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Trick with Treat  作者: カオス学園文芸部
短編集『Trick with Treat』
8/46

悪戯な日@ツキトハクヤ

作者:ツキトハクヤ

ジャンル:コメディ

「トリックオアトリート!!」


要約、お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ♪ ちなみにトリートとはもてなすなどの意味であり、子供をもてなすにはお菓子が必要とのことで、こういう和訳になったわけだ。


 さてさて、こうして始まったなんかも催し――な訳が無いこれは戦闘だ。どうしてこうなったのかは俺が知りたいので省略。きっと後々嫌でも明かされるんだから気にしちゃいけない。それになんだか危険な予感がする。


 しかしまあ、どうしてだか、もてなされるという気分には一向にならない。それは恐らく、四方八方から呆れ、羨望、殺意、憎悪、その他もろもろを含んだ視線を思いっきりぶつけられているからだろう。たぶん、視線に物理的威力があるのなら、俺は塵すら残らない自信がある。これが自意識過剰ならどれだけいいか……ってか今日って開校記念日だよ? なんでみんな集まってんの? と俺が謎の結束力に慄いていると、


「さあてハロウィンだし? 盛り上がらなきゃ損なのでー第一回お菓子をくれなきゃ拉致監禁するぞ?水堂智春(ミドウ・トモハル)争奪戦の開始だよ~!」


 なんか始まった。


「なんてもん開催してんだ! しかもこれ以降も開催する気かよ!?」


 ちなみにあとから聞いた話だが、この水堂智春――俺なのだが、争奪戦は極数人の女子の歪んだ欲望もとい願望から始まり、俺をもっと徹底的に追い込むために他の一般生徒を巻き込む形となったようだ。ちなみに俺を捕まえて女子に引き渡した生徒の所属する部活は部費が上がるそうだ。いいのかそれで。


 ……まあ、生徒会にはあの先輩がいるからこんなことが実現したんだろうけど、全く交友関係が広いのも問題、かな?

 というか、所々仮装している奴がいるからなんか締まらないな。可愛いよ、かぼちゃの被り物。


「さあさあイケイケ。神妙にお縄に付け!」


「生憎と俺はお前みたいにノリノリじゃねえ!」


 とりあえず俺に集中していた視線の主共がこぞって俺を(ホカク)しに来ている。みんな目が本気過ぎる。マジだよ、これ。って呑気に状況を解説してたら俺(の命ともしかしたら貞操)が危ない!


「三十六計逃げるにしかず、つーことで俺はこんな馬鹿げた行事に付きあってられん。帰る」


 脱兎の如く走り去る今の俺はきっと陸上部にも引けを取らなかっただろう。そうしてスタート地点に一番遠い裏門まで全力で走り抜ける。そうして今裏門を飛び越えようとした時だった。


「「「待て、水堂」」」


 良いタイミングで俺の眼の前に立ち塞がったのは無駄なく鍛え抜かれた鋼の肉体に折れること無いなんというかオリハルコンみたいな意志の強さを持つ(つまり何度直しても亡霊のように立ちふさがる)ことで有名になってしまったラグビー部。ちなみに先輩後輩を含めて全員知り合いである。ある誓いを立ててから非情に友好な関係を結んでいたのだが……


「ど、どーした? 全員血の涙を流してんだけど、無理すんな?」


「済まぬ、だが信じてほしい。我らは部費に釣られたのではないのだ……」


 文字通り血の涙を流しているラグビー部員に軽く焦る。そしてさっきから部を代表している部長さんは下手をすると切腹しそうな勢いじゃないか? 仁義に熱い人はかなり好感が持てるんだけど……ここまで来ると洗脳されてるんじゃないの? と思ってしまう。だって怖い。

 だが、部費に釣られてないというと……なんだ? 脅迫されたのかな? いやー無い無い。だってここは異世界でも世紀末でも魔法が存在する世界でもない普通の現代日本だよ。


「我らは……脅されたのだ」


 ……神は死んだ。

 軽く眩暈がする。今すぐにでも天を仰いで自分がどこで学校選択を間違えたのか真剣に考えたくなる。もう駄目だ、この学校。そう言えばこの学校に関しては毎週末にどこかに出かけていく異世界探索部に時折「ひでぶっ!」とか悲鳴が聞こえてくる武術部、極めつけに黒魔術部とかいう謎の部活があるんだ……つか、部費降りてんのだろうか。


