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第11話 少女との出会い

その日ユリウスは早目にいつもの場所に着いていた。

アリサは午前に少し勉強がある為遅れておりギルは寝坊の様だ。


「まあ久しぶりに1人ってのもいいな。丁度やりたい事もあったし」


そう言うとポケットからを糸取り出し人差し指に巻き付けた。

それから丁度いい太さの枝を探していた。

少しの間周囲をグルグルと回りお目当ての枝を見つけいつもの広場に戻ってきた。


「さて、いっちょ試してみるか」


そう言うと糸を小刻みに振動させ始めた。

振動した糸を操り少し太めの枝に当てた。

すると糸は枝にキレイに入りそのまま一直線に下に下ろしていった。

枝はキレイに真っ二つに切れていた。


「おお!予想通りいけた。まさかこんなに早くこのレベルまでいけれるとは。でもまだ弱いなもっと自在に動かないと使い用途も少ないしな」


そう言いながら今回の結果に満足をしていると森の奥から悲鳴が聞こえユリウスは糸をすぐにポケットへとしまうと全速力で悲鳴がした地点付近まで掛けていった。

走る速度は常人のそれを超えていた。

一応は前々世で剣聖をしていたためその時の走り方をそのまま使うことによって現在の自分でも反動はこないと踏んだからだ。

俊足術という走り方である。


駆け始めてから1分が経過したころ悲鳴が聞こえてきた地点の近くに到着した。

その後広域気配察知を使い辺りの気配を分析していった。


「それにしても久しぶりに使ったなこの技……お、いた」


気配を見つけそのままその地点に駆けていき、魔物が少女に飛び掛った瞬間に少女の前へと出ると同時に居合で魔物を両断した。

縦にキレイに切れた魔物はユリウスの左右に飛んでいきそのまま絶命した。

その目の前にいたユリウスは返り血をふんだんに浴びトマトの様になっていた。


「大丈夫か?お嬢さん…………決まった」

「だ、大丈夫です。それとその聞こえてますよ」


そこにはハーフアップの髪型の少女がいた。

目にほとんど生気の無かった少女は少し微笑しながら答えた。

 ユリウスはかっこつけて登場しようと試みてそれは成功したしかしユリウスが聞こえないよう小さな声で言った最後のセリフがしっかり少女の耳に届いていたのを知ると少し恥ずかしくなり頬を赤くした。


