第23話 野営そして次の街に向かって
あれから数年の時が経った。
ユリウスとギルそしてルミアの三人は十四歳になり、アリサは十三歳になった。
そして現在、ユリウスは辺りが真っ白で半径数キロはあるであろう場所にいる。
そこは数キロ先には円を描くように巨大な壁があり、ドーム状の屋根がついた空間であった。
中心には、六本の柱が円を描くように配置されており、その中心にさらに魔法陣が描かれていた。
「ここは一体どこなんだ?」
ユリウスはそんなことを呟きながら、柱が並んでいる場所に向かって歩いて行った。
「魔法陣、か。何のこぅ……なんだ!?」
ユリウスが魔法陣に近づき、触れるか触れないかの微妙な位置に来ると魔法陣はひとりでに起動し、辺りを白い閃光で覆いユリウスは目を細め、手で目を覆うようにし閃光を受けた。
それから程なくして閃光は止み、辺りが見える様になると魔法陣があった場所は透明になり、空間の下が見える様になった。
「これは一体!?」
ユリウスは驚きの声を上げ、透明になった場所まで行き片足で透明な部分を叩きしっかりと床があることを確認すると、下を覗き込んだ。
そこは灼熱の空間が煉獄の如く広がっており、例えるなら地獄の一言で表わせた。
そしてその空間には何かが拘束されていた。
六本の柱から鎖が垂れており、その鎖が巨大な何かを捕らえていたがもう既に三本が壊れており、二本が壊れかけ、残りの一本はまだ壊れていなかったが、やはり見てすぐ劣化が分かるくらいにはなっていた。
「なんだ?このでかい物は……」
そこまで言うとユリウスは白い光に視界を奪われた。
外からは鳥の鳴き声が聞こえ、心地良い風が部屋に入り込んだ。
「うう……今のは夢、か。それにしても変な物を見たぜ。ふぅーあー」
ユリウスは背伸びをしてから、ベットを降りるとすぐに着替えを始めた。
それから食堂に向かい皆で朝食を済ませて、少し置いてから父グレンと模擬戦をした。
やはり勝者はユリウスであった。
「やっぱユウお前とやると良い稽古になるわ。それにこの調子なら学園の入学試験も問題ないだろ」
「まさか二対一で勝てないとわ」
今回、ユリウスはシスとグレンを同時に相手をしていた。
当分会えなくなるから最後に二人と模擬戦を楽しんでいたのだ。
「でも、兄さんも前に比べればだいぶ強くなってたよ。もしかしたらアリサに勝てるかもくらいにわ」
「くそーー勝ち逃げか!」
「まぁ、長期休みには戻ってくるからまたその時にやろう」
そんなこんなしていると出発の時間が近づき、ユリウス達は引上げると汗を流して支度の確認に移った。
「よし!これで全部かな。あとはこのコレクションをインベントリに入れてっと……」
ユリウスは、この数年間で作った観賞用の実銃をインベントリに入れ、種類や使う弾ごとに分けて整理した。
作った理由は単純である、銃がかっこいいからただそれだけであった。
前世でミリオタをやっていた為、銃への執着が凄いユリウスであった。
「さて、荷物の確認も済んだし行くか」
そう言うとまとめた荷物を背負い、玄関へ向かった。
玄関を出て、敷地の出入り口でギルやアリサ達と合流した。
「ユウ少し遅刻だぞ」
「まじか俺だけ遅刻か」
ギルもユリウスも笑いながらそんなやり取りをした。
「これで皆揃ったわね。じゃあ気を付けて行ってくるのよ」
「うん!母上も元気にしててなの」
各々、別れを済ませると各自集まり街道に向けて歩こうとした。
「そうだ、ホントに馬車はいらないの?」
「ああ、道中に寄りたい遺跡があるから、そこまでは歩きで行くつもりだから大丈夫だよ母さん」
「僕たちも少しは街の外を歩いてゆっくり行きたいから大丈夫です」
ギルもユリウスの意見に賛同しており、アリサに限っては遺跡を見たくてワクワクしていた。
そんな三人をルミアはハクタクを撫でながら優しい表情で見ていた。
「アリサお姉ちゃんとルミアお姉ちゃんも行ってらっしゃい」
「「行ってきます(なの)」」
二人も妹に別れを告げた。
そして四人と一匹は家族や知人に見送られながら街道に向かって歩き出した。
それから一時間が過ぎ、完全に街が見えなくなった。
「それにしても全員ほとんど軽装だな」
「王都に着いてから揃えるつもりだから、着替えと少し細々とした物しか入れてないなの」
ユリウスは他の面子を見たが全員同じことを言ったのだった。
「で、ユウその遺跡はどこにあるんだ?」
「ここからだと二つ目の街の近くにあるはず。文献通りならな」
「ってことはアームの街か」
「そうだね」
そんな会話をしながら歩き続け、一つ目の街を抜けた。
それからはずっと街道沿いを歩き、日が暮れ始めた。
「お兄ちゃん、そろそろ日が暮れてきたけどどうするなの?」
「うん!野宿!」
「ユウ君、そうだと思ったよ」
「と、言うわけで道から外れて準備するか~」
