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第18話 騒動の終幕

 ユリウスは父グレンの元に向かっている最中である。


「はへーこの辺なんかたくさん居るな~。迂回もめんどいし力ずくで通らせてもらうか。……おらおらどけどけー!邪魔じゃー!!」


 ユリウスは進行方向に居る魔物を、片っ端から斬り捨てていた。

 武器にエンチャントされているため魔物の断面は、軽く焼けるかもしくは少し冷たくなっていた。


「流石初級だな。思ってたのと全然違う!……はは」


 ユリウスは苦笑いを浮かべながらもエンチャントされた武器の感覚を味わいながら、剣(枝)を振っていた。

 そしてユリウスは強行突破の末、無事父グレンの元まで辿り着いた。


「——閃」


 剣技を使い剣線上の魔物を蹴散らし、辺りに血と臓腑をぶちまけた。


「おうユウ助か!助かった」

「父さんその言い方はやめてくれ。アリサに助助連呼されそうだから」

「ははは。いいじゃないか可愛らしくて」

「ひぃぃー!」


 戦いながら二人は、笑いながらそんなやり取りをしていた。


「ユウ助それにしてもよくここまで来れたな」

「父さん、俺をなめないでくれよ。これでも一応は強いんだからさ」

「ホントにスキルが無いのか疑いたくなるな。ここまでくると」

「まぁ鑑定結果が全てだよ」

(実は何か色々とあるんだけどねー。まー言いわしないが……)


 ユリウスは内心そう思いながら本題を出した。


「父さんこのままだと持つと思う?」

「まぁ無理だろうな。もし俺らだけなら撤退しながら数を減らせたが今は後ろに守るべき物もあるから戦力的にキツイな。あいつが居てくれたら話が変わるんだがな」


 グレンはパーティーで攻撃魔法を担当していた仲間を頭の中で思い浮かべていた。


 彼らは英雄ではあるが、決して個が最強ではない。

 メンバーの各自が各々の得意とする分野を担当するという、冒険者に近い編成傾向だった。

 そのため全で一つの強さであり、殲滅戦は前衛ではなく後衛が主な火力源である。

 だからこそ彼らが全員集まっていれば今回の大群など敵ではなかった。

 

「なあ父さん。もし、だけどこの大群を一撃で壊滅させられるなら、どこまでの被害なら許容できる?」

「珍しいな。お前がそんな現実味がない事をこんな時に言うなんてな。まあ、もしできるなら整備した道が悪路に戻るまでだな。流石に地面が思いっきり抉れたり田畑に影響が出るのは避けたいってところだ」

「なるほど。まあ許容被害がわかってもできなかったら意味ないよな」

「だな」


 二人は難なく魔物を蹴散らしながら現実味のない話をしていた。

 それから少し経つとサラが合流した。


「おう!ユリウス派手にやってるな」

「いや、この画ずら的に地味では?」

「そこは方便だと思え」

「相変わらず男の口調だね」

「それが私さ」


 サラはそう答え、近くにいた魔物を一撃で屠った。


「てかサラの武器って剣と両手斧なんだ」

「ああやっぱ一撃で殺った方が気持ちいいだろ」

「たしかにな。でもそれなら大剣でもいいじゃないか?……っとあぶねー」

「それだとなっ……と、グレンと被るだろ。主に戦闘スタイルとかさ。それに私は斧術Aと剣術Aがあるからな。それに斧の方が目立つだろ」

「なるほど。でも片手で両手斧を振り回すとか剛力にも程がある気がするんだが!」

「ほう。仮にも私は女だぞ。女性にその言い方は喧嘩を売っているのかな?」


 サラは不敵の笑みを浮かべながら、ユリウスを見た。

 

「こ、こわっ!」

「メイドは怒らせない方が身のためだぞ」

「……いい勉強になりました。はい」


 それからユリウスはフィニアを怒らせ、斧を持って追いかけてくる光景を脳裏に浮かべ、身震いしていた。

 

「てかメイド服じゃないんだな。フィニアはメイド服だったのに」

「いやいや流石に戦場であんな動きにくい服は着ないぞ普通。それに私がいつメイド服を着ていた?」

「……言われてみれば。確かに着てるとこ見たことないな」

「だろそういうことだ。フィニアがただ真面目すぎるだけだ」


 ユリウスはサラの服装を思い出し、一度もメイド服を着ていることが無い事を思い出す。

 そしていつも軽装備に近い服装であることを同時に思い出していたのだった。

 

