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第三十三話 故郷に響く歌

 ザイドハーマの城壁が見えてきた。後方から、ラドネス語の歌が聞こえてくる。ザイドハーマを称える歌であることから、ここの市歌を出身者が歌っているのだろう。歌声が、徐々に大きくなっていく。


 城壁内部に入ると、ここも今まで開放してきた都市のように廃墟である。海に面しており、潮の香りが漂ってくる。かつては栄えた港街だったのだろうが、その面影はほぼない。帝国が撤退したのは、もう一年以上も前のことらしい。


「ルシフェル様。この者たちが、ぜひお礼を申し上げたいと」


 高台から海を見下ろしていると、背後からベルに話しかけられた。振り返ると、千人近い魔導師隊と少数の旗持ちが(ひざまず)いて控えていた。


(おもて)を上げよ」


 声をかけると、先頭の魔導師が顔を向け、語り出す。


「私たちは、ここザイドハーマの出身です。生きてこの地を再び踏めるのは、ルシフェル様のお力のお陰です。我ら一同、感謝に堪えません!」


「いや、お前たちあればこその戦果だ。胸を張り、故郷に誇るが良い」


「もったいなきお言葉!」


 彼女が深く頭を下げる。


「皆、ルシフェル様はお疲れです。そろそろ持ち場に戻りなさい」


 ベルの命で一斉に起立、敬礼し、去って行った。


 ただの引きこもりだった俺が、千人、いやそれ以上の人間の尊敬を集めるようになろうとはな。


 思い出すな。この世界に召喚され、皇帝と会ったあの日のことを――。

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