第34話 王都への道中
ユリウス達は現在も馬車に揺られながらゆっくりと王都に向かっていた。
「うう~気持ち悪いなの」
「アリサ、大丈夫か?」
「辛いなの……」
アリサはユリウスに膝枕してもらう形で横になっていた。
ルミアとギルは二人に対面するように座っており、ハクタクは固有能力で大きさを変えルミアの膝上で寝ているのだった。
荷物は出入口がない方の足元に置き直されている。
「今思ったけどさ、ハクタクってそんなに小さくなれたんだな!?」
「僕も見たときは驚いたよ。まさか膝に乗るくらいの大きさになるなんて思ってなかったから」
ギルは苦笑いを少し含みながら頬を掻いて話していた。
ルミアはハクタクを撫でながらその会話を聞いていた。
「私も初めて見たときは驚いたよ」
「ん?待て、その言い方だとこれより前に一回見てるような言い方だな」
「そうだよ。確か一か月くらい前にユウ君との稽古が終わって解散した後に、ハクタクと一緒に連携の練習をしてた時にね」
「なるほど。でも今考えると知ってるのが当たり前な気がしなくもないな」
ユリウスはルミアとハクタクが夜や空いた時間にこっそりと自主練しているのを知っているため、その話を聞き納得したような感じで応えた。
それから数十分程、馬車に揺られているとアリサの顔色が少し悪くなっているのにユリウスが気づいた。
「アリサどっかで止めてもらうか?」
「これくらいなら大丈夫なの。それに寄り道すると王都に着くのが遅くなるなの」
「楽しみなのか」
ユリウスがそう聞くとアリサはコクリと小さく頷いた。
「いつもは酔わないから油断してたなの」
「とか言いつつ、もしかしてユウと一緒に王都を回るのが楽しみすぎて気持ちが昂ってたりしてたからいつもないことが起きたんじゃないの?」
「う、何で分かったなの?もしかしてギルは人の心がわかるなの!?」
「流石にそれは無理だよ。でも今回はアリサの顔に書いてあったからね」
アリサはダウンしながらもギルに図星を当てられ驚愕していたが、反対にギルは子供を見るような目つきをしながら話していた。
「ギル君の言う通り、アリサちゃんの顔にそう書いてあるよ」
「え!?ほんとに?」
アリサは自分の顔を確かめるように触り始めた。
「アリサそれはことわざというか……なんだ?比喩みたいなもんだぞ」
「あ……」
ユリウスは言葉が思いつかなく頬を掻きながらなんとか言葉を振り絞り出した。
それを聞いたアリサは間抜けな声を出した後、自分の勘違いしたことに気づきそれが恥ずかしくなり赤面した。
「うう。恥ずかしいなの」
そんなアリサを三人は優しく見つめるのだった。
そしてユリウスが旅と言えば何だ?と言うとギルが真っ先に口を開いた。
「それはもちろん盗賊とかに絡まれるのが手番じゃないかな。よく物語ものの本で見かけるからね」
「おいギルそれは言っちゃダメなや……」
すると突然馬車が止まり、外から何なら物騒な事が聞こえてきた。
「おいそこの奴止まれ!!」
「な、何でしょうか?」
「命が惜しかったら持ってるもん全部置いてきな!」
数十人の剣や棍棒やらを携えた男たちが馬車の行く手を阻んでいた。
「ひひひ。頭の言うこと聞いとくのが身のためだぞ!」
「ちなみに聞かなかったらどうなるかわかるよな?」
男たちは悪い笑みを浮かべながら武器を手に取って、御者を取り囲む様な形で陣形を組んだ。
「お頭!」
「なんだ?」
「後ろに他にも人がいやす。一瞬だったんすけど後ろの奴ら金目のもん持っているのを確認したでやす。ついでに若い女もいたでやす」
盗賊の下っ端は頭に報告すると無意識的に口元が吊り上げていた。
「おい!後ろの奴らに降りてくるよう合図をだせ!」
「は、はいぃぃ」
御者は怯えながら御者台からユリウス達がいる荷台の仕切りを数回、ノックするような感覚で叩いた。
しかしそんな御者だが内心では少し余裕が残っていた。
なぜならこの馬車にはドラゴンゾンビを単独討伐することができる人間がいるからだ。
だが盗賊はそんなことは当然知らない為、意図せずこの場に化け物を召喚させてしまうのだった。
(フラグ回収早かったな……はは。あれこれもしかして俺のせい?)
