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第4話 命の順番

 奥のベットから、アリカの鼻をすする音が聞こえる。

「……もう朝なの?」

薄い一枚のカーテンでのみ仕切られた隣の空間で交わされる少女達の会話は、声を押し殺していても全て筒抜けだった。

「ああ」

 2分ほど身支度の布ずれの音が聞こえた後、央間のアリカへの囁きが俺の耳にもするりと入り込んで

 耳元がゾクリと震えると肌が小さく粟立つ。

「今日は一日休みを取って寝ておけば良いだろう。……たまにはそんな日があってもバチは当たらない。総務には私が伝えておくよ……」

 央間がアリカにかけた声は、俺がここ数日バスチオンで過ごしていた中でも初めて耳にするような極人間らしい優しさに溢れたもので

 何となく頭上まで引き上げていた上掛けから目を覗かせれば、間仕切のカーテンの下からはストッキングを身につけた央間のほっそりとした白い足首が覗いて見えた。

  なんだか見てはいけないものを見てしまったような気分に苛まれて、俺は仰向けた体をすぐに入口ドアの方に返して姿勢を変える。

 これはあくまでも本能の所業なのか、それとも央間が怖いと思う気持ちからくるものなのか、胸の辺りが僅かに締め付けられると、トクリと揺れた。

 ベットの傍らにあるデジタル時計に目をやれば時刻は6時20分に変わる所で、患者の起床時間にはまだ幾分か早い。

 今日はあの事件の関係で慌しくなるかと思いきや央間のスケジュールはいつもとなんら変わりがないようだった。

 やっぱり昨日のような事件も央間達にとってはよくある日常の一齣なんだろうか。

  結局、昨夜は入り口側のベットにグスタヴィが、そして真ん中には俺が、一番奥まったベッドには央間とアリカが二人で一緒に眠るという大所帯での泊まり込みとなった。

 央間の朝が早いのはいつものことだがグスタヴィの動きは更に早く、すでに早朝5時頃から身支度を済ませると各所を廻っているようだった。

 少女達が言及しないところを見ると、これが彼の通常の生活スタイルなんだろう。

 昨夜は短時間とはいえ彼の動向を観察していたのだが、彼は誰よりも早く行動し、誰よりも細かく周囲に気を配っていた。

 故に現時点での俺の中の彼の位置付けは、央間達の保護者的な存在というか。性別の枠さえも容易に飛び越えて、お母さん…もとい主婦の如しなんて認識にはめ込まれてしまっているのだけど。

 あんな凄惨な事件を目の当たりにしても彼女達の心が折れずに済んでいるのは、ひとえにあの大男の支えの賜物ではないだろうか。

「おい起きろ。朝だ。飯だぞ。」

 そんな妄想をダラダラと巡らせていると、現実にガチムチ主婦の如きグスタヴィが3人分の朝食トレイと飲み物のデキャンタを携えて帰って来る。

 匂いにつられてベットから半身を起こすと俺のスペースを仕切っていたカーテンが央間によって不躾に開け放たれた。

 彼女は俺のビビり顔になど目もくれず、すぐに身を翻してアリカの様子を見にまた自分達のベットの方へ戻っていく。

 彼女の辞書にはプライバシーという文字がないのだろうか。これでも俺も年頃の男子なのだから、少しくらいは配慮して頂きたいものだと思う。

 一人、脳内でブツブツと呟きながら俺はやっと気だるい足を靴に通すと腰の悪い老人のようにして立ち上がった。

 3分程して 、それぞれが身支度を整えると朝食が用意されたリビングスペースにやや沈みがちな面持ちで集まくる。


「!!」


しかしガラス戸を開けるやいなや、俺のパカリと大きく開いた口からは一転して喜びの雄叫びがやかましく上げられることとなった。


「ふぉおおおおおおおおーーーー!!」


 リビングテーブルには色彩豊かな洋風の料理やバスケットに山積みの焼き立てのパン。グラスに注がれた果物のジュースが所狭しと並べられている。天板のガラスに引き立てられたその姿はさながら高級ホテルのルームサービスを思わせるものだった。

 ここ数日間ずっと央間の診察室の簡易ベットでカーテンを眺めながら食事を取り続けていたことを考えると、環境を変えるだけでもずいぶんと気分が変わるものだなと感動してしまう。

 なおかつ今日に至っては朝から特別感漂う豪勢なデザートまでついているのだ。

 央間達の顔色にも気持ち色がさしたように見えるのは気のせいだろうか。


「これはまた今日は一段と・・・・・・!!」


「……大げさな奴だな。……朝から耳が痛くてしょうがない……」

 目の前の華々しい光景に歓喜の声を上げる俺に、央間の応答は相変わらず冷ややかだ。

 普段銃声で耳を慣らしている人間が人の声ごときで耳が痛いなどと文句を垂れる様は、まったくもって片腹痛い。

 美味い料理は大概の暗い話題を煙に巻いてくれるものなのだ。

 俺にとってのバスチオンでの食事というのはすなわち毎日の心のヘルスケアであり、地獄に咲いた一輪のパイナップルのようなものであった。

 普通ならば食欲すら起こらないだろうこの状況下においてもこんな気持ちでいられるのは、作り物のグロシーンに見慣れてしまったゲーマーならではの特権なのだろうか。無論、そんな特性を持っていたところでまったく嬉しくは無いのだけども。

