目覚め
それは、遠い記憶。
「行って来るよ。今までありがとうな。この戦いが終わったらまた会おうな。親父さん。こいつの事をお願いします。」
「ああ、任せな。」
そう言って青年は僕の前から旅だった。
今までの長い旅で共に苦楽を共にしてきた僕を置いて・・・
行かないでと叫んでも彼は振り返ることなく仲間達と共に去って行った。
何度も後を追おうとしたけれど、僕の体は動かない。
魔王軍の幹部との戦闘で僕はもう戦えなくなってしまったのだ。
役に立たない僕は置き去りにされてしまった。
それが、僕の覚えている一番悲しくて辛い記憶だった。
ん・・・・?
ここは・・・どこだ?
懐かしい記憶を夢に見て目覚めると、そこは薄暗い場所だった。
僕は周囲を見渡そうとするが、体が思うように動かない。
何かしらのダメージを負っているのだろうか?
実は先程の夢はそれほど遠くない記憶で僕はまだ怪我を負ったままなのだろうか?
地面に座ったまま周囲を見渡すとそこは、薄暗い洞窟の様な場所で僕は壁に体を預けた状態で倒れているようだった。
ギギギ・・・
体を動かすと何かが僕の体の動きを阻害する。
何かあるのかと体を見れば全身を鎧に覆われていた。
どうやら、装備している鎧のせいの様だ。
古びているからか?
いや、そもそもなんで僕はこんな古い鎧を装備しているんだ?
(訳が分からない。)
状況を確認するために立ち上がり周囲を見渡せば、僕と同じように武器や防具を装備している人達が倒れている。
しかし、もうすでに息はない。
死んでから随分と時間が経っているのだろう。
もはや肉はなく、白骨化した死体となっている。
(この人達は僕の仲間だったのかな・・・?)
そう思ったが、僕はすぐに頭を振って否定する。
そんなはずはない。
だって僕はこうして生きている。
だからこそ、こうして目覚めたのだ。
僕は周囲にあった死体から何か使えるものがないかと漁る。
少量のお金とアイテムを取ると僕は死体を並べて手を合わせて拝んだ。
せめてもの供養にギルドカードを持って帰ろうと思う。
(どこのどなたかは存じませんが、アイテムは頂いて行きます。)
そうして立ち上がり、現在地の確認をする。
おそらくは、ここはダンジョンと呼ばれる魔物が出てくる迷宮だ。
周囲の壁や天井の形状からして洞窟型のダンジョンだろう。
こういったダンジョンは基本的に上から下に下がるものが一般的だ。
たまに山の中がダンジョンになっているものは洞窟の下から上に向かうものもあるが多分ここは違うだろう。
・・・気絶していたせいかな?
記憶が混濁してここにいる理由と自分の名前が思い出せない。
あとは場所とかも思い出せない。
しかたがないので、周囲の状況を確認するために散策する。
上か下に向かう通路を発見し進んでみればこのダンジョンの出口が下にあるか上にあるかはすぐに分かる。
ダンジョンは基本的に入り口付近のモンスターが弱く、奥に行けばいくほど強くなる傾向がある。
散策していればそのうちモンスターに出会うだろう。
あとはそのモンスターよりも階層を移動した後で強いか弱いか確認すれば出口の方向が判る。
といっても、基本的にダンジョンの攻略はパーティで行うのが基本だ。
なのに、僕はたった一人でここにいる。
どうしてだ?
パーティにおいて行かれた?それとも、1人で来た?
前者の場合は気絶した時に死んだと間違われたか。仲間もそれどころじゃなかったか。囮にされたかの三択かな。
後者の場合は相当な自信家か実力があるのか。
全身鎧を着ているので気絶していた場合は死んだと間違われてもおかしくはない。
他の可能性については・・・
うん。
この件は深く考えない様にしよう。
考えたって事実は分からないし、わかっても嫌な思いをしそうで怖い。
しばらく歩いていると何かに出くわした。
全身鎧の人が三人でこちらに向かって通路を歩いている。
全身鎧なので人なのか。あるいはモンスターなのかの判別がつかない。
リビングアーマーと言う鎧だけのモンスターも存在するので油断するわけにはいかない。
どうしよう。
とりあえず、話しかけるか?
いきなり襲ってきたらモンスターだろう。
ああ、でもダンジョン内で略奪をする人間もいるからな・・・
そんなことを考えているうちに僕の隠れている通路の曲がり角に相手は近づいてくる。
しかたがないので、今回は隠れることにした。
安全確保が最優先だ。
この階層で気絶していたことを考えると僕の実力はこの階層のモンスターよりも下と考えた方がいい。
困ったな。
モンスターかどうか分からないこの全身鎧の集団には話しかけられない。
というか、全員が全身鎧って重装備すぎないか?
