入れ替わり
自分で言うのもアレですがカオス度が高いですw
柏桃子を玄関まで見送り、やっと独りの空間に戻れたとため息を漏らした。
しかし、またあの本の謎に頭を悩ます時間が戻って来たのは言うまでもないだろう。
部屋に引き返し、再び本を覗き込むとあの兄ちゃんの姿が消えていた。
どういうことだ?!
この短時間のうちにこの本に触れた者は誰一人だって居やしない。
僕は怖くなった。
ーガチャ
玄関のドアの音がした。
『?!』
ーダッダッダッ
廊下を蹴る足音が近づいてくる。
母親がこんな早くに帰る訳がない。
誰だ?!
怖くなって机の下にうずくまる。
ーガチャ
外から僕の部屋のドアが開かれた。
『あ〜やっぱりここが笹野君の部屋だったんだ〜』
短いピンクのスカートから足をほうりだしている格好の女子がそこにいた。
というより今の僕の居るところからはそういうふうにしか見えない。
柏桃子
桃子という名前が気に入っているのか彼女はよくピンク色をしたものを身につけている。
彼女の自己中さには辟易する。
僕の部屋のことが気になって戻って来たらしい。
よくもまあ、普段は赤の他人のような関係だというのにズカズカとして居られるものだなと心底思った。
そして運が悪かったとでも言えばいいのか本の存在を知られてしまった。
きょとんとした表情をしたかと思うとすぐに自己顕示欲が強そうなキリッとした顔に戻り『読書感想文の本?』と言って何の断りもなく柏桃子はその本を手に取った。
ごちゃごちゃした机の上から迷いなく彼女がその本を手にしたのはやはり白一色で奇妙な本だという事が一目瞭然だったのかもしれない。
『タイトルは?なんでないの?ていうかいろいろおかしいよねこの本』
僕は自分の部屋の散らかり具合を横目に気にしながらも、彼女がこの環境に対して耐性があるのをここで認識した。
『あの、返してくれないそれ僕のだから』
あたりまえの理由を述べたがどこか説得力のなさが目立つ。
『この絵の男の子、笹野君にどことなく似てる気がするんだけど』
鋭い。
だが、それまでだ。
『い、いい加減にしてよ。ここ人ん家って分かってる?迷惑‥‥だから帰って下さいっ』
勇気を振り絞ったのは良いが、なぜか最後だけ丁寧語になる。
それに対し彼女は言い返す
『何よ、用がなかったら私ここに来てないし』
『用って何ですか?僕の部屋をわざわざ見に来たってことですか?!』
『それもある。でも私は連絡網を届けに来てあげた心優しいただのクラスメイトよ、そんな怒らなくたっていいじゃない?』
なんて恩着せがましい奴
そう思ってとっさにそばにあった物を投げつけた。
『痛っ』
彼女は短く悲鳴を上げ萎縮した。
自分が投げたものが一体なんだったのか彼女の足下を見ると
黒い帽子が落ちていた。
ハッとしてその帽子の持ち主が頭に浮かぶ。
どうしてそれがあるのか‥‥
置いていた鏡を見るとあの兄ちゃんの姿が映っていた。
ーえ?
自分の姿がそこになくてはならないのになぜあの兄ちゃんの姿が映っているのだろう?
柏桃子の方に視線を向けるとぐったりした大人の女性が壁にもたれかかっている姿が見えた。
誰だこの人?!
『あ、あの‥‥』
髪の毛は痛んでいるのかボサボサで身体中には痣や切り傷がありかなり衰弱している風に見える。
部屋も薄暗く散らかっていてなんだかいつもと違う。
どうしたらいいのか分からずに、その女性の肩をゆすり『あの、大丈夫ですか?一体何があったんですか?』
と問う。
すると俯きながらも彼女の口元がゆるみ『‥‥あなた。あなたなのね?』
と逆に問われる。
『あなた‥‥って僕を知っているんですか?』
『も〜またなの?知ってるも何も私よ?妻の桃子よ知ってて当然じゃない』
え。この今にも死んでしまいそうな女性があの柏桃子?!
『そんなバカな話‥‥』
『でも酷いって言葉じゃ済まされないよこんなの‥‥ねえ、元に戻ってよいつもの光に‥‥』
涙をにじませながら力なく彼女は死んだ。
自分の手は明らかに中学生の手ではなかった。
あの公園で確かに男に出会ったはずだけどまさか自分だとは、思いもしなかった。
嫌。今でも混乱している。
子どもの頃の自分と今の自分を入れかえるなんてそんな酷い(むご)こと誰が考えるというのだ。
この現実を受け入れたくはなかった。
読んで下さった方、ありがとうございます。