 大男はジュースの横にパック牛乳を並べながらも、俺の後からリビングに入ってきた央間に諭すように声を投げる。

「央間はまず主菜から食べるようにな。くれぐれも甘いものを優先して食べるんじゃないぞ」

 そう一言だけ言い放つと、グスタヴィは俺達がランドリーバックに詰めた洗濯物を拾い上げてまた診察室の外へと出て行ってしまう。

 食事の用意に子供への小言、万全に彼女達の身の回りの準備を整えておいて自分は早々に別の仕事に移って行くあたりがさながら主婦そのものとしか言いようがない。

 央間はぽりぽりと表情の無い頬を掻きながら、特に口を開くことも無くアリカの座るソファーの隣にボスリと腰を落とす。

 本日の朝食メニューは、フカフカのバターロールと黄金色に艶めく野菜たっぷりのコンソメスープ。

 そしてほうれん草とタマネギの贅沢タルトキッシュに、大粒の完熟フルーツがゴロゴロと入れられたブルーベリーソース掛け自家製ヨーグルトアイスwith焼き立てワッフルであった。

色とりどりのフルーツはまるで宝石のように輝いて、視覚情報だけで口いっぱいに唾液を満たしていく。

 思わず俺の目もキラキラと輝いてしまうのは実のところ俺も甘いものにはめっぽう目がないからだ。

「このアイスは昨日の夜グスタヴィが厨房からもらってきた材料で作ったここだけの特別メニューだ。……くれぐれも他では口外するんじゃないぞ……」

 央間の反応は終始ドライだが、朝食トレイに落とされるその瞳は珍しく柔らかな輝きを纏っている。

 多少上向きになった場の空気に俺は満面の笑みを浮かべるといそいそとソファに腰を下ろし、食前で無駄に祈りのポーズを決め込みながら調子よく軽口をたたき始める。


「あぁー神はなんてイタズラをしたものか。あんな見てくれでもグスタヴィは天使であり。どうあっても天使なのだ。グスタヴィマジ天使。」


 オーバーリアクションの俺の恭〈ウヤウヤ〉しい態度にアリカと央間は奇異なものでも見るかのように向かいのソファで顔を見合わせ、何度も二度見をしてはその都度首を傾げている。


「いっただっきまーす」


 そんな反応を気にも留めずに俺は早速目の前の篭に入ったバターロールを掴み取って一気に口の中へと放り込む。

 満杯になった口に冷えたジュースを流し込むと、柔らかいロールパンはトロリと溶けてすぐに喉を流れて行った。

 まったくパン一つとってもここの料理は一級品と言えるんじゃないかと思ってしまう。

 今度からグスタヴィの前では良い子にしていなければいけないな。なんてことを粛々と考えながらも、俺は部外者のはずの自分が少女達のついでとはいえあの大男の過保護下に預かれるようになったことを少なからず嬉しく思っていた。

 あまり好ましくは思われていないのだろうが、この待遇を見る限りは彼にも一応のゲストとしては認めてもらえたんじゃないだろうか。


「ところでグスタヴィは一緒に食べないの?」


 素朴な疑問を呈す俺に、央間は大男の言いつけなど無かったかのように主菜には目もくれず、早くもヨーグルトアイスにスプーンを差し込みながら声だけで答えを返してくれる。シカトは央間の得意技なので、今更彼女の行動にツッコみを入れる必要性すらも感じられない。

「朝の往診に行ったんだ。あれでも一応医者だからな。食事は先にさっさと終わらせてるはずだ。軍上がりは何でも動きが早い」


「……軍上がり……?」


 目を丸くした俺の向かいでアリカが央間の方へチラリと目を流すと、央間はアイスを掬ったスプーンを口に付けたまま一時停止ボタンでも押されたかのように、解りやすく動きを硬化させていた。

