろしくお願いします」


 ソフィーはギルの笑顔を見て少し安心感を覚えながらも、緊張した面持ちで自己紹介をした。

 そしてギルはソフィーの名前を聞くと何かが引っ掛かりその何かがわからず、考え込み顔を少し俯かせていた。


(あれ?この子どっかで見たことあるような気がするな。名前もどっかで聞いたような?ソフィー=エルニクス……ソフィー、エルニクス…エル?ニクス?)


 考え込んでいるとギルは本人にも聞こえてるか怪しいほど小さな声で呟いた。


「……エル=クス」


 小さな声で呟くと少しの間をおいて勢いよく顔を上げた。


「もしかしてソフィー=エル=クス=ケスラ王女殿下!?」

 

 そして名前を呼ぶと同時に流れるような綺麗な動きでソフィーの前に跪いた。

 ユリウスは「え?」と間抜けな声を漏らし、状況を呑み込めていなかった。

 突然の事にソフィーすらも驚きを隠せない様子だった。


「え!?……面を上げてください。今のわたくしは王女ではなく一個人としてここにいます。それに学院での権力行使は禁止されいるのをあなたも知っているから、あえて間名を名乗っていないのでは?それと同じで、わたくしも身分を隠しているのです。なので今後はユリウス君の友として接していただけると幸いです。あ、言い忘れましたが敬語は使わなくても大丈夫ですよ」


 この時のソフィーはいつものおどおどした感じはなく、笑顔で堂々とギルの顔を見ながら話していた。


「わかりました。これからはソフィーとお呼びします」


 ギルは敬語を使わないよう意識したせいか、少しぎこちない喋り方になりながら、癖で敬語を使っていた。

 幸い人が周りにはほとんどおらず、居たとしてもこのやり取りが聞こえてはいなかったようだ。


「いやーまさかソフィーが王女だったとは、ビックリしたよ」

「ご、ごめんね。隠してた訳じゃないんだけど、その身分がバレると皆急に態度が変わったり、距離を置かれることが多かったから」


 さっきまでの堂々としたソフィーは消え、いつもの調子で話していた。


「いや気にしてないよ。有名人が身バレすると大変なのはなんとなくわかるからさ」

「うん、あ、ありがとう」


 ソフィーは少し頬を赤くし微笑みながら返事を返した。

 そうこうしているとユリウスの名前が呼ばれた。


「じゃ行ってくるわ」

「ユウくれぐれもやりすぎないようにね」

「どれだけ疑い深んだよ!」

「だってユウ加減知らないじゃん」

「いや、いくら俺でも加減くらい知ってくるからな!?」

「はいはい」

「ひでー」


 ギルは全く信じておらず、その様を見たユリウスは何とも言えない表情をしながら会場に向かった。

 すると後ろから不意に声がかけられた。


「ユリウス君頑張ってね」


 ソフィーの声が聞こえるとユリウスは背中越しに手を振り、そのまま歩いて行った。


 そして会場に入ると教師が生徒にバッチを渡した。


「これは?」

「今から説明します」


 教師が一つ咳ばらいをすると説明を始めた。


「その魔道具は使用者が受けるダメージを肩代わりする魔法がエンチャントされています。そして一定のダメージを受けるとバッチは砕け散ります。……この試験ではいち早くバッチを割った者が勝者となるルールです。ちなみにバッチを砕く方法は二つあり、一つが使用者を攻撃して一定のダメージを与えること、そしてもう一つがバッチへの直接攻撃です。バッチは直接攻撃を受けるとすぐに割れてしまうので注意してください。以上で説明は終わりになりますが、何か質問はありますか」


 説明を終えた教師がユリウスともう一方の志望生を見ると、お互い首を振ったのを確認すると口を開いた。


「では両者共、既定の位置まで移動してください」


 移動し向き合ったことを確認すると教師は始まりの合図を出した。


「それでは始め!!」


 勝負は一瞬で決まった。

 始まりの合図を出した瞬間にユリウスは剣を振り、その一瞬生まれた風圧だけで相手のバッチを両断し終えるとすぐに納刀した。

 その速度を目で追えた者はおらず、教師と相手の志望生は唖然としていた。

 志望生に限っては切られたことに気づかず、少しの間動いていたくらいだ。


「あの~先生試合終了の合図お願いします」


 その言葉で我に返った教師はすぐに終了の合図を出した。


「そこまで!!勝者ユリウス」


 それを聞いた志望生は今にも人を殺しそうな目でユリウスを睨み付けていた。


「イカサマだ!初めから俺のバッチに何か細工をしていただろ!!そうでなければこの俺が瞬殺されるわけがない!!!」

「と、言われてもな~。普通に斬っただけだし、第一そのイカサマの証拠は何もないじゃん」


 ユリウスは他人事のように言うと、貴族っぽい服を着ている志望生は顔を赤くし審判役の教師に抗議した。


「おい!こいつのイカサマ負けだろ」

「そう言われてもねー、証拠もないからユリウス君の実力としか言えないよ」


 それを聞いた志望生はさらに激昂した。


「てめえ教師まで買収してそんなに勝ちたかったのか!!」


 ユリウスはやってもないことを何回も言われ、さすがに苛立ちを覚えた。


「敵との力量差すらわからない分際でピーピーほざくなよ。流石にイライラしてくるぞ。……それに言い訳しか出来ないとか本当にそれでも剣士なのか?お前は」

「てめぇー!!」

「どんなに俺に何か言っても負け犬の遠吠えにしか聞こえんぞ」

「ぶっ殺してやる!!」


 志望生は剣を抜きユリウスに斬りかかったが、教師が止めに入るよりも早くユリウスが相手の首筋を叩き、気絶させた。


(なんでこんなあぶねー奴がこの試験に参加してんだよ)


