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転生しました

 ごきげんよう皆さま。

 私、極道寺(ごくどうじ)よしこはこの度めでたく悪役令嬢に転生いたしました。



 まるで夢物語の様なお話です。

 前世ではヤンキーと呼ばれる非行少女のチーム……いわゆるレディースの特攻隊長として名を馳せていた私ですが、気がつけば公爵令嬢として第二の生を受けていたのです。

 最後の記憶が深夜みんなでコンビニに買い物に行く途中、突然照らしだされたヘッドライトの光とクラクションの音だったので恐らくそういうことなのでしょう。


 サラリと流れ、窓から入り込む陽光を反射して黄金もかくやと輝く金髪。

 張りと艶を兼ね備え、若々しさと瑞々しさを持つ肌。

 フリルのついた可愛らしいお洋服。


 リリィ・ベルガモット公爵令嬢。



 ベルガモット公爵家の第二子として、ここフレバリア王国に生を受けた私。

 転生という不可思議な現象に遭遇したことも驚きでしたが、物心ついて様々なことを学ぶことができるようになって、さらに驚いたことがあります。


 私の名前、この国の名前。そして地名、通う予定の学園の名前。

 瞳に映る景色、聴こえてくる言葉と単語。

 ありとあらゆる物に覚えがありました。


 私の記憶に間違いがなければ、レディース時代に大好きでこっそりとチームの皆で回し読みしていた漫画。

 青春の一欠片。その舞台。

 そう、この世界は……、



 超人気恋愛漫画『花令嬢物語はなれいじょうものがたり』の世界そのものだったのです!



