第四十九話 話をしよう
「サタン、神はさらにこの上にいるのか?」
頭上を指差し彼女に問う。激戦が終われば、そこは雲が広がるだけのひたすら静寂の世界。上天の陽光、あれが神だったりするのだろうか。
「どうかなあ。お姉ちゃんが会ったときはいきなり頭上に光が現れたけど……」
腕組みして首をひねる。ではオフィエルはと見れば、腰に手を当て首を横に振る。こっちも駄目か。ならば正攻法で呼んでみるか。
「神! 出てこい! 貴様はすでに裸玉同然!! もはや天使の軍勢は潰え、貴様を崇め畏れる者は居ない! 人は、すでに新たな道を踏み出したのだ!」
我ながら安い挑発だなあ。
「良かろう、異世界からの来訪者よ。話をしよう」
おお。なんでもやってみるものだな。一拍置いてエコーのかかった老いた声が響き、目の前に光球が現れたではないか。
「飲め。毒など入っていないぞ」
一瞬後に、異常事態が起こった。目の前の白い木製のイスに白い長髭の禿頭のジジイが座っている。それはまだいい。しかし、周囲がどこのパラダイスとも知れぬ有様になっていたのだ。
青い空、さざなみの音、青い芝生にヤシの木が生い茂っている。目の前の白い丸テーブルには縁に柑橘類の輪切りを添えたグラスに入った、カットパインとバニラアイスが浮かぶ、蛇腹付きストローが刺さった氷入りの青い炭酸飲料が四杯。そして、俺は席についていた。サタンが俺から見て右手、オフィエルが左手に同様に着席している。いきなり時間も空間もぶっ飛んだ感覚だ。幻術か? 嫌な汗が滲む。
神と思しきジジイを改めて観る。赤いアロハシャツと白のハーフパンツというくつろいでいるにも程がある衣服に身を包み、美味そうに俺に出したのと同じものを飲んでいる。サタンもオフィエルもこの姿は初めて見るのか、あっけにとられているようだ。
「久しいな、お前のような異世界……いや地球から来た者は。しかも日本人ときたか。同郷のよしみだ、この世界について教えてやろう」
同郷、だと……? 目の前のグラスの氷がからん、と音を立てた。




