兄ちゃん
『僕の公園』第二話です。
少年と青年との出逢いを描いているつもりですw
光の語りと第三者語りが難しいです(苦笑)理解しづらいかもしれません。
光が振り返るといつの間に来たのだろうかあの青年が立っていた。
今度は睨んだらボコボコにされるとかそんなことは構いもなしに光はまじまじと青年の姿を目に映しゆっくりと瞬きをした。
肩に置かれた白くほっそりとした手は見た目通り体温が低く、触れられた瞬間ひやりとした感覚が服の上からでも感じられた。
細い目元でまっすぐと上から見つめられ、ハッと光は我に返った。
『あ‥‥あの これ‥‥』
カーっと体温が上がっているのが自分でも分かった。差し出した本に目を向けると表紙が真っ白なことに初めて気づいた。
なんだこの本‥‥?
表紙どころか裏も真っ白だ。バーコードすら見当たらない‥‥
背表紙はどうだろう‥‥?
奇妙な気持ちでいると
『それ、欲しいんだったらやるよ』
と青年は言った。
光は慌ててまたボコボコにされるドラマのシーンを思い出し
『すっすみません、お返しします!!』と言い青年の手に渡した。
『俺ってそんな怖がる程強そう?』ふっと鼻で笑い青年は『ブランコ乗らねー?』
と気さくに光に提案した。
光はというと少しおびえて小さい声で『‥‥はい』と答えた。
逆らったら何されるか分かったもんじゃない
そう僕は思ってこの人と他愛もない話を続けた。
『俺、いくつに見える?』
『えっ‥‥』なんでそんな質問‥‥。なんと答えたらいいのか分からない。場合によってはそれでキレられて暴力をふるわれるなんてことも考えられる。
そんな光を見て『いいから正直に言えよ』青年は問いただす。
『‥‥に、二十代?』
どう反応されるのか不安になる。
『うーん、お前と同じくらいだと思う』
その答えに『え?!』それにはさすがに驚いた。
『俺も話相手いなくて探してた‥‥お前もそうだろ?』
確かにそうだ‥‥六月にここへ引っ越して来てちょっとしか学校へ行っていない。
それどころか内気な性格のせいであまり友人関係を築けない‥‥。
黙り込んでいると
『図星だな。まあ、年齢は嘘だけど』
青年はブランコを小さくこぎ出した。
『は‥‥はあ‥‥』
相槌を打つと
『お前声小さいな〜昔の俺みてー』
『?』
『まあいいや、さっき言った通りその本やるよ』
反射的に光は『ええっそんなこれはあ、あなたのでっ‥‥』
『ふっ‥‥あなたってなんだよ?どうせなら兄ちゃんて言えよ』
『に‥‥兄ちゃん?』
光は違和感を覚えた。今までに誰かのことを''兄ちゃん"だなんて呼んだ事があるだろうか。兄弟のいない一人っ子の光にとってその単語は一生自分の口から誰かに対して出てこないものだと決めつけていた。
『でもどうせ外に出るなら公園じゃなくてゲームセンターとかにすればいいのに』
『一人で行ってもしょうがないし‥‥』(冒頭)
これが僕とお兄ちゃんの出逢いだ。
受け取った本はやはり白一色だ。中はどうだろうパラパラと本をめくろうとしたその時
『まだダメだ』そう青年は本を手で抑えた。
その真剣な眼差しに縮こまる光。
『帰った時の楽しみだ、分かったら早く帰れっまたここで会おう』しかしすぐに青年はにっこりと笑った。
いつの間に夕方のチャイムの流れる頃になったのだろう
光はそのメロディを聞きながらその本をしっかり持ち公園を後にした。
少し坂を下ったところで公園を振り返るともうそこにはあの青年の姿はなかった。
一体なんだったのだろうか。
この数時間、僕はあの人気のない公園で全く知らない人と会話をしていた。
ほんの少しの間のはずだったのに気づけば夕方で、そしておまけに本まで受け取ってしまった。
ひぐらしの鳴き声の響き渡る夕暮れに家路を急ぐ少年の影はそこにあった。
読んで下さった方、ありがとうございます!まだ続きます。




