第三十四話 皇帝バフォメット
「宮殿にご案内致します。ルシフェル様、こちらへ」
時間は、フォルたちを紹介され、ベルの後に付いて宮殿へ向かう所に遡る。
皇女に先導され前方に見える巨大な宮殿へと向かうが、もの凄い熱狂だ。誰も彼もがルシフェルの名を讃え、俺目掛けて押し寄せようとしてくる。ベルが素早く人間バリケードを組んでくれなかったら揉みくちゃにされていただろう。
興奮した魔導師が一人、命令違反を犯して飛びかかろうとしてきたが、ベルによって鮮やかに群衆の中に投げ飛ばされた。一瞬の出来事でよく分からなかったが、爆乳が印象的な奴だったな。
サービスの意を込めて片手を挙げると、声援がより一層強まる。いやはや、まるで芸能人……いやそれ以上だ。しかし、この声は『俺』ではなく、コテハンと同姓同名の『ルシフェル・アシュタロス』に向けられたものなんだよな。あのウリエルなる大天使を倒したのは、間違いなく俺自身の力なのだが、そう思うと少し切ない。
◆ ◆ ◆
「待て! 待ってくれないか!」
ベルの歩調に合わせて十分ほど歩いたら息切れがしてきた。俺、ヒッキーなんだぜ。歩くの早いよ、お前!
「もう少しゆっくり歩いてくれ。あれだ、ジュデッカが永かったものでな」
「申し訳ありません! 考えが至らず……」
深々と頭を下げられてしまった。そこまで恐縮されると、むしろこっちが申し訳ない気分になる。どうも、俺の言葉は思った以上に絶対的なもののようだ。発言には気をつけなければ。
ペースを落としてゆっくりとさらに十五分ほど歩くと、城門にたどり着いた。槍を持ったコテコテなファンタジーの門衛が敬礼し、扉を開ける。
これほどの大宮殿だからどれほど豪奢な内装が出迎えてくれるかと思ったら、造りは質素なものだった。代わりにと言っては何だが、四、五十人の召使いが出迎えてくれる。基本男が多く、女はかなり歳を取った者だけだ。いかにもな若いメイドは一人しか居ない。魔導師隊を見て思ったことなのだが、どうもこの世界では若い女が戦力として重要で、そちらに女手を割かれているようだ。
「早馬から伝わっているでしょうが、ルシフェル様をお連れしました。陛下は?」
「ご自室にて、ルシフェル様と殿下をお待ちでございます」
一番位が高いと思われるメイドがベルに返答する。自室とな? 玉座の間とかそういうのではないのか?
「分かりました。ルシフェル様。皇帝は足が不自由であります故、自室で謁見するご無礼、ご容赦ください」
深々と頭を下げる皇女。そういう事情があるなら仕方ないわな。ていうか、俺が一国の皇女だの皇帝だのからこうも丁重に扱われるのは何とも奇妙な感じだ。ついさっきまで、ネットで糞どもと罵り合いをしていたのが、文字通り世界が変わってしまった。
◆ ◆ ◆
「陛下、ベルです。ルシフェル様をお連れしました」
意匠を凝らした扉の前でベルがノックすると、ややあって、「お入れしなさい」という返事が返ってきた。
中に入ると、天蓋付きのベッドに、ヒゲを蓄えた中年男性が侍従に助け起こされながら座っていた。彼が皇帝か。その姿は痩せこけており、威厳は無きに等しい。
「第二代皇帝・バフォメットと申します。漆黒の堕天使様に対し、このような形でのお目通りご無礼の極みかと存じますが、足が不自由でございますれば平にご容赦を」
「そう気に病まぬで良い。やむを得ぬ事情というのは誰にでもある」
深々と頭を下げ謝意を示す皇帝を、手で制する。
「皆の者、ルシフェル様と折り入って話がしたい。二人きりにしてほしい」
皇帝の声を受け、皆退出していく。後には、我々だけが残った。
「ルシフェル様。失礼ながら、貴方様は伝説の漆黒の堕天使様ではございませんね――?」
声を潜め、彼はそう問うた。
今回のおまけは、登場キャラの精神コマンドです。何故か唐突に書きたくなったので(笑)。
ルシフェル 努力、直感、鉄壁、熱血、覚醒、奇跡
ベル 努力、直感、理想、希望、期待、愛
フォル 努力、閃き、集中、分析、激励、愛
シトリー 不屈、根性、鉄壁、必中、信頼、愛
ウィネ 信頼、応援、祝福、信頼、再動、愛
ユコ 信頼、応援、献身、補給、再動、愛
マルコ 脱力、不屈、ド根性、突撃、気合、愛
サタン 偵察、脱力、加速、直感、愛、魂
シェム 追風、感応、激励、先見、かく乱、愛
オフィエル 偵察、追風、絆、かく乱、補給、再動
なんという愛祭り……。そして予想通り壊れてるルシフェル。