ユリウスはそういうと同時に道から外れ始め、他のメンバーもそれに続きユリウスの後をついて行った。
街道から少し離れた所まで歩くと、ユリウス達は開けた場所に出た。
「よし、ここで野営の準備だ」
「了解だユウ」
ギルがそれに返事を返すとユリウス達は背負っていたバックパックを下ろし、野営道具を出し始めた。
「俺とギルでテントを張るから、アリサとルミアは細々としたことをやってくれ。それとハクタクは周囲の警戒を頼む」
「「わかったよ(なの)」」
ハクタクは「ワン」と鳴くと野営をする場所の周囲を徘徊し始め、周囲に何もいないことを確認しに行った。
「お兄ちゃん焚き火はこの辺でいい?」
「もう少し奥目で頼む」
「了解なの」
「ギル、そっちの杭打ち頼む」
「オッケー」
ギルとユリウスはテントの端に杭を打ち始め、ルミアは焚き火で使えそうな枝を集め、そしてそれが終わると土属性の魔法で座るのに丁度いいサイズの物を作成した。
「よーし完成!」
「じゃあ、荷物はテントに入れとくよ」
「了解」
「アリサ焚き火に火頼むわ」
「わかったなの」
ギルはテントに人数分の荷物を入れに向かい、アリサは生活魔法で火を起こした。
生活魔法とは最下級魔法であり、スキルがなくても少量の魔力があればだいたい誰でも使うことができる魔法である。
焚き火に火を点けると、パチパチと音を立てながら少しずつ火力が増していった。
「ギル、俺の鞄に入ってる料理道具持ってきてくれ」
「……わかったよー」
「ルミア料理の準備手伝ってくれ」
「うんいいよー」
そしてユリウスとルミアは焚き火で料理ができるように形を少し変え、アリサは血抜きをしていたウサギを取りに行った。
それからしばらくし料理の支度が完了した。
「今日は俺が作るから、三人ともゆっくりしててくれ」
「お兄ちゃんの料理楽しみなの」
「アリサうまいもん作ってやるから期待してろよ」
「うん!楽しみ」
アリサは期待に満ちた目でユリウスを見ていた。
それからユリウスは料理を開始した。
まず、肉を捌き一口サイズに切り分けるとそのまま鍋に入れ、火を通し始めた。
「……我、菜を断つ剣なり」
「何してるの?」
「ただのノリだよ。ハハハ」
ユリウスがそう言うと同時に、野菜を一瞬で適切な大きさまで切り刻みそれを鍋に入れ、肉と一緒に軽く炒めた。
「おおー!」
ルミアは感嘆の声を上げた。
それからもユリウスは今使える調味料などを混ぜ味付けを済ませ、徐々にシチューを作成していった。
ユリウスが料理をしている間に他の面子は、装備品などの整備をしていた。
そして暫くすると料理が完成した。
「お前ら出来たぞ!」
「ほんと……な……の……」
「こ、これは一体……」
「こ、これ食べれるの……?」
料理を見ると一同は絶句し、唖然としていた。
その料理の見た目は、暗黒物質と表すのが適切なもはや料理ではない物がそこにはあった。
ユリウスはそんなのお構いなしに、人数分皿に盛りつけた。
「さあ、召し上がれ」
一同は顔をしかめ、料理ではない物をまじまじと見ていた。
そんな中、ルミアが意を決して恐る恐る一口分をスプーンですくい口に運んだ。
「い、いただきます。……はむ」
ルミアが料理?を食べると、ギル達は固唾を飲み込みそれを見守った。
「お……」
「お?」
「美味しい!これ見た目と違って凄く美味しいよ!」
アリサが首を傾げると同時にルミアが初めてこんな美味しいの食べたと言うくらいの表情で感想を言った。
それを見聞きしてギルとアリサもそれに続き、恐る恐る口に運び食べ始めた。
「……はむ。んんん!美味しいなの!こんな見た目してるのに凄く美味しいなの」
「では、はむ。おお!すげー美味しい!でもこんな如何にも食ったら死ぬみたいな色してるのになんでこんなうまいんだろ?」
「お前ら、ボロクソ言いますねー」
そんなことを話していると、料理が一瞬で無くなった。
「ごちそうさまなの」
「おう、おそまつさまでした」
「ユウ、なんでこんな見た目になったんだ?」
「さーなよくわからん。俺が料理すると、もの凄くうまいのはできるんだが、いつも見た目が壊滅するんだよなーー」
「もうそこまで行ったら才能だね」
ルミアは天に上りそうな雰囲気を漂わせながら、美味しかったと呪文の様に何回も幸せな表情をしながら繰り返し言っていた。
それからの間、ユリウスの料理が話の話題であった。
「さて。では見張り兼火の当番の順番を決めるか」
「賛成なの!」
「ユウ君、私は早めに当番をしたい」
「おっけー」
そういうとユリウスは考える素振りを見せ「よし」と一言呟いた。
「じゃあ順番を言うぞ。まず最初にルミアその次にアリサ、ギル、俺という感じでどうだ?」
「僕は大丈夫だよ」
「私もそれでいいなの」
「私も」
その場の全員がユリウスの案に賛成し、見張り番の順番が決まった。
