おかしくないか?
人助けをしようとしたら人身御供にされてしまいオーガ亜種3体と戦うことになってしまった。
しかし、結論から言おう。
オーガ亜種はそれほど強くなかった。
ある程度の連携と強靭な肉体を持っていたが、僕の敵ではなかった。
数撃体に斬撃を入れてやると勝ち目がないことを悟ったのか大人しく逃げて行った。
まぁ、逃げた先が冒険者たちが走って行った下階層なのだけれど、それはもういいだろう。
なにせ僕を置いて逃げていった連中だ。
放置しても特に問題はない。
オーガ亜種の実力はだいたい分かった。
特質すべき能力は回復能力ぐらいだろう。
蒼い亜種は水の属性の加護か何かを有している場合が多い。
その場合は水の魔法や氷の魔法を使ったりそれに類する能力を持っている場合があるが、あのオーガ亜種はそう言った能力はなかった。
その代わりと言ってはなんだが、回復力が高い気がする。
おそらくは、治癒特性を持っているのだろう。
通常の回復能力を強化した治癒特性を持つ魔物が亜種化したのだと思われる。
まぁ、それはいい。
モンスターの亜種化は特に珍しくはない。
それが複数体いることもダンジョンならば普通だろう。
寧ろ下の階層に降りることなく下に行けばいくほどモンスターが強くなる一般的なダンジョンだったということがわかって満足だ。
それよりも、問題は僕自身の実力の方だ。
僕はFランクの冒険者の死体からできたスケルトンナイトだと思っていたがどうも違う気がする。
そもそもスケルトンナイトでは普通はオーガにも勝てない。
それを亜種3体を相手にしての完勝。
寧ろ、余裕すらあった。
では、僕はもっと強いモンスターなのだろうか?
まぁ、スケルトンナイト以上のモンスターであることは間違いないだろう。
ただ、そんな上位のモンスターになったからってここまで強くなるだろうか?
人間だった頃の記憶を持ってモンスターになったとはいっても僕は元Fランク冒険者のはずだ。
なのに、剣技だけでオーガ亜種を3体も撃破したのだ。
こんなことがFランクの冒険者にできるはずがない。
もし、出来たとしたらそれは実力を隠していた可能性が高い。
ならば、なんでこんなところで死んでいたんだ?
バーリー・ディロイ・ティンクソン・・・
謎の多い男だな。
(そういえば、魔法は使えるのかな?)
生前の記憶ではっきりしているのは基礎知識だけで自分の出自や技能のことはよくわからない。
試しに魔法を使えないか試してみるか・・・
・・・
・・
・
うん。
無理だ。
全く使える気がしない。
そもそも、魔法ってどうやって使うんだろうか。
ふぅ。
どうやら根本的な所からわかっていなかったらしい。
よし、分からないことは諦めて探索でも続けようかな。
とりあえずはこの階層の踏破率を100%にでもしようかな?
どうせやることもないし・・・
そう思って立ち上がり小部屋に入る時にやってきた通路を見るとそこにはどこか懐かしい人影が・・・
戦士二名に盗賊、魔法使い、僧侶、狩人の6人パーティ。
確かここに来るまでに一度出会ったパーティだ。
少し装備が違う気がするけどもパーティ全員が女性という珍しい存在だったのでよく覚えている。
(あ、やばい。向こうもめっちゃこっち見てる。)
なんだかやる気満々だ。
今になって気づいたけど、この小部屋って下に行く坂道と僕がやってきた通路以外に道がない。
僕の見た目はどう見てもリビングアーマーだし、顔を見せても骸骨だからどっちにしても攻撃されるのは目に見えている。
(しかたがない。逃げるか。)
僕は即座に身を翻してその場から逃げ去った。
逃げ道は唯一残された下階層への下り坂。
まぁ、下の階層にいるであろうオーガ亜種はそれほどの脅威ではないし大丈夫だろう。
冒険者たちは逃げる僕を追うことなく歩いて進んでくる。
モンスター1体のためにわざわざ走って追いかけるのは効率が悪いということだろうか。
無事に下階層に降り立った僕は絶句した。
なにせ先程の洞窟の様な迷路とは全く違った世界がそこに広がっているのだ。
これには驚かずにはいられない。
広く広大な空間には大量の植物が生えている。
おまけに天井には光り輝く水晶が光っている。
あの水晶のおかげでこの階層はまるで日中のように明るく、おまけに植物も育っているのだろう。
そして、その植物のおかげだろう。
鹿やウサギなどの動物系の様々なモンスターが生息し、それを捕食する上位種も存在しているようだ。
先程のオーガ亜種もいるようだが、この階層にはさまざまなモンスターが生息しているようなのでアレがこの階層の最強のモンスターではない可能性がある。