「はは、たしかにな。フィニアって変な所で真面目だもんな~」

「まあそんな所が可愛いだよな」

「ってことはサラはフィニアを妹みたいに見てるんだ」

「ああ、可愛い妹分だよ」


 そんなやり取りをしていても魔物の勢いは止まることなく進行してきており、ユリウス達二人は難なく敵を倒しまくっていた。

 それから二分が経ちユリウスはサラに他の場所に行くと言い、そこで別れたのだった。


 そしてユリウスはアリサ達から少し離れた位置で魔物を倒しながら、アリサ達の奮闘を観戦していた。


 アリサ達は四方八方から襲い掛かってくる魔物の大群に苦戦していた。


「ルミアあそこの奴らを倒すから援護してなの」

「わかった。……ファイアー・アロー」


 アリサが指を指すとそこにルミアが魔法を打ち込み、魔物を間引きした。

 そしてアリサは群れへ突っ込み、剣技で一掃したがやはり数が減っているようには見えないほど魔物が雪崩れ込んで来た為、ファイアー・アローを小規模で展開し牽制しつつ後方に下がった。


「はぁはぁ……はぁ。敵が……減らない、なの」

攻撃力強化パワーアシスト防御力強化ガードアシスト


 ルミアは全員に支援魔法を掛けた。


「アリサ様、息が整うまで魔法で援護してください」

「わか、ったなの。はぁはぁ……でももうすぐで魔力が、切れそうなの」


 そう言うと前に出て、ナイフと銃で戦っているフィニアを援護するためアイシクル・アローを使った。



「うーん、これはちょっと多すぎかな~。剣技で少し減らした方がいいかな」


 ギルはまだ息も切れておらず、まだまだ余裕の表情をしていた。

 そして体勢を落とし、剣技の構えを取った。


「……竜殺の一閃」


 小さく呟き、横一文字に剣を振った。

 ギルとの距離が近すぎた魔物は消し飛び、それ以外の剣線上に居た者は全て両断されていた。


「ふー。こんな感じかな~」


 ギルの正面には生きた魔物は居らず、そこには臓腑をぶちまけた死体ばかりであった。


「それにしても、魔力が切れると意外とつらいな~」


 そんな独り言を溢しながら次の標的を定め、それを殺しに行った。


 

 そしてルミアは魔力切れを起こし顔つきが険しくなっていた。


「アリサごめん。魔力が切れたからもう援護できないよ」

「わかった、なの。無理はしないでね」

「うん」


 それを聞きルミアは頷くと同時に、ハクタクに合図を出し呼び戻した。


「うう、頭がクラクラすよー。……ハクタク行くよ」

「ワン」


 ルミアは弱音を吐きながらも、自分の顔を両手で叩き気合を入れなおした。

 そしてハクタクと共にアリサ達が討ち漏らした魔物を剣で確実に仕留めていった。


「はあああ!」


 剣を腹部に刺しそのまま横へ薙ぎ払うと魔物は断末魔を上げながら倒れ、臓腑を溢しながら絶命した。

 返り血を浴び、ルミアの綺麗な金髪は一部赤く染まっていた。

 そして後ろからルミアを襲おうと攻撃を仕掛けてきた魔物は、ハクタクが首を噛み千切り撃破した。

 

「……瞬閃」


 ルミアは亀のような鱗に覆われた奇怪な魔物を前に、装甲が硬く攻撃が効き難いと判断し、剣技を使った。

 剣技により魔物の首は一撃で跳ね飛ばされた。

 そしてその魔物はビクビクと体を痙攣させ、夥しい量の血を吹きながら絶命した。

 それを見たルミアは一瞬何かが口まで込み上げてくるのを感じ、口元を手で押さえ何とか飲み込んだ。

 

「ハクタクお願い」

「グルルルル……ワン」


 ハクタクは前にいる大型の熊の魔物を警戒しながら、ルミアに返事を返した。

 するとハクタクが突撃し、ルミアが横合いから剣で魔物を斬りつけて少しずつ敵の体力を削った。

 熊の魔物は煩わしく感じたのか大振りの攻撃でハクタクを狙ったが当たらず、苛立ち始めさらに攻撃は過酷さを増したがルミアはそれを見切り、しっかり避けながら足元に攻撃を集中した。

