第35話 王都到着
ユリウス達の馬車から王都が見え始めていた。
「お兄ちゃん、王都が見えてきたなの」
「おー!んん?……王都というか、もはや城塞都市の間違えでは?」
そこには城壁で囲まれ、難攻不落の要塞の如き壁が連なっていた。
「ユウのその表現はあながち間違ってないかもしれない。王都はこの国最後の砦と言われてるんだよ。だからその姿も伊達じゃないんだよきっと。そして面白いことに城壁から魔導砲撃もできるって噂があるくらいだからね」
ギルは軽快な微笑を零しながら話していた。
だが実際魔導砲撃は歴史を遡ってもされた事がない為、ただの都市伝説のみたいなものとして語り継がれてきただけであった。
しかし最後の砦と言う表現は間違っていない。
王都の城壁は並大抵の魔法では傷一つ付けることができず、古龍のブレスなら三発は耐えるとされているだけのことはあり、何重ものエンチャントが施されている。
そして籠城戦になっても都市の生産機能のシフトを変えれば、収容した自国民を飢えさせることがない程には食糧を作れる様になっている。
これが最後の砦と言われる所以である。
「名前負けしてないのが凄いな!」
「王都はそれ以外も凄いなの」
「そうなのか?」
「うん。中に入ればわかるけど、とても綺麗で色々なお店が並んでいて珍しい物を扱ってるところもあるなの」
アリサは熱くなりながら話していたが、色々な物がありすぎてやはり言葉では説明しきれないのが現状であった。
それでもユリウスは熱く語る妹のそれを熱心に聞き入れ、中に入るのをより楽しみになっていた。
そして馬車が王都の入口に着いた。
門の前は王都に入ろうとする様々な人々が一列の列を作っていた。
それを見た一行はうげーと言わんばかりの顔をしていた。
門の通過まで約二時間程かかり、やっと入る事ができた。
入るまでの間ユリウス達は、王都に行ったことがあるギルやアリサから情報を色々と仕入れて暇を潰していた。
「や、やっと入れた……」
「皆さん長旅お疲れ様でした。お待ちかねの王都でございます」
御者のそれを聞き、ユリウスとルミアは窓から外を覗き込み感嘆の声をあげた。
「おお!思ってた光景と段違いだ!」
「そうだね!これはすごいよ!人が沢山いるし色々なお店が並んでる」
ルミアは目を輝かせながら辺りの光景を眺めていた。
それから少しするとギルが声をかけてきた。
「ユウこの後どうするの?」
「そうだな〜。……まずは宿の確保かな。流石に寝るとこないと困るからな」
ユリウスは一瞬悩むような様子を見せたが、すぐにやる事を決めギルに返事を返した。
その話が聞こえていた御者は、御者台側にある小窓をノックしてから開けた。
「宿をお探しですか」
「ああ。……もしかして聞こえてました?」
「はい、バッチリと」
「いやーうるさくてすいませんね」
「元気で良いじゃないですか」
ユリウスは苦笑いを浮かべながら話していると、御者が微笑しながら受け答えしていた。
「あ、話がそれてしまいましたね。それで宿の事ですが゛銀の匙亭゛と言う所がオススメですよ」
「もしかして料理が上手いからとかか?」
「はい、もちろんそれもありますが宿には珍しい温かいお湯に浸れる施設や部屋がとても清潔感だからですかね」
それを聞き一番に反応したのは女子二人である。
「え!?お風呂あるなの!」
「ユウ君そこしようよ!」
ユリウスはその勢いに負け、頷くことしか出来なかった。
(流石女子!風呂には目がないな!)
ユリウスは押し負けた後そんな事を思いながら、御者に声をかけた。
「その銀の匙亭ってどこにあるんだ?」
「ここの通りをもう少し進んだところにありますよ。……ちょうどそこを通りますのでお店の近くで降りますか?」
「ならそこで下車させてもらうよ」
「わかりました」
御者はユリウスの注文を聞くと頷きながら言った。
そしてお店の近くに着くと御者は道の端に馬車を止め、ユリウス達をそこで降ろした。
ユリウス達一行は御者にお礼を言うと、お店がある方角へ歩いて移動した。
それから一分も経たないくらい歩くと、スプーンとナイフの絵柄で銀の匙亭と書かれた看板が見えてきたのだった。
(なぜ銀の匙なのにナイフがあるんだ……?)