「しまったー心の声が漏れてたか!」

「面白い人ですね」


そう言った少女には笑顔が少し戻っていた。

それをチラ見したユリウスはよかったと安堵の息を吐いた。


「とりあえずこいつら片ずけるから動くなよ」

「は、はい」


そう話している間も何体か飛び掛ってきていたためそれを斬り飛ばしていたのだった。


「ヘルハウンドウルフか。まあ雑魚かな一応ブラックも混じってる様だな」


状況を冷静に分析してユリウスは雑魚と断定した。


ヘルハウンドウルフとは名前の通り形は狼であり灰色の毛と黒い模様が体にある種であり成育環境により種の進化が変わると言われている。

そしてその中に混じっていたブラックヘルハウンドウルフこの種の進化した姿の1つでありこのクラスになると群れのボスである事にが多い。


ユリウスの攻撃を見た魔物達は警戒しながら様子を伺っていたが数で攻めれば何とかなると踏んだのか3匹同時に襲ってきた。

それの攻撃を見切ったユリウスは左から順に首を跳ね、両断し右の奴は左下から剣(枝)を入れ斜めに両断した。


絶命したヘルハウンドウルフはユリウスに当たるか当たらないかの寸での所に落下し両断した物の内臓がユリウスに直撃した。


「うわ!何かどっかの部位が当たったのだが!?」


そう言いながら襲ってきた魔物を斬り捨てていった。

残りが子供とブラックヘルハウンドウルフになりブラックヘルハウンドウルフが息を吸い込みブレスを吐こうと体勢を低くした。

それを確認した瞬間ユリウスはその魔物首を跳ね魔物は絶命した。


残った子供のヘルハウンドウルフに体を翻し少女の元へ向かいながら2つの選択肢言い渡した。


「ふむ、お前には2つ選択肢をくれてやる。俺らに服従するかもしくはここで死ぬか、だ。選べ!」


それを聞いた子供の魔物はユリウスと少女の近くにいき平伏するように体勢を低くし顎が完全に地面に着いていた。


「じゃあ、お前が選べ生かすか殺すか」


ユリウスは少女にこの魔物の処遇をどうするかの選択を任せた。

少女はそれを聞き一瞬目を見開いたがすぐに返答が返ってきた。


「じゃあ、殺さないでください」

「ならいいけど、それで納得できるのか?」


 それから少女は少し考える素振りを見せてから結論が出ていると言わんばかりの顔でユリウスの目を見て言った。


「納得はできません。ですがその子は人に両親を殺されたんです。そして私はこの魔物に両親を殺されました。ですからそれについてはおあいこなんてなんて優しい言葉で言い表せませんが……」


 ユリウスは少女が何を言いたいのかは今のやり取りで十分理解していた。


「なるほど、そういうことか。まあ言いたいことはわかった君がそれでいいなら俺は何も言わない」

「……はい、そういうことです。この世界は弱肉強食だから私たちが弱かっただけですので……」


 そう言い少女は目に涙を溜めながら俯いた。

 その間ユリウスは顔やらに付いた返り血をハンカチで拭いていた。

 

 それからほんの少しの間を置き何かを思い出したかのようにユリウスは表情を変えた。

 この空気を変えようと口を開いた。


「そういえばまだ、自己紹介をしてなかったな。俺はユリウスだ、ユリウス=L=アルバートよろしくな」

「そういえばそうでしたね。私はルミアです。ただのルミア」

「へー家名が無いんだね」

「はい父が家名なんて貴族が付けるものだ。あんなのと同じは不快だからだと言ってましたから」

「ははは。たしかにな」


 ユリウスがそれを聞き笑っているとルミアはユリウスの家名について思い出し驚きのあまり目を丸くした。


「アルバート、アルバートってもしかしてあの英雄の!」

「ああ、その息子だ。まあ出来損ないだがな」

「謙遜しないでくださいあんなに強かったのに出来損ないだなんて」


 それを聞き少し照れていたがあることをルミアに告げた。


「俺がスキル無しだと聞いてもそう言うのか」

「えっ!?こんなに強いのにありえないです。でも本当にそうだとしても私は出来損ないだなんて言いませんよ」

「そうか。ルミア優しいんだな」

「いえ私なんて」

「それこそ謙遜すんなよ」


 ユリウスとルミアは互い見合うと二人して笑った。

 それからユリウスは背中を向け姿勢を低くした。


「ほらまだ立てないだろおぶってやる」

「え!?だ、大丈夫ですから」


 そう言いルミアは立とうとするが腰が抜けていて立つことができなかった。


「ほら立てないじゃないか」

「で、ですがそのお召し物が私のあれで汚れてしまいます。だから汚い私は置いてってください。帰る場所もありませんし」


 ルミアは恥ずかしくなり顔を真っ赤にしながらそう言った。

 そう自分のあれが付いてしまうことが恥ずかしかったのだ。


「別に気にすんなよ。俺の服はもう返り血で汚れてるしもし汚れてなくとも洗えば済むことだろ。しかも女の子をこんなとこに置いて行く方がありえないよ」

「で、ですが」

「それに俺には妹がいるんだ。だからそういうのは気にしないし慣れている。な、ほら」


 ルミアはその圧に負けユリウスの肩に手を回しおぶってもらうことになった。

 そしてユリウスがルミアをおぶった瞬間背中が一気に濡れていくを感じたのであった。


(濡れてて持ちにくいな)

