第40話 入学試験 前編
イスカンダルとの模擬戦から一週間が経った。
入学試験日より四日ほど前に推薦状とダンジョン獲得の申請書類が届き、ユリウスはインベントリに入れている。
この国にはいくつかの学院があり、それぞれ主要都市に設けられている。
そして国の制度として第一希望で落ちたとしても、全学院のどれかには入れるようになっているが落ちれば落ちるほど、その分出だしの評価は低くスタートすることにはなる。
現在四人と一匹はその内の一つである王立第一学院の門前に来ていた。
「いよいよだな」
「そうだね。じゃあ行こうか」
ユリウスとギルはそんなことを言いながら、四人と一匹は門を潜った。
そして入口に到着すると、受付がありそこにある列に並んだ。
「これでも早く来たと思ったんだけど、もうこんなに来てるとは驚きだよ」
「私も先頭じゃなかったとしても、結構前に並べると思ってたんだけどな~」
「長くなりそうなの……」
ユリウス以外の面子がうわーという表情を浮かべていた。
ちなみにユリウスは前世でPNシリーズなどの人気ゲーム機発売日や同人誌等のイベント行事で、これよりも比較にならないほどの戦争を戦い抜いて来ているため苦でもない様子だった。
そして並び始めて三十分が経過した頃、ユリウス達はやっと受付まで辿り着いた。
「ようこそ王立学院へ。こちらが受験票になります。奥に進みましたら試験会場がありますので、そちらで待機をお願いします」
「了解だ。……ところで推薦状はここで渡せばいいのか?」
ユリウスは懐から父グレン達の物とイスカンダルから貰った推薦状を取り出し、受付を担当している教師へと差し出した。
(え?……推薦状!?なんで私の所にこんな面倒事が来るのよ)
担当教師は内心で外れくじを引いたと思っていつつも、顔には出していないあたりプロ意識があることがうかがえた。
この国での推薦状は貴族等の絡みもある関係上を受け取った者は、紛失や扱いを間違えると責任問題になりかねない為、皆請け負いたくな代物なのだ。
イスカンダルもその問題については対策をしようとしているが、貴族側の反感を買い国の運営に関わる可能性があるため、大胆に動けないのが現状の状況である。
それでも裏でコソコソとあの巨体が動いてなんとかしようとしているらしい。
そして担当教師がそこに書いてある内容を見て、目を見開いて唖然とした。
(何なのこの子は!!あの英雄と国王陛下から推薦されるなんて!一体何者!?)
驚きつつもしっかりと偽物ではないことを確認するとユリウスの方を向き、動揺が声に出ないように意識しながら口を開いた。
「確認が取れましたので大丈夫です。先にお進み下さい」
「わかった」
ユリウスが通過すると担当教師は彼に聞こえない大きさでため息を吐き、隣の同僚を見ると同じようなことになっているのに気づき見ていると、その視線に気づきお互いに苦笑いを浮かべていた。
ユリウス達は試験会場に着き、時間まで空いている席に座り、入学試験についてどんな感じにやるのか予想を話して暇を潰していた。
そして試験の時間がやってきた。
「これより王立第一学院、入学試験を開始します!!張り出された順に試験を行います。しっかりと自分の行く場所を確認し、集合場所に来るように!受付で受け取った資料の中に地図も同封されています」
そこまで言うと試験官はいくつかの紙を数か所に張り出して、出て行った。
張り出された紙には受験番号と今日行われる試験のスケジュールが書かれていた。
そして受験番号はA~Cまでのグループに分けられており、グループ別に試験をローテして行う旨が書かれていた。
試験内容は魔法試験、簡単な筆記試験、そして実技試験。
魔法試験ではその名の通り、現在使える中で最も自身のある魔法を使い実力を測る試験であり、魔法科に入る生徒以外はあまり重要視されない為、それ以外の人は今の魔法の実力を知ろうみたいな軽い試験になるが、魔法科志望生はこの試験で選別されて落とされる。
ここで意外と自分は魔法に向いていることに気づき、志望する科を変えるものもたまにいる。
筆記試験ではどこまでの読み書きができるのか、どれほどの知識があるのかを確かめる試験であり、ここで落ちる者はほとんどいない。
ここでの結果はクラス分けをする際の基準にされている。
もし同じような点数の者が多数出た場合はこの試験以外の結果が重視される。
実技試験では実戦に近い形で模擬戦をやり、ここでは主に魔法科志望生以外の志望生の実力を測る為近接戦メインで行われ、前衛職に関する学科志望生はこの試験で選別されて落とされる。