 どうやら言ってはいけないことをゲロってしまったようだ。

「ぐ……いや……。グンと背が伸びて足が長いと、動きが早くて羨ましいな…っ……と言うことだ。」

 俺の視線に気づいたのか央間は珍しく焦った素振りで口に運んだ溶けかけのアイスに少しむせ込むと、かなり無理のあるごまかしで前言を煙に巻こうとする。

 この女医は……案外と不器用な人間なのかもしれない……。

 なかなか咳が収まらない央間の背中をアリカが小さな掌で上下にさすってあげている。まったくどっちが子供なんだか解らなくなる光景だ。


「いいよアリカ。今日は休みなんだろ?央間の介護は程々にして、冷めないうちに食べようぜ。」


 俺はそう言うとタルトキッシュにフォークを突き立てて食べやすいように次々と切り分けていく。

「……前々から思ってたんだが……お前何か…私への言動にトゲがないか……?」


「そんなことないよー」


 俺のあからさまな棒読みの応対に、央間はジト目でスプーンを持つ手をプルプルさせていた。

 央間への言動にトゲがあるのは無理もない話である。なにしろ彼女とは一度殺されかけた仇の関係なのだから。

 しかしそれ以前に俺の態度がいつもと微妙に違っているという事には、付き合いの短い彼女達にはまだ気付かれてはいないようだった。

 なんだかんだで昨日の人攫いの殺人犯がこの施設にまだ潜んでいると言うストレスはそう簡単には拭い去ることなどできるものではなかった。

 今の状態ではまたいつ誰が同じような目に遭うかも解らないのだ。

 いつも通りを装おうとする気持ちが無意識に脳からおかしな物質でも放っているのか、自分のテンションが普段より無駄に高揚しているのはなんとなく感じていた。

 ただ今それを周りに悟られては回復しかけているアリカの不安を引き戻してしまいかねないのではないか。そんな気持ちが自分の中の不安を何とかギリギリの所で抑え込んでいた。

 守るべき対象があると、人は存外に強くなれるものなのかもしれない。例えそれが空元気であるのだとしても。

 俺は目の前の食事を一気に掻き込んで息をつき気持ちを落ち着けると、10秒ほど考えてから聞き流すことのできない話題を蒸し返す作業に移ることにする。


「……軍上がりで医者なんて珍しいよね」


 デザートのワッフルにクリーム状に溶けたアイスを絡めながら俺は正直な感想を述べた。

 央間の顔は変わらず不満げだ。眉間に皺を寄せて食事に添えられたアールグレイの紅茶にスプーン4杯分の砂糖を放り込むと、彼女はティースプーンを二週させたところで、まだ砂糖も溶けきっていないであろうそのアリ専用のドリンクを一気に飲み干した。

「お前は軍医と言うものを知らないのか」

 央間はせっかく勇気を出して踏み込んだ俺の攻めの一手を容易く跳ね退けて鼻を鳴らす。

 結局、央間との対話はそのつれない一言であえなく強制終了とされてしまった。

 20分もしないうちに全員の食事が終わるといつものように央間は食器を重ねたトレイを片づけようとテーブルに手を伸ばしてくる。

 しかし今日は俺がそれをすかさず横からかっさらって央間の手の届かない上方に担ぎ上げた。

 トレイを追う様に手を上げる央間と、ばんざいの形で向い合う俺達を台拭きを握り締めたアリカが横で不思議そうに眺めている。

「お前は座ってろ。返却場所すら知らないくせに」


「いーじゃんたまにはさ。一緒に行こうよ。アリカも一緒に行くだろ?

