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第二十八話 ユコの憂鬱

 ラジエル騒ぎで一日遅れたが、昼過ぎ、帝国軍三十万はついにパダール出立の準備を整えた。やはり全員騎馬というわけにはいかず、俺の立てたヴェイヴァルまで二十五日という予想よりはずっと遅れそうである。


「はあ~~~~~~……」


 これからいざ出陣というのに、ユコが辛気臭い長いため息を吐く。実は、今朝からずっとこんな調子だ。


「何があった、ユコ。悩みがあるなら話してみよ」


 どうにも見ていられなくなって、問うてみた。少し悩んだ末に、こう切り出してきた。


「赤ちゃんを産みたいんです」


 これまたぶっ飛んだ答えが返ってきたものだ。


「今朝、館の前を掃いていたら、妊婦さんを見かけまして。子どもを産めない自分の体が、凄く悲しくなってしまったのです」


 うーむ、いやはや。性同一性障害者の悩みというのはかくも深いのか。性転換魔法でもあると良いのだが。


 実は以前、ものは試しとユコに性転換の魔法を試したことがある。もちろん、前例などないからでっち上げた詠唱をあれこれ試すというものだった。しかし、どれも上手く行かなかった。無から麦畑まで作れるチート能力の持ち主としては、プライドが傷つく限りだが、ユコに絶望を与える結果にしかならなかったと思うと実に心が痛む。何とかしてやりたい。


 そんな思案を巡らせていると、知識と知識が化学反応を起こし、突飛なアイデアに化けた。傍らで指揮をしていたベルを呼び止める。


「ベル、妊娠した馬は居ないか? 同行させてほしい」


「妊娠した馬ですか? ……分かりました、連れて行かせます」


 また突然何をこの人は言い出すのかという顔をしていたが、俺のこうした突飛な言葉は常に科学という結果を伴ってきた。だからベルも、俺がまた新たな奇跡を見せるつもりだと気付いたようだ。


「あと、毛糸と小石と砂利、砂、消し炭と底を切ったワインボトルを用意してくれ。なるべく多い方がいい」


 ベルがメモを取り、通りがかりの作業員に渡す。思いついたのが街を出る前で良かった。


 それでは、いざ出発!

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