ユリウスは言葉には出さず、内心でそう思っていた頃に御者がユリウスらに降りるよう合図を出した。
その合図を聞くとユリウスは軽く全員を見渡すと一同頷き合い、意見の総意を取った。
その時ハクタクはルミアの膝から降り、少し大きくなっていた。
そしてユリウスはハクタクの耳元で命令を出した。
「いいか。俺が合図を出したら容赦なく襲い掛かれ、ただしなるべく殺さないこと。合図は……」
ユリウスはハクタクの返事を聞かずに、正面にある扉を開け放ち堂々と降りて行った。
それに続きギル、アリサの順に降りて行き、ハクタクだけ降りずに馬車の中に隠れていた。
「……」
ユリウスらはわざと怯えているような仕草をし、相手の出方を見ていた。
「確かに金目のもんを持っていたそうだな。それにそこの女も良い感じじゃないか」
盗賊は舐め回すような目でアリサ達をジロジロ見ていた。
「い、命だけは取らないでなの」
「いいぜ。お前ら二人だけは見逃してやる。だけど俺達と楽しいことした後にな!」
盗賊がそう言うと周りが一斉に笑い出し、盗賊の頭もいやらしい笑いを顔に浮かべていた。
「あの僕らもできれば……」
「男に要はねーんだよ。金目のもん置いてけば見逃してやる」
「ほ、本当ですか」
ユリウスはそんな白々しいギルを見て内心笑いながらこの状況を楽しんでいた。
(バーカ!見逃すわけねーだろ。俺たちの顔を見ちまったんだからな)
ギルを見下している盗賊は内心でそう呟きながらギルに剣を向けた。
そして一番喧嘩を売ってはいけない人物に近づく二人の男がいた。
「おいガキ!殺されたくなきゃ有金全部出しな」
一人はユリウスの首元に剣を突きつけ、もう一人は棍棒を肩に軽く叩きつけるを繰り返していた。
「わ、わかりました。だから殺さないでください」
ユリウスがそう言った瞬間、馬車に隠れていたハクタクが体をいつものサイズに戻しながら、剣を突きつけている盗賊の首元目掛けて噛み付いた。
盗賊は不意打ちに反応できず、なすすべなくハクタクの攻撃を喰らった。
(あー……こりゃこいつ死んだな)
ユリウスは首元から大量の血を流している盗賊を横目で見ながらそう思うと、棍棒を持った盗賊に素手で殴りかかった。
彼にとっては雑兵に過ぎず、体術を使うまでもなく棍棒を持った盗賊を鎮圧した。
それに続きアリサが居合斬りを放ち、近づいてきていた盗賊を一人無力化した。
ギルは言うまでもなく護身術で難なく目の前にいた盗賊を気絶させ無力化すると、流れる様な動きで隣にいた盗賊を続けて無力化に成功した。
ルミアは自分を取り囲むようにしていた盗賊をショックボルトという下級の電気属性魔法を無詠唱で発動させ、瞬時に気絶させることに成功した。
残った盗賊はハクタクが流れる様な作業で順次撃破して行き、仕留め損ないをユリウス達が各個無力化していった。
盗賊たちは各々叫び、声を上げながら必死に抵抗したが抵抗むなしく難なく無力化された。
そして馬車の前には縄で拘束された姿があった。
御者は一行に頭を下げ感謝しており、何か礼をしたいと言い出した時、ユリウスがその気持ちだけ受け取ると言ってそのやり取りを強引に終わらせた。
そしてユリウスは盗賊に向き合った。
「お前ら命が欲しかったら全財産を寄こせ!」
それを聞いたギル達は一斉に苦笑いを浮かべた。
「これじゃあどっちが盗賊だかわからないよ」
「盗賊から物を奪おうなんて流石お兄ちゃんなの!」
「うーんと、これ完全に盗賊と同じことしてるような……あはは」
三人の反応は各々違い、若干一名だけがユリウスに尊敬の念を送っていた。
そしてルミアの隣にハクタクが座っていた。
「渡すわけねーだろガキが!貴様みたいな鼻たれが殺す覚悟もねーくせによく言うぜ!」
