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第31話 決着

 ユリウスが数秘術を発動させ、ドラゴンゾンビの核を貫こうとした瞬間に、核は龍の腐肉を周りに集めライトニングが当たるよりコンマ数秒早く守りを固められた為、貫かれずに済み、今までで一番早い再生速度で急速に肉体の復元を行った。

 そしてエンチャントの効果が切れた瞬間に剣は砕け散り、それを見たユリウスは剣を捨てたのだった。


「ウソ―!?」


 ユリウスは驚きと焦りの混じった表情を浮かべると、地面に上手く着地できずその場で転倒し、そこからすぐに立ち上がり体勢を整えた。

 そしてユリウスは砕けた剣を捨て、その直後に操糸術を発動させ、地面に転がっている左足を糸で回収するとユリウスは後退しながら糸を巻き、自身の所まで足を運んだのだった。


「やべー、片足だけだと動きずれーなー」


 ユリウスは暢気にそんな事を言いながら、徐々にドラゴンゾンビから距離を取り始めた。


(意識が朦朧とし始めてきたな、早く決着を着けねーとやばいなこりゃ。流石に血を流しすぎたか)


 ユリウスはそんな事を思いながら、足をインベントリに入れ、数秘術で新たに血流操作を始めたのだった。

そして後退している間にポーチからポーションを取り出し、ユリウスは回復に専念した。

 

「こんなことになるなら自分で武器を作っておくべきだったな。鉄なら最低でも三回は振れたはずなのに……」


 そんな後悔を呟きながら、剣が落ちている地点まで後退した。

 それと同じくして、ドラゴンゾンビの肉体の再生がほとんど完了した。


 まだ肉体の修復に力を使っているため、ドラゴンゾンビはブレスなどが行えないため最低限の魔力を使い、アリサ達に向けて魔法を放った。


 それを発動より早く勘づくと、ユリウスは今出せる速度の全力で駆けて行った。

 

 アリサ達二人は倒しきれなかったことに絶望し、足が動かず逃げることすらできなかった為、ギルが三重に魔力障壁を展開した。

 しかしその障壁も難なく砕かれ、アリサ達二人の眼前に魔法が迫った瞬間、ギリギリのタイミングで間に合ったユリウスは二人の前に飛び出て、体でその魔法を受けたのだった。

 剣を拾わず二人を守ることを優先したため、体で受けざるをえなかった。

 そしてユリウスの右側の胸部には風穴が空いており、ボタボタと大量の血が流れだしていた。

 それにより朦朧としていたユリウスの意識が、さらに暗闇に近づいた。

 

 ユリウスが庇うより少し前に、アリサとルミアの二人は攻撃が当たることを悟り、本能的に目を瞑ってしまっていた。

 そしてしばらくしても攻撃が当たらないことを不思議に思い、二人は目を開き目の前の衝撃的な光景を見て、目を丸くして驚き「「え?」」という言葉が口から漏れたのだった。

 それからすぐに二人の心に罪悪感が満ち溢れ、表情曇らせていった。


「……ハイ・ヒール!」


 ギルが咄嗟に回復魔法を使い、ユリウスの体に空いた穴を塞いだ。


「ギル!助かったぜ」


 ユリウスはそうお礼をすると、涼しそうにしていた表情を変え、微笑しながらアリサ達の方を向いた。


「ナイス援護だったぜ!やればできるじゃないか!……もう一回さっきみたいに援護してくれよ」

 

 そして再びドラゴンゾンビに向き直った。

 それを聞いた二人は曇っていた表情を少しずつ明るいいつもの表情に戻って行き、次も頑張ろうと心の中で自分を励ました。


「でも……お兄ちゃんあいつに勝てるなの?」

「まあー何とかするさ」


 ユリウスは軽いノリでアリサに返したのだった。


「私たちを庇ってくれてありがとう」


 ルミアは少しだけ笑顔でそういったが、その裏には自分が弱いからだという後悔の念があったのだった。


「気にするな。誰でも弱い時代はあるもんだぜ」


 ユリウスはこんな状況にも関わらず遠い場所を見るような目でそう言った。


「そういえばユウ君の服の繊維って結構丈夫なのにあの一瞬でここまでボロボロになってたんだ……」


 ルミアはそう呟きながら回復魔法をユリウスに使い始めた。


「流石にドラゴンの一撃をくらう想定で作られてないからな……」


 そこまで言ってユリウスは口元に手を当て、ルミアの先の言葉を思い出しながら何かを考え始めた。


「ルミアさっきなんて言ったっけ?」

「ん?えーと、一瞬でここまでボロボロになってたんだって言ったよ」

「その前だ」

 