これはなかなかに危険な場所の様だ。
しかし、そんな危険な場所にも少し長いしなければならない。
なにせ後ろから冒険者の一団がやってきているのだ。
たった6人だがその実力は先にこの階層にやってきた4人パーティとはレベルが違う。
あの4人は4人がかりでリビングアーマー1体を仕留めるのがせいぜいだが、後ろの6人は下手をすると単独でリビングアーマーを狩れる実力がありそうだ。
たとえ一人では無理でも2人いれば盤石と言っていい実力の持ち主たちだ。
戦えばこちらもただではすまない。
だがまぁ、ここは木々が生い茂っているので身を隠しやすい。
どうやら湧水もある様なのでついでに鎧の手入れをしようかな。
そう決めた僕は早速その場から離れて身を隠しつつ水辺を探した。
僕は鎧が錆びついていると思っていたが、実は地面に倒れていたせいで土がついていただけっぽい。
布はボロイけど一応持っているし、泥を落として綺麗にすれば動きやすくなるかもしれない。
僕がアンデット系のモンスターだからだろう。
周囲にいるモンスターたちも特に攻撃はしてこない。
まぁ食べるところないしね。
ウルフ系のモンスターなら骨をしゃぶりに来るかもしれないが今のところは見ていないから大丈夫だろう。
泉に着いたら早速、適当に泥を落として布で水分を拭き取る。
錆びつかない様にしっかりと拭き取ろう。
しかし、僕はどんな攻撃を受けて死んだのだろうか?
鎧には全く傷がない。
モンスターになった時に治ったのだろうか?
まぁ、どうでもいいか。
鎧に損傷がないのは良い事だ。
今は生前の事よりもこれからどうするかだな。
冒険者と出くわさない様に上の階層に戻りたい。
ここは自然があって綺麗だけど。
下階層に行けば強いモンスターに出くわす可能性が高くなる。
出来るならそれは避けたい。
それにアンデットモンスターがこんなに明るい場所にいるのはあまりよろしくないかもしれない。
まぁダメージとかないから問題ないのかもしれないけどね。
でも、食事を必要としないモンスターがいる階層ならともかくこの階層にいるモンスターは食事を必要とするタイプのモンスターが多そうだ。
絡まれたらとても面倒だ。
(それに・・・)
僕は木の上に登って周囲を確認する。
そして、残念ながら発見してしまった。
僕の予想していたものを・・・
それは木の囲いで覆われた木製の家が立ち並ぶ住宅地。
とても質素な佇まいの小さな村だが、しっかりと見張りの櫓まである。
見張りも経っているし、出入り口である門も存在している。
所々には金属で補強もなされているようだ。
これほどの環境が揃っているのだ。
冒険者が住みついていてもおかしくない。
長期間の狩りをする場合の拠点として申し分ない場所だ。
この階層がダンジョンの何階層にあるのかは知らないが、いちいち上に戻るよりもここで長期間腰を据えて狩りをした方が儲けは大きいだろう。
おまけにここには上の階層よりも弱いモンスターもいる。
さきほど僕を置いて逃げて行った4人組もここに来るのが狙いだったのだろう。
ダンジョン内にある植物はダンジョンの魔力を吸って成長しているので薬草や毒草が多い。
そして、毒草も使い方次第では薬の材料になる。
モンスターと戦わなくても収入を得る見込みはある。
帰りは屈強な冒険者に一緒に帰ってくれるように依頼を出せば安全に帰ることができる。
相手も狩りをして帰る連中ならば収穫物を横取りされることはないだろう。
なにせ、相手も大量の収穫物を持ちかえる必要があるのだ。
むしろ、それを持つことで格安で護衛についてくれる可能性もある。
(弱ったな。上の階層に帰るのが少し面倒になったぞ。)
こんな場所があるのならこの階層には結構な数の冒険者が来るだろう。
それはここの唯一の出入り口である。あの坂道が利用される頻度が高いことを表している。
坂道を上り小部屋を抜けて一本道を進んで二手に分かれる分かれ道まで戻るのは結構な距離がある。
もし冒険者と鉢合わせれば戦闘は避けられない。
くそう。
面倒だな。
最悪なのは出会ったからって踵を返して逃げたところで反対側からも冒険者が来た場合だ。
この場合。
戦闘は避けられない所か挟み撃ちに合う。
ううむ。
しばらくは様子を見るか。
どの程度の頻度の人が来るのか。
帰るのかを観察すればなにかいい方法が思い浮かぶかもしれない。
それに自分のことも少し調べよう。
剣術のほかに何か使える技能はないかな?
水や風の魔術は使えないが、アンデットなら闇属性の魔法とか扱えないかな?
まぁ魔法の使い方が全く分かんないから無理かもしれないけどね。