第四話 少女な少年
アナエル襲撃の翌朝、後詰めが来た。千人弱に及ぶ魔導師と、肉体労働担当の男たちが、魔導師よりやや少ないかぐらいだ。むろん、補給物資もある。
葬儀の後、魔導師たちの死体は埋葬された。安らかに眠るがいい。仇は必ず取ってやる。
「お召し物が出来上がりましたので、お試し下さい」
ユコが俺の新しい服を持ってきた。そういえば、帝都で一泊した時採寸したんだったな。袖を通してみると、黒いローブだった。帝国では、黒は高貴な色とされているらしい。実に肌触りがいいし、何より俺は黒が好きだ。
「うむ。気に入ったぞ」
そのとき、ラッパの音が鳴り響いた。ユコによれば、食事の合図のようだ。連れ立って食堂に向かうことにした。
砦というからには当然、戦のための無骨な施設なわけで、VIP室のようなものはない。なので、皆と一緒に食事を摂る次第である。帝都でも経験しているが、食卓を囲むというのは、実に懐かしい感じがする。俺、引きこもりだったものな。
あまり期待はしていなかったが、やはり食事はパンと謎のハムっぽい肉である。早く、まともな農業をできるようにしてやりたいものだ。
それにしても、視線が気になる。もちろん、その主は斜向かいのフォルである。何度かそちらを見ると、彼女は慌てて視線を逸してしまう。幾度か目が合ったときは、慌てて互いに視線を外した。なんともはや、面映い。
「ユコ。そう言えば気になっていたのだが、この世……地上では近頃、男も女装するのが普通なのか? 見た所、他の男の召使いは女装をしていないようだが」
どうにも気恥ずかしいので、横に座ってパンを食んでいたユコにパスを放り投げた。
「私の場合は、皇帝陛下にお赦しをいただききました。私、産まれてこのかた、自分を男だと思えたことがないんです」
あれか。性同一性障害というやつか。
「そうか。ならば、我も漆黒の堕天使ルシフェルの名に於いて赦そう。大手を振って生きるが良い」
ユコの頭をポンポンと叩くと、彼は上目遣いでもじもじし始める。若干頬も紅いような。これはあれか、落としてしまったのか。チョロ過ぎるだろう、君も……。ユコに放ったパスは、ラブ光線というビーンボールとなって返ってきたようだ。