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ダイエットを始めました そのに

 ダイエット大作戦。

 乙女と体重は切っても切れない関係にあります。

 理想的なプロポーションは全ての女性が望み憧れるもの、しからばダイエットは女性の望みそのものの体現と言っても過言ではないでしょう。


 ……こほん。難しい表現を使ってしまいましたね。

 つまり女性とはダイエットであり、ダイエットは女性なのです!


 さぁ始めましょうお姉さま! 私はいつも以上にやる気ですよ!



 気合いも入ったところで軽く説明を。

 現在私たち姉妹はお家のお庭にて準備運動をしています。

 身にまとう衣装はいつものような可愛らしいお洋服とは違って運動専用の動きやすい服。

 簡単に申し上げるのなら芋いジャージ……芋ジャーです。

 お姉さまが赤の芋ジャー、私が青の芋ジャーで仲良く色違いでお揃い芋ジャーなのです。


 ……どこかでこの組み合わせは見た記憶があるのですが、まぁいいでしょう。


 運動中の怪我や肉離れが起きないように入念な準備体操を行った私は、早速ぶーたれているお姉さまへとダイエット大作戦の詳細を伝えます。



「さてよろしいでしょうかお姉さま。説明は聞いていましたか?」


「うう、聞いていましたわ。食べた分だけ運動。それでよろしいんでしょう?」


「はい、その通りなのです。ダイエットに重要な事は食事を減らすことと運動をすること。他に王道はありません」



 転生前の世界では数多くのダイエットがあふれていました。

 曰く、楽に痩せられる。簡単に痩せられる。食べながら痩せられる。運動せずに痩せられる。

 しかしながらそのどれもが眉唾で、場合によっては詐欺ともとれる結果の伴わないものでした。



 総長さんは言っていました。

 いろいろ手を出したけど、結局王道が一番だと……。

 総長さんが身を持って出してくれた最適解。今こそ役立たせて頂きます。



「食事を減らす……おかしー」


「安心して下さいお姉さま。私も食いしん坊お姉さまからお菓子を取るのは無理だと判断しました。故に、運動をするのです。食べた分以上に動けばいい。実にシンプルな解決方法なのです」



 王道ダイエットは運動と食事制限にあります。

 過剰に摂取していた食事を適切なものに減らし、運動をしっかりと行うことによってカロリーを消費するシンプルかつ頂点に君臨するダイエットです。

 お姉さまの場合はお菓子だ断ちをすることは不可能ですから、お菓子の量を減らす方向性で頑張ってもらいましょう。

 運動さえしっかりしていれば、毎日お菓子を食べたとしても適切な量であればちゃんと痩せることができますからね。



「なるほど。沢山お菓子食べたとしても、それ以上に運動すれば太ることもありませんものね!」


「とりあえずはお家の庭をぐるっと一周するランニングをしましょう。まずは今日食べた分を取り戻すのです!」


「はぁ、リリィさんったらやる気になって。分かりましたわ。それで、どの位運動すればよろしいんですか? さっさと済ませて紅茶の時間にしましょう」


「百周です」


「え?」


「お庭を百周」


「…………」



 二・三周で住むと思ったか。甘いわ。



「ちなみに想定時間は三時間です。さぁ、頑張りましょうかお姉さま♪」


「やだぁぁぁぁ!!」

「逃すと思うてか!!」



 だっと駆け出すお姉さまの肩をガシっと掴んで拘束。

 場合によっては関節技も決めさせて頂きますよお姉さま。

 さぁ明るい未来に向けて、いざダイエットの開始なのです!



 ◇   ◇   ◇




 ご、ごきげんよう皆さま……。

 あれから頑張りに頑張ってランニング三時間、お姉さまと一緒にきっちりとこなしました。

 ダイエットは有酸素運動が基本なため、そこまでペースを上げてランニングをする必要はありません。

 軽く走る程度で大丈夫ですし、途中に水分の補給も欠かしてはいません。


 とは言え三時間。

 公爵令嬢ともなれば箱入りで、運動など殆どやったことのない二人には相当辛い物がありました……。

 ここまで文句を言わずに頑張った自分とお姉さまを褒めてあげたいです。



「ぜーはーぜーはー、ぢぬー」


「はぁ、はぁ、私も疲れました。けどこの程よい倦怠感がダイエットを実感させてくれていいですねお姉さま」



 大きな木の下、芝生の上で少しだけ座り休憩します。

 さらさらと流れてくる風が心地よく、ひんやりとした空気が火照った身体を優しく冷やしてくれます。


 ちなみにお姉さまは死にかけです。

 どこかのタレたお人形みたいにだらーんとなっています。

 普通のお嬢様の生活以上に普段からぐーたらな生活態度だったのです。

 きっと明日以降筋肉痛に悩まされることうけあいですね。

 はしたないですけど今回ばかりは大目に見てあげましょう。


 しかしながらお姉さまが文句ひとつ言わずに運動に付き合ってくれたのは幸いでした。

 この調子で明日以降も頑張れば、なんとか学園が始まるまでには見られる体型になっているでしょう。


 明日以降の運動とお菓子の量を計算している時でした、邸宅の方から不意に声がかかります。



「アローネお嬢様~! リリィお嬢様~!」



 おや? とばかりに首だけを動かし声の聴こえた方を確認します。

 視界にいつものメイドさんがニコニコと笑顔で小走りに駆けてくる様子が映りました。

 彼女の右手には何やらバケットらしき物。

 ……? 気を利かせてタオルでも持ってきてくれたのでしょうか?

