第三十話 ミカエルの懊悩
天界の円卓で、ミカエルは一人頭を抱えていた。ルシフェル率いるラドネス軍の猛攻で、大陸の地図が十数年ぶりに人類色に塗り替えられつつあった。天使の数も、およそ最盛期の五割近くまで落ち込んでいる。ラドネスが戦勝報告を他国にも飛ばしているのであろう、多方面の反乱も活発さを増しつつあった。
ウォッチャーの報告によれば、あのオフィエルまでもが積極的にルシフェルらを支援するものではないが、離反したという。
戦力の逐次投入など愚の骨頂であるが、これは神の命である。
実のところ、神になぜ総出でルシフェルを討たないのかと秘密裏に問うたことがある。しかし、返ってきた言葉は一言、「お前の知る必要のないことだ」というものであった。
ラファエルがそれでも多数を以て戦うべきだと述べたが、その意見は却下した。自分の立場としては、そうせざるを得なかった。
サタンを解き放ったことなども考えると、不敬な疑念がどうしても鎌首をもたげる。
「フッ……」
変な笑いが溢れた。そしてその笑いは、虚しい馬鹿笑いへと変わっていった。
◆ ◆ ◆
ラドネス軍は『獣』を哨戒に就かせ、そのだいぶ後方に俺とゆかいな仲間たちを先頭とした集団を形成して行進していた。何ぶん俺が異様に強い上に、敵側が散発的に戦力をぶつけてくるので、さしたる被害も出ずに連戦連勝である。ことに最近は、以前よりもより魔力が増していると感じる。
次の目的地ザイドハーマを奪還すれば、そこをやや南下したところにヴェイヴァルがあるらしい。この東進は、旧拠点を固め直さずに、電撃的にひたすら進撃する方策を採っている。兵站線は伸びる一方だが、それほどに、皇帝やシェム将軍はエテメンアンキの早期入手が重要事項と見ているのだろう。
『獣』が咆哮を上げた。どうやら、新たな天使軍と遭遇したようだ。
今回のおまけは地名についてです。
実は書き始め当初は、世界の伝説に出てくる冥界や堕落した都にちなんだ名称で統一しようとしていたのですが、「調べる苦労の割に誰も喜ばない」ことにはたと気づき、テキトーな名前をでっち上げる方針に切り替えました。
「ラドネス」は、カルドセプトに出てくる竜クリーチャー「ラドーン」から取りました。
「バルム」は、完全に語感だけで作った適当な名前です。
「パダール」は、「リスパダール」という薬がファンタジーRPGの都市っぽい名前だなと思って捩りました。
「ヴェイヴァル」は、以前書いた通り「バベル」の捩り。
「ザイドハーマ」は、昔RPGツクールで横浜のパロディで「サイドハーマ」という街を出したのが元ネタです。
ちなみに、作中には今のところ名前が出てきてませんが、帝都は「ルンドンベア」という名前で、これは昔から私がTRPGなどで王都をでっち上げるときに多用していた名前です。




