第20話 騒動後の一日
ユリウス達二人はまだ魔物の解体をしていた。
「おーいギルさーん。終わる気がしないのだが」
「仕方ないよ。なんせあの量だよ」
ギルが山積みになった死骸を指さし、ユリウスは溜め息を吐いた。
「飽きてきたんだが……」
「その意見にはたしかに同感だよ。流石にこんなに長い間、解体を作業のように続けるのは初めてだよ」
「それな~。てかもう朝なんだ」
ユリウスとギルはげっそりしながら解体を続けている。
太陽が顔を覗かせ始め、辺りを照らし夜の終わりを告げていた。
解体を開始したころと比べれば大分減っていたが、それでもまだ半分くらいが終わった位である。
「頑張ってるねユウ」
「おっ!兄さんだ。おはよう」
「ああ、おはよう。それにしても二人ともすごい量やったね」
山のように積みあがった素材を見て、驚愕しながら言ったいた。
「もう辛い飽きた」
「アリサの分も頑張るんだろユウ」
「兄さんこの量見ればもう達成してるのわかるよね」
「ハハ、たしかにな」
シスは笑いながら答え、ギルは隣で「たぶんもう二人分余裕で達成してるよ」と言っていた。
「もうすぐ朝食ができるからその時に一旦休憩したら」
「そうさせてもらうわ」
「できたら呼びに来るよ」
「サンキュー!」
それを聞くとユリウス達二人はラストスパートに入った。
そしてそれから一時間が経ち、シスが手を振りながらユリウス達の元を訪れた。
「お二人さん朝飯ができたぞ!」
「とりあえず終わったー!」
「ユウお疲れ~」
「ギルもお疲れ様」
そして二人はその場から立ち上がると、朝食を食べに向かった。
それからすぐ朝食を貰い、近くの段差に座り朝食を取り始めた。
「アリサ達遅いな」
「あいつらも頑張ってたからなー。疲れが出たんだろ」
「それもそうか。……ユウ今思ったんだけどこの肉ってもしかして」
「たぶん魔物の肉だろうな。まあ、美味いからいいじゃないか」
「そうだね」
二人は会話を楽しみながら朝食を食べていた。
そして朝食を食べ終え、二人は素材の剥ぎ取り作業に戻った。
剥ぎ取り作業に戻り三時間が経ち、残りは全体の一割にまで減り終わりの兆しが見え始めていた頃、ルミアとアリサが手を振りながらユリウス達の元に歩いてきた。
「おはようなの」
「おはよう」
ルミアとアリサはユリウス達に挨拶をし、二人は挨拶を返した。
「おう、おはよう」
「二人ともおはよう」
挨拶を返すと即二人は作業に戻った。
「ギル君、何してるの?」
「夜に魔物の大群を討伐したでしょ、あれの処理かな」
「もしかして寝てないの?」
「うん。ずっと二人で素材の剥ぎ取りをしてるとこだよ」
「えっ!?だって寝るとき……」
そこまで言うとアリサがその先の台詞を奪った。
「もしかしてお兄ちゃん寝るフリしたの!?」
「そう言う訳だ。だからお前らの分もやっておいたぞ、ほれ」
ユリウスが親指で後ろを指さし、アリサ達は二人の後ろを見た。
「な、何この量!?」
「す、すごいなの!?」
二人は驚愕し、目を丸くした。
「まぁ、こんなの少ない方だよね?ユウ」
「ああ、始まったばかりのはこんなのとは比べ物にならないくらいあったからな」
そんなやり取りしながらも、二人は手を止めずとにかく終わりを目指して頑張っていた。
「ユウ君私たちも何か手伝えない?」
「あるけど、その前に汚れてもいい服に着替えてこい」
「「わかった(なの)」」
アリサ達は屋敷に戻り、いつもの服装に着替えに行った。
「なぁギル」
「どうしたの?」
「これ終ったら風呂入りにいこうぜ。流石にいつまでも血まみれだと辛い」
「あはは、僕もそれを言おうしてたとこだよ」
二人は苦笑いを浮かべながら言った。
それから数分経ち、アリサ達が戻って来た。
「お待たせなの」
「じゃあ仕事の内容を言うぞ」
ユリウスが説明を開始し、ギルがそのお手本になるように素材の剥ぎ取りを見せた。
「ねぇ、お兄ちゃん何で魔物の亡骸を焼くの?いつも焼いてないのに」
「それはだな……」
「この量の魔物が腐敗すると疫病が蔓延する可能性があるからだよ」
「おいギル、俺の台詞をとるな!」
ギルが笑いながらユリウスをあしらっている時に、アリサ達は´なるほど´と言う表情で頷いていた。
「よく知ってるね二人とも」
「まぁ、そんな事が無いようにする為に昔習ったからな」
「僕もそんな感じかな」
「私そんなの教えられてないなの」
アリサが少しふて腐れ気味に言ってきた。
