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Trick with Treat  作者: カオス学園文芸部
短編集『Trick with Treat』
39/46

魔王様がハロウィンパーティーをやって何が悪いんですか!@ばうあー

作者:ばうあー

ジャンル:ファンタジー

 ――あれ、そういえば――


 パーティーの前夜、部下に淹れさせた紅茶を飲みながら、ふと考えてしまった。


 ――なんで私、何の疑問も持たずに魔王なんてやってるんだろう――


■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 半年前、テンプレ通りに高校からの帰り道でトラックに轢かれた私は、神様に「主役級とモブ、どちらがいい?」と聞かれて迷わず主役級を選んだ。前世での私は目立ちたがり屋だったし、当然の選択をしたつもりだった。馬鹿な私は気づいていなかった。神様が「主人公」ではなく「主役級」と言った意味を。


 ファンタジーの主人公といったら勇者、ラスボスといったら魔王は定番。当然、ラスボスである魔王は「主役級」……うん、言われて見れば確かに反論できない。とはいえ、最初は憤慨した。「勇者様になれると思ったのに!」と。しかし、すでにこの新しい世界で生を受けてしまっていた私に、転生の時の神様に接触する術は無かった。元々サバサバした性格なもんで、その時の私はしばらくするとあっさりと受け入れてしまった。


 ……あのときの私を殴りたい。


 どうやら私は元々いた魔王が高齢で引退した後釜として召喚されたらしい。先代の魔王が秘術だか儀式だかで神様に依頼して、たまたまそのタイミングで死んだ私が送り込まれた。っていう説明を受けた。その後、魔王の心得みたいなレクチャーを先代から受けたが、私はふてくされて寝ていた。だから自分の立場がよく分かっていないまま魔王になってしまったのだ。


 しばらくは先代が仕事を整理していたので、暇な私は城の中でぶらぶらしていた。次期魔王様である私は半分賓客のようなものなので、基本的に何をしても怒られない。体のいいニートだ。仕事が無いわけじゃないけど、見ているだけで構わないものが多かった。


 魔王城はあくまでも『城』であってダンジョンではないので、普通に地上にどどーんと建っている。私は最上階に与えられた見晴らしのいい居室でスフを撫でたり、部下を呼びつけて前世の思い出話をしたりしてだらだらと過ごしていた。


 スフっていうのは……何て言えばいいんだろう? 一言でいうなら多分『毛玉』なんだけど、ちゃんと生き物だし……。ハムスターの毛をふわふわにしてもっと伸ばして、目が隠れて見えなくなるくらいまでまん丸にしたやつ、色は大体黒って感じかな。この国では一般的なペットらしい。すごく可愛いかといわれると首をかしげざるを得ないけど、なんか見てて癒される。うん。


 長々と説明を書く必要があったのかって? ……ちょっと語りたかっただけよ。地球でも売り出したら絶対流行ると思うんだけどね。


■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 それから一カ月後。


 先代が引退し、正式に私が魔王となった。


 「魔王っていうぐらいだから、どうせ悪役なんでしょ」と開き直ってしまった私は、側近の悪魔であるアロイスに聞いた。「やっぱり勇者が倒しに来たりしちゃうの?」と。


 そのときの彼の間抜け顔は見ものだった。基本的に配下は悪魔、というかこの国の住民はみんな悪魔らしい。……まあ、この世界の悪魔はちょっと肌が青白くてちょっと牙が長いくらいで殆ど人間と変わらないんだけどね。私に至っては容姿は前世と変わっていない。平均以下の身長に、愛嬌があるとよく言われる童顔。ツインテールが似合うとか言われたこともあったが、一貫して髪はストレートのまま伸ばしている。魔王の貫録なんてものとは縁遠いが、あふれ出る魔力(って言われた)のせいで誰も逆らわない。


 放心状態から復活したアロイスは、私にこう言った。


「失礼ながら魔王様、あなたの脳みそは腐っていらっしゃるのでしょうか」


 今度は私がぽかーんとする番だった。だって魔王でしょ? ダンジョンの奥深くとかで勇者を待ち構えて、死亡フラグ立てたあげくに勇者の必殺技とかで倒されちゃうやつじゃないの?


 頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされている私は、アロイスの失礼なセリフに突っ込むこともせずに加えて聞いた。


「勇者が倒しに来ない魔王なんて何の意味があるのよ?」


「魔王は魔族の国を統べるものですよ。隠居なされた先代の魔王様は、統治者として大変有能な方であられましたが、引き継がれた際に色々と教えて頂いていないのですか?」


 そんなことも知らないのか、と純粋に驚いたような顔で彼は言った。


「ごめん、寝てたわ」


 先代の引き継ぎっていうのは……英雄やヒーローが出てこない世界史の授業みたいなものだったという説明が一番近いと思う。実務的なことは側近に任せればいいとのことで、私が詰め込まれたのはもっぱら常識や歴史などについてだった。


「あなたという人は……まあ、いいでしょう。私が説明して差し上げます」


 はあ、とため息を一つついて彼は話し始めた。


「手短にね」


「……御意に」


「まず、勘違いされているようですが別に魔王はヒールではありません。人間側との和解もとうの昔に済んでいます」


 それって本当に魔王なの? 『魔』族の『王』様だからって言われてもなんか釈然としないんですけど。もっと大暴れしたいんですけど。


 ……あ、つい本音が。


「本当にただの王様ってことなの?」


「いえ、人間側とは長年の確執があるので友好的とは言い難い状況ですが……今は小康状態といっていいでしょう」


「交易とかはしていないけど、戦争状態ではないってことね」


 王として見過ごしていい事態なのだろうか。一つの『国』という以上、周りの国と完全に交流を断ち切った鎖国状態はあまり良くないんじゃないだろうか。


「理解が早くて助かります。魔王様はこの城から出たことがないので知らないと思いますが、この魔王城には城下町だってあるんですよ。ちゃんと一つの国家として成立してるんです」


 箱入り娘っていうのとはまた違うが、確かに私はこの城から一歩たりとも外に出ていない。なんでも異世界から召喚したばかりの人間は慣らすためにしばらく留め置くのがしきたりだそうだ。魔王として召喚された訳だから、チート級に身体能力は高いはずなのに。


「ねえ、なら何で人間側とよりを戻そうとしないの? 大陸の端っこにあるだけの、一つの国としては認めてもらえないの?」


 純粋な疑問だ。戦争もとうの昔に終わったというなら、なぜ関係が回復していないのだろう。


「昔の魔王には人間の国に攻め入ったものもおりますし、現在の状況も完全な和平ではなく停戦状態というのが正直なところでして……」


「……私、決めたわ」


 魔族の王として、この状態を解決すると。……熱しやすく冷めやすい私は、思いついた時点で素晴らしいと思っていても、後から後悔することが前世でもよくあった。例のごとく、このときの私は自分に酔っていたのだ。『この世界の救世主に……私はなる!』みたいなノリで。


「と申しますと?」


「私の力で人間たちと友好的な関係を作って、この国を発展させるわ」


 言うは易し行うは難し、ってね。後から考えたらだけど。


「お心掛けは大変結構ですが、相当困難なミッションだと思いますよ。何か具体的な方策でもおありですか?」


「……い、一応いくつか考えはあるわ」


 あー、何も考えてないのに見栄張ってつい言っちゃった。どうしましょ。


「それを私めに説明していただくことは?」


 アロイスが笑いを噛み殺したような顔でこちらを見ながら言ってくる。


 ……バレてますね、完全に。


「まだ無理ね。もう少し細かいところを詰めてから知らせるから、今日はもう下がっていいわよ」


 とっさに考えた言い訳にしては大分まともなほうじゃないだろうか。将来的にはやる気あるんだし、嘘じゃないからいいよね。


「了解しました。おやすみなさいませ、いい夢を」


……アロイス、あなた執事じゃないはずなのに無駄に執事スキル高いわね。


■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 それから三ヶ月の間、私は粘り強く交渉を続けて、ついに人間側と国交を結ぶことができた。


 え? 最後はしびれを切らした私が脅しに行って決まったじゃないかって? け、結果オーライよ結果オーライ。だって交流自体はお互いにとって明らかに得だもの。私じゃなくて頭の固い大臣どもが悪いのよ。そうよそうよ。


 産業の面で進んでいる人間側と、独自の文化や魔術を持つ魔物側では根本的に違う部分が多々あるから、交流すればどちらもさらに発展すること間違いなし! ……ってちょっとドスを利かせて言ったら王様がサインしてくれただけだし。


 というわけで、記念にパーティーをすることになったわけですよ。


 さらに、「交流するのは将来を担う子供にしましょうね!」ってごり押ししたら何故か通っちゃったので、当日はお互いの国のいいお家柄な皆々様のご子息が行き来することに。そういうときは上流階級の社交パーティーじゃないのかって?