「すまん。少し揺するぞ手の位置を調整したいから」

「うん」


 そういい持ちやすい状態になるよう位置を変えていた。


「そういえばさっき帰る場所がないって言ってたな」

「はい」


 それを思い出したのかルミアの表情は暗くなった。

 ユリウスはそうなることがわかっておりそれについての考えを伝えた。


「俺達の家族にならないか?踏ん切りはそう簡単にはつかないだろう。だけど、ルミアお前の帰る場所を作ることはできる。そしてもしかしたらお前の心の傷の癒しになるかもしれないからだ。そう簡単に心の傷が癒えないことは知っている、だが辛い時お前の近くでその悩みを聞くことぐらいはできるからな」


 ユリウスは真剣な顔をしながら言った。


「で、でも迷惑なんじゃ」

「お前がそんなこと気にするな。何かあったりしたら俺がお前をかばうし俺の家族は誰もそんなこと思わないよ」

「それでも……」


 ルミアはその先も言おうとしたがユリウスが言葉を遮った。


「行けばわかる」


 そう一言で納得させた。

 

「おい、付いて来い」


 ユリウスはヘルハウンドウルフの子供に言った。

 それを聞きユリウスの横を一緒に歩き始めた。


 屋敷に帰るまでの間ルミアはホッとしたのかこれまで堪えていた物があふれ出し大泣きし始める。

 ユリウスの背中に顔を埋めながら泣いていた。

 それを励ますように明るいことを言いながら歩いていた。

 やがて泣き疲れさらに今までの疲れが一気に来たのかそのまま安心した顔で寝付いてしまった。

 肩からひょっこり出ているルミアの顔を優しい表情をしながらユリウスは目尻で見ていた。


 それからしばらくが経ちユリウス達は屋敷の近くまで来たのでルミアを揺すって起こした。


「ほらもうすぐ着くぞ」

「う、うーん……むにゃむにゃ」


 少し寝ぼけてはいたがルミアが起きた。


「……え!?す、すごーい。なんて大きいの」

「そりゃ一応は英雄の家だからな」


 ルミアは屋敷を見て感嘆の声をあげた。

 そして敷地内に入るとユリウスはヘルハウンドウルフの子供に命令を出した。


「お前はとりあえずそこに居ろ。後でまた来る、それまで何もするなよ」

「ワン」


 その返事?を聞きユリウスは屋敷に入っていった。

 そのとき扉を開けるのに苦労したのはまた別の話である。


「ただいまー」

「おう、おかえり」


 そう応えたのはサラ・ウィテカーというもう一人の使用人であった。

 彼女はクレア達が英雄と呼ばれるようになる前によくパーティーを組みサポートしてくれていた。

 そしてクレア達が英雄と呼ばれ屋敷を与えられたときに彼女を秘書兼使用人として雇ったのだ。

 今彼女はメイザース家とアルバート家の専属としてここにいる。


「お、サラだ。いつも思うけど俺達に溜め口だけど何も言われないのか」