 汗が凄いことになっているので正直ありがたいのです。



「メイドさんではないですか。どうしたのですか?」


「お菓子と紅茶をお持ちいたしました」

「おい、なんでだよ」



 三時じゃねぇんだぞ。

 木陰でちょっとお茶でもって雰囲気じゃないことは分かるでしょう?

 さも当然の私達の横に座り、バケットからテーブルクロスやらお菓子やらを取り出して休憩の用意を始めたメイドさん。


 ちょっとメイドさん? 私達の格好見えてます? 二人とも芋ジャーですよ?


 鼻歌交じりに用意を続けるメイドさんに業を煮やして問い詰めようとした時です。

 そういえばメイドさんがこの様な理解不能の行動を取る原因に思い当たりました。

 というかお姉さま以外に考えられません。



「くっくっく。では答え合わせといきましょうリリィさん」

「何がだよ」



 してやったり! と言った顔で困惑する私をニヤニヤと観察するお姉さま。

 けれどもいまだに息は上がっていてぜーはーと呼吸は荒く、顔は溢れだした汗でべっちょり、芋ジャーも軽く湿っている有様です。

 何を考えていたかは大体分かりますけど、答え合わせしている場合じゃないですよね? お姉さま。



「実はこのお菓子、こんなこともあろうかと私がメイドさんに申し付けて用意をさせていたのですわ!」



 やったー(≧∇≦) と言わんばかりにメイドさんからお菓子を受け取るお姉さま。

 その素早い行動に長い運動で疲れきっていた私は反応ができません。



「ちょ、ちょっとお姉さま。せっかく運動したのに。それに――」


「ふっふっふ、運動したから別に構わないでしょうリリィさん。そうれ! もぐもぐ」


「あーあー」



 止める間もなく大きな大きなシフォンケーキをヒョイパク。

 生クリームがたっぷりと乗っていて、いつもなら目を輝かせてしまうお菓子も運動直後だと見ているだけで気分が悪くなってしまいます。

 そんな状態なのにお姉さまったら……。



「もぐもぐ……うぐっ!」


「お姉さま、あれだけ運動した直後に甘ったるいお菓子食べると……」



 運動直後のお菓子は……胃に来ますよ?



「ぎぼぢわるいでずわ……」


「やっぱり……」



 幸せそうな顔は一転して青ざめたものになってしまいます。

 もう少し休憩でもしたのならおいしく食べられたんでしょうけど、流石にタイミングが悪かったですね。


 でもいい薬です。食いしん坊お姉さまはこれで少しは反省するといいのです。


 私は鬼になります。

 鬼となってお姉さまを谷に突き落とします。


 お姉さま、学んで下さい。

 お菓子はもう私たちの味方ではないのです、彼らは裏切ったのです。

 これからはランニングとこの芋ジャーが私達の仲間なのです。


 相変わらず気持ち悪そうにしているお姉さまをふふふんと鼻で笑っちゃいます。


 しかし運動直後にお菓子を頬張って気分を悪くしているお姉さまはなかなかに見ていて面白いのです。

 アホの子かくやと言った感じですし、涙目で助けを求めてくるその姿がとても愛らしくて思わず抱きしめたくなってしまいます。


 ええい、我慢できない! お姉さま! ぎゅーっ、です!

 リリィは愛しのアローネお姉さまにハグハグしちゃいます!

 涙目お姉さまに抱きつき攻撃だぁ!



「リリィざん。 だずげ…………あ゛っ、そんなに強くしたら……えれれれれれ~」


「ぎゃああ! お姉さま汚い!! なにしてるんですかぁ!」



 しかしリリィさん、ここで選択をミスったぁ!

 アローネお姉さま盛大にリバース! なんだかどろどろになったお菓子的なものが私の芋ジャーに降りかかります。

 慌ててお姉さまから距離を取りますがすでに後の祭り、私の芋ジャーは哀れお姉さまが先ほど食べたシフォンケーキの餌食となりました。

 訂正、シフォンケーキの様な物体の餌食となりました。


 もう! なんでこのタイミングでもどしちゃうんですかお姉さま!



「お、お嬢様!? アローネお嬢様ぁ!!」


「だっで、ぎぼぢわるいがら……えれれれ~」


「ちょ、まっ! こっち来ないで下さい! 服についたー!!」



 私に助けを求めるように抱きついてくるお姉さま。

 メイドさんも慌ててお姉さまの背中をさすりますが、それが更にお姉さまのリバースを誘います。

 もうやだぁ! この芋ジャー気に入っていたのにー!



「ごべんなざい、でもだっで……えれれ~」

「うわぁぁ! 今度は髪の毛にーー!!」

「お嬢様ーっ!!」



 結局その後は淑女らしからぬ失態を見せてしまって大泣きするお姉さまをメイドさんと二人でなんとか慰め、這々の体でこの衝撃的なダイエット大作戦の一日目を終えたのでした。


 疲れた。

 何よりも精神が疲れました。


 肉体的にも精神的にも限界まで消耗した私。奇しくもエネルギー消費という点ではダイエットの滑り出しは順調みたいです。


 ……ただこの事件があったからでしょうか?

 お姉さまのお菓子を食べる頻度がめっきり減ったのだけは僥倖といったところかもしれません。

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