 ……だって面白くないじゃない。得てしてお偉いさんがつまらないっていうのは前世からの経験で知ってるのに、準備に金も掛かるし人も沢山必要な社交パーティーなんか開いてもねえ。当日はお互いの国の高貴なお家柄な皆々様のご子息が行き来することに。


 そして、ただのパーティーじゃつまらないと思った私はさらに仕掛けを考えた。パーティーが行わるのは秋も深まってからの二ヶ月後。この世界に『10月』とか『ハロウィン』とかいう概念は無いけれど、無いなら私が広めればいいじゃない。


 そう、仮装パーティー。あとお化け屋敷。……お化け屋敷ってハロウィンだったかな?


 まあ、それは置いておいて、と。取りあえずはいろいろ準備もしなくちゃいけないし、しばらく忙しくなるわね。


■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 そして話は冒頭に戻り、今日はパーティーの前夜。


 一階の最も奥に位置する玉座の間で、私はくつろいでいた。明日の準備は全て終わって、後は本番に向けてちゃんと寝るくらいなんだけど……なかなか寝付けないから、普段はやらないような事務仕事をして気を紛らわせてるところです。


 初め「ハロウィンパーティーをやるわよ!」と部下たちを集めて告げた時は、『何を言い出したんだこの人は、そもそも「はろうぃん」ってなんなんだよ』みたいな目で見られたけど、仮装やトリックオアトリート、ジャックランタンや黒猫なんかの説明をしたらみんな食いついてきた。基本的にみんなお祭り好きらしい。悪魔なのに。


 私が住んでいるこの魔王城は、防衛上の問題だか何だか知らないが非常に面倒くさい作りになっている。簡単に言うと、一階部分はほとんど『迷路』だ。外見は瀟洒な西洋のお城なのに、中は間取り図がないと目的の部屋にたどり着けないような忍者屋敷もどき。洋風だけど。


 私も最初のころは結構迷子になったものだけど、もう慣れた。城で働く数百人の悪魔たちも慣れたもので、たまに新入りが迷って怒られたりしているくらいで特に不都合はない。


 だが、初見の子供たちにはどうだろう。玉座の間には最短距離でいっても十分はかかるので、ルートを複雑にしてお化け屋敷を作れば、数十分くらいでゴールできる、割と大がかりなお化け屋敷ができると考えた。え? 長すぎるって? どうせやるなら本格的にしたほうがいいじゃない。


 そのままでも薄暗い城の中にお化けの格好をさせた悪魔を百人以上も配置させたんだもの、人間の子供たちも喜んでくれるに違いないわ。


 ……という淡い幻想が打ち砕かれたのは十時間後のことだった。


■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 当日、朝七時。


 私は来てくれた子供たちを自ら出迎える気満々だったのに、側近たちに止められた。「暗殺者が紛れ込んでいたらどうするんですか!」ってことらしい。暗殺されるほどヤワじゃないのに。


 というわけで私は玉座の間で待機。さっきまでふてくされてたけど、魔王ってやっぱりラスボスっぽいし、まあ妥当かなと思い始めた。お化け屋敷に参加できないことへのせめてもの抵抗として魔女っぽい衣装に着替えてるけど。


 お祭り騒ぎをどこで嗅ぎつけたのか知らないが、先代の魔王が遊びに来ていたので衣装を見せびらかしたら、「……魔法少女ってやつかの?」とか舐めたことぬかしたのでふっ飛ばしておいた。魔女といったら魔女です。魔法少女じゃないんです。ロリでもないです。


 しばらく暇だなあ……と思いつつ紅茶を嗜んでいたら、慌てた様子で部下が駆け込んできた。


「ま、魔王様、大変です」


「なに? 招待した子供が泣き出しでもしたの? 乳母なら待機させてるけど」


 ノリがいい悪魔たちによって作られたこのお化け屋敷は、首謀者の私が私が言うのもなんだけど相当怖いです、はい。今回はいいとこのお坊ちゃんお嬢ちゃんばっかり来ているから、中には親に甘やかされた子もいるだろうと思って乳母は何人も待機させてます。


