《3の国》の稲穂の姫のお話
ファンタジーではおこがましいかと思い、文学にしましたが……文学か?
近くて遠い4つの世界のお話
世界の始まりはスープ皿に満たされた粘度のある命の水
天から落ちた滴りが水面を押し出し、それは王冠へ、王冠から神へと変化し
波紋は大地となった
波紋から成った大地は、大きな大きな輪の形をしていて
それを四柱の王冠の女神達が、それぞれ守護している
これはそんな世界の《3の国》の話
忠誠と深秘の国、王を頂点とした国
王族・貴族・騎士・魔法使い・神官・庶民が生きる国
《3の国》といっても、さらにいくつかの国に分かれていて、そのなかでも5番目の国力を持つ農業国に生を受けたわたくし。守護女神様と愛と豊穣の神のご加護を受けて、稲の種を抱いて産まれた『稲穂の姫』でございます
守護女神様が授けて下さる魔法属性は、我が国の崇める愛と豊穣の神様にちなんで、農業系のものが他国よりも圧倒的に多く、特に姫を冠する魔法属性持ちは『始まりのギフト』と言い、国に新しいものをもたらすギフトとして稀に王家の者の中に生まれるのです
わたくしと共に産まれた稲の種は、神官や魔術師によって大事に育てられ、相性のいい土地の貴族たちに嫁すこととなります。わたくしが物心ついたころには、生産量も上がり他国へと輸出できるようになったそうです
しかし『始まりのギフト』は根付くのが難しく、『姫』と共に隠れてしまう場合が幾度かあったそうです。早い話が《3の国》の民の口に合わなかった、もしくは良い調理方法が開発できなかったなど。なので積極的に増やし、皆に食べられる、愛される作物となる事が重要なのです
運が良い事に我が子たる『稲』のご飯文化が《4の国》のある地方で発達していたため、使者を送り文化交流を致しました。おかげで魔術師たちが嬉しい悲鳴をあげました、嬉々として研究を進め、新しい朝ご飯の形が出来上がったのです
そしてわたくしの10歳の誕生日を控えたある日の事……
「そろそろ姫の婚約者候補を選ばなければなぁ……」
そう父たる国王陛下がパンをちぎりながら仰られました、父王さまは朝食はパン派なのです。それを聞いた母たる王妃陛下はこう返しました
「次代の女王の夫、『稲穂の姫』の王配です。国内だけではなく、国外の王家の方を招いてみましょうか?」
母はご飯派です。《4の国》のある地方で使われている箸を器用に使い、お上品にいただいています
「妹よ、ご飯のお供はどんなギフト持ちが良い?」
そう話しかけてきたのはわたくしの兄、本来ならば王太子となるはずですが、わたくしが『始まりのギフト』を授かって産まれたために王位継承権が下がってしまった兄です。本人曰く、自分は魔術師だから政治より研究出来てありがたいよ、だそうです。ちなみに兄も朝食はご飯派
わたくしは我が子たるご飯を食べながら、しばし考えて
「……昆布とか?」
「そっちのお供じゃないよ、妹……」
「昆布の佃煮、好きなんですもの……。探せばいるかもしれませんわ、『昆布の騎士』」
でも、明太子も捨てがたいですし、おかかのふりかけも
我が国の騎士は剣を農耕器具に持ち替えて栽培する者、特にギフト持ちはその作物に愛されるため、豊作を願えるものなのです。もちろんギフトが無くても、愛を持って育てれば、愛と豊穣の神は必ず見守って下さるでしょう。ただ、海藻を栽培していないので『昆布の騎士』はいないのではないかと……。海藻の栽培、推奨してみましょうかなんて考え込むわたくしに母が
「いっそのこと『大豆の騎士』を迎えたらどうかしら、大豆はご飯のお供として万能ですしね……。納豆に味噌に醤油、姫を授かった時から《4の国》の内海に接する国から技術を盗みまくった甲斐があったというものね」
「盗んだなんて人聞きが悪いですよ、母上。僕ら魔術師たちの研究の成果です、我が国の気候に合わせての技術改良、そのヒントをもらったにすぎません」
