光と闇
第八話目です。
笹野家の一人息子である少年ー光はベッドに腰を下ろし今度は柏桃子を見上げてこう言った。
『まあ、とりあえずもう帰ったら?今しかないよ、ご両親と過ごせるのはさ』
柏桃子は疑念を抱かずにいられなかった。
光がまるで何もかも分かっているような口ぶりで彼女の神経を逆撫でするような態度だからである。
『そんなこと笹野君に心配される筋合いなんてないし、大きなお世話よ』
負けずに口答えする柏桃子だが、何かを考えるような真剣な顔をして黙り込んだ。
最近、お父さんとお母さんの仲が良くない。
私の前では普段通りを装っているけれど、実際はピンと張った糸のようにいつ切れてしまうか分かったもんじゃない空気だ。
『その様子じゃ変わりないみたいだね』
光は小馬鹿にしたように鼻でフッと笑った。
柏桃子は早くこの場から去りたいと思った。
『笹野君、じゃあ今度会うのは学校で』
吐き捨てるように彼女は笹野家を後にした。
ー今しかないよ、ご両親と過ごせるのはさ
笹野君に言われたことが頭の中でこだまする。
視界が急にぼやけた。住宅街の中一人ぼっちでトボトボと道を進んで行く。
指で目元を抑えると濡れているのが嫌でも分かった。
『なんで泣いてるんだろう‥‥私‥‥』
さっきまでの彼女は嘘のようだった。
(一方青年光は)
嘘だ。
こんなのって‥‥。
部屋中窓ガラスの破片が散らばっている。
独特の匂いが漂い、気分が悪くなる。
さっきから喉の渇きが尋常ではない。
キッチンに急いで、水道水をグラスに注いだ。
ごく‥‥ごく
『っは〜』一旦落ち着こう。自分に言い聞かせる。
外は夕暮れでヒグラシの声が響いている。
そしてあの部屋には‥‥
『っう‥‥』
着ている衣服の胸の辺りを手で強く握った。
ージャーーーーーーーーーー
気持ちが悪くなって吐いてしまった。
僕は一体どうしてしまったんだ?
どうして柏桃子を名乗るあの女の人は死んだんだろう?
どうしてあの兄ちゃんの姿で急に背丈が高くなって指も大きく‥‥長くなった?
中学生だった僕はいつの間に成長したんだ‥‥ろう?
そしてここは一体どこなんだ?
笹野家の間取りとは違う家だ。
ーピリリリリリリリリリ
ガタンッ
びっくりして壁に背中がぶつかった。
音のする方に寄ると、そこには黒い携帯らしきものがしきりに高い音を立てていた。
赤いランプが点滅している。
僕はその携帯に出てみることにした。
鍵っ子の僕は携帯も持たされていた身だったから難なく電話に出られた。
『‥‥もしもし?』
自分の声が違うことに今更動揺する。
すると電話の向こうから聴こえて来たのは女の人の声だった。
『もしもし?』落ち着いた感じの声にどこか安心感が芽生えて来る。
そして焦って僕はその電話相手に助けを求めた。
『ぼ、僕、笹野光ですっ中学生ですっなのになぜか‥‥あのっ女の人がっ女の人がっ』
混乱して何から話していいのか分からなくなった。
『そう、光君ね。』向こうは僕を知っているようだ。
『あのっ何がどうなってるのか分からなくて、怖くて‥‥』
『そうね、怖いのは当然だわ。自己紹介が遅れたけど、私は鈴木。あなたの味方。これからそっちに向かうわ』
鈴木さん?よく聞く苗字だ。でも自分の中で思い当たる人物はいない。
ってこれからこっちに来るってことは‥‥
『え?‥‥あのでも‥‥』
死体がある。
そう口に出せずにいると
『全部分かってるわ。とにかくあなたを迎えに行くから細かいことは気にしなくて大丈夫よ』
優しい口調でその女性は言い、電話を切った。
前半は少年時代の光(中身は青年光)と柏桃子
後半は青年時代の光(中身は少年光)そして謎の人物鈴木の登場です。
少年光にとって過酷な状態です。
読んで下さった方、ありがとうございます!