「あ、ああ、そうか。そんなに辛いなら俺、捕まろうか?」


「お主は、裏切った我らすら庇おうと……」


「え? いや、別に裏切ったとかいう訳じゃないだろ? え? どゆこと」


「見たか、お前ら! この男は裏切った我らのために自分の身を犠牲までも犠牲にしようとしている! こんな漢を裏切ったままでいいのか!?」


「「「プロムレム!」」」


「よし、お前ら。我らもこの男に恥じぬ男となろうぞ!」


「「「サーイエッサー!」」」


「勝つぞ、勝つぞ、勝利以外は認めん!」


「「「ジークハイル! ジークハイル! ジークハイル・ヴィクトーリア!!」」」


 ……あのう、滅茶苦茶盛り上がっているところスイマセン。勝ちってなに? 勝敗とかあんの? あ、俺が捕まらないことなのかな。


 もはや俺、メダパニ。ラグビー部、スーパーハイテンション。誰も正常な思考は持ち合わせていない。

 そして後ろに劫火が見えそうな位に気合が入っている部長がなにかを察知したかのように目を鋭くさせる。


「いいか、お前ら! 早速だが、漢になれそうだ! この男に恩を返すぞ!」


 え? なんかヤバイの?


「「「水堂君! 取材させて! ラグビー部も!!」」」


 ラグビー部のところが恐らく一番気合が入っていただろう集団の名前は、マンガ研究部。略してマン研。部員の構成は八割が女子であり、うちの学校のよく分からん部活と比較しても劣らない発酵集団。ようするに完熟。処置無し。腐ってやがる。


 今の状況、俺が唖然としている。ラグビー部が肩を抱き合っている。もしかしたら友情をはぐくんでいるようにも見えるかもしれない。それらから想像される答えは……ハッ!?


「ラグビー部、悪いが頼んだ! 俺じゃソイツらを倒せない!」


「「「応ッ!!」」」


 顔を見なくても伝わる。彼らラグビー部員たちは輝かんばかりの笑顔と共にサムズアップをしているだろう。そしてなによりも格好いいだろう。彼らこそが漢だ。


「「「ラグビー部の皆さんも良いですけど、それでは分かりやすい受けがいないんです! 私たちは分かりやすい受けがほしいんです!」」」


「イーーーーーーヤーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」



「「「我らはここを死守して初めて生き物として認められる! 漢への第一歩だ!」」」


 やべえ、やっぱ格好いい。


 とりあえず裏門から離れ、血眼で俺の事を探している部活動無所属以外の人間から逃げるために俺は屋上にいる。誰かに見つかる前に早く移動しないといけないのは分かっている。分かっているんだが……


「トモくん、あーん」


「自分で出来るから」


「あーん」


「だから」


「あーん」


「仕方ないな。あー」


「うん! よく出来ました」


 何が起きた? 俗世からかけ離れ過ぎじゃないですか?

 というよりも俺の頭を撫でてくるほんわか系の女子は何しに来たんだ?


「なあ、茉莉嫁は何しに来たんだ? お前って部活入ってたっけ」


 桐羽茉莉嫁キリハネ・マリカ。俺の幼馴染であり、大和撫子と言う言葉が俺の知る限り一番似合う少女である。まあ、性格は大和撫子というには若干おしい気がしてならないのだが、若干なので目を瞑るしかない。ちなみに黒髪ロング。最高だね。


「ううん、マリは帰宅部だよ。だから安心してね? はい、あーん」


 自分のことをマリと呼んでいる理由は分からん。本人も。


「いや、もういいからな」


「しょんぼり」


「口で言うな」


 とりあえず、昼飯を食っていてもなんだかんだでおかしくないような時間帯に女子と二人っきり、しかも相手の手作りのお弁当を食べている。手作りのお弁当を食べているし、あーんをされるってなんだここ、天国か? ああ、下が地獄だから天国であってるか。