「うん?言われるぞ、よくフィニアにな。それにしても何だそのトマトみたいに真っ赤な姿は」

「これには色々ありまして……実はカクカクシカジカということなんだ」


 ユリウスは今に到るまでのことを説明した。


「なるほどそれで女の子を拾ってきたのか」

「ちょっ!?サラ言い方!それとアリサに許可とって着替えを借りてきてくれ」

「え!?まさかお前が着るのか!そんな趣味があったとは……内緒にしとくよ」

「ちげーよ俺じゃねーしそんな趣味もない!ほらみろルミアが信じちゃってるじゃないか」


 ルミアは驚いた表情をしサラはケラケラ笑いながらその惨状を楽しんでいた。


「悪い悪い……ははは」

「絶対悪いと思ってねーなこりゃー」


 そんなことをしていると通りすがったフィニアが真っ赤になったユリウスを見て慌てて走ってきた。

 それからというと現状説明の後信じてもらうのに時間がかかったのだった。


「わかりました。そのようにしてまいります」


 そういい残しフィニアは着替えの準備などに向かう。


「そういうわけでルミアは先に風呂に入ってくれ俺はタオルがあれば十分だから」


 そういうとサラが口を挟んで来る。


「おまえも一緒に入ってこい、そんな年齢で何言ってやがる」


 そんなこんなでルミアとユリウスは身包み剥がされ風呂に入っているのだった。


「とりあえずお前らの服は洗っとくからゆっくりしてこい。それととりあえず風呂から出たらクレアのとこ行っとけよ」

「わかってる」


 そう返すとサラはその場を後にした。


「ありがとうお風呂を貸してくれて」

「別にいいよ。あと敬語とか付けなくていいぞ。俺はタメ口の方が慣れてるから」

「わ、わかった。なるべく善処するね」


その後二人は髪の毛を洗い始めていた。



一方その頃アリサはと言うと。


「あ、サラなの。1つ聞きたんだけどお兄ちゃんっていつものとこって言ってた?なの」

「アリサか。ユリウスのことか?それなら今風呂に居るぞ。可愛い女の子捕まえてきてたし」

「え!?誰なの!」

「問い詰めるなら行った方が早いぞ。ついでに入ってこいタオル用意しとくから」


そう聞くとアリサは一目散に風呂場まで走って行った。

それをサラはなんか起きないかなと期待を込めた目で見送ったのであった。



それからしばらくが経ちユリウス達は体を洗っていた。


「お兄ちゃん!」


そう不意に響いたためユリウスとルミアの二人は驚いていた。


「ひゃっ!」

「うぉっ!びっくりさせるなよ」

「その子は誰なの」


ユリウスはそう問い詰められ今まで経緯を話し説得していた。


「ヒッ!あのとりあえず経緯はこういう事なんだ」

「本当なの?」


ユリウスはルミアにアイコンタクトをし何か言ってくれと援軍を頼んだ。


「実はカクカクシカジカということなのだ」

 

