なんだか詐欺られた感じがするよ
「強いわ。トロルの突然変異種ってだけでも厄介なのに、アイツ。クランを体内に取り込んじゃったのよ。おかげで、能力が飛躍的に上昇してるわ。」
僕の質問にミルフィが答える。
殺気も名前が出ていたけど、クランって誰だろうか。
ミルフィとドフィ君の知り合いってことはクランってのは彼らと同じ精霊なのだろうか?
「普通のトロルの身長が3mないぐらいなんだけどね。君に倒して欲しいトロルの突然変異種は6mを超える巨体なんだ。クランを取り込んだせいで身体能力も上がってるし、耐性関係も軒並み跳ね上がっていてね。ミルフィの眷属であるここの鬼達や僕の眷属であるトカゲ達だけでは勝ち目がないんだ。おまけに、人間達も介入しようとしていてね。時間もないんだよ。」
ドフィ君が現在の状況にヤレヤレと言った感じで首を振る。
「人間達の介入?」
「人間達がクランを吸収したトロルを倒す為に戦力を集めてるのよ。いつ動くのかをドフィが見張ってたんだけど。こっちに来たってことはもう間近ってことね。」
僕の疑問にミルフィが答えてその内容にドフィ君が頷く。
「人間達がトロルを倒すと駄目なの?」
人間達がトロルを倒してくれるのなら問題ないのではないだろうか?
「駄目よ!そうなったらクランを助けられないじゃない!」
「うん。僕達の目的はトロルを倒すこともそうだけど。クランを助けたいんだ。」
ミルフィに怒られてしまった。
そんな僕にドフィ君は彼らの第一目的を教えてくれる。
なるほど、トロルを倒すのはその手段に過ぎないのか。
それは確かに人間達には任せられないな。
「そのクランって子は助かるのかい?トロルに吸収って言っているけど。ようは食べられちゃんだよね?」
そんな2人に僕は確信をついた質問を投げかける。
彼らは先程から言葉を誤魔化しているが、結局のところはそういうことなのだ。
精霊の力を手に入れる方法は結構ある。
そのうちの一つが精霊に気に入られるか、力を認められた時に得られる加護。
今回、僕が手に入れたのはこれだ。
そして、もう一つ。
禁術とされている方法がある。
精霊を食して体内に吸収する方法だ。
この方法で精霊を吸収するとその精霊が持つ力を全て手に入れることができる。
もっとも、精霊を食せばその力に飲み込まれて自我を失う可能性があるし、最悪は精霊の力に耐えられずに死滅する。
そのトロルは未だ生きていることから、精霊を食す前からかなり強力なモンスターだったのだろう。
果たして僕に勝てるだろうか。
「それなら大丈夫よ。私達精霊は基本的には不死身の存在だから。食べられたぐらいじゃ死なないわ。死んでも時間が経てば復活するしね。」
「ただ死んでから復活するのに100年単位の時間が必要だから、できれば避けたいんだよね。」
ミルフィの言葉にドフィが補足説明をくれる。
「クランを助けるのは僕達がやるから君にはトロルの魔石を無傷で入手して欲しいんだ。食べられた精霊は魔石に封印されてしまうからね。」
さらに続くドフィ君の説明でようやく人間にトロルが倒されるのを嫌がる理由がわかった。
人間は魔物を倒すと魔物の心臓である魔石を戦利品として持って行く。
魔石は魔力が籠った結晶であるために様々な用途で使用される。
精霊の宿った魔石などかなりの高額で取引されるアイテムだ。
倒した後で横槍を入れても奪い取れる可能性は低い。
傷つけない様にってことは魔石を破壊されても困るのだろう。
勝てるのかもわからない相手と戦っておまけにモンスターの弱点である魔石も破壊してはいけないってかなりの高難易度クエストなんだけど。
どうしよう。報酬は魅力的だけど受けるのは気が引けるな・・・
「頼むよ。こう見えても僕達困ってるんだ。それにもし失敗しても君には何の問題もないでしょ?」
僕の考えを読んでかドフィ君が顔の傍にやってきてそう言った。
人形のように整った愛らしい顔立ちが目の前にある。
人間だった頃なら心動かされたのかもしれないが、モンスターである僕は全く心が動かない。
人間だったと時の記憶があるから少しは下心が動きそうなものだけど。
まぁ、僕はもうモンスターだしね。
「勝てるかどうかわからないし、魔石を無傷で手に入れられるかわからないけど。とりあえず、協力はするよ。こうして、声が出せるようにしてくれたお礼もあるしね。じゃ、トロルの所に行こうか。」
そう言って僕はトロルのいる場所に行くことを了承する。
正直に言って声を出せるようにしてくれたことはありがたかったし、この戦いに勝利して得るであろう。
精霊の加護と言う報酬は破格の条件だ。
通常ならば手に入らない精霊の加護が2つも手に入るのだ。
魔法が使えないのは残念だけど、耐性の上昇は悪くない。
なにより、もし失敗してもこっちには失うものはないしね。
先にドフィ君から得た加護は僕と会話するためのもので、このクラン救出戦とは関係がないしね。
決してドフィ君が僕の目の前で愛くるしく笑顔を振りまいているからではない。
というか、ドフィ君は男なの?女なの?