「また今度な。にしても今更だけど茉莉嫁は料理が上手いな」


「えへへ、いいお嫁さんになれるかな?」


「ああ、そこは俺が保証してやるぞ。家事全般が上手くて、相手を立てることの出来るしな。普通の奴なら茉莉嫁を貰った人は幸せすぎるだろうな」


「えへへ~」


 今度は俺が茉莉嫁の頭を撫でる。さらさらの黒髪がとても気持ちいい。うん、なんだかんだで俺はいい学校を選んだかも知れん。


「死ねぇ、水堂!」


 ――地獄の住人がログインしました。


 やっぱり何か違うと思う。いい学校って命が狙われる環境下を示すことじゃないはずだ。ということで恐らく先輩が俺を捕まえにやってきたので残念そうにする茉莉嫁を慰め、走ってくる相手との距離を保ったまま、屋上から飛び降りる。


「「「はあっ!?」」」


 先輩らしき人と校庭にいた全員が呆気にとられたように叫ぶ。普通なら自殺にしか見えないわな。

 だが生憎、周りのおかしな人類(仮)に感化され、なかなかに俺は普通じゃなくなっている。例えば、今から使うこれを常備するようになった。


「あ、やべっ、絡まったかも!?」


 久しぶりの御開帳だったパラシュートは絡まった気がしたがそんなことはなかったZE★ いや、心臓に悪くて一番焦ったのは俺だという自信があるね。


「とりあえずヒャッホーだぜ!」


 誰もが落下地点を予想していたが、残念でした! このパラシュートにはいくつもの仕掛けがあるんだよ!


「わ、わわ。トモ君楽しそ~」


 ……幻聴と断言しきれないところが怖いな。茉莉嫁は感覚がズレているし。それにアイツは何故か極稀に人間を超越したような才能を見せるからな。もしかしたら敵に回ったら茉莉嫁が一番恐ろしいかもしれん。

 ちなみに第一の仕掛けと言うのは絡まった時用の緊急脱出である。簡単に言えば糸というか紐が何もしてないのに切れる。と言う訳で俺は垂直に落下する。


「残念だったな、諸君! 落下地点を予想するだけなら俺の方が何倍も上手だ!」


 どうでもいいが、上手とかいてうわて、である。じょうずだとなんかダサい。


「「「ち、ちくしょー!」」」


「さらばだ、ワトソン君」


 使っておいてなんだが、使い方違くね?


「あ、先輩」


「ん、おお。玲美レミじゃん」


 謎テンションで繰り広げた一幕を終え、見つかる前に適当な場所に隠れていたところ、後輩に見つかった。ちなみに女子。八峰玲美ヤミネ・レミ。俺の周りの人間の中ではベストスリーに入る位にまともな分類なので、どうしても世話を焼いてしまう。ちなみに身長は同年代の中では低い方らしい。特徴と言うか性格は時々天の邪鬼というか本音が読めない。


「玲美って何部だっけ?」


「私ですか? 教える必要が無いですよ?」


 要訳、等価交換だ。なにか寄こせ(若干の翻訳ミスがあるかも)


「ん~仕方ない。これあげる」


 そう言って渡すのはこの前新聞に付いていた映画の前売り券。ちなみにペア用である。俺には彼女なんて言う架空の生物はいないし、男と行っても楽しくない。女子だと茉莉嫁なら付いてきてくれそうだが、アイツを呼ぶとなんか滅茶苦茶張り切るので駄目。俺なんかのために朝四時とかに起きないでほしい。他にもいるだろうが、なんだかんだで問題がある。なので後輩に譲ろうと言う訳だ。我ながらいろんな意味で泣けてくるな。何故持っているかって? 捨てるのも持っていないから男を誘おうとしてたんだよ!