魔法科志望生は同じ志望生同士で行うか、前衛職の志望生とやるか、この二つ選択肢を渡されるが勿論後者を選びそこそこの戦闘をすれば評価が上がり、魔法試験の点に補正が付く。
もし魔法科志望生が瞬殺でやられれば、前衛職に関する学科志望生は少し置いてから別の者と二戦目を行うことになる。
そしてユリウスとギルはBグループに振り分けられ、アリサとルミアはCグループに振り分けられた。
「見事に男女で分けられたね」
「はは。たしかにな。お前ら頑張れよ!」
ユリウスは二人の肩を叩きながら言った。
「お兄ちゃんこそ落ちないように魔法頑張るなの」
「アリサちゃんちょっと悪い顔になってるよ。……ユウ君達も頑張ってね」
ルミアは少し悪い顔をしながら言ったアリサに注意を入れた後、二人に応援の意味を込めていつもの笑顔を向けていた。
ユリウスとギルの二人が筆記試験が行われる教室について十分もしないうちに全員が揃い、試験が始まった。
「試験時間は六十分です。それでは始めてください」
それを合図に手元に裏返された問題用紙をひっくり返し、一斉に書き始めた。
(やべっ!流石に簡単すぎる。まぁ一応は転生者だから、これくらい簡単に解けないと逆にそれはそれでやばいか)
ユリウスは心の中でそう思いながら問題を解いていた。
そして十分が経つ頃にはすべて終わり、暇を持て余していた。
(終わったー!……後五十分か、暇だ何しよ。よし寝るか)
即結論を出すとユリウスは机に突っ伏し寝始めた。
後ろからその様子に気が付いた志望生が「あいつわからな過ぎて寝たぞ」などと見当違いなことを思い込んでいた。
そして隣に居るギルは目尻でユリウスの行動を見て、「さすがに終わってもそれはまずいよ」と思いながら間違えがないか見直しをしていた。
この後教師に見つかり、当然叩き起こされるユリウスであった。
そして筆記試験が終わると十分の休憩後、魔法試験を行う場所に移動した。
その会場には幾つかの的が用意されていた。
「ここにある的は学院長が作った特別製の的だ!だからどんな魔法でも壊れることはない!全力で撃ち込め!!撃つときはこのラインの所から撃つように」
ラインの位置は紋章の能力差がなくなる絶妙な位置に引かれている。
そして教師がそう言うと各々受験番号順に並び、順番を待った。
ユリウスとギルはここで別れ、お互い別々の列に並ぶことになってしまった。
そこでユリウスは最近知り合った者と再会した。
「よう!もしかしてソフィーか」
「え!?……あ、ユリウス君久しぶり」
突然声をかけられソフィーは肩をビクッとさせて後ろを振り向いた。
「やっぱソフィーだったか。久しぶりだな。ところでゼナはどうした?」
「え、えーとね。そのグループ違って別れちゃったの。知り合いがいてホッとしたよ」
ソフィーは顔を少し赤くしていつも通り緊張しながら話していた。
「わかるぜその気持ち。知り合いいないと地味に不安になる時あるもんな」
「うん!」
ユリウスは励ますように言うと、ソフィーはなぜか嬉しそうに頷いていた。
「ほ、ほんとうに会えてよかったよ。ユリウス君と話せて安心した。……あ、そ、その深い意味じゃなくて、えと……」
「わかってる、友達としてだろ。俺もソフィーと会えてよかったよ」
ユリウスはおどおどしてるソフィーの頭を、ついアリサ達にしてしまう様な感じで撫でた。
するとソフィーは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「おっとすまん、嫌だったか?いつも妹が不安そうにしてるとこうやってたからつい」
それを聞いたソフィーは小さい声で呟いた。
「……嬉しい」
「ん?何か言ったか?」
「ううん、何も」
「そうか。嫌じゃなかったんならよかった、安心したよ」
ユリウスとソフィーがそんなやり取りをしていると、ギルの出番がやってきた。
「お、ちょうど俺の友達がやるみたいだ」
「え?ど、どこにいるの?」
「あれだ。俺らの所から奥に数えて二番目の所だな」
指を指しながらソフィーに場所を教えた。
「金髪の方?」
「そう」
ソフィーはどんな魔法を使うんだろうと思いながら、参考のためしっかりと見ていた。
ギルは前方に引かれているラインの位置まで歩いていき、手を前に出して構えた。
「エクス……おっと危ない。僕はユウと違うからしっかり自重しないとね」
ギルがそう言ったタイミングでユリウスが呟いた。
「なんか今、誰かにバカにされた気がする」
「き、気のせいだよ」
「だな」
ギルは魔法を言い換え、再び口を開いた。
