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第二話 バルム砦奪還戦!

「ルシフェル様! 夜が明けたら、早速バルム砦を奪還しましょう!」


 適当呪文で『六六六の獣』をインフェルノに送還していると、ベルが提案してきた。


「そう言えば、そこが落ちたとか伝令が言っていたな。どのくらいの距離があるのだ?」


「およそ四十セグタルです」


 何だよその単位。


「む。ジュデッカが永かったものでな。その……セグタルとやらで例えられると分からぬ。そうだな、乗り物でどのぐらい時間がかかると訊き直そうか」


「馬で行けば、およそ丸一日です」


 馬か。文明レベルは、やはりそのあたりなのか。でも俺、馬なんて乗ったことねえよ。


「その、あれだ。そこは馬車で頼む。ジュデッカが永くて馬の乗り方はとんと思い出せぬのでな」


 でまかせで言った割には凄え便利ワードだなー、「ジュデッカが永かった」って。


かしこまりました。用意させます!」


「うむ。しかし、ここの守備はどうする? また天使が襲ってこないとも限らないだろう」


「はい。そのことですが、選りすぐりの少数精鋭でバルム砦に向かおうかと思います。ルシフェル様のご負担が大きくなりますが……。シトリー! ウィネ! フォル!」


 ベルが背後の魔導師隊に振り向き呼びかけると、三人の少女が前に進み出た。


「ボクはシトリー・カイムです! で、こっちが……」


「ウィネ・ストラス……です」


 見事なAAカップの、快活そうなブロンドショートカット猫耳&猫尻尾少女が威勢よく敬礼する。彼女に促され、Aカップぐらいのシルバーブロンドショートカット猫耳&猫尻尾少女が、もじもじと消え入りそうな小声でシトリーの背後に隠れがちに続いて自己紹介。


「フォル・ネウスです。今後とも宜しくお願い致します」


 長いブロンドの、現代風の眼鏡をかけたクールな雰囲気の少女が、眼鏡のブリッジをくいと上げながら言う。


「この三人と私、そして世話役一人で、ルシフェル様と共に出立する予定です」


 そんな陣容で大丈夫か? まあ、俺が居ればどうとでもなる気はするが。


「宮殿にご案内致します。ルシフェル様、こちらへ」


 ベルが後に付いてくるよう促すので、それに続いた。


 ◆ ◆ ◆


 翌朝。宮殿にて皇帝バフォメットとの謁見後、アニメや漫画でしかお目にかからんような最高級のベッドで一睡した俺は、外でチュンチュンと鳴く小鳥の声で目を醒ました。この世界でも、朝は雀っぽい鳥なんだな。


 それにしても、自室の安ベッドと違って寝心地の良いことよ。一方、昨日出された食事はパンとハムっぽい肉とついでに酒の質素なものだった。昨日の皇帝や臣民の熱烈歓迎ぶりや、こんな部屋に通すということは最大限の歓待をしているのだろうから、食糧事情がかなり厳しいのだろう。


 呼び鈴を鳴らすと、ノックの後、小柄な黒髪おさげの、いかにもな格好のメイドが入ってきた。ただし、まだ十二歳の少年・・だ。名前はユコ・バック。彼が世話役として俺たちに付いてくるらしい。


「お早うございます、ルシフェル様」


「うむ。早速だが、朝食を所望する」


「はい! 直ぐに用意させます!」


 彼はぺこりと頭を下げ、ぱたぱたと駆けていった。さて、飯までの暇つぶしに今後に備えて、中二魔法詠唱のレパートリーでも考えておくか。


 ◆ ◆ ◆


 簡素な朝食を済ませ、ユコに案内されて城門に着くと、馬車とベル、そして多数の見送りが待っていた。俺の姿を見ると、皆が一斉にひざまずく。


 ベル、ユコと共に馬車で揺られて、城門付近で騎乗して待っていたシトリー、ウィネ、フォルと合流し、バルムへと向かう。しかし、馬車の乗り心地はどうにも今いちだ。空気タイヤというのは優れものなのだなあ。