 ただでさえ40代のオッサンに見られてんのに座ってばっかいたらブクブクに太っちまう。

 肉なんか付けて更に弁解が通じなくなったら俺めちゃくちゃかわいそうじゃんか」


 央間は何とも言えない呆れ顔をしているがアリカはパッと表情を明るくすると、大きく頷いて間仕切りのガラスドアを先回りして開けてくれた。

 すり抜けざまにアリカの顔を見てみれば、昨日の血の気を吸い取られたような怯えた悲壮感はほとんど無く、精神的には大分落ち着いてきたように見える。

 病院勤務と言うだけのことはあって二人とも少なからず人の死とは向き合ってきたからなのだろうか。

 あんな惨状を見てしまっても尚、ここの人間は身内の不幸から立ち直るスピードがすこぶる早いように思われた。

 それはただ単に、表から見えないように隠しているだけのことなのかもしれないが

 3人は取り留めのない会話を交わしながらもトレイやデキャンタを抱え、連なって廊下へと移動して行く。

 こんな時一人で居たくは無いと思っているのは俺だけじゃないはずだと思っていた。

 一人になると考えたり思い出したりで不安になってしまうから。平常心を保つにはどうでもいい話が一番の妙薬になることもあるんじゃないかと思えたのだ。

 医療棟から短期入院棟へと向かう道すがら、ふいに壁面の水槽に目をやると俺は色鮮やかな魚達の中に一匹の弱った魚の姿を見つけた。

 魚はぎこちない泳ぎで仲間の後ろを追いかけては、水流に押されて風に舞う花びらのように力なくヒラヒラと漂っていた。

 俺の目線に気付いたのか、央間もまたその魚を目で追いながら胸元のスイッチマイクでオペレーターに呼びかけると水槽点検の指示を出す。

「可哀想だが、ここは営利優先の医療施設だからな。あいつは厨房の今日のまかない要員として回収だ」

 言って指で頭を掻く央間を横目に、俺は死刑宣告を受けた魚を不憫に思うより先にこの施設の無駄のないサイクルに改めて感心してしまった。

 ここでは魚一匹でさえ、無駄死にをすることがないように配慮がされているのかと。

 ただ少し気になってアリカの顔を窺ってみれば、齢〈ヨワイ〉6,7歳の少女も自然の摂理については多少の理解があるのか

 その表情には殊更と憂いが混じると言うことも無く小さな命を見送るその瞳はへたな年頃の少女達よりもはるかに毅然としたものだった。

 バスチオンには確かに地上の病院とはかけ離れた異常性があるのだけど、ここで扱われる命の重さは少なくとも地上の基準よりは軽くないんじゃないかと思えていた。 

 それは明らかにバスチオンの人間を殺す気で攻め込んで来ていた侵入者達が、ただの一人も落命していないことからも窺える一面だった。

 だとしたら昨日の看護師の惨状に一番心を痛めていたのは、もしかしたら央間なんじゃないだろうかなんて思いが、ふと胸を過ぎって行く。

 水槽に目を馳せながらアリカと共に先を歩く央間の横顔を、少し後ろから眺めてみるのだが彼女の瞳には元よりあまり生気が見えず、その心中はまるで読み取ることはできない。

 だからつい声に出して聞きたくなってしまうのだ。


「なぁ央間」


 秘密主義の彼女に。満足の行くような返答がもらえるだなんて期待はしてなかったけど。

 ただ一つアクションを起こせば、人は何らかの情報をこぼす事がある。俺はそれが欲しかったのだ。


「なんでお前って、わざわざ銃弾の中に自分から突っ込んでったりすんの?」


 童顔の女医は首だけで軽く振り返って、少しだけ目を細めるような素振りをすると

 再び背を向けて目前の部屋を指し示しながら口を開く。

「あれが配膳室だ。配給も回収もここで行っている」

 央間のあからさまなはぐらかし様に、見かねたアリカがこちらを気遣うように近寄ってくる。

 そして俺のTシャツの裾を遠慮がちにつまんで配膳室へと誘導すると小麦色の肌に映える大きな青の瞳でこちらを見上げて、微妙に無理のある軽快な動きと朗らかな声で目的地の扉を開いて見せた。

「入って右にへんきゃくワゴンがありますから……!」

 小さな子供の焦り顔に、俺はなんだか居たたまれない気分になってくる。

 央間は配膳室の中で俺に背を向けて両腕を組みながら明後日の方向を黙って見つめていた。

 俺の質問への一番簡単な答えは「やらなきゃやられる」だったのだが。

 でもあえて央間がこの答えを選ばないのなら、そこには何か他に別の意味があるんじゃないだろうかと思えた。


「いいよ。言いたくなければ。……聞いたって……止めることも真似することもできないし」


 小柄な白衣の背中は、小さく肩を上げて俺のもっともな発言を鼻で笑い飛ばす。

 さらりと引き下がりながらも、俺はもう一つの動機の可能性に思いを馳せていた。

 昨日の彼女の行動が戦略だと言うのなら、もっとリスクの低い方法があったはずだと思うのだ。つまり。彼女は。

 ―――撃たれることなど、どうでも良かったんじゃないだろうか。と。


 配膳室を出ると、童顔の女医はすぐにアリカの横にピタリと寄り添った。

 俺は数歩後ろから二人の様子をただただ眺めている。

 央間はアリカの世間話にいちいち相槌を返していた。自分の意思に触れる会話でなければ、央間はそんなに無口な方でもないのかもしれない。

 前方にさっき弱った魚を見つけた水槽が近づいてくる。

 黄色と黒の派手な模様をした群れの中には、弱った魚の姿はもう見えなくなっていた。

 俺はさっきから、少しづつジワジワと脳裏に浮かび上がってくる「いつかの光景」に胸中をかき乱されながら、前の二人に気付かれないように押し殺すような溜め息を静かに落とした。