 ルミアはえっ!それで伝わるの的な表情をしている。


「そうなんだごめんね疑っちゃってたなの。サラがお兄ちゃんが女の子を捕まえてきたって言ってたもんで変な勘違いしてたなの」

「ううん、大丈夫だよ。いきなり知らない人がいたら誰でもそうなっちゃうから」

「うん、ありがとう」


 それからユリウスはアリサに一つ頼みごとをした。


「アリサ一つ頼みたいことがあるんだがいいか?」

「いいよ。頼みって何?」

「ああ、ギルに今日は行けない事を伝えて来てくれないかな。たぶん家に居ると思うから」

「わかったなのその後一緒に入ってもいい?」

「俺は構わないけど……」


 ユリウスはルミアに視線を移した。

 ルミアはコクコクと頷き自分も構わないと動作で示した。

 それを確認するとアリサは走ってその場を後にした。


「すまんな妹が驚かせちゃって」

「いいよ、気にしなし可愛い子の悪戯だから」

「たしかに」


 2人は微笑していた。

 そんなやり取りをしているとユリウスは先に体を洗い終わり湯船に浸かり始めた。

 その後ルミアも体を洗い終わると湯船に浸かり始めた。

 そのときタオルは体に巻いていなかった。

 子供同士のためあまり気にしていなかったのだ。

 そしてルミアはユリウスの隣に座った。


「ユリウス君はなんであのとき私の場所がわかったの?」

「ああそれならたまたま近くにいたんだ。いつもあの辺で剣の特訓とかしてるから」

「そうなんだ……」


 暫くの間二人は喋らずその場を沈黙が支配した。

 その沈黙を最初にルミアが破った。


「ねえユリウス君は普段なんて呼ばれてるの?そのあだ名とか」

「俺はよくユウって呼ばれてるよ。それがどうした?」

「その私もそう呼んでいいかな?」

「別にいいぞ。俺はあまりそういうの気にしない人だからな」


 そう話していると風呂の扉が勢いよく開け放たれそこからアリサがやってきた。

 そして湯船に飛び込んだ。


「ほら危ないから飛び込むな」

「むーわかったなの」


 その後ユリウスがルミアに妹のアリサを紹介した。


「ルミアよろしくね」

「うんアリサちゃんよろしく」


 それから暫く3人で会話を楽しみ風呂から出た。

 3人は体を拭き着替えていた。


「そうだ。ルミアこの後母さんの所に行くから心の準備しておいてな」

「うん、大丈夫だよ。もうここに来た時からできてる」

「なら良かった」


そう言っているとアリサが話に加わってきた。


「私も行くなの。ルミアも人数が多い方が安心でしょ」

「うん、ありがとうアリサちゃん」


ユリウスがふと思い出しアリサに話し掛けた。


「そういえばアリサお前オッドアイだったんだな今更だけど」

「えっ!?気付いてなかったの?」

「ほらいつもお前目の色を右目に統一するため色変えてたし俺がいつもの事すぎて気にしてなかったから」

「な、なるほどなの」


ちなみにアリサはいつも魔法かカラコンの様な物を使って目の色を偽装している。

その話を聞きルミアがびっくりしながらアリサの方へ向き直った。


「本当だ!アリサちゃんオッドアイなんだすごく綺麗」

「えへへ褒められると照れるなの」


アリサは少し頬を赤くしながらそう答えた。


「オッドアイは天才の証だって聞いたことある」

「え!?まじか」


ルミアが言ったことをユリウスは知らず驚いていた。

その隣でアリサも驚いてた。


「そうなんだ私天才なの!」


キリッとした表情でユリウスに胸を張って自慢していた。


「真の天才は自分で天才なんか言わないぞ。ってことはまだまだ未熟者だな」


そう言いながら頭を撫でた。


「ぶーお兄ちゃんのバカなの」

「仲がいいんだねユウ君達は」


 ユリウスは「だろ!自慢の妹だからな」と言った。


「それより早く着替えろ2人とも風邪引くぞ」


話に夢中になってルミアとアリサはパンツだけ履いた状態で話していたのだ。

ちなみにルミアがシマシマでアリサが水玉であった。

アリサ達はユリウスのそれを聞きすぐに着替えを再開した。


「うんルミア似合ってるなの」

「おお!なかなか可愛いぞ」


ルミアの着替えた後姿を見てユリウスとアリサは絶賛の声を送った。

それを聞いたルミアは頬を赤くしていた。


「よし準備もできた事だし行くか」

「うん」


ルミアが頷いていた。

その隣でおおーと言い行く気満々のアリサの姿があった。

それからしばらく歩き定番の執務室に着いた。