 道中、対面に座っているベルに対し、必殺ワード「ジュデッカが永かった」を盾に、色々とこの世界のことを聞き出した。



 太古の昔、神を裏切り人類に知恵をもたらしたした漆黒の堕天使ルシフェル・アシュタロスの伝説がある。彼は大天使たちによって深淵の最奥ジュデッカに封印された。


 二十年前、当時絶大な権力を持っていた教皇を倒して、人類と神との敵対関係が明確になった。


 またそのすぐ後、人類の粛清に現れた『チェルノブイリ』という大天使を倒した際に遺された呪いで、若い女しか魔力を持てなくなった。


 それ以降、天使による大攻勢が行われている。


 諸外国と連携して天使と戦っているが、ほぼ壊滅状態である。


 文明レベルはやはり中世ヨーロッパあたりだが、眼鏡や印刷、遠洋航海、衛生や人権意識など、一部発達した技術・概念がある。


 俺達が会話に使っている日本語が、この世界では魔法語であると同時に上級会話言語。ユコはメイドにしては教養があるので使えるらしい。


 天使は魔法でしかダメージを与えられない。


 天使は東の空から来る。


 セクンダディと名乗る、天使を指揮する七人組の大天使が居る。



 分かったのは、このあたりだ。


 夜はテントを張り休み、夜が明けると森の中の道を征くという道のりを経ていると、先行していたシトリーが馬を下げてきた。


「ルシフェル様、ベル様。前方に天使を発見しました」


「ご苦労。ルシフェル様、この先馬車は目立ちます。非戦闘員の御者とユコ共々ここに待機させますので、ルシフェル様は私と一緒に馬にお乗り下さい」


 ベルの提案で、二人乗り用の追加把手を鞍に取り付け、俺とベル、ウィネとシトリーがそれぞれ二人乗り、フォルは引き続き一人乗りで、木陰に隠れるように行軍することになった。馬の二人乗りは、手綱を持つ人間が後ろに乗るものらしい。従って、ベルのたわわな胸が何かと背中に当たって、ラッキースケベ状態である。照れ臭いじゃないか……。


「ルシフェル様、間もなく森を抜けます! 戦闘のご準備を!」


 背後からベルが語りかけてくる。一行は脚を早めて、森を抜け開けた草原に踊り出て、そのまま障壁展開の魔法と光の矢の魔法で奇襲をかけた。彼方に石造りの城塞が見える。あれがバルム砦か。俺も、戦いのお供『六六六の獣』を召喚する。奇襲に気付いた天使たちが雲霞のように押し寄せて来るが、獣のアシストとベルたちの魔法に加え、俺の爆裂魔法で次々と叩き落としていく。


 しかし、快進撃を阻むかの如く、いきなり地面から石塊が突き上がり俺たちは跳ね飛ばされそうになったが、すんでの所で馬体を捻って躱した。一回り大きい、筋肉質で浅黒い肌を持つ短髪の六枚羽根の、いかにも脳筋という風体の天使が上空でポージングしながら名乗りを上げる。


「俺様はセクンダディが一人、ザカリエル! その黒衣、ルシフェルと見た! ウリエルの仇を討たせて貰う!! 剛頑なる石岩よ、矢弾となりて敵を討ち滅ぼせ!!」


さかしい!! 天魔のまといし炎龍よ! 百八の業炎の刃と化し、全てを焼き尽くせ!!」


 ザカリエルが虚空に大量に出現させた岩石弾と、俺の呼び出した炎龍が激しく激突する。競り勝ったのは炎龍の方だった。岩石弾を蒸発させた炎龍たちは、そのままザカリエルを縛り上げて肉体を焼き、ザカリエルは苦痛の叫びを上げる。


「せめてもの情けだ、楽にしてやろう。爆ぜよ!!」


 炎龍が一斉に爆裂炎上し、ザカリエルは断末魔と共に蒸発した。



 残りの天使を始末して砦に着くと、出迎えたのは魔導師隊の死体の山であった。凄惨さに思わずえずきそうになるが、みっともないところを見せたくないので、ぐっと我慢する。ベルたちが黙祷を捧げるので、これがこの世界でのポピュラーな死者の送り方なのだろう。俺もそれに倣い黙祷する。同時に、もう一つ察したことがある。この世界には、蘇生魔法などという便利なものはないのだと。


 手厚く埋葬したいところだが、なにせ人手が足りない。補給物資を残して、俺達が乗ってきた馬車を伝令として飛ばし、後詰を待つ。


 奪還した砦を死守するのが当面の目的ではあるのだが、空を飛んで魔法で攻撃してくる天使相手に、あまり役に立たないと言えば立たない代物ではある。死体と一緒に二日間過ごすのも気分のいいものではないので、やや離れた場所で野営することになった。

 おまけコーナーです。


 セクンダディなる名前を知ったのは、ナイトゥルースというクソゲーでした。私がやったのはマリアとかいう続編でしたが、説明書には「選択肢を選ぶ」とか書いてあるのに、実際には選択肢絶無というひどい代物でした(笑)。


 最近になって、手元の「地獄の事典」を読んでましたら、この名前を発見。七人の天使らしい。よし、こいつら使ってみよう……と思い立ったのが、彼らの登場の発端です。


 天使学ではウリエルと入れ替えでアナエルという天使が入ってくるとのことで、作中でもそれに倣います。


 ちなみに、ウリエルは「聖書の正典に登場しないから」という理由で、カトリック教会よって堕天使扱いされたことがあるそうです。


 大天使チェルノブイリは、黙示録に出てくる天使ニガヨモギ(ウクライナ語でチョルノブイリ)がチェルノブイリ原発事故の予言ではないかという説が元ネタです。


 ただ、実は原文のニガヨモギとチョルノブイリは違う植物で、この説は信憑性が低いです(オカルトに信憑性も何もない気がしますが)。


 しかし、この作品のテーマは中二病ですので、中二病的な予言論の方を採用しています。


 ザカリエルは、もとの天使としてのキャラは調べてもよくわからなかったのですが、「土属性は噛ませ」「でかいマッチョは噛ませ」という少年漫画のお約束に忠実なキャラとして出しました (笑)。


 軍馬については、人二人乗せて走れるのか? というのがどうしても分からなくて(100キログラムぐらいはいけるというのは一つ発見しましたが、走れるかまでは不明)、「異世界だから」に結局ぶん投げました (汗)。

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