第33話 王都へ
街の片づけを手伝い、それがひと段落するとユリウスは休憩も兼ねて仮眠を取ったが、消耗が激しかったせいで三日間眠り続けていた。
「今日もお兄ちゃん起きないなの」
「そうだね。これだけ起きる兆しがないとすごく心配だよね」
「うん……」
アリサ達二人は、ベッドの上に眠るユリウスを心配そうな表情で見ていた。
ギルは現在、街に赴いている。
「もしかしたらこのまま……」
ルミアがそこまで言うと、アリサはルミアの方を向き声を大にしてその先の言葉を遮るように口を開いた。
「そんなことないなの!あのお兄ちゃんが死んじゃうわけない!」
そこまで言うと不意に後ろからアリサは肩に何かが置かれる感触を覚え、それからすぐに聞きなれた声がした。
「そうだぞ。俺が死ぬわけないだろ」
それを聞いた瞬間アリサはすぐさま振り向き、体を起こしているユリウスを見て涙を堪えながら抱き着き、少し遅れてルミアも抱き着いた。
「よしよし、心配かけたようだな。あと少し力を緩めてくれすげー痛い」
「あ、ごめんなの」
ユリウスは二人の頭を撫でていた。
そして二人が落ち着いてからユリウスは状況を聞いた。
それを聞き、自分が約三日間眠っていたこと、そして着々と街の復興が進んでいることを知り大体の状況を理解した。
「なんか大変そうだったんだな」
「ユウ君他人事じゃないよ?一番心配かけてたんだから」
ルミアはどこか困らせるような態度で言うと、ユリウスはどうしたもんかと頭を掻いていた。
「悪かったって。……ま、ありがとな」
「もー、いつも軽いんだから」
「それが俺だぜ」
ルミアは少し膨れながら言うと、ユリウスがその頬をつつき中の空気を出すとルミアは拗ねたような態度を取った後、互いに見合うと三人で笑い合ったのだった。
「私たちは外で復興のお手伝いしてくるよ」
「お兄ちゃんは安静にしててなの。くれぐれも抜け出しちゃダメだよ」
「了解だ」
アリサ達2人は笑顔で手を振りながら部屋を後にした。
そしてユリウスは2人の気配が遠のくのを確認すると、ベッドから降り背伸びをした。
「ふんんん……痛てててて!ひー傷にひびく!」
そんな出来事の後、ユリウスは着替え始めた。
「破れてた服を新しくしてくれたのか。後であいつらに礼を言っとかないとな」
着替えを終えるとユリウスは窓に足をそのまま飛び出し、脱走に成功し人目につかないよう街を後にし、近くの森に入り川辺に出た。
バレたら殺されるだろうと心の中で思いながら、上半身の服を脱ぎ傷の具合を確認した。
「うっわ!やばっ!あの後反動でさらに傷が増えてたのか!?」
ユリウスは気づかぬ間に増えていたいた傷を見て驚きながら、腕と脚に縫ってある糸を操糸術を使い外した。
そしてユリウスは魔王の宵闇を極めて狭い範囲に展開した。
まずは腕に展開すると断面から闇が溢れ、瞬時に傷を修復した。
その勢いで脚と胸部の大きな傷を順に修復する際、先と同様に闇が溢れた後に瞬時に傷が消えた。
そして体内の損傷箇所を酷い順に修復し、そのついでに体の小さな傷も治した後に宵闇を解除した。
宵闇を解除するとユリウスの息が切れていた。
そう彼は万が一が無いよう、異常な程集中しながら制御していたからだ。
傷を修復してから程なくしてユリウスは服を着た後管理魔法を開いた。
「さてどれくらいレベル上がったかな?……あれ?あまり変わってなくね」
ユリウスはレベル表示を唖然としながら見ていた。
—————ユリウス・L・アルバート+2 14歳 Lv41
MP――――――――
SP 347/347
筋力 A- 耐久 B
俊敏 A+ 知力 A
魔力 ??? 幸運 EX
成長途中のため変動有り
ユリウスのレベルはドラゴンゾンビを討伐前と比べると、三しか上がっていなかった。
本来ならドラゴンゾンビの単独討伐を行えば、レベルは二十近く上昇するのだが、ユリウスは過去の能力値を一部引き継いでいる為、上がり幅が途轍もなく低いのだ。
「これはあれだな。強いステータスで人生をスタートできる分、上がり幅が悪くなるとかそういった類のやつか」
一人で頷きなぜ上がりが悪いのかを納得していた。
そしてスキルを確認するためスキル一覧を開くと、新しいスキルと言う項目が出現し、ユリウスの前々世の全てが詰まっているスキルの内の一つがそこには書かれていた。
————追加スキル一覧
剣聖(弱体化・特殊) EX
次Lv58で開放
————剣聖