 そんな事を思いながらユリウスは入ってきた入り口に向かって歩き始めた。

 気絶させた志望生の処理はすべて丸投げしたようだ。


 先ほどまでいた待機場所に戻ると頭に手を当てたギルと、なんとも言えない表情をしているソフィーがユリウスの視界に入った。


「ユウ流石にあれは酷いよ。せめてもう少し戦わせてあげればよかったのに」

「つい癖でやっちまった」

「はぁぁぁ、まったくもう。……ほら加減知らないじゃん」

「うっ」


 そう言っているうちにギルの番がやってきた。


「じゃあとりあえず行ってくるよ」

「頑張れよ~」


 ギルの背中を見送るとソフィーが話しかけてきた。


「ユリウス君はなんでさっきあんな態度をしたの?」

「ああ、それか。まぁ負けた理由を人のせいにしてたのがどうしても気に入らなかったもんでな、つい。戦士を目指す身なら負けを認め、敗因を探すのが普通だと思ってるからさ」

「そ、そうなんだ。でも皆ユリウス君みたいな考えは、まだ理解出来る人は少ないと思うよ」

「確かにな。その意見が正しいのかもしれない。……俺もまだまだだな。もっと加減を覚えないと」

「頑張ってね」

「おう」


 そんな話をしているとギルが帰ってきた。

 ギルはユリウスと違い、少し戦った後相手を瞬殺したようだ。

 そのため変ないざこざは起きなかった。

 するとすぐにソフィーの番が来た


「頑張れよ」

「うん」


 ソフィーは小さく頷くと会場に向かっていった。

 そして結果は敗北であった。

 ソフィーは多種多様な魔法が使えないため、テクニカルな戦い方になすすべなくやられてしまった。


 そして一通りの試験が終わると最初に紙が張り出された部屋に戻ってきていた。


「ルミア、お兄ちゃんを見つけたなの」

「あ、ほんとだ」

 

 そして二人が合流するタイミングで教師が部屋に入ってきた。

 合流すると五人は教師の方を向いた。


「これより魔力測定を行います。順に奥の部屋に来るように!部屋に入ったら受験番号と氏名を名乗り、試験官の指示に従ってください」


 それだけ言うと教師が出て行った。


「いたいた、おーいソフィー!」


 そこで合流したのがゼナであった。


「あ、ユリウス君久しぶり~」

「おー久しぶりだな。ソフィーからいるのは聞いてたぞ」

「へーそうなんだ」


 合流するとゼナはソフィーの元に行き、小さな声で話しかけていた。


「よかったねソフィー。念願のユリウスと会えたじゃん」


 それを聞いた瞬間ソフィーは顔を真っ赤にして俯いた。


「どうした?」

「う、ううん。なな、何でもないよ」


 ソフィーは少し焦るような口調で話していた。


「とりあえず自己紹介といくか。お互い知らないメンツもいるようだからな」

「そうだね。あたしはゼナ=グレイス=ヒーストンよろしく!」

「私はアリサ=アルバートです。よろしくね」


 そして各々自己紹介を済ませると、とりあえず魔力測定の列に並ぶことにした。

 順番を待つ間お互い色々と話しながら親睦を深めていた。

 そしてユリウスは小声でゼナに話しかけた。


「そういえばソフィーって王女だったんだな」

「え!?なんで知ってるの?」

「実はさっき……」


 ユリウスは先ほどの試験の時にあったことを話した。


「あちゃーバレちゃったかー。でも態度が変わらなくて安心したかも」

「俺はあまり身分は気にしない方だからな。……それよりその時のソフィーの態度がいつもと違ったのがすげー驚いてるんだが……」

「ああ、あれは王女モードだよ」

「?王女……モード?」

「そう。あれは理想の自分を演じることで堂々とした態度を取って、王族として恥ずかしくない対応ができるようにしてるんだって。そう本人が言ってたし。まぁそうしないと気が弱いソフィーにとっては大変だから」

「なるほどな。確かにそれが合ってるのかもしれないな」


 ユリウスはソフィーの先の変化に納得の色を見せていた。

 そしてみんなで話しているとすぐに測定の順番がやってきた。

 最初はソフィーから始まり、順番的にアリサが最後に測るようだ。


 ソフィーは部屋に入ると受験番号と氏名を名乗り、魔力測定用の水晶に触れた。


 魔力測定に使う水晶はその輝きの強さで大体の量を測定するのだ。

 そのため正確な量がわからないのが問題視されている。

 それの問題を解決するため数値化出来るものが開発されてはいるが、まだバグなどがあり実用段階にまでは至ってはいないのが現状だ。


 そしてソフィーが触れた瞬間、水晶に亀裂が入り砕け散った。

 その時ソフィーは「え?」と小さな声で呟き、あたふたとしていると教師が優しい笑みを浮かべながら先に行くよう促し、ソフィーは一言謝ってから先に進んだ。

 そして次にユリウスの順番が回ってきた。

 ユリウスもソフィーと同様に水晶に触れた瞬間、水晶に亀裂が入ってから砕け散ちり、その光景を唖然としながら見ていると、試験官の教師がまたかという表情を浮かべ、ソフィー同様に先に行くよう促した。


 水晶が砕け散る条件は二つあり、一つが測定不能なほどの魔力を保有していること、もう一つがその真逆に測定ができないほど魔力を保有していないの二択である。


 そしてアリサ達も順に魔力測定をしていき、今回も想定外なことがありつつも無事試験が終了した。


 アリサ達の魔力測定結果は平均よりも割と高い方であり、ギルに限っては平均よりかなり高い方だという事が判明した。

いつも読んで下さり有難うございます。


『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。



これからもよろしくお願いします。


更新は毎週木曜日の予定です。

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