瞬殺
ドフィ君の監視の結果。
最高のタイミングで戦闘に横入りすることができた。
冒険者達は周囲にいるモンスターの大群に右往左往している。
おかげで、目的のトロルに苦戦している。
そこに僕が1人で彼らの前に彼らを助ける形で介入すればどうなるか。
全身鎧を着ている僕を一目見て冒険者なのかモンスターなのかは判断できない。
下手にモンスターたちと同じように登場すれば攻撃される恐れがある。
そのため、僕は単独行動を取ってトロルと相対することにした。
突如として登場する僕に周囲の人々は恐怖と疑惑の目が向く。
だが助けてくれた手前、すぐに攻撃するような不作法はしない。
「グォオ・・・」
おまけに突如として現れた邪魔者である僕をトロルが獲物として認識して攻撃態勢を取る。
なので周囲の人達は勝手に僕から距離を取ってくれるので戦いやすくなる。
ただし、この作戦はオーガやリザードマンと連携が取れない。
おまけに、冒険者と下手にコンタクトを取って正体がバレても不味いので僕は単独でトロルと戦わなければならない。
(あとは僕の実力でどこまでやれるか。か・・・)
正直言って僕の実力は未知数である。
今までの戦闘でオーガ亜種が数体いても問題ないぐらいの実領であることは確かだが、僕は自分の能力やスキルを把握していなし、トロルの実力も未知数だ。
正直言って分が悪い賭けかも知れない。
でも、なぜだかわからないが恐怖はない。
これがモンスターになったからなのか。
単純に実力的に負ける気がしないだけなのかは不明だが、僕はただ全力を尽くすだけだ。
「何をしている!逃げろ!」
後ろから先程助けた女性騎士の声が聞こえる。
斜め上方向から来るトロルの拳を避けようともしない僕を見ての発言なのだろうが、僕は全く気にしない。
なにせ僕はトロルの拳が落ちてくるのを待っているのだ。
ドゴン
トロルの振り下ろした拳が深々と大地に突き刺さり周囲に砂塵と衝撃波、地響きを巻き起こす。
直撃を受ければ、僕もただでは済まなかったであろう一撃。
だが、僕には当たらない。
あんな大振りのテレフォンパンチにいちいちビビってはいられない。
僕は拳が振り下ろされた瞬間に跳躍し、そのままトロルの拳の上に飛び乗ると一気に駆け出す。
狙いは頭部、生物の基本的な弱点の一つを破壊する。
頭部に魔石を持つモンスターは存在するが、大概のモンスターは心臓の対となる位置に魔石を持っている。
要するに人間でいえば右胸だ。
故に、モンスターは人間よりも胸部が硬く防御力が高い。
その反面、心臓と魔石と言う二つの弱点を抱えている。
今回は魔石を壊してはならないので狙わないが、基本的にその位置を狙えば問題ない。
僕は一気に腕を駆け上がり肘を超えて肩の近くにまで移動した。
だが、そこで横からトロルの左腕が下でも潰すかのように振り下ろされた。
僕は速度を上げてそれを回避する。
バチン
と音を立てて振り下ろされた左手が突風を起こす。
その風を利用するようにタイミングを見計らって跳躍。
一気にトロルの頭上を取ると剣を振り上げと、落下のタイミングに合わせて剣を振り下ろし頭部に一撃を入れる。
ザシュ
トロルの右側頭部を軽く切り落とすが・・・浅い。
トロルの方に飛び乗った僕に奴はすぐに視線をこちらをに向けて追撃しようと左手を動かす。
その前に勝負を決めるために首に向けて剣撃を一閃。
ブシュリ
と大量の血液が噴き出すが、トロルの攻撃は止まらない。
人間ならば死んでいてもおかしくないほどの深手なのだがモンスターの持つ高い生命力の前では致命傷には及んでいない。
すぐにやってきた左手を避けるために肩から飛び降りて背後に回る。
トロルの左手は優しく傷口を抑える様に首にあてがわれ、出血の勢いが弱くなる。
それと同時にトロルの左手が緑色に光り輝き傷口を覆う。
おそらくは回復魔法を使用しているのだろう。
(させないよ。)
僕は落下しながらも斬撃を放ちトロルの背中に傷をつける。
目的はダメージではなく注意を引くため。
同時に蹴りを入れて地面へと加速する。
僕の攻撃が効いたのか。
トロルは回復しながらも僕に向かって転身を行う。
(一足遅い。)
転身するために足をあげた瞬間には僕は地面へと到達する。
それと同時にトロルの足元に駆けて軸足に一閃。
「グオォォ・・・!」
軸足を深く切りつけられたトロルはバランスを崩して地面に転倒する。
それに巻き込まれないために足元を離れると同時にトロルの体の上に飛び乗る。
ズドォン
大地に倒れ伏した巨大なトロル。
周囲は小規模ながら地震と地割れが起こっている。
そんな状況でただ一人。
トロルの腹の上に飛び乗った僕は問答無用でトロルの巨大に膨らむ豚腹を切り裂く。
「グボボボオオオ!!」
今までにない絶叫がトロルの口から洩れるがお構いなしに何度も何度も切り裂く。
トロルも好きにはさせまいとしてか。はたまた傷を癒す為か。
こちらに向けて両腕を向けてくる。
そんな手の攻撃をそそくさと避けながら適当に数撃お見舞いして一気に胸を超えて首元へと駆ける。
首元に辿り着けば、まだ先程の傷がまだ癒えていないために大量に流れた血が大地に水たまりを作っていた。
トロルは首を少し上げて僕を見る。
その瞳には恐怖と後悔の色がにじみ出ている。
彼に恨みはない。
だが、僕は彼を殺さなければならない。
「さようなら。」
僕は最後にそう声をかけてトロルの首を落とした。
トロルは悲鳴を上げる暇すらなく絶命。
ここまでの時間、わずか1分。
圧勝とも呼べる勝利を収めるも、僕の中には歓喜も哀れみも浮かんでは来なかった。
その後、僕は胸部を切り開いて魔石を取り出すと周囲に見える様にそれを高々と掲げた。
それを見て周囲にいたトロルもオーガもリザードマンも森へと帰って行った。
冒険者達もモンスターが森に帰っていくのを見て戦闘をやめる。
そして、僕は来た時と同様に大きく飛び上がり森にいるドフィ君やミルフィの元へと帰ったのだった。