「これは?」


「映画のチケット。玲美って確かこういう恋愛もの好きだろ?」


「は、はい。そうですけど……覚えてたんですか?」


「普通に女の子らしくてな。俺の周りにはおかしい奴が多いんだよ」


 男も女も、と付け加えておく。玲美はなんだか固まっている。


「あ、ありがたく受け取っておきます。では先程の質問でしたね。私は陸上部ですよ。高跳びをやってますね」


「へえ、高跳びって格好いいな。今度機会があれば見に行ってもいいか?」


「え……えっと、は、はい。不束者ですが……」


 そんな改まるものなんでしょうかね? 陸上競技って。


「ってことはあの謎イベントに参加してる?」


「最近、いろいろな物品に限界が来てるみたいなんですよ」


「……おっと俺は用事があったんだ。じゃあな玲美」


 それはもう華麗にポーズを決めて立ち去ろうとする。ここまで来て犠牲になりたくは無い。


「待って下さいよ、先輩。最後まで人の話は聞くものですよ?」


 しかし、そう言って玲美は俺の手を掴む。なんというかよく聞く話だが、女子の手って本当に柔らかいし、暖かいし、男子とはまるっきり違うよな……待て、落ち付け俺。coolになれ。


「それでも先輩にはいい物を貰ったので私としては十分です。なので先輩はゆっくりしてください」


「……うわあ、女神だ。女神がいる。マジで玲美教を作ってもいいかもしれん」


「止めてください。そんな先輩ならまだしもどうでもいい人に崇拝されるのは嫌です」


「分かってるよ。冗談冗談。じゃ、あと五分くらいゆっくりしようかな」


 本来は人目に付きにくい所であるので見つかる可能性は低い。なのに俺を見つけられた玲美が凄い。

 そうして後輩との交流を深めたところでなんだか厄介事の予感がしたので、玲美に一言言ってドロンした。


「いやー良い日差しなんだけど……この騒動はいつまで続くのかね」


『え~成果は芳しくないようですが、イベント終了まであと三十分を切っております。みなさん、部費のため、ストレートに言うならお金のため、頑張ってください』


 いや、ストレート過ぎる。オブラートに包め。それじゃ参加している全員が金の亡者みたいじゃないか。中にはラグビー部とか素晴らしい連中もいるだろうに。


「――殺気!?」


 なんとかしてよじ登った体育館の屋根の上。日差しの気持ちよさに意識が半覚醒状態まで下がっていたのだが、背筋にうすら寒いものを感じて飛びあがった訳であるが……これは?


「えっと、俺は体育館の屋根の上で昼寝をしようとしていた訳だが……なんで豆鉄砲を当てられそうになったんだ?」


 俺が先程まで寝ていたところに十粒ほどの豆が散らばっていた。ついでになにやら丁寧に畳まれた紙も。その紙を読んでみると、


『お前の罪を数えろ!』


「洒落にならんわ!」


 思わず手紙を屋根に叩きつける。というか|屋上≪ここ≫を狙えるような場所なんてあったっけ……………あったわ。

 生徒会室、俺を含む極一部の生徒からは魔界と呼ばれ、恐れられている空間である。恐れられている理由? 生徒会が全員ネコ被っているのだ。しかも本性は犯罪方面でアレな人はいないが般若とか金剛力士像とかデーモンとか愉快犯がいるのだ。誰だって組織の闇を知れば怖くなる。悪魔の巣窟と例えるのも良いかもしれない。


「先輩までか……ってあの人も帰宅部じゃん!」


 なにやらこの世の理不尽を感じ取る俺であった。なにかしたっけな?


「こんなところですら安心できんとは……」


 なかなかに危険だぞ、この学校。いや、言わずもがなてやつだな。入学してから三週間くらいで悟った気がしたし。


「でもなんかここから動くと良いように踊らされてる気がして癪だな。よし、反撃するか」


 面白半分復讐半分で浮かべた悪い笑み。誰かが俺を見ていたらこういっただろう。


「おまわりさん、コイツです」


 と。それほどまでに暗黒の笑みを浮かべていただろう。というより病んだような笑い声が木霊していただろう。まだまだイベントは終わらないんだぜ?


