な、なんだって?!
トロルの魔石を取り出して戦線を離脱した僕はミルフィやドフィ君の隠れている場所に向かった。
先に宣戦を離れたはずのオーガやリザードマンの姿はまだなく、2人は僕が先に帰ってきたことに驚いている。
「あんた。いったい何者よ?」
「いくらなんでも強すぎないかい?」
帰ってきた僕にいきなり2人してそんな質問を投げかける。
そんなこと言われても、僕は普通に戦っただけなんだけどね。
僕の感想としては予想よりもトロルが弱かったことが驚きだ。
「そんなこと言われても・・・ とりあえず、クランって子を出してあげなよ。」
僕はそう言って魔石を2人に差し出した。
2人は「そうだった」と言った様子で魔石に手をかざして何かしらの魔法を発動する。
すると、魔石の中からブラウンの髪をした少しふくよかな少女が現れた。
「ぁぁあ・・・ おはよう・・・」
クラン落ちう少女は眠そうに欠伸をしながらそう言った。
モンスターに食べられて吸収されたはずなのになんだかすごくマイペースなご様子だ。
「おはようじゃないわよ! トロルなんかに食べられちゃって! あなたがいなくなったら階層の維持が大変なんだからね!」
ミルフィがマイペースなクランにプンスカと怒りを顕わにして怒声を上げる。
そんなミルフィにクランは「ううん。ミルフィちゃんうるさい・・・」などとぼやいている。
「まぁまぁ、こうして無事だったんだからいいじゃないか。」
そんなミルフィをドフィ君が宥めようとする。
三人の妖精が仲睦まじいとは言えないがこうして会話していると事を見るだなんて滅多にない光景だろう。
三人はガヤガヤと何かを話している。
まぁ、基本的に騒いでいるのはミルフィだけなんだけど・・・
(でも、なぜだろう。この光景をどこかで見たことがある様な・・・)
「あ・・・ 先程はありがとうございました。これ、ほんのお礼です。」
ミルフィのお小言から逃げるためか。
クランはそう言って僕にお礼を言うと一礼してから手を突き出して光を放つ。
『精霊との契約が成功。受理されました。地精霊の加護(小)を得ました。地属性耐性と状態異常耐性、物理耐性が上昇しました。』
そして、僕の体が光に包まれると天の声が聞こえてきた。
どうやらクランを救うという精霊契約は成功して無事に契約は終わったようだ。
さらに新たに地属性の精霊の加護まで得てしまった。
トロル一匹倒しただけでこれとは・・・
なんともおいしい話だ。
「さて、無事に契約も終わったところであんたのことについていろいろ聞きたいんだけど。いいかしら?」
加護を受けたことと契約が成功して死ぬ危険性がなくなったことに喜んでいるのもつかの間、いつの間にか肩に乗ったミルフィがものすごい形相で僕を睨んでいる。
いったいなぜ・・・
それから、精霊3人による尋問がスタートした。
どうも僕の存在は危険なものと認識されているらしく、彼らの眷属であるオーガやリザードマン、ドライアドが周囲を取り囲んでいる。
ドライアドはクランの眷属らしい。
樹木に宿る精霊の様な存在であるドライアドは実態を持つ幽霊なような存在で、通常種でもC+ランクのモンスターだ。
それが精霊の眷属になっているのならばBランクはくだらない。
数も多いし、何よりせっかく手に入れた精霊の加護を失いたくないので大人しく質問に答える。
下手に戦って精霊達を倒してしまうと加護がなくなってしまうからね。
といっても、僕が話せる内容は少ない。
なにせモンスター歴はここ十数日程度しかない。
生前の記憶はあやふやで、知識しかない。
ただ、体が何かを覚えているのか剣術が使える。
おまけにスケルトンナイトにしては能力値が異常に高いということだろうか。
「「「スケルトンナイト?」」」
僕がスケルトンナイトであることが納得できないのか。
3人の妖精が首を傾げる。
「あんた。私があげた清潔の加護を使用してみなさいよ。」
「ん? なんで?」
「いいからやりなさい!!」
ミルフィの提案に疑問を投げかけた僕に怒声が飛んでくる。
何と言う理不尽。
説明ぐらいしてくれてもいいじゃないか。
などといいつつも、清潔を発動する僕。
発声の時もそうだったけど、能力って発動しようと思うだけで発動してくれるからとても便利。
そう言えばさっき得た自動修復の能力もかなり便利そうな能力だったな。
まぁ、怪我しないのが一番だから使わない方がいいのかもしれないけどね。
などという考え事をしている間に、僕の体を青い光が包み込み体の隅々を綺麗にしてくれる。
川で少し洗ったとはいえ金属部分がさびない様に注意していたし、永い間放置していたためにかなり汚れている。
完全に綺麗にとはいかないがそこそこ綺麗に放った。
最大の難点だった死骸から剥がれたであろう皮膚部分が鎧に引っ付いていたのだけれど、これが取れた。
これにより今までよりも身動きがしやすくなる。
さらさらさら・・・
おまけになんだろう。
体の中にあった余計なものが粉になり体の外に散っていく。
それはまるで粉雪のように真っ白な・・・
僕の骨だった。
「ギャァアアア!!!!」
死ぬ~!
浄化されて死ぬ~!!
清潔って骨まで綺麗にしちゃうの?!
これじゃ僕の体が消滅してしまう!
慌てて清潔を解除するが時すでに遅し・・・
僕の骨は綺麗になくなった。
こうして、僕の短く儚い冒険譚は終わりを告げたのだった。
さようなら。
今までありがとう。
どうして前世の記憶を持ったままダンジョンでモンスターとして生まれ変わったのかは不明だけど。
楽しい人生だったよ・・・。