というか、パーティーとしてのバランスが悪くないか?
全員前衛職なんだろうか?
後方支援や遊撃手などはいないのだろうか?
まぁ良いか。
他のパーティーを探そう。
そう思い他の人達を探すが、なかなか人に会えない。
この階層にいるのはなぜか全身鎧の奴らだけだ。
こうなってくるとこの全身鎧がこの階層のモンスターと確定していいかもしれない。
どうやら、最初に発見した三体に話しかけなかったのは正解らしい。
話しかけていたらその瞬間、殺されていただろう。
さて、これからどうするか。
残念ながらモンスターを避けているせいか上にも下にも進む道を発見できていない。
こうなったら戦うしかないのかもしれない。
しかし、どこから攻略すべきなのだろうか?
進むべき道が判らないのでどこに行けばいいのかも不明だ。
こういう場合は適当に進むのが吉なのだろうか?
まぁ、まだ行っていない場所もあることだし気にせずに進もうかな。
そう思って歩いていると通路の先から戦闘音が聞こえてきた。
どうやら冒険者がいるらしい。
これは好都合だ。
冒険者がいるのならば彼らから情報を入手できるはずだ。
人の良い冒険者に出会えればダンジョンの外まで連れて行ってくれるかもしれない。
人の悪い冒険者でもダンジョン内でモンスターとの戦いに加勢すれば悪いようにはしないだろう。
そう思い戦闘している所を見ると冒険者たちは特に苦戦はしていなかった。
なかなかに良い連携のパーティーだ。
これなら加勢の必要性はないが、情報を得るためにも接触は必要だな。
そう思い彼らが戦闘を行っている小部屋へと向かった。
「! 通路から新手が来るわ!」
戦闘を行っている冒険者の1人が僕に気づいてからそう言って仲間に警戒を促す。
あ、そう言えば僕も全身鎧だから傍から見たらリビングアーマーでしかない。
これはまずいと思ってヘルムの一部を開けて顔を出す。
これでモンスターと間違われることは・・・
「ヒ・・・! なんでこんなところにスケルトンナイトが・・・! みんな気をつけて!」
僕を見た女魔法使いがそう言って声を荒げる。
え?スケルトンナイト?
そんなのいるの?
そう思って後ろを振り返ったが、何もいなかった。
(何だ驚かせないでくれよ・・・)
そう思って振り向くと女魔法使いから魔法が飛んできた。
炎の魔法は一直線に僕に向かって飛んでくる。
(危ない!)
そう思ったぼくは瞬間的に腰に差した剣を引き抜いて炎の魔法をかき消しつつ避ける。
全く危ないじゃないか。
なんてことをするんだ。
これを文句の一つでも言わないと気が済まないな。
そう思っていると今度は剣を持つ盗賊の女が距離を詰めて襲い掛かってくる。
「アサシン・エッジ!」
と、盗賊の持つスキルを発動した刃を向けてきた。
しかし、その攻撃は奇襲としては遅すぎる。
僕は半身になって攻撃を避けると彼女のナイフを持つ手を掴んだ。
全く突然襲い掛かってくるだなんてなんて失礼な子なんだ。
ここはきつくお説教を・・・
「フォトン!」
なんて思っていると今度は僧侶の男性かな?女性かな?というような性別のよくわからない僧侶から光魔法が飛んできた。
最初に女魔法使いが無詠唱の炎魔法を使ったがそれをあっさりと掻き消したことで今度は威力の増す詠唱付きで来たか。
などと感心している間に女盗賊の手が僕の手からするりと抜ける。
まぁ、このために光魔法を放ったのだろうから当然と言えば当然だね。
僕は女盗賊を見逃して迫りくる光魔法をあっさりと剣で切り裂いた。
光魔法を切り裂くと女盗賊は小部屋の入り口付近にまで戻っていた。
どうやら単独では僕には勝てないと悟ったようだった。
僧侶も攻撃をやめて様子を窺っている。
小部屋の中ではまだ戦闘が続いているのだろう。
魔法使いは僧侶と場所を入れ替わったのか。
小部屋内部の戦闘に参加しているらしくこちらからは見えなくなった。
盗賊と僧侶が僕の牽制役らしい。
僕には彼らに攻撃される理由が全く分からないんだけどね。
そういえば、今更ながらに思うけど、僕ってなかなか良い剣を持ってるよね。
鎧の方は少し錆びついているけれど、剣の方は魔法を二度もいとも容易く切り裂くことができた。
相手も襲ってこないし剣の状態を見るのも悪くない。
そう思い、剣を見た瞬間だった。
僕の手にある美しい剣の刀身が、全身鎧の骸骨戦士の顔を映し出したのだ。
それは、紛うことなき僕の顔だった。