 俺が命の重みを知ったのは、思えば随分と昔の話だった。

 進学、引越し、環境の変化と。別れはたびたびやってくるけども、死の別れに関してはまったくその比になることはなかった。

 だから本来は他人の命が失われることはもちろん、自分の命が脅かされることなど、誰も望まないのが普通なんだと思っていた。

 あれはまだ、俺が小学6年生に上がったばかりの頃のことで

 小さい時からよく遊んでくれていた叔父さんが、ばあちゃんの介助のために帰省することになった日のことだった。

 家族はみんなで誘い合わせて、駅まで叔父さんを迎えに行った。

 だけど待ち合わせの場所で俺達が見たのは、駅のデパートのショーウィンドウに突っ込んだ車と、その下から覗く叔父さんの真っ赤に染まった頭だった。

 学校で飼っていたウサギの死くらいしか知らなかった少年の俺は、そこで初めて人が死ぬということの意味を思い知ることになったのだ。

 人を空に送ると言う事。それは

 大切に思っていた人間をこの手で箱に釘打ち、閉じ込めて。火の中に投じると言う悪夢のようなものだった。

 釘を穿った瞬間に二度と引き返せなくなった閉じられた空間の中に叔父さんの姿を見とめて、俺は世界が終わることの恐ろしさに心底震え上がった。

 そしてあの日ばあちゃんが焼き場でポツリと呟いた言葉もまた、今も耳の奥にしっかりとこびりついている。

「……誰よりも前を行けだなんて……言わなければ良かった……」

 ばあちゃんは壊れた蛇口みたいに、目から延々と透明な雫をこぼし続けて

 あの子はとても真面目だったから、言いつけを守って先に行ってしまったんだと、延々と呪文のように後悔を唱えながら

 やがて砕けた砂の城のように床に崩れ落ちて、そのまま二度と。立ち上がることができなくなった。

 支えようと手を貸す大人たちの服に広がる涙の染みが、悲しみに蝕まれて行く心を映しているかのようだった。

 そんな中で俺は子供ながらに一つだけ悟ったことがある。

 

『―――命の順番は、守るべきだ―――』と。


 先に去って行くものは残される者たちに、悲しみの逃げ口を残してやらなければいけないのだ。

 一億何千何百年と人類を続けてはいても、心の積載量だけは大して変わることなどなかったのだから。

 順番さえ守られたなら、それが万人に決められている約束だと納得できたのなら、人は自分達の激情を説得することができたはずだ。

 だからこそ俺には理解できなかったのだ。医師という人の死を間近に見る立場にありながら、自ら進んで凶弾に身を投じる央間の心情と言うものが。


 俺と央間とアリカ。三人で来た道を戻りながら、俺は喉に詰まった言葉を吐き出そうかどうかを迷っていた。

 央間のことについては今はもう聞かないほうが良いと思えたから、聞きたいのはまた別の話についてだ。

 昨日の給湯室で見つけた被害者に刻まれたあのローマ数字のこと。すなわち、『エルフ』のことについて。

 本来ならアリカの前ではしたくない話なのだが、こんな状況下でアリカを一人にする気にはとてもなれなかった。

 ただ、ことは人命に関わる問題だけに、どうにもここで引き下がる気にも話を先送りにする気にもなれなかった。

 ならば差し障りのなさそうな聞き方をすればいいのではないか。

 俺は央間の背中にできる限り軽めの口調で問いを投げかけて行く。


「…なぁ…央間。……『エルフ』って、知ってる?」


 その瞬間に、なぜか央間ではなくアリカの肩がピクリと跳ね上がって

 一方の央間は視線で振り返り、静かに俺に質問を返してきた。

「……どの『エルフ』だ……?」

 予想外の反応に思わず怯んで小さく後ろにのけぞってしまう。が、一拍置いて考えてみればそれももっともな返しだった。


「W.インヘリターの『エルフ』だよ。……知ってんだろ?」


 俺はここでめげずに二の句をつなぐ。

 央間の細めた目に水槽越しに射し込んだ朝日が反射してギラリと光る。

「ああ知っている。話だけだが」

 半分だけ向き返ったアリカは、どこかホッとした顔をしているようにも見えた。

「お察しの通り。あれが3人目だ」

 央間は間を置かず一気に核心に触れる言葉を解き放つ。

 俺の両腕にはザワリと鳥肌が駆け上がった。

 よくよくこの童顔の女医は恐ろしいことをサラリと言ってのけるものだと思う。

 たったその一言で、一気に央間に内包された言葉の全容が浮かび上がってくる。

 つまり央間はこう言いたいのだ。

(お察しの通り、『エルフ』のプレイヤーが現実世界で人を殺すたびにゲーム内でカウントを取って楽しんでいるから、身辺には充分注意することだな)と。

 おののく俺の表情から央間は情報の同期を察したのか、僅かに顎を引いて口元に怪しげな笑みを広げると

 アリカの頭に手のひらを乗せて、醸し出す毒々しいオーラに似合わぬ穏やかな声で言葉を繋げて来る。

「せいぜいアリカを守ってやってくれ。この娘は……私の両親の忘れ形見のようなものだからな」


「……両親の……」


 ―――忘れ形見の「ようなもの」……?―――

 央間のアリカへの意味深な言葉も気になったが、俺は半ば放心状態になって立ちすくんでいて、

 心臓をギュっと握り潰されてしまっているような、胸にヒューヒューと冷たい風が刺し込んで来るような、そんな不安に満ちた感覚に囚われ弄られるばかりで、思考はすぐにそんな小さな疑問になど構っていられないとでも言うかのように、央間の言葉を右から左の耳へと流して放出してしまう。

 央間の言う通り、あれがカウントされた3人目の被害者だと言うのなら、この施設の中には現実に『エルフ』のプレイヤーが紛れ込んでいると言うことになるのだが

 例えばそれが紛れも無い事実なのだとするならば

 ―――俺が生きてここから出られる可能性はどれくらいあるんだろう―――?