 ルミアは不思議そうな顔をしながら、少し間を開けてから口を開いた。


「え、えーと、ユウ君の服の繊維って結構丈夫なのに……」


 そこまで言うとユリウスに言葉を遮られた。


「それだ!繊維……そう繊維だよ」

「う、うん。繊維がどうしたの?」


 ルミアはさらに不思議そうな顔をしながらユリウスを見ていた。


(確か筋肉は繊維だったよな……動物性繊維ってなんかの授業で言ってたっけ。……なら操糸術で何とかなるんじゃね?)


 ユリウスは口元に当てていた手を放し、意識だけで管理魔法(コンソール)を動かしインベントリから切断された右腕を取り出した。

 そして切断された右腕を腕の切断面に当てた。


「操糸術で繊維を動かし、血管やそれ以外の部分を糸と仮定して結ばせ合えば……」


 ユリウスは腕の筋肉や神経同士を結び腕を強引にくっつけた。

 そして操糸術で上腕部の筋肉を動かせして腕全体を動かし、手首や指は個別で操糸術を使い試しに動かした。

 ユリウスの予想通り若干のラグはありつつも、ほとんどいつもと変わらない感覚で動かすことに成功した。

 それを確認すると今度は切断された左足をインベントリから取り出し、右腕と同じようにくっつけ動かし始めた。


 それを見たアリサとルミアは凄いと思ったと同時に、一つの疑問が浮かんだ。


(今どこから腕と足を取り出したんだろう?)


 二人は同じ疑問を持ち、互いに目を合わせると首を傾げたのだった。


 ユリウスは腕や足を動かし調子をチェックすると、二人に何も声を掛けずに剣を拾いに行った。

 ドラゴンゾンビはその間、攻撃よりも体の修復に専念していた。

 互いに戦闘の準備を整えていたのだ。


 ユリウスは二本剣を拾い、軽く振ったり突いたりして、感覚を掴んでいた。


「だいたい右腕の調子もわかってきたな」


 そう呟くと同時にユリウスが先に動き出し、ドラゴンゾンビに向かって走り出した。


「腕や足を筋肉同士で結ぶ発想をするとか俺もしかして天才か?」


 ユリウスは笑いながら悪ふざけも込めそんな事を言っていたが、ある程度距離が縮むと直ぐに真剣な表情になった。


「刺突爆雷!!」


 そう呟くとドラゴンゾンビの周りに無数の半透明な槍状のものが展開され、一斉に龍目掛けて放たれ大爆発を起こし、砂塵を巻き上げた。

 その隙に一気に距離を詰めに動いたが敵もそれは予想しているため、砂塵に向かって複数の属性魔法を無数に放ち、さらに球状のドラゴンブレスもその中に混じっていた。

 ユリウスは正面にきた攻撃を全て斬り捨てるか、回避して避けるとそのまま直進して行った。


「ふんっ!」


 少し力を入れて剣を振ると、一定距離の剣線上にある物全てが切断された。

 ターゲットではない建物も容赦なく切断されていた。

 それと同時に剣も砕け散った。


「あ、建物までやっちった。まー今更だよね」


 そう言うともう一撃も容赦なく、周辺を巻き込みながら振るわれた。


 ドラゴンゾンビはユリウスによって三枚おろしにされたが瞬時に再生し、剣を回収に行くユリウスに反撃の一手を加えた。

 ユリウスは全力疾走で剣に向かい、敵の攻撃は直感で避けていた。


 その間にアリサ達も魔法の詠唱に入り、先の支援に使った魔法とは比べ物にならないほどの魔力を注ぎ、持続時間や効果を上げていった。


「この調子なら剣技を使わなくても何とかなるんじゃね?」


 ユリウスがそんな事を言っていると突然攻撃が止み、ドラゴンゾンビは体の修復が完了し終え、さらに魔力を鱗に注ぎ込み自己強化を始め、さらにそれは攻撃ではなく防御に特化していた。

 敵も先の一撃を喰らい、慢心をやめ本気になった。

 そのため自身の周りに魔法で防御障壁を作り上げ幾重にも展開した。

 そして準備が整うとドラゴンゾンビは数えるのすら嫌になる量の魔法を展開し、その全てをユリウスに打ち出した。


 剣を拾い終えたユリウスは見事な剣捌きで魔法を斬り捨て、攻撃の雨の中を突き進んでいった。

 それを見かねると敵は魔法を消し去らないように特大の球状ドラゴンブレスを三発放った。

 