 この『花令嬢物語』はなんというか、ある一点を除いて王道の展開です。

 ひょんなことから貴族の養子となった貧民上がりの少女フローラが、様々な困難や嫌がらせに耐えてやがて王子様と結ばれる。


 典型的なシンデレラストーリーであり、ですが濃厚で魅力的な物語は多くの少女たちの心を鷲掴みにして離しませんでした。

 私もそんな心を鷲掴みにされた女の子の一人です。


 ですが今は物語の読み手ではなく演じ手。

 私は主人公のフローラさんに嫌がらせをする悪役の一人、リリィ・ベルガモットなのです。

 もっとも、今の私はとても聞き分けの良い誰からも好かれる女の子ですけれどね。


『花令嬢物語』のラストは、今までフローラさんに沢山の嫌がらせをしていたベルガモット家がその悪行を暴かれて、王室によって断罪されるシーンで終わります。


 流石にその結末はお断り願いたいです。

 その為には私が悪役から脱し、ごく普通の令嬢として過ごせば良いのですが……。

 運命はそう簡単に私の幸せを認めてくれないようです。




 自室に向かうため廊下を歩いていると、丁度メイドさんたちのお話が聞こえてきましたね。


「またアローネお嬢さまがわがままをおっしゃって……」

「困ったわ。どうすれば……」

「妹のリリィお嬢さまはあんなに聞き分けが良い子なのに」

「しっ! 聞かれでもしたら大変よ!」


 そう、私のお姉さまであるアローネ・ベルガモットもまた悪役令嬢なのです。



 この『花令嬢物語』は、ダブル主人公、ダブル悪役令嬢という変わった設定を持っています。

 主人公と同じ十六歳のアローネお姉さま。

 一つ下で十五歳になるのが私リリィ。

 当然主人公である貧民上がりのフローラさんにも私と対になる形で妹さんがいらっしゃるのですが……。

 まぁそこはいずれまた。



 さしあたっての問題は別のところにあります。


 転生し、極道寺(ごくどうじ)よしこという人間からリリィという物語における悪役に入り込んでしまった私は、物語の中とはいえ新しい人生を歩まなければいけません。

 ならば全力をつくすのは当然です。

 夢は素敵な王子様に見初められ、幸せな生活を送ることなのです。

 その為、立派な淑女を目指して日々邁進しています。


 当然以前のようなやんちゃさんは出来ません。

 公爵令嬢という立場が許しませんし、私は変わって見せるとかつての所属していたチームの総長さんと約束しましたからね。

 さようならレディース。さようなら愛車の改造CB400。

 もう二度と暴力的な人間にならないと、私は自身に誓ったのです。


 その成果が着々と出ていることは、先ほどのメイドさんたちの会話が証明してくれています。ふふふ、頑張りました。




 話が逸れました。

 この様に私はちゃんと公爵令嬢としてあるべき人生を送っているので問題はありません。

 問題は……。



「どうすればお姉さまを真っ当な人間にすることができるか……ですね」



 そう、お姉さまです。


 いくら私がしっかりとした所で、長女であるお姉さまが原作の『花令嬢物語』と同じように酷い行いをしては、私の努力は水泡に帰すことになるでしょう。

 白馬に乗った王子様もきっとその家庭環境にドン引きして離れていくに違いません。


 このままでは私の人生もきっとバッドエンドです。

 なにより、これ以上あの傍若無人なお姉さまの振る舞いを見ていることなんて耐えられません。

 流石の悪役、お姉さまの行いは本当に酷いですから……。



 自室に戻り、備え付けられた勉強机に座ってぼんやりと外を眺めながら考えを巡らせます。

 何か、方法が……。

 何か良い方法があれば……。

 窓の外では小鳥たちが小さな演奏会を開演中。その愛らしい仕草が私の荒んだ心を少しだけ癒やしてくれます。

 ああ、私もあの小鳥さんたちの様に大空を飛べたらどれだけ楽しいでしょうか?

 そんな夢見がちな妄想を始めた時でした。



 ――よしこぉ……。


 ――よしこぉ!!



 それはまさしく奇跡とも呼べるのでしょうか?

 不思議な現象が起こりました。


 私がこのリリィとして生まれ変わる前。

 極道寺(ごくどうじ)よしことして人生を謳歌していた時の記憶が蘇ったのです……。

 それは当時所属していたレディースで対抗するチームを文字通りボッコボコにしてやった帰りの、とある出来事でした。



 …

 ……

 ………


「いいか、よしこぉ。敵対するレディースチームに出会ったとする。けどどんだけウチらの凄さを魅せつけても馬鹿だから一向に言うこと聞かねぇ。そういう時どうすればいいと思う?」


「うーん。分からないです! ぶん殴るんですか?」


「半分正解だ。……アームロックをかけるんだよ」


「アームロック……ですか」


「なんでか分かるか?」


「分からないです総長! そんな面倒な関節技じゃなくて殴ればいいじゃないですか!」


「ばっか! 殴ったりして万が一キズが残ったらおめぇ、お嫁に行けねぇじゃねぇか! 関節技なら相手の行動を防いだ上で適度に調節して傷めつけることができるんだよ!!」


「さ、流石です総長! アタシ感動しました! そこまで考えていたなんて!」


「アタイらはヤンキーの前に一人の女の子なんだよ! そのことを忘れんじゃねぇぞ! 女を〆る時は関節技だ! いいな!?」


「はいっ! 総長!!」


………

……



 ありがとうございます、総長さん……。

 貴方の言葉、今でも心に残っております。


 転生する前にお世話になっていたレディースチームの総長さん。

 彼女のありがたい言葉を胸に秘めます。

 ちなみに、総長さんは高校を卒業したらさっさとチームを抜けてイケメン青年実業家を捕まえていました。

 流石総長さんです。


 私も総長さんのように立派な二児の母となって、誰からも羨まれる人生を送りたい。

 白馬に乗った王子様と結ばれて、誰もが羨むハッピーエンドを迎えるのです。


 そのためにも今のお姉さまは邪魔以外の何者でもありません。



「……仕方ない。やるか」



 窓の外で遊んでいた小鳥さんたちが、慌ただしく飛び去ります。

 決意をすれば、後はトントン拍子でした。

 今から運命を変える……。

 そう考えると自然と力が湧いてきます。

 レディースの皆が世界を越えて、改造マフラーと改造クラクションを高らかにかき鳴らし応援している様です。


 ……もう、私に迷いはありません。

 見ていて下さい、私の生き様を。

 総長さん、レディースの皆さん……。




 私……お姉さまを〆ます!!




 心がすぅっと冷えきり、お姉さまを教育するだけのマシーンと化します。

 幸い、本日はお父様もお母様もパーティーにご出席される為にお家にはいらっしゃいません……。


 まさに天佑。まさに好機。

 遠く夕焼け空に総長さんの微笑む顔が浮かんでいるようにも思えます。

 何もかもが、私に味方を……お姉さまをフルボッコにしろと仰っているのですね。

 分かりました。

 調子の乗ったお姉さまにその立場を教えてさし上げるなら今日しかないです!


 思い立ったら吉日、心のエンジンスターターをオンにした私は興奮に高鳴る心臓を抑えながら早速お姉さまの自室へと赴きます。

 久しぶりですからテンション上がってきました。楽しみ!

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