 そんな恐怖心がグルグルと現実と仮想世界の入り混じった記憶を巡らせる脳を飲み込んでいく。

 俺の視線は央間の瞳を捉えて、弱弱しく虚ろに揺れて

 しかし央間のこげ茶色の瞳の奥には逸らされることのないまっすぐな意志の光が、どっしりと揺らぎ無く灯されていた。


「……なんで……」


 思わず責めるような言葉が口をついてしまいそうになるが、央間をこのまま問い詰めたところで事態が好転するとは思えなかった。

 央間はなぜ俺をここに連れ込んだのか。なぜ説明もなく軟禁を続けるのか。

 央間の口は、答えをくれそうにもない。アリカは心配そうに、俺の顔色を窺っていた。

 俺は震える息をゆっくりと吐き出して、先でこちらを見守る二人を促すように重くなった足を前に踏み出した。


「いや……なんでもない……。帰ろうか。」


 自己完結の言葉の後に額から滲み出す冷たい汗を手のひらで拭い取り、絡みつくヌメリとした汗の感触にこれが夢でないことを思い知る。

 ここに来てからもう何度目になるだろうか。

 俺は抜け出したはずの恐怖に、また足を掴まれてしまっていた。


                             

                   *



「やあー!!これは五条さん!!本当にいらしたんですねえ!ご挨拶が遅れましてすいませぇん!!」

 部屋に帰るや否や、あけ放たれた扉横の壁をノックする音が響き

 のほほーんとした調子で両手を掲げ、爽やかなコバルトブルーの眼鏡をかけた男性医師が研修医とおぼしき男2名を後ろに引き連れ、グスタヴィ不在の診察室に入って来た。

 年の頃で言うなら28位か。

 微妙に癖のあるたっぷりとした黒髪を左右に流し、満面の柔らかな笑みを浮かべる3枚目に整った顔つきは善人を絵に描いたように穏やかな空気を周囲一帯に醸し出していて

 ペットボトルのジュースを持ってリビングスペースに向かう途中だった俺は、その光景を捉えた瞬間に眉間に皺を寄せリビングに背を向けた状態で一歩後ずさる。

―――背中を見せたら殺られる―――!?

 推理ドラマで言うならば終盤に訪れるどんでん返しの犯人はこの人で決まりではないだろうか。断崖絶壁に佇み、トレンチコートのポケットから拳銃を取り出す様がこの男には良く似合うことだろう。

「いやぁ、カフェ店員があなたを見たと言うものですからね?ついアポイントも取らずお邪魔してしまいましたぁ。すいませぇん。」

 そう言って男性医師は灰色のスラックスの長い足で、たちどころに間合いを詰めるとガシリと両手で俺の空いた手を包み込んで、ほとんど強引に振り回すような握手を交わしてくる。

「お初にお目にかかります!わたくし本病院の医長をやっております恩田と申しましてぇ。まぁこの後すぐ帰宅しちゃうんで「オフだ」になっちゃいますけど今は恩田です。よろしくお願い致しますぅ!ぅぷぷっ」

 医長と名乗るギャルの如きノリのオッサンは、曇りの無い大きな薄茶色の瞳をキラキラと輝かせながら人の心に遠慮なくめり込んで来る。

「あれ?やっぱり迷惑でした?嫌だったら気軽に言っちゃって下さいね!迷惑でした?」


「……いや……別に……」


「そーですか!それ本音ですか?建前ですか?」

 ―――なんだこの人すげえめんどくせぇ―――!

 戸惑いを全力で顔に映し出す俺の声なき声に対し、伏し目がちの央間はいつになく落ち着き無く、たくし上げた白衣の肘を抱いてそわそわと動かしている。

 アリカもまた明後日の方へ目を流しているのだが、その小さな額に刻まれた眉間の皺は「これが標準です。諦めて下さい」とどこか悲しげに物語っていた。

 俺はもしかしたら今、世界で一番うっとおしい医長と話をしてるのかもしれない。

 それでもさすがに上司をスルーすると言うわけにもいかないのか、央間は歯切れの悪い口調で上機嫌の恩田に問いを投げる。

「医長・・・・・・。しばらくはVIPの側役〈ソバヤク〉とオペで上がって来れないとおっしゃってませんでしたっけ・・・・・・?」

「そうそう!その予定だったんだけど、ここ数日の騒ぎでVIPさんがお帰りになっちゃってねぇ?

