英雄降臨
私は冒険者をしているティファと言うの者だ。
Bランククラスのパーティに属している。
職種は魔法使い。
貴族と言うわけではない。
人間にもモンスターでいうところの突然変異の様なものが突然現れる。
それが魔法の才能やスキルを生まれながらに載っている天恵所持者だ。
私は運よくそんな特殊な能力を持って生まれた存在だ。
おかげで、こうして気の良いBランクのパーティに所属することができた。
パーティリーダーのセリス様は聖騎士で、貴族の出だ。
女性であるがために家督を継げないということで冒険者になったそうだ。
他の仲間達の素性は知らないが、女性同士で仲のいいパーティだ。
セリス様は女性の地位向上を夢見ているので、冒険者として名を上げるのが当面の私達の目的だ。
そのためには最低でもBランクの上であるAランクの冒険者にならなければならない。
その上にはダブルランカーと呼ばれるCCランクより始まるさらに上位のランクが存在する。
そこまでいければ誰も女だからと言って私達を馬鹿にしなくなるだろう。
その足掛かりとして今回、私達はトロルの突然変異種を討伐する大規模討伐に向かうことになった。
大規模討伐とは複数のパーティでモンスターを倒すという方法だ。
高ランクのパーティがいない時に緊急を要する場合にのみ行われる。
今回のトロルの変異種の推定ランクはA-。
呼び集められたパーティの総数は31組。
総数100人を超える大部隊だが、集まったのは最高ランクでもB。
下はDランクのパーティまで存在する。
正直言って不安な顔ぶれだ。
そもそも、冒険者は軍隊と違って少数で戦うことに特化している。
パーティ内での連携はともかく、パーティ同士の連携はあまり期待できない。
そのため、パーティごとに個別で戦うことが最初に決まった。
Bランクのパーティは目標であるトロルの討伐。
Cランクのパーティは周囲にいる敵の討伐と遠距離による支援。
Dランクのパーティは索敵とCランクパーティの支援。
相手は体長6mを超えるほどの巨躯を持つトロルだが、私達には体長4m級の巨人を討伐した実績もある。
今回も問題ないだろう。
そう思い戦場に向かい。
そして、トロルとの戦いが始まった。
「攻撃開始!」
今回の作戦指揮を執るBランクパーティのリーダーであるクアドロさんの指示で一斉に魔法と弓で対象のトロルに攻撃を開始する。
私も最も得意な炎の魔法を発動する。
炎や風の魔法や、矢といった様々な攻撃がトロルに向かって一斉に放たれる。
巨大なトロルはいい的となりすべての攻撃が命中する。
だが、トロルはそんな私達の攻撃を意にも介さずに突進してきた。
その前に立ちふさがったのはBランクパーティに属する前衛職の面々だ。
背後と側面にはすでに遊撃を得意とする面々が向かっている。
私は彼らを前にしてトロルが足を止めたのを確認して魔法を放つ。
前衛職がトロルの攻撃を躱し、いなしている間に次々と攻撃を放つ。
しかし、トロルには攻撃があまり聞いていないように見える。
トロルの巨躯から放たれる一撃はこちらの前衛職や遊撃隊の面々に直撃していないので、被害は出ていないが、まともに食らえば相当のダメージを食らうことになるだろう。
(このままでは不利になる。)
「くそう! Cランク冒険者も戦線に加われ! 数で囲って押すんだ!」
私がそう思った瞬間にはクアドロさんは指示を飛ばしていた。
状況を見て即座に対応する様はさすがは熟練の冒険者だ。
クアドロさんの声を聴いてCランク冒険者が動き出したその時だった。
「グゥウウアァァア!!!」
トロルが突如として咆哮をあげた。
その声を聴いてだろう。
周囲の森がざわつく、すぐに異変を感じ取った冒険者達が周囲に眼をやるとそこにはトロルの大群が現れた。
その数、推定でも30以上。
トロルの本来のランクはCだが、この森に生息するトロルは全て亜種。
その力は単純に2段階上昇していてB-評価となっている。
本来は群れていることが少ないトロルがこれだけの数で現れるとは・・・。
これは予想外だ。
トロルの突然変異種とはいえA-の格付けはさすがにやり過ぎじゃないのかと思っていたのだが、群れを率いる長ならば話は別だ。
数の暴力の恐ろしさは時に1人の英雄をも上回る。
「「「「グゥウアア!!」」」」
咆哮をあげて襲い来るトロルの群れに周りにいる下位冒険者が襲い掛かる。
こうしてトロル討伐は予想外の大乱闘へと突入する。
乱闘になったとしてもこちらは100人以上の人数がいる。
襲ってきたトロルの数が30以上であろうと私達の半数にも満たない。
そのためだろう。
私は周囲のことを見ずに討伐目標であるトロルへの攻撃を続けた。
前線では仲間が戦っているのだ。
周囲のことは事前に決めていた通り周囲の奴らに・・・
「うわぁああ!!! あ、新手だ! オーガが出たぞ!」
「大変だ! こっちからはリザードマンの群れが来る!」
2方向から同時に声が上がった。
それは敵襲を知らせる悲鳴にも似た声だった。
ただ、解せないのはなぜやってきたのがトロルではなくオーガやリザードマンなのだ。
このトロルはまさかこの階層の全てのモンスターを支配下に置いているのか?!
このモンスターの大量発生により戦局は一変した。
オーガやリザードマンの数はそれぞれがトロルと同じ30体ほどだった。
中にはなぜかトロルと戦っている個体もあったが基本的にはこちらを相手にしている。
そのため数の優位はなくなった。
寧ろ、足手まといのDランクパーティを守る必要も出てくる。
戦線は一気に崩壊、さらに周囲はある程度囲まれている。
後方に包囲の薄い場所が突破するには前方にいる前衛職の力が必要不可欠。
「うわぁあああ!!!」
そんな絶望的な状況の中で上がった悲鳴。
やられたのは前衛職の男。
先程まで巨大な盾を持ちトロルの注意を一番引いていた壁役。
だが、ついにトロルの豪快な一撃の直撃を受けてしまった。
幸いにも死につながるほどの重症ではないようだが、頼みのシールドを弾き飛ばされてしまっている。
腕の方も男の仲間の僧侶が治しているが、盾をすぐに持つことができそうにない。
(駄目だ。このままでは・・・)
トロルの攻撃が突如として当たったのは、モンスターの囲い込みによってこちらの動ける幅が制限されたからだ。
今まででよりも狭い空間しかないために避けることのできるスペースが減っている。
(このままでは全滅するかもしれない・・・)
そんな絶望的な感情が湧いた時だった。
トロルが手に持っていた巨大な棍棒。
いや、あれは周囲にある木を引き抜いたものだろう。
それを高々と振り上げて先程倒れた男に対して振り下ろそうとしている。
僧侶や他の仲間達が男を運ぼうとするが間に合わない。
どうやら、先程の一撃で足もやられたらしい。
彼らとトロルの間にセリス様が颯爽と現れるが、無茶だ。
彼女は強いがトロルの攻撃をまともに受ければただでは済まない。
後ろにいる他のパーティメンバーを庇って前に立ってはまともに攻撃を受け止めるしかない。
ビュン!
横なぎに振るわれる一閃がセリス様に向かって振るわれる。
危ない!
スタン
その時だった。
狙い澄ましたかのようにどこからともなく現われた全身鎧に身を包んだ人物がセリス様の前に降り立った。
スパン!
その人物はトロル振るった巨大な大木を見事なまでに綺麗に切り裂いた。
切り裂かれた大木の切れ端は円を描きながら私達の上を飛び越えて森に落ちた。