ユリウスは変な所に疑問を持ちながら店の入り口を開いた。
するとちょうど近くにいた、ユリウス達と同年代程の女の子が明るく挨拶をしてきた。
「いらっしゃ~い!ようこそ銀の匙へ!!」
そしてユリウスは一拍置いてから口を開いた。
「泊まりたいんだが部屋は空いてるか?」
「ラッキーだねお客さん。いつもはこの時間だと入れないんだけど、ちょうど六部屋空いたところだよ。大部屋が一部屋に中部屋が一部屋、そして小部屋が四部屋だね。どうしますか?ちなみに小部屋が二人から三人で中部屋が四人もしくは五人、そして大部屋が六人だよ」
宿娘は何かを見ているのではないかと思うほどすらすらと今の状態を言い、ユリウスらを笑顔で案内していた。
「どうするか?男と女で別れる?」
「でもそれだと少し高くつくなの。それに私一緒でも気にしないなの」
「ルミアは?」
ユリウスはルミアの方を見た。
「私も気にしないよ」
「ちなみに僕は分かれた方がいいと思ってるよ」
その意見を聞きユリウスは顎に手を当て、考える素振りを見せたが結局値段で決めることにした。
「値段を聞いても良いか?」
「いいですよ~。とりあえず受付まで来てください。そちらで説明しますので。ではこちらです」
ユリウスらは宿娘の案内に従って、受付まで歩いて行く。
「じゃあ値段を言いますね。まず小部屋から順に言ってきます。小部屋が千六百バリスで中部屋が二千八百バリス、最後に大部屋が三千九百バリスです」
(うん高い!まあ寮に入るまでだから余裕で足りるけど、他の物を揃えるとなると自由に使えるのが少なくなるな)
ユリウスはアリサとルミアをチラリと見ると、彼の目にはあきらめていないように映っていた。
そこで小さくため息を吐くとギル達の方に向き直った。
「節約するなら中部屋だな」
「私たちは気にしないよ」
ルミアがアリサの分まで代弁して言った。
「ギルはどうだ?」
「値段的にそれでいいと思うよ」
「わかった」
ユリウスは宿娘の方を向き、注文内容を伝える。
「じゃあ中部屋にするわ」
「わかりました!二千八百バリスになります。それと夕食もセットになりますから夜になったらこの針が九を示す所になるまでに来てくださいね」
ユリウスは財布から二枚の銀貨と八枚の大銅貨を取り出し、宿娘に渡した。
この国では銅貨百枚で大銅貨一枚になり、大銅貨千枚で銀貨一枚になる。そして銀貨千枚で金貨一枚となり、金貨千枚で白金貨一枚になるという制度だ。
「ではこちらが部屋の鍵になります。二階の奥から五番目の向かって右側の部屋をお使いください」
「わかった。……そういえばいまさらだけど名前なんて言うんだ?話したりする時に不便だもんでな」
「確かにそうですね。私の名前はエマ=シルバーです。気軽にエマとお呼びください」
「俺はユリウス=アルバートだ。よろしくなエマ」
それから他の面々も軽く名前を言う程度の自己紹介を済ませ、ユリウスとアリサの関係については小さい頃よく一緒に遊んでいたからこの呼び名になったことにした。
そしてユリウス達は言われた通りに向かい、借りた部屋に着き扉を開ける。
「広いなの!」
「これで中部屋か~。確かにこの広さならあの値段も納得だわ」
ユリウス達は各々感想が勝手に口から漏れていた。
そして荷物を一まとめにすると、財布から現金を出し生活費などを引いた分を分配し、この後の自由時間の小遣いにした。
「じゃあ日が暮れるまでにこの宿に集合な」
ユリウスが指示を出すと、アリサ達は返事を返して了解だということを示した。
今回は珍しくアリサとルミアグループとユリウス一人、ギル一人の計三グループに別れて行動することになった。
ユリウスはエマに部屋の鍵を一旦預けると、それを確認したアリサ達一行は各々散って行った。
ユリウスはまず大通りの鍛冶屋を一軒一軒回っていき、そこで販売されている剣をじっくりと見て回っていた。
だが良さげな物が無く、ユリウスはこじんまりとした店の方が良い物が揃っていると踏み、路地裏に入り探索を始めた。
やはり行き当たりばったりで探索しても店らしきものはなかったが、女に絡む男を発見した。
「お嬢ちゃん達~これから俺たちと一緒に遊ばない?」
「や、やめてください!」
四人の男が二人の少女を囲み、強引に手を引っ張り連れて行こうとしていた。
少女達は交戦する意思がなく、腰に装備している剣に手をかけようとしなかった。
(なぜ裏道ではこうもお決まりの奴がよくあるんだ?)
ユリウスは前世に見たアニメや小説の事を思い出し、苦笑いを溢し男たちに近づいく。
「お困りか?」
「た、助けてください!超お困りです!!」
少女の一人がユリウスに向かってそう叫ぶと、ユリウスは「あいよ」と一言言った。
「おいクソガキ今なら見逃してやる。さっさとお家返ってママのおっぱいでも吸ってな」
他の三人の男はそれを聞き、ケラケラと笑う。
「俺らは日々魔物を殺しててめぇらの安全を確保してやってんだ!これくらいの褒美があってもいいと思うが?」
「は!三下の分際で良くほざくな~。でもさ、女の子を狩っちゃったら犯罪だよ~」
ユリウスはあおるような口調で言い、その顔には悪い笑みが浮かんでいた。
そう彼は早く戦いたくて仕方なかったのだ。
「言わせておけば!」
「いや一言しか言ってない気がするんだが……」
ユリウスはとりあえず上手く男達をキレさせることに成功し、男達は剣を抜刀した。
それを見た少女二人は声にならない悲鳴を上げていた。
「そう心配そうな顔すんなよ。こんな奴ら俺の敵にすらならないから」
ユリウスは的確に相手の急所を狙い、先頭にいた男の顎を殴り気絶させると流れる様な動きで二人目の男の鳩尾に一撃を入れダウンさせると、斬りかかってきた男の攻撃を受け流すと同時にあばらに重い一撃を入れ、内臓に刺さるように骨を折った。
そして最後の男を難なく無力化し、この戦いは一瞬にして終わりを迎えた。
「おい三下!さっさと失せろ!!今回だけは見逃してやる」
「「は、はぃぃ!」」
男たちは動けない奴を引き摺りながらすさまじい速さでどこかに去っていった。
「逃げ足はえーなおい。……とりあえず大丈夫かと聞いてもいいか?」
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