部屋の前にサラが壁に寄りかかりながら待っていた。


「おっ!来たか、入って大丈夫だとさ」


そう言うとユリウス達のためにドアを開けた。


部屋に入るといつもの仕事机に構えるクレアの姿があった。


「来たわね。待ってたわよ」


クレアは明るい笑顔でユリウス達3人を出迎えた。


「ルミアそんなに身構えなくてもいいぞ別にとって食われるわけでもないんだからさ」


そう言いルミアの頭をポンポンと叩いた。


「話は聞いているわ。ルミアちゃん大変だったね。その村の方達についてはとても残念だわ」


するとルミアは何かを思い出して俯いていた。

ユリウスの服を掴んでいたルミアの手に力が入っていた。


「早速で申し訳ないけど本題に入らせてもらうわ。ルミアちゃん貴女を養子として迎え入れようと思うの貴女の意見を聞かせて欲しいな」

「……お願い、します。もう私には帰るところがありません。お義父さんもお義母さんも死んじゃっただから……」


ルミアはそこまで言うと黙ってしまった。

自分の家族を失った事への整理がまだついてはいないのだ。

だがあの時ユリウスが言った言葉が救いになった。

それが今生きるための希望となりルミアの中で輝いている。

しかし家族を失ってまだほとんど日が経っていないため新しい家族を得るそんな感覚まだ抵抗があるのだ。

この時点から少し先の未来、ルミアは気持ちの整理がつき徐々に受け入れていくのだった。


「今回の件は本当にごめんなさいね。領主でありながらあなたの村の危機に間に合わなくて。これでは領主失格ね」

「お気になさらず。クレア様達のおかげで私たちは豊かな生活を送れて感謝していました。なので今回の件は誰も咎めたりしないです」

「ありがとうルミアちゃん。そう言ってくれるだけで十分よ」


そんなやり取りを聞いていたユリウスは暗い話題を変えようと決め口を開いた。


「とりあえずこの話はここまでにしよう。暗い話より今は今後についてとかな」

「そうね。……ルミアちゃん今から貴女にはスキル鑑定を受けてもらうわ。私たちの家族になったからにはしっかりした環境を用意しないとね」


それを聞きルミアは明るい声で「はい!」と答えた。


「それと私にちゃん付けはしないでルミアって呼んでください」

「わかったわルミア。それと私に様付けもいらないわよもう家族なんだから」


そんなやり取りをしている時クレアはサラをチラッと見て合図を出した。


「わかったわよ。ルミア今からスキル鑑定するからそのままにしててね」


そう言いルミアにスキル鑑定の魔法を使った。

サラはルミアに手をかざし何かを見ていた。

それから2分が過ぎた頃サラは鑑定魔法を解除した。


「終わったぞ。鑑定結果を模写するのに時間が掛かるから生活に必要な物を買ってこいよ」

「うん、ありがとう!」


ルミアは明るくそう返すと同時にアリサが飛びついた。


「ルミア何があるか楽しみだね」

「そうだねアリサちゃん」


そんなやり取りしてる中クレアはユリウスに小さな袋を投げた。


「その中に1万バリス入ってるわ。大分過剰かもしれないけどとりあえず予備も含めてるからよろしくね」

「母さん了解だ」


それを聞くとユリウスはアリサ達の方へ行き「ほれ行くぞ」と言った。


「はーいなの」

「うん」


それから屋敷を出ると丁度何かを買い行こうとするギルと鉢合わせた。


「おっ!ギルじゃないか」

「おお!ユウか今から買い物?」

「そうそうこいつの生活品の買い出し」

「その子は?」


そう聞くとルミアが前に出てきた。


「初めましてルミアって言います。よろしくです」

「僕はギルバート=S=メイザースよろしくねルミアちゃん」


自己紹介が終わるとギルはすぐユリウスの方を向いた。


「ユウもしかしてこの子が新しい子なの。家の人達がユウが誰かを救ってきたって言ってたから」

「そうだよ。それとあいつもおまけだ」


そしてユリウスが指を指した方を見たギルとアリサは「えっ!?」と声をあげ驚いていた。

そこにはヘルハウンドウルフの子供が座っていたからだ。

ユリウスはそいつに近づいた。


「そうだったお前に名前を付けないとな。うーんなんかいいのないか……白米とかいやそれだと食い物になるしうーむ……」


ユリウスはぶつぶつ言いながら名前を何にするか悩んでいた。

そこで前世にやっていたゲームに出てきた狼のキャラの名前を思い出しよしこれにしようときめたのだった。