「そりゃぁまだアリサがそこまで考慮できないと踏んだからじゃね。子供だし」
「むうう。それは酷いなの……」
「でも、今回学習できたから別にいいだろ」
「そういうことにしとくなの」
アリサは頬を膨らめて答えた。
そしてアリサ達も加わり、四人で素材の剥ぎ取りを始めた。
「そう言えば二人とも朝飯食ったのか?」
「ここに来る前に済ませてきたよ」
「そうか。なら良かった」
ユリウスはルミアからその旨を聞いた。
それから黙々と作業をし、三時間が経った。
「終わったー!」
「皆、お疲れ~」
「お疲れ様なの」
「お疲れ様」
全員、苦労を労っていた。
「お前らお疲れさん」
「皆、お疲れ様」
グレンとシスが手を振り、ユリウス達の元に歩いてきた。
「あ、父さんに兄さんもお疲れ」
ユリウスが返事を返すとグレンが連絡をした。
「夜に宴的なのを開く予定だから楽しみにしとけよ」
「どうせ、今回過剰に入った肉を消化する為だろ」
「そんなところだ。じゃあ俺らは準備があるからそろそろ行くわ」
そう言うとグレンは逃げようとしたシスを捕まえ、引きずるように去って行った。
その後姿をユリウス達は苦笑いを浮かべながら見届けたのだった。
「さてギル、俺らは風呂に入りにいこうぜ」
「そうだな。流石にいつまでも血塗れは辛いし、なんか臭いしね」
ギルは苦笑いをしながら返答を返した。
「お兄ちゃん私も行くなの」
「ほれ。こいつでも貸してやるから観察でもしてろ」
ユリウスはアリサに龍鱗片を投げ渡した。
「ユウ君これは?」
「古龍の鱗の欠片だ」
「え!?それってお伽話に出てくる伝説のドラゴンの!」
「そう、伝説のあれだ。ちなみにそいつは氷結龍の鱗の欠片だ」
「お兄ちゃんもしかして今回の……」
「そう今回の原因となったやつだ」
ユリウスはアリサの言葉を遮り、その先の言葉を紡いだ。
「まぁ、そういうことだ。そいつでも観察しとけ」
手を振りながらギルと共にユリウスは屋敷の大浴場に向かった。
「なあギル。魔道具って偉大だよな~」
「そうだな。こんな便利だからね~」
現在、二人は屋敷の風呂でシャワーのような魔道具を使い、汚れを落としていた。
「なあユウ。この魔道具早く普及して欲しいよね」
「だな~。でもまぁ、今はまだ高価な物だけど時代が進めば浸透するさ」
この魔道具はグレン達のパーティーにいた魔道具使いのエンチャンターが作った道具の為、まだ一部でしか使われておらず、存在すら知らない人の方が多いほど浸透していない。
そんな魔道具があるのは言わずもがな、この屋敷がグレン達の拠点だからだ。
「ユウ出たらどうする?」
「今日は休憩だな。疲れたし、主に解体が……」
「あはは……たしかに」
ギルとユリウスは苦笑いを浮かべていた。
それから十分が経ち、二人は風呂から上がり服を着ると脱衣所を後にした。
「あ、お兄ちゃんだ!」
アリサがユリウスの元まで駆けていき、持っていた龍鱗片を渡した。
「はい。返すなの」
「お!サンキュー」
ユリウスはアリサから龍鱗片を受け取ると腰のポーチに入れた。
「それにしても今日は一段と暑いね」
「そうだね~。ルミアはなんか暑さ対策してる?」
「ううん。してないよ」
ルミアはギルからの質問に首を横に振りながら答えた。
「なら、あれでも作ってみるか。……なあアリサ魔法で作った氷って食えるか?」
「一応は食べれるなの。でも味しないよ」
「なら問題ない。アリサ、少し大きめの氷作ってくれるか?」
「いいよ」
アリサはそう言うと掌の上に氷を作った。
「これで大丈夫なの?」
「ああ、これだけあれば十分だ。じゃあ皆、食堂行ってて」
そう言い残すとユリウスは調理場まで向かって行った。
「ユウは何を作ろうとしてるんだ?」
「さ、さー」
そんな事を言いながら三人は食堂に向かった。
その頃ユリウスは氷をまな板に置き、包丁の具合を確認していた。
「これかな。じゃあいっちょやりますか」
氷の横には人数分の小さな皿が置かれていた。
ユリウスは氷を皿の頭上に投げると同時に、包丁で細かく刻んだ。
刻まれた氷は皿へ均等に入った。
「後はこれを使えばかき氷の完成だな」
インベントリからかき氷のシロップに似せて作った物を出し、刻まれた氷の上にかけた。
ユリウスは皿を器用に四枚持つと、食堂の方へ向かった。
「ユウ君が来たよ」
ルミアの声を聞き、残りの二人もそちらに向いた。
「ほらできたぞ」
ユリウスは各々の席に皿を置いて行った。
「これは?」
「食えばわかる」
「じゃあいただきます」
