第十話 幼女拾いました
ベツレヘムとヴィクターの襲撃でまた一日伸びてしまったが、パダール奪還のために攻略チーム再出発から二日目が経過した。
サタンももちろん、強引にというか、勝手に付いてきている。
しかし、空を飛べる偵察要員と望遠鏡の組み合わせというのは至極便利だ。これまでも何度か天使と遭遇したが、いずれも先制攻撃で難なく倒すことができた。
「ルシくーん」
暖かい日差しの中、馬車に揺られていると、またサタンが前方から戻ってきた。今度は何だ?
「どうしよう、子供拾っちゃった……」
は? 何ですと?
馬車から顔を出し、横でホバリングしているサタンを見れば、その両腕に、気を失った白いシミーズ姿の金髪幼女が抱えられていた。
◆ ◆ ◆
「さて、どうしたものかな」
馬足を止め、この子をどうするかという話になった。シートの上に寝かせた彼女を、皆で囲んで相談することにした。サタンはまた哨戒に出ている。
サタンが言うには、道端で倒れているのを見かけ、気は失っているものの、呼吸はしていたので連れてきたとのことだ。
「やはり、砦まで連れて行ったほうがいいんじゃないでしょうか?」
「でも、パダールの防御を固められるかも」
ウィネの言葉にシトリーが疑問を挟む。ウィネの意見はもっともだが、シトリーの言うこともわからないでもない。すでに天使と交戦している以上、ウォッチャー経由で防備が固められつつあるだろう。
「彼女が起きたら、二人乗りで砦まで連れて帰りましょうか」
フォルが折衷案を述べる。確かに、それが一番いいかもしれない。
「ん……」
フォル案を採用しようかというそのとき、幼女の意識が戻った。
ベルがラドネス語と思われる言葉で優しく話しかけたが、幼女はベルを見てぽかんとしている。
「耳が聞こえないわけではないようですけど、言葉が通じないみたいですね」
「魔法語で言ってみたらどうだ? 物は試しだ」
首をかしげるベルに、思いつきを言ってみる。
「大丈夫? 痛い所とかない? お名前は?」
ベルが改めて、魔法語で問いかける。
「痛いところは……ない。名前は……」
言葉が通じた! 何でもやってみるものだな。少し朦朧としてるものの、身体に異常はないようだが、名前を思い出そうというところで、彼女が固まってしまった。
「ひょっとしてあれか。記憶喪失というやつか」
きょとんとした顔で幼女が俺を見る。
「呼び名がないのも不便だ。そうだな、リリスと呼ぶことにしよう。構わぬか?」
こくりと彼女が頷く。そのとき、敵襲を知らせるサタンの声が風に乗って届いた。