夏休みの幕開け
再び連載小説です(笑)
ちょっと不思議っぽくしたい願望がありますw
とりあえずよろしくお願いします。
とある住宅街の外れに人気のない小さな公園がある。
その公園に続く路地は二つあり、一つは坂道。そしてもう一つは市街地に行き着く事の出来る少し入り組んだ道だ。
炎のように揺れ動く坂のてっぺんを見上げながら半袖、半ズボン姿の少年は勢いのある足取りで目的地までたどり着いた。
蝉時雨の止む気配は一向に感じられないが、それよりも外を歩く人の少なさに季節を感じてしまう。
そんな五月蝿くも静かな青い空の下、少年は話相手を見つけたらしい。
夏休みに出かける予定と言えば読書感想文を書くための本を図書館に借りに行く事ぐらいだ。
後は家で残りの計算プリント、理科の自由研究ととにかく宿題三昧。
六月に引っ越して来て間もなく夏休みに入った少年ー笹野光は学校以外で会うくらい仲の良い友達もできないまま中学校生活初めての暑い夏を迎えた。
『どうせ外に出るなら公園じゃなくてゲームセンターとかにすればいいのに』
二つ並ぶブランコにそれぞれ腰掛けているのは光と十代から二十代前半くらいの若い男だった。
黒い髪に一重まぶたの薄い顔が特徴の青年は前にツバのあるタイプの帽子の影から笑みをこぼした。
それに対して『ひとりで行ってもしょうがないし』と光は俯いた。
ブランコの後ろには木が何本か植えられており休憩場所にはうってつけの頃合いでもあった。
公園内には僕とその兄ちゃんしかいなかった。ときどき自転車に乗った人が外を通りすぎるくらいだ。
この兄ちゃんと会話を交わしたのは数時間前のことだ。
特に行きたいと思うところに行き尽くした僕は家からそう離れていないこの場所を選んだ。
本当を言うとさっきまでゲームセンターで遊んでいた。
けど、財布の中身を見てすぐにその場を立ち去った。
それからしばらく周りをキョロキョロして知ってる奴に会わないかと探したりしたけど、独りな所を見られるのが怖い気がして仕方がなかった。
だけど、偶然なんて起きなかった。
学校の友達やクラスメイトどころか人っこ一人だって出会わないからだ。
そんな時、黒のTシャツにジーパン、そしてまた黒の帽子をかぶった自分より明らかに年上の男が公園のベンチに座り、ちょうど手に収まるくらいの本を片手に読書を始めた。
炎天下でよく読書なんてできたものだと冷ややかな気持ちでチラチラと気にかけていたけど、最近観たテレビドラマの睨んだというだけでボコボコにされた野蛮なシーンが頭をよぎった時点で止めた。
砂と足が擦れる音を耳にして、反射的に見ると、既にその兄ちゃんが公園の出入り口まで歩んでいた。
背を僕の方に向けているのを良い事にしばらく眺めてから、ふと視線を青年のいたベンチに戻すとそこには白く光るものがあった。
考えるよりも先にそのベンチに駆け寄り、その光るものに手を伸ばす‥‥五本指の影が本に触れたところで全身がビクッとした。
急に肩に重みを感じたからだ。




