テレビ
冷蔵庫からビールを取り出す。
袋からコンビニ弁当を取り出す。
テレビをつける。
ボロアパートでの生活はもうパターン化されている。そろそろ引っ越そうかなとも思うが金銭面、さまざまな面倒によりその考えを捨てざるをえない。どうしてここへ来たのかというと単に家賃が安いということだった。それも破格の安さ。絶対にいわくつき物件だと思ったが住んでみるとそうでもなかった。当たり前だ、幽霊など存在しないのだ。それどころかテレビも備え付けられていた。家電付というわけではない、あくまでテレビのみであった。
今日もパターンどおりテレビをつけると何やらCMが放送されていた。最近は何のCMかわからないCMが多い気がする。続きはwebで、というのも多い。こういうCMを見ていると世間一般から取り残されている気がする。また歳をとったかと少し悲しくもなる。
いきなりピーという音がしてテレビの映像が乱れた。ついに故障かと思った。始めから部屋とセットになっていたから何年使われているのかはわからないが年季が入っているのは見てわかった。しかし一度も壊れたことがなかったし、見る分には何の支障もなかった。映像が乱れたのもはじめてだった。
音が止むと、ぱっとクリアな画面に戻り、美しい女性の顔が映し出された。CMの続きか、と思ったがその画が動かなかった。なんだろうとしばらく見ていると、その女性が微笑み、それと同時に右下に数字が表示された。
99
その数字からカウントダウンが始まった。
95
94
減っていくのはわかるが、それがどういう意味かはわからなかった。ただ数字が減るたびに少しずつ女性の口角が上がっていくのがわかった。
83
82
まあいいかと弁当を食べ始める。
さらに数字が減っていくと女性の口角が上がるとともに目の辺りが邪悪に歪みはじめた。
さすがに気持ち悪くなってリモコンを取り、チャンネルを変えようとしたが変わらない。電池切れか。仕方ないので少し面倒だがテレビ自体についているボタンを押した。しかしチャンネルは変わらない。その間も女性の顔は歪んでいく。電源もやっぱり消えない。
51
50
なんだか本当に気分が悪くなってきた。食欲も失せ、水でも飲もうと立ち上がろうとしたが体が動かなかった。
39
38
なぜ動かないんだ、どうして?
力を入れても何かにその力を吸い取られているようだった。
27
26
画面には歪みきった女性の顔、美人ではなく、もう怪物のようであった。
そして何か声を発している。すごい早口で何か言っているがわからない。まるでテープを早回しにしたときのような高温で機械的な気味の悪さだった。
15
14
その声はもう少しで聞き取れそうだった。徐々にゆっくりになって、今度はスローモーションでよくある低音になりつつあった。それと同時に全身が重くなり意識が遠のいた。
3
2
「アナタモアノヨヘイクノヨ」
1
0
*
「この物件めちゃくちゃ安いじゃん、お化けとか出たりして」
「冗談はよしてくださいよ、お客さん。かなり古いアパートだから安いだけですよ」
「まあ、俺はそんなこと気にしないけどね、幽霊なんているわけないじゃん」
「それじゃあ、この物件でよろしいですか?」
「オッケー、オッケー。今の俺には安いに越したことないし」
「ありがとうございます。それにこの部屋ならテレビもついてますよ」