 ハクタクは攻撃を避けながら敵の足の腱を攻撃し、ルミアの攻撃で脆くなっていた所に止めを刺し噛み千切った。

 熊の魔物は体勢を崩し地面に倒れた。

 そしてルミアとハクタクはその一瞬の隙を見逃さなかった。

 ハクタクは熊の魔物のうなじを噛み千切ると同時に空中へ逃げた。

 そのタイミングでルミアが剣技"一刀両断"で剥き出しになった骨髄に強烈な攻撃を加え、骨を断ち切り首を切断した。


「はぁはぁ……はぁ、はぁ。なんとか、倒せた」

「……ワン」


 ルミアはハクタクに「ありがとう」と言う視線を向けると、それに答えるように吠え返事を返した。


「なんか少しボーっとするな。魔力切れと今の戦闘のせいかな」


 ルミアは首を横に振り、そのままハクタクと共に次へ向かった。



 フィニアは残弾を気にしながら戦っていた。

 

「アリサ!伏せてください」


 フィニアのそれを聞き、アリサは正面の敵の足を跳ねることに目標を変え、体勢を低くした。

 アリサが体勢を落とした瞬間、アリサに重なるような場所に居た魔物が頭部に銃弾を喰らい絶命した。


「あ、ありがとう」

「はい」


 フィニアは短く返し、正面に居る魔物の頭部に銃弾を浴びせ絶命させた。

 この時点でフィニアのメイド服は赤く染まり、殺人鬼の様な容姿になっていた。

 そしてカキンッという音と共にスライドストップがかかり、スライドが後ろで止まった。

 

 スライドとは、装填及び薬莢の排出や撃発装置を行うパーツ全体のことである。

 そしてオートマチックハンドガンでは発砲すると、後ろに動く場所のことを指す。


「これでも結構節約したつもりでしたがこれでラストですね」


 フィニアはそう呟きながら、マガジンリリースボタンを押しマガジンを外した。

 そして新しいマガジンを差し込み、スライドリリースレバーを引き、スライドを前に出しリロードを終えた。

 それからもフィニアはナイフで魔物の首を掻っ切り、そこから抉るようにナイフを捻じ込み神経を斬り絶命させた。


「フィニアって意外と大胆な戦い方するね」

「あはは。多分お、お義父さんが教えたんじゃない」

「なんか納得できるなの」 


 ルミアはまだグレンへの呼び方に慣れておらず少し片言になっっていた

 そしてアリサとルミアは隙を見て、ポーションを飲みながら会話をしていた。

 それからすぐ二人は戦闘に戻った。


 そしてそれからもフィニアは同じ戦い方をしていたが、爬虫類のような魔物を見て装甲が硬くナイフでは抜けないと判断すると鱗と鱗の間にナイフを刺し、ぶら下ると頭に銃を突きつけゼロ距離で発砲し、銃弾は装甲を貫き絶命させた。


 そして魔物が体勢を崩すと同時にフィニアは鱗を蹴り宙で一回転しながら着地し、後ろから襲い掛かって来た四足歩行の魔物の噛み付きを咄嗟に態勢を落とし躱した。

 それと同時に、首にナイフを刺し魔物の勢いを利用し首から下腹部まで切断した。

 その際銃を咄嗟に仕舞い両手でナイフを持ち、そして足に力を込め全力で踏ん張っていた。

 魔物は臓腑をぶちまけながら地面へと崩れ、勢いに従い短い距離を滑って行った。

 フィニアは臓腑を直上から浴び、真っ赤になった後悲鳴にならない悲鳴を心の中で叫んでいた。

 声に出さなかったのはプライドからだろう。


「うう、き、気持ち悪い」


 そう言いながら魔物の臓腑を払い、次に言った。

 それからもフィニアはアリサ達の援護や硬い装甲を抜くために銃を使っていた。

 そしてついに弾が切れた。

 カチンッと言う音と共にスライドストップがかかり、フィニアはそれを目だけを動かし確認した。


「これで打ち止めですね」


 それを確認し終えるとフィニアはガンホルダーに銃を収納した。

 もう一丁の方にはまだ弾薬が残っていたが、フィニアはそちらを緊急時に使おうと温存することに決めた。


 それからはもう一つのナイフを抜き、片方のナイフを逆手持ちにし戦闘へ戻った。

 フィニアは二本のナイフを巧みに使い、攻撃をしていた。

 すれ違う魔物を逆手持ちのナイフで横腹を斬り、もう片方のナイフで相手を刺殺した。


 