 腐、腐腐、腐腐腐、腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐。


  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「ラグビー部は待機してくれ。サッカー部は体育館の裏から、野球部は相手の背後から頼む。陸上部は誘導してくれ。そんでもって武術部は牽制をしてもらいたい」


「「「「「ラジャ!」」」」」


 さあて次はお前が踊れよ、歌奈多カナタ


「やられたら、やりかえす。億倍返しだ」


  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「ど、どうして!? なんで勢力の強い運動部が敵になってるの!?」


 八衣歌奈多ヤイ・カナタ。今回の騒動の主犯とされている彼女がいるのは放送室。なんてことはないただただ指示が出しやすいと言う理由だけでそこにいる彼女は盛大に焦っていた。それもそのはず、自分の駒という言い方はあれだが、味方であったはずの運動部が五つも反旗を翻したのだから。つか、ぶっちゃけると誰も予想するはずもない。鬼ごっこで鬼が必死で逃げ回るなど。


『先輩、文芸部と料理部、ソフトボール部がもう駄目です』


『歌奈多ちゃん、私たち演劇部ももう駄目ね』


『済まん、八衣。バスケ部も駄目だ』


 次々と聞こえてくるのは悲報。なんで反抗されているのか、最大の謎は放っておくが、今自分がすべきは敵側を上手く誘導し、一網打尽にするか、クラスメイトである水堂智春を捕まえるかである。そして最もリスクが大きく、それ故にこの状況を打破できる場所を見つけ出す。


「みなさん、一旦体勢を立て直して下さい。もう少しで決着をつけます」


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「とりあえず生徒同士で牽制しあっているからしばらくは安心だな。さて、歌奈多を見つけないと」


 今、俺がいるのは自分の教室。校庭が見渡せて且つバレにくいという素晴らしい場所である。もう少し時間が経てば夕焼けに染まって中々に綺麗な景色になるんだが、開校記念日にそんな時間まで残っていたくない。


「――安心して、私はここよ」


「なんつー潔さ……俺としてはもうちょいのんびりしてたかったんだけど」


「あら? 可愛い女の子がわざわざ会いに来たんだから他に反応はないの?」


「にやけながら言うな。それよりも俺たちしかいないんだ。変な演技はやめとけよ」


 そう言うと歌奈多は諦めたように嘆息する。雰囲気が変わったりオーラが迸るとかそういう変化は無いけど、意識を切り替えたみたいだ。


「もう面倒くさいな~」


「いや、俺としては今のお前の方に慣れてるから普段が違和感バリバリだから」


「まったく、信用ないわね。まあ、楽だから良いけど」


 そう歌奈多は猫を被っている。と言っても性格を変えている訳じゃなくちょっとした事情により、俺に好意を抱いているという設定・・・を作ってる。本人いわく、


『告白とか面倒くさいし、何より人間関係が疲れるから。よろしく』


 だそうだ。正直、どこの漫画だよ、と突っ込みたい。いや、俺は主人公なんかやりたくないし。そんな奇特な存在はもう十分に足りてます。というか中々にいろんな方面に喧嘩売ってやがる。


「そういう性格さえ直せばマトモなのになー」


「いーのよ。茉莉嫁や瀬奈セナみたいな絶滅危惧種になりたくないもの。で、こんなところで何の用? 無いなら運動部を呼ぶけど」


 まあ、個人的には一部の文化部の方が怖いんだけど、流石に口には出さない。


「歌奈多、これなーんだ」


 そういって俺が見せたのはメガホン。ちなみに放送室からパクっ――借りてきた機材を使って学校の敷地内にいるのなら誰にでも届くようにした。


「……それがどうかしたの?」


「黙ってみとけよ? 面白い筈だから」


 する必要がない深呼吸をし、メガホンの電源を入れる。さあ、ショータイムだ。


『あーあーマイクテストマイクテスト。聞こえてるか? まあいいや、もう期限を過ぎましたので変な催しは終了いたします。帰りに気を付けて下さい。道中で瀬尾諒一(セオ・リョウイチ)の居場所をこちらに提供していただいた方の所属する部活動にはある程度の手心を加えさせていただきます。そして男子諸君に通達です。諒一の阿呆を捕まえないとあの血判状を全国朝会で公開しちゃうぞ★』