ルミアが先に食べ始めた。
「すごい!冷たくてフルーツっぽい風味がして美味しいよこれ」
「気に入ってくれてよかった」
ルミアの反応を見ると残りの二人も食べ始めた。
「おいしいなの」
アリサが目を輝かせながら、一気にたくさんの量を食べた。
「っうぅ……頭がキーンとして痛いなの」
「一気に食うからだぞ。落ち着いて食えよ」
ギルはそんなアリサを横目に、ユリウスに話しかけた。
「ユウがこういうの作れるとか意外」
「いやこれくらい作れて当然だろ。ただ氷を細かく刻むだけだし」
「いやそっちじゃなくてこのタレの方だよ」
「ああ、それなら意外と簡単だから」
ユリウスはギルに手順を教えた。
「そう言えば最近ユウ君が夜食べてたのって、これだったんだ」
「……あれ~バレてた?」
「うん。夜トイレ行くときたまに見かけてたよ」
「わざわざ下に行ってたんだ……」
「うん。水も飲みたかったすることあるから」
「なるほど」
ルミアと話しているとユリウスの隣にいるアリサが膨れていた。
「お兄ちゃんばっかこんな美味しいの食べててずるいなの!」
「まあまあそう怒るなよ。それに俺が作ったやつだからいつ食べるのも俺の自由だしな」
「むうう。それでもずるいなの!これから食べる時呼んでなの」
「はいはい、わ、わかったから掴みかかるな」
ユリウスはアリサをなだめながら助けを求めたが、ルミアはそっぽを向き、ギルは何事もなかった様にかき氷を食べていた。
「あ、助けいないのね」
「がんばれユウ」
「アリサと、溶けるぞそれ」
アリサは「……あ」と呟き食べるのを再開した。
そんなこんなあったが全員かき氷を食べ終わった。
「とりあえず片づけは俺がやっとくから一旦解散か?」
「そうだな。じゃあまた夜に」
そう言い残しギルは去って行った。
「片付け手伝うよ」
「私もなの」
そしてアリサ達と片づけをし、夜まで解散になったのだった。
それから数時間が過ぎ、ユリウス達はまた合流を果たし肉祭りとかした宴らしきものに顔を覗かせた。
「すげー香ばしくていい匂いがするな」
「うん。美味しそうなの」
その場の全員が香ばしい匂いに心躍らせながら広場に向かった。
「お!ユウ達も来たか」
シスが手を振りながら出迎えた。
「兄さん先に来てたんだ」
「まあな。準備とかもあったしな。てかそんなことより今日はうまい料理が沢山あるから楽しめよ」
「わかったよ兄さん。じゃあ行ってくるね」
「おう行ってこい」
シスは軽く手を振り、ユリウス達はそれに手を振って返し会場に向かった。
「あ、ユリウス様」
「よお、フィニアどうした?」
「これをお返ししようと思いまして……」
フィニアはそう言うとどこからともなく銃とホルダーを取り出し、ユリウスに渡した。
「これありがとうございました。助かりました。そのキズやへこみがついてしまいました」
「いやいや気にするな武器なんだから仕方ない」
「そう言っていただけると助かります」
フィニアはペコリと頭を下げた。
「じゃあフィニア俺たちはとりあえず端から回るからこれで」
「それならぜひあそこの料理は食べてみてください。頬がとろけるくらい美味しいですよ」
フィニアは頬に手を当てながら、熱烈に説明していた。
「お、おう。じゃあ行くわ」
ユリウス達はそんなフィニアを目尻に、そのまま端の屋台を見に行った。
「よし食うぞ!」
「食べるなの!」
そう言うとユリウス達は肉料理を食べ始めた。
「おいユウこれ旨いぞ!」
「一口よこせ」
「いいよ。その代りそっちのも頂戴」
ギルとユリウスは皿を互いの前に出し、料理を一口に切りそのまま口に運んだ。
「おお!これはたしかに」
「ユウのも美味しい」
「お兄ちゃん私も一口食べてみたいなの」
アリサがそう言うとルミアも欲しいと言い出し、ユリウスは一口サイズに切るとフォークに刺し二人に食べさせた。
「たしかにこれは美味しい」
「とろけるなの」
アリサ達二人は幸せそうな顔つきで食べていた。
その後、全員で各々が持っている料理を少しだけ分けながら、料理の感想を言い合いながらこの時間を過ごしたのだった。
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台風の被害が軽微で済んだ為、来週からいつも通りに戻ります。
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更新は毎週木曜日の予定です。