 その関係で僕、今日からしばらくお休み頂くことになっちゃったんですよぉ。

 あっ、五条さんは当院のスタッフがキッチリとお守りしますからぁここを自分の家だと思ってゆっくりされてって下さいねっ!!」

 恩田は央間と俺とを交互に見やりながら少年のようにコロコロと表情を変えて一人楽しそうに笑っている。背後の真面目そうな研修医達の笑顔が多少苦しそうに見えるのはきっと気のせいじゃないと思う。

 殺人事件や襲撃の起こる自宅なんて絶対にイヤとしか思えないのだが、この医長はどこまで解った上でそんなことを言っちゃってるんだろうか。VIPもそりゃあ帰りたくなるだろうにと内心見ず知らずのVIP患者に同情する。

そして俺の心の声にかぶせるようにして央間もやや控えめなツッコミを入れてくる。

「病院にゆっくり滞在は嫌でしょう・・・・・・」

「あ、そうですよね!考えてみればそうかもぉ!やぁー央間君は今日も冴えてるねぇ!!」

 医長はそう言うとなぜか央間では無く横にいた俺の背中を埃の溜まった布団のように容赦なくバンバンと叩きだす。

 一応表向きには俺は患者としてここにいることになっているはずなんだが、実はこの男、なにもかも解ってやってるんじゃないかと思えてきた。

 しかし次の恩田の発言で俺はバスチオンについての重要なヒントを得ることになる。

「こちらと致しましてもあなたがリスト掲載者と言うことは事前に把握しておりますので全力を以てお守り致しまぁす!!

 当バスチオン7は医師も退役軍人や紛争地帯での傭兵経験者と充実しておりましてぇ、今日(こんにち)まで他バスチオンをしのぐ守備力を誇っております!!