このスキルは剣術スキルを極めた者に与えられる称号であり、剣術スキルを極めることで派生スキルなどが全て融合し変化した極致スキルの一つである。
能力 剣技の瞬間模倣 模倣した剣技を瞬時に最高の形へ昇華 剣の頂 剣の支配者など。
弱体内容
体の耐久値により使用可能な剣技および剣技の威力に制限がある状態。
ユリウスはこれを見て、前々世の努力は無駄になっておらず、しっかりと身についていることを改めて感じていた。
そして推察が当たっていた事に確信を持ち、弱体化を解除するため体の耐久値の上げ方を考え始めた。
しかしそんな手段はすぐには浮かんで来なかった為、このことは当面の目的の一つにした。
「おっ!手ごろな枝発見!これでとりあえず、鉄の剣を作るまでの繋ぎにはなりそうだな」
ユリウスは拾った枝を、インベントリから取り出したナイフで形を整えた。
形を整えた枝を左右のベルトの間に刺し、目を閉じ瞑想に入った。
そしてそのまま今回の戦いの反省も行った。
そして瞑想を終えると枝を抜き、軽く素振りなどの基礎的な事をした後、軽く体を動かして少しなまった体を解していった。
そうこうしていると太陽は頂点にあり、正午を迎えた。
流石のユリウスもバレるとやばいと思い、急いで宿の部屋に戻った。
その頃、アリサ達は宿の一室に戻ってきていた。
「あれお兄ちゃんは?」
「多分窓から外に出てったんじゃないかな」
ルミアは苦笑いを浮かべながら言うと、アリサが少し怒り気味だった。
「もーー!安静にしてって言ったのに!どこに行ったなの?」
アリサはそんなことを言いながら窓の外を覗いていた。
「でも、よくあの傷でこの高さから降りられたね」
「だってあのお兄ちゃんだよ。それくらいできても不思議じゃないなの」
「あはは……確かに」
ルミアは納得気味に答え、ユリウスが寝ていたベッドに腰かけた。
「ねぇアリサちゃん」
「どうしたなの?」
「ユウ君に鍛えてもらわない?私たちももっと強くなって足手纏いにならないようにしないと」
「そうだね。でもお兄ちゃんが帰ってきたらそれより先に文句を言わないとなの」
「しっかりお説教だね」
ルミアの意見に同意はするものの、アリサはユリウスに説教する気満々のご様子だった。
二人は街の手伝いを終えた後、ユリウスが消費した分のポーションを補充するために買ってきていた物をを近くの机の上に並べ、幾つかの小物も同時に置くとその整理をしてユリウスを待っていた。
そんな事になっているとは、ユリウスはまだ知らなかった。
そしてユリウスは来た道を戻っていき、宿で泊まっている部屋の窓の下に到着した。
ユリウスの気配感知によく知る人物の気配が引っ掛かり、内心焦っていた。
「あー、これはやべー。バレた!これ完全にバレたな。どう言い訳するか……」
ユリウスは「ふーむ」と言いながら顎に手を当て考え始めたが、次第にめんどくさくなり覚悟を決めた。
すると軽く跳躍し、建物の縁を蹴り更に跳躍し窓に手を掛け、そのまま片腕の力で体を持ち上げ窓枠に屈みながら乗った。
「よっ…と。……ただいまー!」
「お帰りなの」
アリサはにこやかに笑いながらユリウスを出迎えた。
「なんか笑顔が怖いぞ妹よ」
「ふふ、何故かはわかるよね?お・に・い・ちゃ・ん」
「あーなんのことかな?」
窓枠から降り部屋に入ると、ユリウスは明後日の方向を向き頭を掻きながら白々しく言った。
この後ユリウスはアリサからたんまりとお説教をされ、その光景をルミアは苦笑いを浮かべながら眺めていた。
そんなルミアに助けを求めようとユリウスは顔を向けると、ルミアは腕をクロスさせバツ字を作りその助けを断った。
それを見たユリウスは助けを諦め、素直にアリサの方を向いたのだった。
「これからはしないでなの。いいね?」
「あ、はい。……多分無理だろうけど」
「何か言ったなの」
「いやなんでも」
ユリウスがぼそりと言ったことをアリサはしっかりと聞き取り、悪い顔をしながら言うとユリウスはそう答えたのだった。
「話は終わったみたいだね」
ルミアは立ち上がりながらそう言うとユリウスの所まで歩き、アリサの隣に立った。
「ユウ君私たちをもっと鍛えて欲しい!」
唐突にそう言われ、ユリウスは少し困惑しながらも理由を聞いた。
「なんでだ?」
「あの時、私はほとんど何もできなくて悔しかったの。だから今よりももっと強くなって足手纏いにならないようになりたい!」
「私もお願いなの」