「それとさっきから気になってたんだがアリサもじもじしてどうした?」
「そ、そのトイレ行きたいなの」
「それならその辺でしてくればいいぞ」
「で、でも、その、こんな外でするなんて恥ずかしいなの」
アリサは顔を赤くしながら答えた。
「漏らすよりは恥ずかしくないだろ。それにこれからこんな風に野宿することなんて、ざらにあるから慣れといた方がいいぞ」
「うう、わかったなの」
「アリサちゃん私も行く」
アリサがそう呟くとルミアも一緒について行った。
「お前ら何かあったら叫べよー」
「わかったー」
ルミアが返事を返すと草むらの方へ消えていった。
「ルミアありがとうなの」
「気にしなくていいよアリサちゃん。私も恥ずかしかったから仲間ができてよかった」
「ならよかったなの」
「それにしてもユウ君の料理……」
そんな話をしながら少し進み、二人は茂みの影でしゃがんだのだった。
「ユウ一つ聞きたいんだけど、どこでそんな料理上手くなったの?」
ギルは首を傾げながらユリウスに質問を投げかけた。
(ヤベー!前前世で覚えたとか言えねーどう誤魔化そう)
ユリウスは内心で必死に理由を考えていた。
「あ、ああ、そ、それならサラとフィニアに教わったんだ」
「なるほど、たしかにあの二人なら美味しい作り方知ってても不思議じゃないな」
ユリウスはうまく誤魔化せたことに内心ホッとしていた。
(ユウ、嘘がバレバレだよ。あの二人が教えるなら、もっとしっかりした見た目になるはずだから)
だが、ギルはそんな誤魔化しを見抜いていたが、あえて何も言わずにスルーした。
「お兄ちゃんただいまなの」
「二人ともお帰りー」
ユリウスは気楽に返事を返した。
「ユウ、僕は先に休ませてもらうね。そろそろ時間も時間だから」
「おう、おやすみ」
「おやすみ」
ギルはそう言い残すとテントに入り、就寝した。
「私も少し横になるね。二人ともおやすみ」
「おやすみ~」
「おやすみなの」
ギルに続きルミアもテントに入り、仮眠に入った。
「お兄ちゃんは寝なくていいなの」
「この時間はまだ眠くならないからな」
それから少しの間、その場を沈黙が支配していた。
だがアリサが口を開き、沈黙を破った。
「じゃあお兄ちゃん、剣聖伝説について話そう」
「……ふむ、剣聖伝説ってなんだ?」
「ええ!?知らないの!?有名なお伽話なのに」
「聞いたことないな」
アリサは有り得ない物を見たかのような顔をすると、その伝説についてザックリと話し始めた。
「なら、大まかになっちゃうけど説明するなの」
「おう頼む」
「じゃあ説明するなの。これは遥か昔、まだ神様たちがこの世界にいた神代のお話なの。その時代は神様たちが統治する場所を決める為に、戦争をしていたなの。そのときとある二人の人間がそんな神様に嫌気を覚えて剣を取ったなの。でも、やはり神様に勝てるわけもなく負けたなの。だけど、その二人は諦めずその理不尽に敵う力をつけるため神器に匹敵する剣を見つけ、それに見合うだけの力を修行してその身に納めたの。でも、そんなことを神様が許すことはなく、たくさんの眷属や天兵で構成された軍を仕向け殺そうとしたなの。でも、その剣士達は一振りでその悉くを倒して、最終的に神様も倒したなの。そして人々は神殺しをなした二人を剣聖と讃えたなの。それがこの伝説だよ」
アリサがそう長々と説明し、ユリウスはそれを楽しみながら聞いていた。
「へーなるほど。これ詳しい内容なら英雄譚みたいで面白そうだな」
「そうなの。だから私は気に入ってるの」
「だけど、剣聖って剣を極めた者に送られる称号だよな?だから普通は一人だけのはず」
「私もそれは疑問に思ったなの。だけど、私はその二人の実力が拮抗してるんだと解釈したの。伝説上でも、二刀流と一刀流って記してあるから多分、型みたいなので分けたんじゃないかな」
「たしかにそれなら納得はできるな」
二人は伝説について語り合い、それから数十分が経ってユリウスがテントに入って行ったのだった。
一人になったアリサは、暇つぶしに素振りをしたりして暇を潰した。
それから数時間が経ち、朝日がユリウス達の野営地を照らし始めた。
「皆の者、朝だ!起きるのだ!」
ユリウスはテントの中に向けてそう叫ぶと、寝ているルミアとアリサを起こした。
その間にギルが朝食を作っていた。
そしてアリサ達が起きると直ぐ挨拶を交し、そのまま朝食に移った。
朝食はパンに肉と野菜を入れ、甘辛いタレで仕上げた簡単なものだった。
朝食が済むと各々支度を始めた。
そして全員の支度が完了するとテントなどを片付け、次の街であるアームの街に向かった。
いつも読んで下さり有難うございます。
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