第二十四話 エテメンアンキ
「今からはるか昔にね、ヴェイヴァルっていう都市に天界に行こうとした人間たちが居たんだ。その人間たちは天界まで届く翼、魔導具『エテメンアンキ』を作ったんだけど、主の怒りに触れちゃって、皆殺し! 街もエテメンアンキも壊されちゃったんだ」
「ロマンのある話だが、壊れた物の昔話をされても反応に困るぞ」
「お兄ちゃん察し悪いなあ~。ヴェイヴァルに行けば、壊れてないエテメンアンキがあるかも知れないじゃん」
口を尖らせ、足をぶらつかせながらオフィエルが悪態をつく。ああ、元々こんなキャラだったな。調子が戻ってきたということだろうか。ただ、リリス状態が恋しくもある。
まあ、神を倒すには天界に行く必要があるのは確かだ。可能性がゼロでない以上、探してみる価値はある。現物がなくとも、設計図とかが残っているかもしれない。
「で、ヴェイヴァルというのはどこにあるのだ?」
「ここから東に千セグタル行ったところだね」
出たな、謎単位セグタル! 確か帝都から砦までが四十セグタル。馬で一日かかったから、単純計算で二十五日の道のりになるわけか。
「サタンはヴェイヴァルについて何か知らないか?」
「ちょっと分からないなー。お姉ちゃんが封印されたのより後の出来事なんじゃないかな」
肩をすくめ、首を振るサタン。そのオーノージェスチャーはやめなさい。
「ふむ。では当面は東に進軍しつつ、ヴェイヴァルを目指す方向で行こう」
「ルシフェル様、ただいま戻りました」
間がいいのか悪いのか、皇女様のご帰還である。今に至る話をかいつまんですることにした。
◆ ◆ ◆
「リリスがあのオフィエル? ご冗談でしょうルシフェル様。皆も、私を担いでも何も出ませんよ?」
髪を持ち上げてツインテール状態にしても信用せんのか。意外と疑り深いな、お前。
「確か三年前の夏、ベルお姉ちゃんは死ぬほどこっ恥ずかしいポエムを書いてたよ。内容はね~、鳥はなぜ歌うの 空はなぜ青いの 教えて風の妖精さん――」
「信じますっ! 信じるからやめてぇーッ!!」
目を閉じ、人差し指を立てて得意げに諳んじるオフィエルの口を、ベルが真っ青になって塞ぐ。ああ、黒歴史なんだな。オフィエルもしょうもない盗み見にウォッチャー使ってんじゃないよ。当時どれだけ暇だったんだよ。
とりあえず、これにて一件落着である。
またベルに変な属性を付けてしまいました。皇女様の明日はどっちだ!?
今回のおまけはエテメンアンキについて。
エテメンアンキはバベルの塔のモデルとも言える建造物です。この名前を知ったのは、「ゼノギアス」というゲームで、ゼノギアスでは天空の都市として登場していました。最近これのことを思い出し、調べてみたら「こりゃあ使える!」と思って、「天界に近付くために作られた翼」という解釈にして登場させた次第です。
ちなみに、ヴェイヴァルは、バベルのアナグラムに、中二病でありがちな「BとVを混同して置き換える」要素を付け加えて命名しました。