 瞬間、あちらこちらから悲鳴が聞こえてきた。具体的には『止めてくれー! 俺には彼女がいるんだ!』とか『マジかお前……殺ス』とか『魔女狩りの始まりだ!』とか『智春テメー!』とか、まあ、色々である。


「アンタも危ないんじゃないの? どうせ男子高校生特有の馬鹿なノリなんでしょ? アンタが絡まないわけないでしょ」


 あっれれゑ~信用されてるはずなのに涙が止まらないや。


「保険があるから心配無用だ」


「アンタのことだしどうせしょうもない保険なんでしょ?」


「チッチッチッ、甘いな。実に甘い。砂糖を大量にぶち込んだ挙げ句、ガリ●リ君を溶かし、片栗粉でゼリー状になってました闇鍋より甘い!」


「……普段からそんなことしてるの?」


 ジト目って意外に辛いです。

 誤解なのだが、訂正してもきっと信じてくれないと思う。だって堅気じゃない人の闘争に巻き込まれたりしてるし。挙げ句の果てに仲良くなったとかあり得ないと思う。


『でも誤解されっぱなしは嫌なので、茉莉嫁カームヒーーアーーーー!!!!!!!!!』


「トモ君トモ君、私のこと呼んでくれた?」


「早っ、しかも放送聞いてないし……ねぇ、茉莉嫁」


「なに、歌奈多」


「アンタは智春がえっと、その……何て言うの? えっちな本とか持ってたらどうするの?」


 え、聞くの? しかも歌奈多さん、恥ずかしそうにするなら聞かなくても宜しいのではないでしょうか。茉莉嫁お願い、適当に流して。うやむやにして!


「トモ君が? まあ、男の子なんだから仕方ないんじゃないのかな?」


「「……」」


 思わず俺ら絶句。ある意味断言できてる茉莉嫁がイケメンに見える。そして何より寛容過ぎです。茉莉嫁さん。


「全く自分達から聞いておきながら、何してるんですか?」


「いや、唖然としない? ここまできっぱり言われると」


「そうですか? むしろ茉莉先輩なら平常運転じゃないですか」


「いや、アンタ何時の間に来たのよ……」


 俺たちが考えることを止めている内に玲美が来ていた。何故?


「よくここが分かったな」


「偶然ですよ」


「アンタもか……ねぇ、玲美も今の放送聞いてた?」


「まあ聞いてましたけど……?」


「どう思う?」


「どう、ですか……先輩なので持ってるって言っておきながら実は持ってないとかありそうですね。でも私はあんまり気にしませんよ? ……そんなもの使うくらいなら私が……」


「待ちなさい。今さらっとさらっと碌でもないこと言おうとしたでしょアンタ!」


 ヤバイ、玲美さんからの期待の眼差しがスゴい。なんかキラッキラしてる。疚しいことはないけど辛い。疚しいことはないけど。疚しいことはないけど!


「ないけどね!」


「……アンタ馬鹿?」


「きっと考えたことが口に出たんだね。トモ君うっかり屋さんだから」


「まあ、先輩のことだからどうでもいいようなことを必死になって考えたんでしょうね」


『『『夏目死ね! 死に晒せ! 狩るぞコラァ!』』』


『じゃかましぃわい! 変われるもんなら変わって欲しいって毎回毎回毎回いってんだろ!』


「「「五月蝿い(です)」」」


 泣いて良いかな? 泣いて良いよね? 