物は言いよう。ただ農業国としては魚介類よりも農作物でしょうか……、取りあえず『大豆の騎士』で適齢の殿方を探すこととなりました
のですが
まさかの『昆布の騎士』発見。我が国の内海側にある町にいるそうです、その方は12歳で年齢的にも合っている方。農業国的にあまり見栄えのいいギフトではないからと、本人が公言するのを嫌がり、珍しいにもかかわらず王宮へ報告しなかったそうです
まぁ、神殿が把握していれば報告の義務はないのです、聞かれたときに答えればいいのですから
今回のように
「昆布だって立派な作物だろう、陸にあるか海にあるかの差である。守護女神様から授かった魔法属性を恥ずかしがることはない、何か言われたのであれば守護女神様の所為にすればよいのだ」
「所為って……、さすがにそこまで開き直れませんでしょう。騎士、王の戯言は聞き流してよいぞ」
「戯言って、酷いぞ私の苺は!!」
ちなみに母王妃陛下は『苺の乙女』。それは置いておいて、『昆布の騎士』君はひとまずわたくしの婚約者候補として、王宮へ月に1回、出仕することとなりました。まだ12歳なのであくまでも候補、わたくしだってまだ10歳ですしお互い好い方を見つけるかもしれませんから、いわゆる遊び友達と言う感じでしょう
本来なら同じ作物のギフト持ちで縁を結ぶ方が、後の生活が楽になります。わたくしの場合、わたくしが『始まり』の為に『稲の騎士』が今現在確認されていないのです。今産まれたとしても、10歳の年齢差、しかも女の方が上と言うのはちょっと……。男が上ならまだよかったのですが
こういう状況の為、他の候補も選ばれます。母一押しの『大豆の騎士』のギフト持ち、こちらのギフト持ちは結構いるのであっさり選出されました。こちらの方も12歳、昆布のかたと同い年。後は若い者同士で、おほほほほなんて言いながら大人たちは退出
広い応接室にはわたくしと昆布の方と大豆の方、そして壁際に侍女と騎士達が私たちの邪魔をしないように控えています
昆布の方は、黒髪に緑がかった黒い瞳。昆布っぽいカラーリングです
大豆の方は、薄い金髪でくすんだ緑の瞳。大豆と枝豆っぽいカラーリング
こういう場合はわたくしが話しかけるべきなのでしょうか、普通は誰か大人が1人残って話が円滑に進む様に、さりげなくフォローするものでは?
わたくしが困っているのを感じてくれたのでしょう、候補の方々が自己紹介をしてくれました
「おれ……私は内海の近くの町から来ました。えっと、トマトの栽培が盛んで、漁業にも力を入れています。この国で消費される海産物はほぼ町の船がとってきたもの……だと思います。姫さまのお子さまである米も育てています」
「そうですの、では船に乗ったりしますのかしら?」
「まだ12なので、少しだけ……。今は学生です」
「あら、そうですわね。わたくし学校に行っていないもので。12ならば学生さんですものね、大豆の方も学生さんなのね」
昆布の方にお話していただいたので、こんどは大豆の方に話を向ける
「はい、『豆の町』の町長家の次男です。まだ学生の身なので、家業の手伝いは休日のみです。本日はわが町の豆を献上いたしましたので、後で召し上がって下さったら幸いです」
「まぁ、嬉しいですわ。後で必ずいただきましょう」
「光栄です……、姫さま」
出会った年齢は10と12。幼い私たちがどのように成長し、どのような時間を過ごすのだろうか。果たして……
20年後、30歳を迎えるとわたくしは父王の後を継ぎ、我が子を抱いて、王配たるお供を連れ玉座へと昇るのだ。
皆さんのご飯のお供は何ですか?
人それぞれご飯のお供があるように、ラストをぼやかしました。もしかしたら別の出会いがあったかもしれませんし、そのまま候補が王配となったかもしれません。
読んでくださってありがとうございました。