 だが四人と一匹は徐々にそして確実に追い込まれ、乱戦になっているため下手に撤退もできず互いに背中を守りながら隙を見せないように戦っていた。

 そしてほぼ全員が満身創痍の中、一人だけまだ余裕を残している者が居たのだった。


 そんな中ユリウスは少し離れた場所から、魔物に囲まれ四方八方から攻撃を受けながらも軽く斬殺しながら四人と一匹の戦いを楽しそうに観戦していた。


「おお頑張ってるね~。これで乱戦での訓練をやる必要はないな。身を持って知れば嫌でも体が覚えるしなんて効率的なんだ!」


 ユリウスは自分の訓練法に感嘆の声を上げていた。

 予想通りこの騒動の後ボコられるのはまた別の話である。


 ユリウスはアリサ達を見て、被弾率がどんどん増えていくのを確認し「そろそろか」と言い動き出した。


「おい今の大丈夫か?アリサの奴、攻撃諸に喰らってたけど」


 アリサが吹っ飛ばされる瞬間を見てユリウスはそう呟いた。

 そしてユリウスは駐屯兵達の所へ向かった。

  

 ユリウスは駐屯兵や警備隊の方に居る魔物を蹴散らし、兵に話しかけた。


「すまないが誰か一本剣をくれないか?返せそうなら返すから」


 それを聞いた兵たちは困惑を隠せなかった。

 当たり前である、こんな戦場の真っ只中で自分の命を守るものを貸せと言ってきたのだから。

 そんな中、一人の兵士が声を掛けてきた。


「ユリウス殿、自分の予備なら貸せますがそれでもよろしいですか?」

「ああ、それでも構わない貸してくれ。もしかしたら返せなくなるかもだがそれでもいいか?

「はい大丈夫です。それは国から支給された物ですから申請すればまた戻ってきますので」

「すまない。恩に着る」

「あちらの補給所の二番目のテントに置いてあります」


 兵は補給所の方を指さし、簡易的な地図を描き、ある場所を伝えた。

 説明を聞き終えたユリウスはお礼を言ってから補給所に向かった。


「この辺のはず……お!これか」


 そう言いながらユリウスはテントの中にあった予備の剣を取り、そのまま戦場に戻った。

 戦場に着いたユリウスは、アリサや駐屯兵達より離れた場所に居た。

 そして魔物の大群の動きも変わり始めていた。

 大群も学習したのかグレン達よりアリサ達の方が弱いと判断し、アリサ達や駐屯兵が居る方角へ流れ始めていた。

 それに対応する為グレン達も動こうとしたが、それでも数が数の為移動することができずにいた。


「ちょうどいい流れになってるな。よし、これなら一気に俺の方に引き付けられる。……敵視集中ヘイト・リアクション


 ユリウスは大群が範囲に入るギリギリで敵視を取った為、ほぼ全ての魔物がユリウス目掛け進行してきた。

 アリサ達は魔物の急な移動に心当たりがあるのか周りを見渡していた。

 アリサ達を攻撃していた魔物も全てユリウスの方へ流れて行った。


 駐屯兵はこれを好機と見て、副隊長たしき人物が補給を命令し後方に下がって行った。

 アリサ達もユリウスの方へ駆けて行ったが、何をしたいのか察したギルの指示で、ユリウスより後ろの方へ下がった。


 ユリウスの陣取った位置は、全ての魔物が横や後方に居ない位置、つまり大群を端から端まで見渡せる場所である。


「うん。父さん達以外は引いたようだな。これで遠慮無く試し斬りができそうだ」


 ユリウスはそう言う体勢を軽く落とし、剣(枝)を納刀した。

 そして鉄の剣を左脇腹付近まで持ってきて構えを取った。

 

「……龍殺剣!」


 その剣技の名を言うと同時に剣を振った。

 それは群れの端から端までを剣線上に捉えた一撃であった。

 剣線上にあったものは殆どが両断され、手前に居た魔物は全てが消し飛んでいた。

 剣圧や余波による風圧により、後方にいた魔物や木々は両断された。

 魔物の大群がいた場所には、その死骸と広範囲を占める血だまりが広がっていた。

 そう文字通り血の海である。


 そしてグレン達は技が放たれる寸前にその兆候を察知し、慌てて伏せたため一命を取り留めたのだった。


 この一撃により魔物の大群は壊滅し、両手で数える程度の討ち漏らししか残らなかった。

 そしてユリウスの持っていた剣は、刀身部分に亀裂が入り粉々に砕け散った。

 

 討ち漏らしはグレンや他の者が討伐し、この騒動に幕が下りた。

いつも読んで下さり有難うございます。

『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。


これからもよろしくお願いします。


更新は毎週木曜日の予定です。

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