「お前の名前はハクタクだ」

「ワン!」


ハクタクはそれが気に入ったのか尻尾を振りながら吠えた。

そして周りにいたアリサとギルはそれはいい名だと言いながら

ハクタクを撫でていた。

ハクタクも嬉しそうにしている。


「それにしても何かさっきより綺麗じゃないか」

「言われてみればそうだね。もしかして誰か洗ってくれたのかな」

「そうかもな。もしかしたらフィニアかもな、あいつ動物好きだから」

「でもこの子魔物だよ」

「何もしてこなかったからとりあえず洗ってあげた的なやつじゃない」

「そうだね」


とユリウスとルミアは楽しげに話していた。

この時のユリウスの予想は正しかった。

ユリウス達の経緯を聞いた後フィニアはこっそりハクタクと会い体を洗っていたのだった。


「ほれアリサ、ギル買い物行くんじゃなかったのか」


そう言うと各自返事を街へと出かけて行った。

街に入るとルミアが目を輝かせていた。

ルミアは滅多に賑わっている街へ行かなかったので久しぶりの光景に目を奪われていた。

するとアリサがルミアの腕を引っ張り早くいこーと言いたげな顔をしながら歩き出した。

それに吊られユリウス達も歩き出したのだった。


先にギルの買い物を済ませた一行は買い出し始めた。


「それにしてもユウと街に来たのって初めてじゃない?」

「言われてみればそうだな。いつも森に籠って稽古やら何やらなってたからな」


そんな感じで話していると女子達の会話も弾んでいた。

そうやっとアリサにも歳が近い友達ができ女子の話ができて喜んでいた。


「そういえば何買ったんだ」

「ああこれかい。これは帯剣する為のベルトだよ。前よりも成長したから新しいのにしたんだ。前のだと小さくなってきたから」

「なるほどね。俺はもはや枝だから関係ないかな」


そう言うとユリウスは笑った。

不意にアリサ達が止まりショーウィンドウの前に止まった。


「ねえアリサちゃんこのドレス可愛いね」

「そうだね。ルミアは結構似合いそうなの」

「そうかな?」

「そうだよ」


そんなふうに話していると女の店員がアリサ達に気付き店から出てきた。


「アリサちゃんじゃないの今日はどうしたの」

「この子の買い出しに来てるなの」

「おや可愛い子がもう1人。でもこの辺じゃあ見ない子だね」


店員はルミアの視線に合わせしゃがんでいた。

ルミアはお辞儀をして自分の名前を名乗ったのであった。


「初めましてルミアって言います」

「おやこれは丁寧にありがとうね。私はニア=マイルこのお店ビュートリアドレスの店長をしてるわ。ルミアちゃんこれも何かの縁だしこのドレス着てみるかい」

「うん!着てみたいです」

「なら店にお入り準備してあげるから」


そう言いニアは店に招き入れた。

ルミアはニアに連れられ店に入りアリサは小走りでユリウス達の元へ来ると手を引っ張り一緒に店へ入っていった。

店に入ると若い別の従業員のシェラが声を掛けてきた。


「いらっしゃいアリサちゃんにユリウス君達も」

「いらっしゃたのだ」


そう言いアリサはシェアとルミアについて話していた。


「なんか俺ら空気だな」

「しかたないよ」


理由は互いに察していたがあえて何も言ってたいなかった。

ルミアが来るまでの間ユリウスとギル店内の服見ていた。

アリサはシェラと話ながら着せ替え人形にされて色んな服を楽しんでいた。


「みんなどうかな?」


 そこには青と白そして一部の模様が赤で織られたドレスに身を包んだルミアの姿があった。

 そこにいた全員が感嘆の声をあげた。


「おお!似合ってるじゃねー可愛いぞ」

「ルミアすごく似合ってるの」


 ユリウスとアリサが褒めていた。

 勿論他の面子も褒めていた。

 それも聞いたルミアは恥ずかしくてもじもじしていた。


「うんうんやっぱりお似合いじゃない。それプレゼントするよ」

「え!?で、でも……」

「いいのいいの」

 

 ルミアを撫でながらニアはそういった。


「ほら他のも買いに来たんだろ少しまけるから買ってきな」

「なんでそこまでするんですか」

「さっき着てた服はアリサちゃんのだろってことは何か訳があって買い出しにきてるとみたからねどうだい」


 それを聞きユリウスが「おお当たってるすげー!」と言い感嘆の声をあげた。


「ほれそれに可愛いものも見せてもらったお返しだよ」


 それを聞きルミアは「ならお言葉に甘えて」と言いアリサと共に服を選びに行った。

 