「フレイム・バレット!」
一本の炎の槍が的目掛けて放たれ、その槍は着弾後的に傷を付けていた。
「いやいや、さっきの自重って言葉どこに行ったんだよ!」
後ろに並んでいた志望生がついツコッミを入れていた。
そしてソフィーは目を輝かせて、感動していた。
「す、すごい!!あんなに高度な魔法が使えるなんて!さらに触媒もなしに!」
それを聞いたユリウスはなんだか申し訳なさそうな顔をしていたが、勿論ソフィーは気づいていない。
(なんだろう。俺のパーティーメンバー俺以外みんなあれくらい使えるのが申し訳なくなってきた)
そんな事を思っているとソフィーに話しかける前に彼女の番がやってきた。
「頑張れよ」
「うん。あ、ありがとう頑張る!」
ソフィーはそう言い残しラインまで歩いていき、腰に付けている杖を抜き的に向かって構えた。
「火よ、我が元に集えファイアー・ボール!!」
火球は的に命中すると弾けて消滅した。
ソフィー以外もファイアー・ボールを使っている者が多いが、ソフィーと違い短縮詠唱ではなく、普通の詠唱を行っている者が大半だった。
「では向こうの部屋で待機するように」
ソフィーはそれを聞き、歩き出したがふとユリウスの魔法はどんなものなのかと気になり、足を止めて振り返った。
そしてユリウスの番になり、ソフィーなどと同じくラインまで歩いていき、片手を的に向かって構えた。
(さて、ここからがどうやって誤魔化すか腕の見せ所だな。なるべく派手にやってそれっぽく見せるのがよさそうだな)
ユリウスは声には出さず内心でそう呟いていた。
そして彼は周りには聞こえない程小さな声でブツブツと何かを言い始めた。
「数秘術発動。演算領域拡張。視覚及び生命維持に必要な最低限の機能以外のカットを開始。色覚並びに動体能力をカット」
ユリウスは生命維持、色覚及び動体能力以外の視覚機能、直立に必要な最低限の感覚以外の全てを停止させ、空いた脳のキャパを数秘術の演算にまわした。
彼の視界は現在白黒に映っている。
(人体への影響をなくして、後は魔力を模した疑似魔力で魔力探知系統を一時的に誤魔化すために設定っと。論理術式構築)
ユリウスは数字だらけの海のような潜在意識内に意識を向けて、技を構築していた。
(……論理術式崩壊を開始。論理破綻を観測。構築中の事象暴走開始まで十秒。簡易術式展開を確認。事象変更を開始……完了)
ユリウスはブツブツと呟き、起きていることを整理していた。
(クソッ!まだこれをやれるだけの演算能力が足りなかったか。まあいい仕方ねぇ。やるしかない!……未完なる新星爆発!!)
ユリウスが技名を呟くと同時に彼の手の先に眩い光が出現し、轟音と共に直線状に集約された超熱量の爆発が起き、その余熱で周囲にある人間以外の物を悉く溶かし、衝撃波で会場の一部が吹き飛んだ。
的は融解とほぼ同時に消し飛び、その後方にある壁をぶち抜いていた。
ユリウスが作り出した疑似魔力が残滓としてしっかりと辺りに漂うと徐々に消滅して行った。
(演算領域拡張を解除及び数秘術の展開解除)
すると彼の視界は次第に色を取り戻し、鮮明に見えるようになった。
「はぁぁぁ!!クソッ!頭が割れるように痛い。それに心拍数が異常なくらい上昇していくのがわかる」
ユリウスは深く息を吸い込んだ後、頭を押さえながら呟いていた。
ちなみに彼は今、酸欠状態である。
周囲の人たちはこの現象に唖然としていた。
「発動までに十五秒前後で、この反動と発動中動けなくなるデメリットか……これじゃあ流石に実戦で動く敵相手だと使いもんにならないな」
ユリウスは頭を押さえながら技の分析をし、待機室に歩いて行った。
そこで唖然としていたソフィーと出会い、彼女はさっきの魔法のような物について聞かず、辛そうにしているユリウスに肩を貸した。
その時彼女の顔は赤くなっていたが、内心でユリウスに触れられることを嬉しく思っていた。
「だ、大丈夫?ユリウス君」
「あ、心配ないちょっと力を使い過ぎただけだ」
「待機室まで肩貸すよ」
「ありがとうな」
待機室に着くとユリウスは近くの椅子に腰かけた。
そしてソフィーが話そうとした瞬間にギルが合流し、ユリウスに加減をしろと説教していた。
説教が終わるとギルと色々話していた。
ソフィーはおどおどして話かけたくてもギルが居ることに緊張して声をかけられずにいた。
そして想定外の事態があったがなんとか魔法試験は終了した。
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