 とりあえず校庭にいる阿呆ども(反対勢力)は弾圧するとして、俺はとりあえずこの三人をどうやったら御しきれるんだろう。


「ごめんなさい。生まれてきてすいませんでした。ということで飛び下ります。だから窓を開けさせてください」


「ほら、そう言って逃げようとしない」


「チッ、ばれたか」


「そう言えばなんでこんなに盛り上がってるの?」


「え? 知らないの?」


「えーみんな知ってるの?」


「いや、茉莉嫁先輩、じゃあなんで今日学校にいるんですか?」


 なんか嫌な予感がする。いやもう今日は本当に厄日で良いんじゃないかな。今までの人生でもなかなか無い位に厄介事が集まってる気がする。夏休みの三週間合宿~in 得体の知れない土地~よりは……きつくないな。


「トモ君が登校してたから、何かあるのかな~って」


「案外普通の理由で安心したわ」


「あはは、ちなみに今日のはどんな理由で開催されてるの?」


「ギクッ」


「そうやって口に出してる奴、初めて見た」


 明らかに挙動不審になっている歌奈多を言及したいと思っていたら、視界の端っこになにやら目が泳いでいる玲美が映る。

 ……怪しい。非情に怪しい。玲美が隠し事をしてるなんて珍しいし、弄るか。


「あ、そうだ玲美」


 適当なタイミングで声をかけると、まさかこのタイミングで声をかけられるとも思ってい無肩の歌、予想以上の驚き方をしてくれる。しかし玲美よ、その反応だと答えをバラしてるようなもんだぞ。


「は、はい!?」


「玲美っていい後輩だよな」


「えっ、な、なんですか、急に!?」


「いや、玲美って改めて可愛いと思うんだよ」


「あう、え? あ、あのう……ありがとぅございます……」


「だからなのかね、玲美って見栄は張っても変な嘘はつかないと思ってるんだよ」


「あ、あのう先輩……恥ずかしいです」


「まあ、そんな玲美は俺に隠し事なんてしないよな? なんたって俺の可愛い可愛い玲美なんだし。本当に可愛いな」


「はうぅぅぅ」


「なあ、玲美? 今から――ゴフゥ!?」


 顔を真っ赤にする玲美の耳音で甘く囁こうとした瞬間、なにかに教室の端まで吹き飛ばされた。


「し、死ぬ……格ゲーじゃねえんだから……吹っ飛んだら死ぬって……」


「何バカなこと言ってんの。ほら玲美が本気にしない内に発言の撤回と謝罪をしなさい」


「ごめんなさい」


「……先輩、私を弄って楽しかったですか?」


「そりゃあもち――ハッ!?」


「そうですか、そうですか……先輩、罰として映画一緒に見に行きましょ? 恋愛ものなんて興味ないものを見続けるという罰です」


「ほへ? あ、うん。お安いご用だ」


「はい! じゃあ約束で――」


「長いのよ! いい加減というかもうすでに飽きてる人いるからね!?」


「何を受信した?」


「うーん、大いなる天の意志じゃないのかな?」


「なにそれ怖い」


 とりあえずグダグダしてると不味いということだけが理解できたので歌奈多をじっと見つめる。理由は隠し事を暴くため。


「時間がないなら白状しろよ」


「う、でも……」


「歌奈多さぁん?」


「トモ君がスッゴい悪い人みたいだ」


 嬉しそうに言うんじゃありません。そして現れてからずっとニコニコしてることについて、お兄さん、君の未来が不安になります。


「……昨日、智春が誰にもお菓子をあげてないから忘れてたんだろうって 結花理先輩が言い出したから……皆で悪戯しちゃおうって……」


 オイコラ、生徒会。なに煽ってんだよ、馬鹿なのか? ってかそんな話からよく実行に移せたと思うな。やっぱりハサミの使い方を熟知した馬鹿は……。


「というか、お菓子をあげるもんじゃなくね、ハロウィンって……」


「「あっ!?」」


「皆うっかりさんだね」


 なんでだろう、涙が止まらないや。俺って勘違いのせいで一日を費やしたのか……酷い。


「ま、明日になっちまうけど、手作りのお菓子あげるから許してくれって」


「まあ、それでいいんじゃない?」


「……先輩の手作り。先輩の手作り……」


「わーい、トモ君のお菓子♪お菓子♪」


 一件落着……なんか忘れてる気がする……。


「「「「リア充爆発しろ!!」」」」


 あ、スピーカー切り忘れてた。


 ――また、仁義なき鬼ごっこが始まる―…

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