アーちゃんと呼ばれる。
「クランさん。アーちゃんってもしかして僕の事ですか?」
「え~そうよ~。とっても素敵なお名前でしょう?」
クランさんはとてもいい呼び名を思いついたと手を合わせて笑顔でそう言った。
いや、アーちゃんってどう考えても愛称だよね?
名前じゃないよね?
ですからクランさん。どうかご再考を・・・
「あー。そう言えば君には呼び名がなかったね。アーちゃんでいいんじゃないかな?」
ドフィ君がそんな僕の胸中に反してアーちゃんと言う名に市民権を与えだした。
「あんたなんかがネームドモンスターになるなんて100年早いけど。今回の報酬の前払いってことで勘弁してあげるわ!」
全く何の説明もないのに、ミルフィの中ではなぜかすでに僕が手伝いをすることになっている様子だ。
「ああ、彼が例の? 初めまして、話は聞いてますわ。 是非、私どもに御力をお貸しください。」
エレルという少女だけは礼儀正しくお辞儀をして僕に頼み込んでくる。
うん。なんという好印象な子なんだ。
こんなに礼儀正しく頼まれたら僕も手伝ってもいいかなって気になるよ。
「ちょっと! エレル! 私の下僕に頭下げる必要なんてないわよ! さぁ!名前あげたんだから私のために激流に晒された水車の如く回りなさい!」
そんな僕のやる気をミルフィが一瞬で叩き折った。
彼女は上司に向かないな。
「えっと。とりあえず、話だけでも聞こうか。実は僕も君たちに聞いてほしい話があるんだ。」
こうして、僕は彼らの輪に加わり現状を確認する。
なんでも、このダンジョンのすぐ隣に在ったダンジョンとの間の壁が崩落してしまい、そこから隣のダンジョンのモンスターがやってきているそうだ。
しかも、彼らはこの地を自分たちの物とするためにこちら側のダンジョンモンスターに攻撃を仕掛けて来ているらしい。
現在は両者、崩落したダンジョンの壁付近にそれぞれの陣地を築きつつ睨み合っているらしい。
「全く! トロルの件が片付いたと思ったら今度は隣の奴らが攻め込んでくるだなんて! やってらんないわ! あんた! ちょっと行って始末してらっしゃい!」
ミルフィが苛立たしげに怒声を上げと、僕を指さして命令する。
気持ちは分からなくはないけど、まずは話し合いが大事だと思うんだ。
だから、相手と話し合いの場を持つのが先じゃないかな。
「まぁまぁ、ミルフィ。落ち着いて。さすがにあの数を1人で相手にはできないよ。それに、彼にはメリットがないじゃないか。ここは以前のように交渉をしようじゃないか。エレル。」
ドフィ君がミルフィを宥めつつ、僕を見て笑みを浮かべる。
見ている分には可愛らしいが、以前の契約の件で騙されたことがあるのでなんだか裏がありそうで嫌な笑みだと思ってしまうのは僕の勘ぐり過ぎだろうか?
「ええ、構いませんわ。報酬としてわたくしの加護を差し上げますわ。いかがです?四大精霊の加護を同時に得れば効力が上がりますわ。それに、今回は隣のダンジョンとの抗争ですから、貢献していただければダンジョンマスターに会う権利も得られますわよ?」
エレルさんがやはりというかなんというか。
精霊の加護ってそんなにポンポンあげて良いものなのだろうか。
あとダンジョンマスターってなんだろう?
このダンジョンの支配者か何かだろうか?
「そのダンジョンマスターって人は戦わないのかい?」
「戦いません。普通の所のマスターなら戦うのでしょうが、このダンジョンの主はダンジョンマスターとしての職務の全てをわたくしどもに委任して引きこもっておいでですから。」
「おかげでダンジョンボスのギュウちゃんもコアルームの前にあるボス部屋から一歩も出て来ないのよね~。」
僕の何気ない質問にエレルが答えを返す。
それに付け加えてクランがとても残念そうに溜息をつく。
ダンジョンのボスがいるボス部屋はともかく、コアルームってなんだろうか?
「まぁ、聞きたいことはたくさんあるんだけど。実は僕にも目的ができてね。そのために情報が欲しいんだ。できれば、そのために協力して欲しいんだけど。それが今回の援軍の報酬ってことにしないかい? あ、前回みたいに契約は無しでお願いします。」
僕は今回の依頼の報酬として情報と協力を求める。
もちろん。命が奪われかねない契約はしない方向でだ。
そうして、彼らに僕の目的とその理由を知ってもらうために説明を始める。
といっても、説明することほとんどない。
僕が昔のことをある程度、思い出したこと。
その時に託された想いを最後まで果たせなかった事。
最後に、彼がどうなったかを知るために旅に出たいということを彼らに告げた。
「それは・・・ 難しいかもね~。」
「ええ。残念ながら私どもにはどうすることもできないわ。」
「無理。」
クランさん、エレル、ミルフィが続けざまに僕の想いを一蹴する。
理由も何もなしに、そんな否定の言葉を立て続けに言われると少し心が痛いよ。
「まぁまぁ、落ち込まないでよ。僕らには無理でもダンジョンマスターなら可能かもしれないよ? だからさ。僕達のこと手伝ってよ。ダンジョンマスターに合わせてあげるからさ。」
そんな僕の肩にドフィ君が手を置いて慰めてくれる。
ドフィ君。
君ってやつは・・・
この前の契約の件で警戒していたけど、やっぱり本当は優しいんだね。
僕はそっと彼の小さな手に自分の手を乗せる。
「ああ、そうだね。まだ諦めるわけにはいかない。僕はどうしても外に出て彼のことを知らなくちゃいけないんだ。」
僕は顔を上げ、晴れやかな気持ちでそう宣言した。
鎧なので顔色などの変化はないが、きっと僕が人間なら今は最高に良い顔をしていることだろう。
「そう、決意は固いのですわね。では、これを差し上げますわ。」
そう言ってエレルが僕に右手を差し出した。
そして、エレルの手から赤い光が漏れると僕を包み込んだ。
『火精霊の加護(小)を獲得しました。火属性耐性と状態異常耐性が上昇しました。灯の能力を獲得しました。火精霊の加護、水精霊の加護、風精霊の加護、地精霊の加護は四大精霊の加護(小)に統合されました。』
そして、訪れる天の声。
だが、ここで終わらないのがお約束。
『契約が発動しました。ダンジョン間の闘争に参加が決定いたしました。ダンジョン間の闘争が終わるまでダンジョンから出ることはできません。報酬として火精霊の加護とダンジョンマスターへの謁見が可能となります。火精霊の加護が前払いされました。契約に違反しますと、前払いのスキルが変換された状態で消失し、さらに二つのスキルが消失しますのでご注意ください。』
この天の声が聞き終わる時、ドフィ君たちはニヤリと笑みを浮かべた。