 地上にお帰りの後もシークレットサービスがご入り用なようでしたら系列企業より幹線させて頂きますのでぜひスタッフまでご用命くださぁい!!」

 医長は再び俺の手をがっしりと掴み込んで上下にブンブンと振り回し握手をすると「でわぁっ!!」の一言を残して風のように去っていった。

 央間はあからさまに苦しげな表情を浮かべていて、聞かれては困る事を聞かれたと言った雰囲気を醸し出している。

 アリカは口に手を当てて事の成り行きを見守っていた。

 しばしその場に流れる沈黙の空気。

 そして最初に話を切り出したのは多少ドモり気味の俺の方からだった。


「き……帰宅後もシークレットサービスを利用するのも悪くないかなぁ~なんて……。

 し……資料とかないのかなぁ~……なあ央間」


 言いながらゆっくりと央間の方へ首を捻ると、彼女はすごく不味い物を食べてしまったかのように嫌な顔をして額にうっすらと汗を浮かべていて

 しばらくの沈黙の後、央間は口をへの字型に引き結ぶとアリカの手を取ってスタスタと部屋から出て行ってしまった。

 惚けたように開けっぱなしの入口ドアを見ていると少し離れた場所からグスタヴィの堂々とした足早な靴音が聞こえて来る。

「ミリヤ達はどこ行った?」

 静かすぎる病室に少女達の姿がないことを即座に察したグスタヴィが、両手に提げた不織布のバックを自分の簡易ベットの上にドサリと下ろす。


「さぁ・・・・・・」


 袋には洗濯したタオルやらパジャマの支給品が入っていた。働き者のガチムチ主婦は俺に聞いても無駄なことを悟ると、胸元のスイッチマイクでセキュリティに確認を取る。

 そして俺はさっきの恩田との会話の内容を確かめるようにさりげなくグスタヴィの後方に廻り込むと、いまいちおぼつかない口調で鎌をかけてみることにした。


「ほ……。ホントすごいですよねここって……。

 医師がみんなシークレットサービスだなんて……。」


 意外なことにグスタヴィは別段と驚いた様子もなく返事を返して来てくれた。

「なんだ。ミリヤは言ったのか。

 ……まぁ……どうせ忘れることだからな。言うほど問題もないんだが」

 最後の一言が少し引っかかるのだが、グスタヴィの肯定によって全容がなんとなく見えてきた気がした。

「……だが全ての医師が警護に対応した人間と言う訳じゃない。医長の恩田は一生を医療に捧げようと言う思想を持った生まれながらにしてのエリートだ。

 かといって俺らにもちゃんと医師免許はある。ただ産まれた国の環境で徴兵経験があるかないかと言うだけの違いだ。……ミリヤの場合は少し事情が違うがな……」


「事情が違う……って?」


 グスタヴィは首を横に振ると身を翻してパーテーションを回り込み、ドアの方へ向かって行く。

「なんでもない。少し話し過ぎたな」

 広い背中で答えるグスタヴィ。

「お前も一応五条として狙われる身なんだ。扉には鍵くらいかけておけ」

 続けて肩越しに投げられた視線は普段央間達に向けられるものに近いような、子供を労わるような視線であるように見えた。

 彼にとっては央間もアリカも俺も一緒くたの子供でしかないのかもしれない。

 グスタヴィは俺が五条ではないことを知っている身なのに、金にならない俺に何かと世話を焼いてくれる。

 営利優先の医療施設と言いながら、彼らが俺を気にかけることに何か意味はあるんだろうか。

 人違いで巻き込んでしまったと言う気持ちがあるのならそろそろ俺を地上に帰しても良いような気がするのだが、今のところ彼らに俺を解放しようという気配は見られない。

 俺を帰すことで問題が発覚することを恐れてでもいるのだろうか。あくまでしょうがなく彼らの枠に囲ってくれているのか

 そう考えたら少し寂しい気持ちになってしまって俺はすぐに思考を切り替える。

 なんだかんだ言っても彼はとても付き合いが良いのだ。

 それならば彼がアリカに好かれる理由も良く解る気がした

 でかいお母さんはチラリと室内の監視カメラの方へ目を投げるとまたすぐに部屋を去って行った。

 再び一人取り残された俺は入口のスライドドアの外を左右見回した後、扉を閉めて鍵をかける。

 そして気を取り直し静まり返ったリビングスペースに向かうと、ソファになだれ込むようにして乱暴に腰を落とした。

 ここに潜ってから早5日。ようやく抱いてきた疑問に納得の行く答えが見つけられたような気がしていた。

 今までの記憶を辿って情報を繋げていく。


 W.インヘリター内で始まった『エルフ』によるカウントダウン。

 要人や著名人を囲い込んだ最新鋭の地下医療施設。

 特別に全世界から許された治外法権。

 特別な警護が必要なリスト掲載者。

 医師免許を所持したシークレットサービス。

 昨日の看護師を殺した『エルフ』のプレイヤー、または模倣犯。


 例えばこの施設を国が運営しているとするのならば、折り合いの悪い多国間との軋轢〈アツレキ〉なども手伝って全世界の支配層が認めるような治外法権化施設の建設などは実現が難しいのではないだろうか。

 だとしたらこのバスチオンを運営しているのはそれぞれの国の法律に関わる人間に繋ぎを取ることができる民間企業と言うことになるのだが、

 防衛のために戦力が必要にはなるとは言っても特定の紛争国を商売の糧として扱う民間軍事会社が運営するのでは病院としてのイメージも損なわれてしまうし、何よりそれでは全ての国から認められる病院などにはならないように思われた。


「でもシークレットサービスの会社が運営する病院ってんなら頷けるんじゃないかな。

 どこの国でも要人にはハイスペックな護衛がついてるし、守ることを行動理念として置いている分、政府関係者以外の護衛を必要とする層の人たちからの信頼も厚い。

 運営の為の資金も比較的集まりやすそうな気がするし……。しかも融資者は富裕層が大半を占めたりして……」


 溢れるようにでてくる推察が徐々に繋がっていくことに気分がどんどんと高まってきていて、頭を回すことに夢中になるばかりに俺は入口のドアが音もなく開いたことにまったく気づかなかった。

 間仕切りの曇りガラスのドアにはゆっくりと人の影が近づいて、まるでからかいでもするかのように小さく揺れていた。


「ここは長期滞在者用に娯楽施設も充実させてるみたいだし……、設備はどれも最新鋭のものだ。

 部屋の内装もいじればどんなものにでも転用が可能だろうし、もし敵勢力が進入してきたとしても密閉された地下施設で爆弾でも使えば被害は甚大なものになってしまうから恐らくは襲撃者側も派手な兵器は使用しないだろう。

 それなら戦闘は基本銃撃と格闘で行われるはずだ。

 だったら訓練されたシークレットサービスを置いておけば警護には充分事足りる・・・・・・?」


 あらかた自分の結論を出し終えてなんだか妙にウキウキした気分になるが、その感情もポツリと置き去りになった「俺」と言う情報の存在に行き当たるとすぐに活動を停止する。


「じゃあ……俺は……なんのためにここに連れてこられたんだ……?」


 昨日の殺人が『エルフ』によって引き起こされたものだとしても俺が『エルフ』に対抗できる術を持つわけでもなく、その必要性にはどうにも疑問が隠せない。


「さっき医長は五条がリストの掲載者だって言ってた……」


 一般病棟にも移れず診察室に軟禁され続ける今の状況から考えて、リスト掲載者と言うのは敵対勢力から特別に狙われやすい存在の人間なのだと思われた。


「エルフ……。バスチオン……。敵対勢力……。」


 万華鏡のように何度もキーワードを組み替えるうち、パズルはある箇所で小さな穴を残した安定した一つの型を作り出す。

 そこに開いた空白を埋めるように一つの仮定がぼんやりと脳裏に浮かび上がり

 そこでハッとはじかれたように視界が開ける。


「そうかそういうことか……。」

 

 同時に胸が急激に収縮するかのようにきつく締め付けられて痛んでくる。

 目頭のあたりが心なしかジワリと熱くなって、腰掛けたソファに吸い込まれるような脱力感に襲われた。


「俺は……。エルフをあぶり出すための餌なんだ……」


次話は数時間で直しが終われば明日。明後日までにupしたい…。

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