第四十二話 そうだったな、お前は中立だ
「コキュートスを流るる死の江流よ! 全てを凍てつかせるその無情を以て、我が敵を砕け!」
セクンダディに有無を言わさぬ反撃をかける。この魔法で、少なくとも三人は瞬殺できるのは保証済みだ!
しかしどうしたことか、まるで効果がない。敵を包んだ冷気の塊が、雲散霧消してしまったのだ。もしや、何らかの強化をされているのか!?
ならば、これはどうか!? この世界で最初に使ったあの魔法で、数を以て制する!
「光輝の魔弾よ、深淵の魔より出し力よ、敵を穿て!」
矢継ぎ早に詠唱を終えると、幾多もの光の矢がセクンダディに襲いかかるが、いずれも不自然な軌道を描いて逸れてしまう。
やはり何かがおかしい。俺の魔力が弱まったとか、敵が強化されたとかそういう感じではない。ケルビエルに魔法を防がれた時とも違う感覚だ。サタンを始め、近くに居た魔導師からも援護射撃が飛ぶが、やはり魔法は弾かれるというより、逸れる。これは絶対何か仕掛けがある! 観察だ、注意深く観察しろ……!
「無駄だよ、ルシフェル! 君は為す術もなく、死に果てるのさ!」
ラファエルの雷撃に氷塊と二本の槍、大鎌の二度目の集中攻撃を食らい、障壁にヒビが入った。ベルたちの障壁が破られそうになったことはあるが、俺の障壁にヒビが入るのは初めてのことだ。ついオフィエルを見るが、彼女は両手の掌を顔の横手前で広げ、首を横に振る。そうだったな、お前は中立だ。
いささかピンチだが、ここが粘りどころだ。何か打開策はないか!? ……待てよ。さっきから来る攻撃は五つ、五人分だ。六人目は何をしている? ここに何かありそうだ。確かめる必要がある。
「魔の魅惑に魅入られし光の波導よ! 猛り狂いしその熱情の力を開放せよ!」
唯一動きのない六人目、波打つ短剣を抱えた女天使を注視しながら魔法を放つ。光の束がやはり不自然なカーブを描いて逸れて行くが、その際に六人目の掲げている波打つ短剣が鈍く光を纏うのを見逃さなかった。
「サタン、あれだ! あの波打つ短剣を奪い取るんだ!!」