 ユリウスはそれを見ると剣技を放った。


「前言撤回だな。一の太刀二刀無形の型!荒刃羅刹!!」


 剣技は三発の球状のドラゴンブレス全てを細切れにし、さらに周囲に斬撃の跡が深々と残った。

 それと同時に剣技を使いながら距離を詰めてきたユリウスに、防御障壁ごとドラゴンゾンビは細切れにされたが、核が輝きだすと瞬時に回復した。


「遅い!居合・滅龍抜爪!」


 鞘ごと転がっていた剣を拾っていたユリウスは二本の折れた剣と入れ替えるようにして、抜刀と同時に剣技を使った。

 居合斬りの剣技は龍を肉を消し飛ばして敵を三等分にすると、余波で地面を数メートル程の距離を深々と斬り裂いた。

 そして剣は砕け散り、ユリウスは折れた剣を捨て後退を始めた。


 ドラゴンゾンビは再生を開始したが先の再生よりも再生速度が明らかに落ちているのがうかがえた。

 そして龍は魔法を展開しユリウスに向かって放ったが、それがユリウスに当たる瞬間に魔力障壁が展開された。

 魔力障壁に龍の魔法が着弾すると、何かが砕け散る音と共に魔法を相殺した。


 ドラゴンゾンビはユリウスに当たらないのなら火力源である剣を潰そうと思考し、剣が転がっている地点に向かってドラゴンブレスを放った。

 ユリウスは加速しようとしたが、無理矢理筋肉を結び合わせて動かしているため、これ以上の加速は結んでいる筋肉が持たないと踏み加速を断念した。

 その状況に剣が無いユリウスは舌打ちをして、見ているしかできなかった。


「まったくしょうがないなー。今回だけ僕が防いであげるよ」


 ギルはそう言うと剣がある位置まで駆けて行き、ドラゴンブレスが着弾するよりコンマ数秒早く着き、剣技を放った。


「竜殺一閃!!はぁぁぁ!」


 ギルは剣を一振りするとブレスを裂き、返す刃で流れる様に斬り払い相殺して掻き消した。


「やるぅ~」


 ユリウスはそう呟くと同時に剣が落ちている場所に着いた。


「もう~しっかりしてよユウ」

「いやいや俺の腕と足もげてるからあれ以上速度出せないの!!」

「いつもの気合と根性ー!みたいなのどこ行ったの?」

「そんなこと一言も言った覚えないぞ!?」

「ほら行った行った」


 ギルは剣の回収を終えたユリウスの背中を乱暴に叩き、ドラゴンゾンビの方に押し出した。


「へいへい」


 ギルは後ろから軽く手を振りながらユリウスを見送った。


 ユリウスはドラゴンゾンビの元に着くまでの道中ぶつぶつと文句を言っていたのだった。

 

 そしてドラゴンゾンビは一点に溜めた魔力を解き放ち、光線状の魔法をユリウスに向けて放った。

 ユリウスはため息を吐くと剣を軽く振った。

 すると光線状の魔法は吹き飛び、それと同時に剣が一本砕け散った。


「こんな軽い振りでも折れるのかよ!?なまくらにも程があるぞ!」


 そしてドラゴンゾンビは自らの胸部を裂くとドラゴンブレスを使い、わざと暴発させた。

 胸部からは暴発したドラゴンブレスが漏れ出し、再び自身を毒で覆った。

 そしてその中から複数の魔法をユリウスに放ち始めた。


 だがユリウスは魔法を斬り捨てるか、回避してやり過ごしながら距離を詰めていった。

 しかしそんなユリウスでも龍を覆う毒の霧の前で立ち止まった。


「ったくこんな小細工二度も通用すると思うなよ?それにこんな低レベルの技に剣技を使う必要もねー」


 ドラゴンゾンビはユリウスが毒の霧の前で止まったことに安堵したが、それも束の間であった。

 ユリウスはなるべく折れないよう手加減をしながら軽く剣を振り、毒の霧ごとドラゴンゾンビを切断したが、それでも剣は折れてしまった。


「まじかよ……」


 霧が消えるとユリウスは、ドラゴンゾンビの懐に潜り込んだ。

 するとドラゴンゾンビのボタボタと落ちている腐肉が懐だけにユリウスにふんだんに降りかかったが、ユリウスはそれを気にせず剣技を使おうと鞘に入った剣を握った。

 そして一際大きな腐肉がユリウスに当たった瞬間爆発を起こし、ユリウスを吹き飛ばした。


「グハッ!!」


 盛大に吹き飛ばされ、ユリウスは地面に一回跳ねると一回転した。

 そしてタイミングを見計らい体勢を立て直した。

 その頃にはドラゴンゾンビの右前脚による、薙ぎ払いが追撃として迫っていた。

 ギリギリのところで回避すると、次は至近距離からのフルパワーのドラゴンブレスで追撃され、ユリウスは剣を抜刀し、触れる寸前で何とか掻き消すことに成功したが、それでも微かな余韻がユリウスの肩に当たり、その部分だけ腐食させそして溶かしたのだった。