「じゃ俺らは他の買い出しに行っとくか」

「だね付き合うよ」

「ニアさん俺らは他の買い出しに行ったってあいつらに言っといてください」


 ユリウスはカウンターに座っているニアへと向き直りそう言った。

 ニアは「わかったよ」と笑顔で返答しそれを聞いたユリウス達は別の買い出しに行った。



 それからしばらくが経ち屋敷の前で偶々別れていたユリウス一行とアリサ一行が合流した。


「お!アリサ達じゃねえか楽しめたか?」

「うん。ほらルミアの服とか色々買ってきたし久しぶりに街を散策できて楽しかったなの」


 アリサは手に持った袋を見せびらかせながら言い隣にいたルミアも楽しかったと笑顔で答えた。

 ユリウス達もいくつか買い出しをしたため袋をぶら下げていた。


「さて今日は日も暮れてきたことだしお開きかな」

「だねー。あ、そうだ一つ思い出したんだけど、ユウはおそらく聞いてるかもしれないけど今日僕の家のお風呂点検する日だからそっちにお邪魔するよ」

「聞いてねーよ。まあ楽しみに待ってるぜ」


 それを最後にギルと別れ解散した。

 屋敷に戻るとルミアの部屋に買ってきた物を並べ服はタンスへとジャンル順にユリウス達三人で整理したのだった。

 その際も今日の感想を言いながら会話が弾み楽しい雰囲気に包まれているのであった。



 夕食を終え3人はサラに風呂へ入る様促され入浴するのであった。

 そしてそこにはギルの姿があった。


「おいっす」

「おおユウ待ってたぞ」


 ユリウス達3人は体と髪を洗いお湯に浸かった。


「おいアリサ風呂で泳ぐなよ」

「はーいなの」


 そう言いながら泳ぐのをやめる気配がなくそれを見たルミアはあははと苦笑いしていた。


「ねえユウ君達っていつも何やってるの?」

「いつもは剣の稽古とか魔法の練習?的なのをやってるよ」


 ギルがそう答えルミアはそれに興味を示していた。


「見てみたい」

「いいよ。明日もやるし人数が多い方が楽しくできるから」


 ギルはユリウスの方を向いた。

 ユリウスはそれに同意の意を込めて頷いた。

 それを見ていたルミアは明日を楽しみにしたのだった。


「さてそろそろ俺は出るかな」

「じゃあ僕も出るよ」

「お前らはどうする?」


 ユリウスは振り返りアリサ達2人に声をかけた。


「私はもう少し浸かってくなの」

「私も」


 ユリウスはわかったと言いギルと共に脱衣所へ行った。


「そうだギル明日は午前中は父さんと剣の稽古やることになったからすまないけど午後からでいいか?」

「奇遇だね僕も明日は父上と稽古することになってたんだ。だから気にしないで」

「了解だ。お互い頑張ろうぜ」

「うん」


 そうしてユリウスとギルは脱衣所を出て各自の部屋へと別れたのであった。


 それから二時間が経過した頃ユリウスは自室で武器の開発に勤しんでいた。

 設計図はそれなりの出来栄えであった。  

 完成にはまだもう少し掛かりそうだ。

 そして一部の部品の加工に取り掛かった。

 その部品は外見のパーツであった。

 加工の練習もかねて一番簡単な部分を作成していたのだった。


「ふう。こんなもんかね。とりあえず今日のところはこれくらいにして寝るかな」


 そう言うと水を飲んで寝ようと思い椅子から立ち上がり部屋から出ようとした時だった。

 誰かがドアをノックした。

 ユリウスはそのままドアの方へ向かい扉をを開いた。

 そこにはパジャマ姿で自分の枕を持ったルミアが立っていた。


「どうした?ルミア」

「その怖くて眠れなかったんです。またあの時の様な事が起きるかもって思っちゃてだから一緒に寝てもいいかな?」

「いいよ。でも先水を飲みに行きたいからそのあとでね」

「うん!」


 不安がなくなったのかルミアは明るい声で返事をした。

 そして楽しく会話を弾ませながらユリウスは水を飲みに行き部屋に戻るとルミアと共に寝たのであった。

いつも読んで下さり有難うございます。

『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマークをしていただけると嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。


次回は木曜日の12時の更新する予定です。

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