盗賊の頭が負け惜しみも込めて叫ぶと、他の者たちが一斉に笑い出した。
盗賊たちは皆一様に覚悟がないガキだと思い込み、逃げ出す瞬間を伺っていたがとあるユリウスの行動により一様に沈黙した。
ユリウスはガンホルダーからM1911を一丁抜き、セーフティーレバーを降ろし、スライドを後ろに引いた。
それを見たギルは何をしようとしているのかを察し、アリサ達をその場から離れるよう促し、強引に場を去っていった。
(サンキューギル♪こういう場面をあいつらにはなるべく見させたくないからな)
ユリウスは内心で感謝しながら盗賊の頭の頭に銃口を突きつけた。
「殺せねーくせにイキッてんじゃ……」
盗賊の頭が何かを言いかけた瞬間、銃声が辺りに鳴り響いた。
弾丸が頭部を貫き、その返り血をユリウスは浴び体を赤く染めた。
それを見た盗賊たちの顔からは血の気が失せていくのを見て取れた。
所詮子供と侮っていたが、躊躇なく人を殺すことができると知った瞬間に一様黙り込んでいった。
「もう一度聞くぞ。貴様らの全財産を寄こせ!そーだなアジトに案内してくれてもいいぞ?」
盗賊たちはどうすれば良いか悩んでいたがユリウスが爆弾を投げ込んだ。
「なら生かすのは先着一名ってことでどうだ?それ以外はま、言わなくてもわかるよな?」
ユリウスは薄ら笑いを浮かべながら盗賊たちを見て言った。
その瞬間に盗賊達は言い争いを始めた。
我先にと言おうとするが身内に邪魔され、言葉を紡ぐことが出来ていなかった。
その様を楽しむように見ていると盗賊の一人が仲間割れを上手く切り抜けユリウスにアジトの場所を叫んで教えた。
「お、教えただろだから命だけは」
「ああ、わかってるさ。はぁぁ仲間割れがもっと見れなくて残念だ」
ユリウスは本当に残念そうに言うのを見て盗賊は戦慄を覚えた。
「というわけでお前らそこまでだ!殺しはしないさだからアジトまで案内しろ!」
それを聞いた盗賊は安堵の息を漏らした後、ユリウスをアジトまで案内した。
アジトに向かうユリウスを見たアリサ達は御者に一言伝えた後、追いかけて行った。
そして盗賊アジトの中を漁り始めた。
ユリウスはハクタクに盗賊たちの見張りを頼むとアリサ達に遅れて合流し、金目の物を漁るのを手伝い始めた。
金や銀そして武具や道具を漁り、高価な物を優先的にユリウスの指示で鞄に詰め、入らなくなるとユリウス以外はアジトを出て行った。
ユリウスが残ったのは使えそうな物をインベントリに詰めるためであった。
「いくつか残しておけば後で衛兵に知らせた後に、俺らが漁ったことはバレにくいだろ多分……」
ユリウスはそんな安易な考えを持ちながらインベントリに詰め終わった後、外にいる三人と一匹に合流した。
「さて、行くとするか」
「え!?で、でもこの人達はどうするなの?」
「開放する。……お前らこれからは悪さすんなよ」
盗賊はそれを聞くと大きな声で返事をし、アジトの中に入って行った。
そして馬車が止めてあるところまで戻ると、死体をとりあえず魔物に襲われた様に偽装した後に山に捨てた。
「すいません。お待たせしてしまい」
「お気になさらず。あなたたちのおかげで命拾いしたのだから、こちらがお礼をしたいところですよ」
そんなやり取りの後、一行は馬車に乗り込みその場を後にした。
馬車が動き出してから少しすると、ユリウスはルミアに血を落として欲しいと頼んだ。
ルミアは二つ返事で返すと水と風の生活魔法を合わせて使い、体に着いている血を洗い流した。
魔法で生成された物は役目を終えるとその場から消滅した。
そしてそれから二、三時間が経った頃、王都が見えてきたのだった。
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更新は毎週木曜日の予定です。