 ユリウスは「やむを得ない」と呟くと、魔王の宵闇を一秒よりも早い速度で展開しそれと同時に闇を解いた。

 腐食し溶けた傷は瞬時に闇によって修復され、消えたのだった。


(流石に肉を腐敗させられたら動けなくなってどうしようもねーから、今回は仕方ない。本当は全部回復させたいが暴走の可能性もあるし、なによりあいつらに見られる方が色々と大問題だからな)


 ユリウスはそんな事を思いながらバックステップで下がり、敵との距離を取った。

 そして息を深く吸い込んだ。


「さて、活性の呼吸法を使うとしますか」


 そう呟くと息を浅く吐き、ドラゴンゾンビに向かって駆けて行った。

 新陳代謝が早くなり、血流速度が加速することで身体能力等が上昇した。

 だが血流速度の上昇に伴い、傷口からの出血量もまたそれに比例して増加した。


「これで決着をつけないと流した血の量的に、流石にやばい状態になってきたな」


 ユリウスはそう呟きながら、駆ける速度を上げた。

 ドラゴンゾンビは今までとは比べ物にならない程の量の魔法を展開し、ユリウスに一斉に放った。

 ユリウスは数秘術で火の槍を作成すると、飛来する魔法に向けて放ち次々に相殺し、消滅させていった。


 流れ弾がアリサ達の方に飛んで行ったが、それは全てギルが魔力障壁で防いだのだった。

 一瞬アリサ達はやばいと思ったがギルの先の宣言が頭をよぎり、敵の攻撃は任せようと思ったのだった。


 そしてドラゴンゾンビはユリウスに向かって魔力をドラゴンブレスに変換してブーストをかけた状態で放ったが、ユリウスは剣を一振りしてブレスを掻き消した。

 そして例に従い、剣は砕け散った。


 ユリウスがドラゴンゾンビを間合いに入れた瞬間に、アリサとルミアの二人から支援魔法を受けた。


能力偽装(ステータスフェイク)

付与(エンチャント)耐久力上昇(エンデュランス)


 アリサがエンチャントを行い、ルミアが再び能力上昇の魔法を使い支援したが、今回は二人のほぼ全魔力が乗っているため一回目よりも強化値が上がっている。

 そしてユリウスは敵の右前脚の薙ぎ払いを剣を軽く振って、斬り飛ばして無力化した後、左前脚の振り下ろしを右に避け回避した。

 するとドラゴンゾンビはやばいと思ったのか、翼を羽ばたかせ逃走を試みようとしたが、回避と同時にジャンプし空中にいたユリウスが剣技を放った。


「我、龍を断つ剣なり!龍殺剣!」

 

 抜刀と同時に剣を勢いよく振り下ろした。

 その威力はドラゴンゾンビのほとんどを消し飛ばし、地面に数十メートルの亀裂を入れ、引き裂くほどだった。

 だがユリウスは、わざと核には当たらないように調節していた。


 そして残った核は再びドラゴンゾンビの肉体を再生させいったが、肉体が九割程修復された瞬間に、ユリウスは腰に付けている素材剥ぎ取り用のナイフを抜き、横に一閃入れ薙ぎ払うとドラゴンゾンビの肉体ごと核を横に両断した。


 ユリウスはドラゴンゾンビの素材を欲しいが為だけに、わざと肉体を再生させるという危険な行為をしたのだ。


 そしてドラゴンゾンビは完全に沈黙し、ユリウスの勝利で幕を閉じた。

 

新年明けましておめでとうございます。


今年はいよいよオリンピックの年ですね。

皆さまはどうですか?楽しみにしていますか?

ちなみに私は楽しみにしています。

ですがチケットが取れなかったので生で見れず残念です。

チケットが取れた方が羨ましい限りです。


いつも読んで下さり有難うございます。


更新は毎週木曜日の予定です。

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