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 「だからさあ、何か特別な形で年越ししたいわけよ」

 「なんだそれ」

 「だからさあ」

 

 さびれた公園で冴えない大学生二人がポケットに手を入れて話している。こんなところにも新しい年は来るのだ。


 「ジャンプするってのはどうだ、俺らは年を飛び越えたって」

 「それは使い古されているからダメだ、もっとこう特別なのはないかなあ」

 

 テレビではカウントダウン番組が放送されているだろうし、ライブ会場ではカウントダウンライブが行われているだろうし、テーマパークではカウントダウンイベントが催されているだろうし、貴重な団欒のときを過ごしている家庭もあるだろうし、永遠の愛を誓う恋人達もいるだろうが彼らはただ考えていた。


 「そうだ、写真撮ろう。3,2,1,0の瞬間に」

 「でも俺カメラ持ってねえよ」

 「携帯があるだろ」

 「あっそうか」


 手をコートのポケットからズボンのポケットに移し、それを取り出した。

 

 「電源切れてるわ」


 「こんなときについてないなあ」

 「お前の使えばいいじゃんか」

 「俺のは修理中だよ、一昨日壊れた」

 「そっちのほうがついてねえよ」


 受験生にとっては、深夜のコンビニバイトにとっては、疲れてすっかり眠ってしまったうっかりさんにとっては年越しというものはあまり意味のないものかもしれない。でも彼らは考えるのだ。


 「もうジャンプでいいじゃん、てか寒っ」

 「いや、ホントに寒くなってきたな、俺ら何やってんだよ」

 「そっちが言ったんだろ、特別な年越しするって、公園に呼び出して」

 「いや、あきらめちゃいけない。この年越しはこの瞬間にしか来ないんだよ」

 「当たり前だよ」


 大晦日から元日にかけてはちょっとスペシャルだ。電車は一晩中走っているし、小学生がちょっとくらい夜更かししたって親は注意しないし、神社は年内一の儲けをさっそく記録するし、街の空気も不思議と変わるのだが、彼らはまだ考えていた。


 「やばい、時間がないぞ。どうしよう」

 「もうジャンプでいいんじゃないか」

 「く、悔しいが仕方ない。思いつかないから仕方ない」

 「じゃあもうそれで決定な。じゃあ線ひくぞ、木の棒か何かないか」

 

 「こんなのでいいか」


 壊れて捨てられていた傘を使って公園に適当に一本線を引いた。


 「よし、OKだ。こっちが今年、そっちが来年だ。3,2,1,0でこっちからそっちへジャンプだ」

 「わかった。よくよく考えると年を飛び越えるっていうのはいいかもな」

 「今頃気づいたか」


 二人で公園の時計を見る。




 一分前だ。











 除夜の鐘がなった。








 「ええ!?」


 二人揃って声を上げた。


 「ええ!?この時計遅れてるよ」



 「越しちゃったよ、年」


 「越しちゃったな、年」


 「今年もこんな感じなんだろうな」


 「今年もそんな感じなんだろうな」


 

 二人は耐え切れず歯を見せて笑った。




 せーので数秒遅れで年を飛び越えた。




 二人は向かい合って一歩引いて背筋を伸ばして言った。






 「あけましておめでとうございます」


読んでいただいてありがとうございました。

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