「そうかい?なら、勝率を上げるためにも前払いしようかな。」
僕の説得に成功して大満足のドフィ君がそう言って飛び上がり僕に手をかざした。
なんだか、勝ち誇った笑みを浮かべているけれど。
僕は決して君の姿に心動かされてはいない。
「そうね。少しでも成功率が高い方がいいわよね。」
それを見ていたミルフィがドフィ君と同じように僕に手をかざした。
そして、僕の体がまた薄く青と緑の光に包まれた。
『水精霊の加護(小)を得ました。水属性耐性と状態異常耐性が上昇しました。清潔の能力を獲得しました』
『風精霊の加護(極小)が風精霊の加護(小)に上昇しました。風属性耐性と状態異常耐性が上昇しました。』
加護を得た証拠に僕の頭の中に天の声が聞こえてきた。
本当にこれってどんな仕組みで誰が言っているのだろうか。
「おお・・・ 2属性の精霊の加護を先払いで・・・ なんだか悪いね。でも、ありがとう。これでトロルがクランって子の力を使って魔法を撃ってきても大丈夫だね。」
などと喜んでいた僕だったが、そんなおいしい話があるはずはなかった。
『精霊との契約が結ばれました。契約に失敗した場合、加護の消失と自身の持つスキル2種が消失します。』
などという天の声が聞こえてきた。
え、ちょっと待ってよ。
精霊との契約ってなんですか。
これもしかしてクランって子の救出に失敗したら加護消えるんですか?
しかもそれだけでなく、なんか僕の持つスキルが2つ消えるみたいなんですけど。
というか、僕ってマッピング以外にスキル持ってるの?
使ったことない気がするけど。
「ああ、ちなみに失敗した時にスキルが2つ無かったら罰としてあんた死ぬから頑張ってね。」
僕の不安を余所にミルフィがそんなことを言い出した。
え?! 本当に?!
失敗してもノーリスクだと思って受けたのになんでか僕の命がかかっている?!
「ちょっと2人とも!! 加護いらないから外してよ!」
まさかの命がけのクエストにはさすがの僕も物申さずにはいられない。
「駄目よ。そんなこと言って逃げる気でしょ。」
ミルフィは知ったことかとでも言いたげに鬼達を引き連れていく。
「ごめんね。君に逃げられるわけにはいかないんだ。大丈夫。君ならできるさ!」
ドフィ君はそう言いながらもすごくいい笑顔だ。
いや、あの笑顔は勝ち誇った笑みだ。
はっ!
まさか、さっき見せた笑みは色気で僕を釣ったことに足し手ではなく、契約を成功させるための罠だったのでは?!
契約は双方の合意がなければ発動しない特殊な魔法の一種だ。
向こうがいくらいい条件を出そうが、僕がイエスと言わなければ発動しない。
くそう。
謀られた!!
ノーリスクなのを強調して受けさせたのはこのためか!!
「じゃ、僕も眷属を連れて後から向かうよ。」
僕の睨みつける視線を意に介さずに颯爽と笑顔でドフィ君は去って行った。
「あ、クランは地精霊だから僕達の加護じゃトロルの攻撃防げないから頑張ってね。」
という置き土産を置いて行って・・・・
え?!
じゃあ先に加護貰った意味ないじゃん!!