ルミアとアリサは真剣な表情には悔しさも混じっており、それを見たユリウスはバツが悪そうな顔をしながら口を開いた。
「はー、まあいいけど、一つだけ忠告しておくぞ。いつもよりも遥かにキツくなるからな」
「そんなのわかってるなの。だからお願いなの!」
「お願い!」
二人の気持ちを汲んだユリウスは、これ以上は無粋だろうと思い「わかった」と言い放った。
「昼を済ませたらすぐにやるぞ。他はギルに押し付けとけ」
「え?でもこの話をしてからじゃないと」
「いい加減入ってきたらどうだ?」
ユリウスは部屋の扉の方に向けて話しかけると、扉を開けてギルが入ってきた。
「えっ!?いつから居たなの?」
「うん?そうだね確かユウへの説教?が終わった辺りかな」
「気づかなかったなの」
アリサは驚愕しながらギルのそれを聞いていた。
ルミアもギルに気付いておらず、アリサ同様に驚愕を隠しきれていなかった。
「お前らもまだまだだな。まったく気配を隠してなかったギルに気づけないとは」
「まだまだ成長途中だから、将来ぎゃふんと言わせるなの」
「おお!期待してるぞ」
ユリウスは微笑しながら言うとギルの方を向いた。
「昼飯食ったらこいつらを早速しばき……んん、鍛えたいから他の事任せても良いか?」
「仕方ないなー。馬車とかの手配もしとけばいい?」
「頼む」
ユリウスは一回咳払いし、何かを訂正して言い直すとギルに他の事を丸投げした。
ギルはユリウスからの頼みを聞くとそのまま、アリサ達と一緒に昼飯を食べに食堂へ向かった。
ユリウスが食堂に顔を出すと「我が街の英雄が起きてきたぞー!」と一人の男性が叫ぶと食堂のあちこちから賞賛の声が飛び交い、それを聞いた当の本人は状況が理解できず混乱していた。
「何がどうなってんだ?」
ギルは混乱するユリウスに事の経緯を説明し始めた。
それを聞き、徐々になるほどと言いながら状況が理解していった。
そんな事をしていると満員で座るとこがなかったが、複数の人が席をユリウスらに譲ると言い出し、一行は言われるがままにその席を使わせてもらうことにした。
席を譲った者達は他の人テーブルに相席という形で座っていた。
「な、なんかすごく落ち着かないのだが」
「仕方ないよ。彼らもユウに感謝を伝えたいんだろうからね」
「それは分かってるがな……」
ユリウス以外の面子も周りから注目され、居心地悪そうにしており落ち着かない様子だった。
そんな時、冒険者らしき人がユリウスに話掛けてきた。
「お前には感謝してるぜ。あと一歩で死ぬところを救ってもらったからな」
「そんなことあったっけ?」
ユリウスは首を傾げながら、どこの場面で救ったのか真剣に考えたが思い当たる節がなかった。
「覚えて無くても仕方ないさ。あんな戦いをしてたんだから周囲の状況を事細かに覚えてるわけがねーからな!」
「いやーなんかすまんな」
「おいおい謝りなさんなって。こちとら救われた側なんだからよ、救った側に謝られると困るんだわ。それより旦那の名前を教えてくれねーか」
「俺のことか」
「そうだ。あんた以外に誰がいる」
冒険者の男は真剣な表情でユリウスに尋ねると、ユリウスはそれに問い返す際自分を指さして聞いており、冒険者の男は頷いて返した。
ユリウスは名前を答える前に仲間の方をちらりと見て、間名は言わないとアイコンタクトで確認を取ると、三人は軽く頷いてそれに同意した。
「俺の名前はユリウス・アルバートだ」
「そうかユリウスというのか」
それを聞くと冒険者の男は少し間を置いてから口を開いた。
「お前ら!俺以外に英雄ユリウスとその仲間に飯を奢ってやろうと思う奴は居ないのか!!」
そう叫ぶと我先にと他の連中も同調して今の話に乗ったせいで、食堂はとんでもない事態になっていた。
それからユリウス達は馬鹿騒ぎを何とか凌ぎ切り、宿泊している部屋に戻ってきた。
そしてユリウス達三人とギルはお互いの目的のために一旦別れ、夜に合流する手はずになった。
ユリウス達三人は人目をなるべく避けて動き、街の近くの森に到着した。
そしてうまい具合に稽古を行うのによさげな場所を見つけ、そこでユリウスによる厳しい稽古が始まった。
「じゃあ始めるとするか。まず周辺の空気を結構薄くするからその中で鍛錬をやるぞ」
「「わかったよ(なの)」」
そう言うとユリウスは容赦なく空気を薄くし、高度が高い山の山頂付近くらいの濃度に調節にしていた。
「もうすでに苦しいなの」
「まだこのへんは序の口だぞ?今から約五分間この空気を薄めた空間内をランニングしてもらう。範囲は大きめの岩で目印として作ったからその中を走れいいな」
「了解だよ」
アリサは始まる前に根を上げそうになり、ルミアはユリウスの指示を頷きながら聞いていた。
「安心しろ。無論俺も一緒に走るからな」
ユリウスはそう言いながら走る前のストレッチを開始した。
各自ストレッチが終わるとユリウスの指示でランニングが開始された。
最初の二分は比較的足場が良いところを走っていたが途中から足場の悪いところを走りだし、アリサとルミアは扱けたり転んだりしたがユリウスは容赦なく走れと言って走らせた。
「お、終わったなの」
「アリサちゃんお疲れ」
「ルミアこそ」
二人は息を切らせながら達成感を味わっていた。
ユリウスは二人に五分間の休息を与え、それが終わるとすぐに次に移った。
「そういえばお兄ちゃんが使ってた、荒刃落暉って技はいつ教えてもらえてくれるなの?」
「そう慌てるな。あれは今のお前らじゃまだ真面に使えないからもう少し先だ。……まあ目安を言うと、この薄い空気の中で体の無駄な動きが無くなり始めて、効率の良い動作が身についてからだな。ちなみにこれができないと前提条件でまず真似すらできないからな」
それを聞きアリサは渋い顔をした。
だがもっと強くなると決めたアリサは弱音を吐かずに頑張ろうと自分に言い聞かせて、自分を奮いだたせたのだった。
「とりあえずいつも通り素振りの後に模擬戦な」
「「了解」」
二人は威勢のいい返事を返すと地獄のような回数の素振りを始めた。
次第に力が抜け、剣を握るのすら辛くなり落としそうになったが後ろからユリウスが落としたら回数を増やすと脅し、嫌が応でも落とすという選択肢を取れないようにした。
そして素振りが終わると十分の休息を入れた。
二人は徐々に薄い空気の環境に適応し始めたがここからが地獄の始まりであることをまだ知る由もなかった。
休息を終え、二人はユリウスの指示で模擬戦を開始した。
「アリサ踏み込みが甘い!反応も遅れてきてるぞ!……ルミア!回避の精度が落ちてきてる。もっと攻撃を見切って剣閃を読んで動け!」
二人はペースを落とすことを許されず、苦悶の表情をしながら模擬戦をしていた。
さらにもうすでに体が限界を超えているため意識すら朦朧とし始めていた。
「ルミア!もう少し剣で受け流して反撃しろ!!アリサは回避がを増やせ!」
二人は想定よりも辛い状況になり心は折れかかっていたが、先の失態を思い出しそれを原動力にして必死に耐えていた。
そして完全に限界が訪れ、倒れかけるところまで行くとユリウスから終わりの合図が出たと同時に特殊な空間は解除された。
ユリウス自身もSPの限界が訪れ、特殊空間の維持ができなくなっていた。
二人は地面にへたりと座り込むと濃い空気を吸い込み、いつも普通に感じることにありがたみを覚えた。
「ちょうど夕方になったから引き上げるぞー」
「ユウ君もうちょっと座らせてー!」
「もう少しだけだぞ」
ユリウスはそう言うと二人に改善点などを話し、うまく時間を活用していた。
これがこれからの稽古では普通になるとは、この時の二人はまだ知らなかった。
そしてその日の夜二人は過度の疲労によりぐっすりと眠りに就いたのだった。
翌日の朝、ユリウス達は王都に向けて出発するため昨日ギルが確保した馬車の所まで向かった。
「おはようございます」
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
ユリウスは御者に挨拶を済ませて、馬車に乗り込んだ。
ユリウスに続いてアリサ達も挨拶をした後馬車に乗り込んでいった。
そして荷物を空いた席にひとまとめにして置くと、中でくつろぎ始めた。
御者は全員が乗り込むのを確認するとゆっくりと馬車を動かし始めた。
「また来てくださいねー!」
「この街の英雄様!今度はゆっくりしていってくださーい!!」
そんな声がユリウスらに向けられ窓から軽く手を振りながら、その光景を眺めていた。
そしてユリウス達はマーティンボロの人々に見送られながら、街を後にし王都メフォラッシュを目指し進み出した。
いつも読んで下さり有難うございます。
『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
来週は諸事情によりお休みさせていただきます。
次回の更新は1月30日木曜日です。