 ……イベント事には危機管理が必要なのですよ。


「いえ、それもあるんですが……」


「他に何が? まさかお客さんに怪我させたりしてないよね?」


 覇気をまとって部下を軽く睨む。なんか矛盾してる気がするけど気にしない気にしない。


「それは大丈夫なんですが、むしろお化け役の側に怪我人が出てまして……」


 この世界にスモークを発生させるあの機械とかみたいな高度な装置は何もないので、基本的に物陰に隠れた悪魔たちが出てきて「わぁ」みたいな感じで脅かすだけのお化け屋敷だ。怪我をする要素がないような気がするんだけど。


「どういうこと?」


「お化けを怖がって泣いちゃった女の子がいたんですが、一緒にいた男の子が「こいつを泣かせていいのは俺だけだ!」とかわけわからないことを言い出しまして、脅かした悪魔を切り捨てた模様です」


 ……はあ?


「切り捨てた!?」


「あ、いえ、御心配にはおよびません。ちゃんと避けたようですが、どうもその子がやたら強いらしくて、取り押さえられないらしいんです」


「紛らわしい言い方するんじゃないわよ……。それで、あたしに助けてほしいってわけね?」


「はい、魔王様の準備ができ次第ご案内します」


「直ぐに案内して頂戴。ガキ相手に武器なんて必要ないわ」


■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 部下の後をついて行った私が見たものは、想像を絶するような惨状……なわけないじゃない。ただ、部下が周りに何人も倒れているのは予想外だったけどね。悪魔は基本的に殺しても死なないので別に人的被害はないんだけど。


 目の前には怒りに燃えた眼をしたイケメン君(小学生くらい?)が。……なんか物凄い主人公オーラを放ってて眩しいんですが。ついに私を倒しに来た勇者が現れたか? とも思ったが、すぐにそんな馬鹿な妄想は頭を振って打ち消す。


 百歩譲って刺客だったとしても、倒される気なんかさらさらないけどね。


「ねえ、なんのつもりなの? これでも私たちはあなたたちを迎えるために色々準備してきたんですけど」


 一応、最初は下手に出てみる。頬が引きつってるのは隠しようもないけど、わざとらしい笑顔も浮かべながら。相手は子供なんだと自分に言い聞かせる。


「こんな出迎えならないほうがマシだね。大体さ、国同士の関係が回復したお祝いのパーティーに子供しか呼ばないでしかもお化け屋敷ってなんなの? 馬鹿なの?」


 言葉通り、思いっきり馬鹿にしたような眼でこちらを睨みつけてくる勇者風少年。


「馬鹿って何よ! 馬鹿って言ったほうが馬鹿なのよ!」


 失礼な物言いにキレた私は、つい小学生っぽいセリフを口走ってしまった。いくら童顔と言っても小学生ってほどではない、と自分では思っている。周りからどう見られてるかなんか知ったこっちゃない。私にロリとかそれに類する表現を言った部下は鉄拳制裁なので、みんな表向きでは何も言わないけど。


「……ガキだなあ。そもそも君ってなんなの? 護衛を兼ねたメイドさんみたいな?」


 言ってはならないことを口走りましたね、君。


 魔王としての私は魔力が多いだけでなく、身体能力も相当強化されている。加えて前世で空手をやっていたから、そもそも徒手空拳でも十分に戦えるのです。要するにチート。あんまり使い道ないけど。


 数メートルはあった間合いを一気に詰め、戦闘態勢を取っていなかったのでがら空きだった鳩尾に突きを入れる。


 ……魔王クオリティで人間が反応出来ないようなスピードなので、少年は抵抗する間もなくどさりと倒れた。彼らは最後尾だったようで、戦ってる場面を他の子供たちに見られなかったのはラッキーだった。多分大騒ぎっていうかパーティーどころじゃなくなるし。


 ふと、泣いていたという女の子はどこだろうと思ったので辺りを見回したが、それらしき姿は見あたらなかった。近くにいた下っ端に聞くと、危ないからと言って少年が下がらせたらしい。来た道を戻ろうとして迷子になっていたところを見つけた悪魔の誰かが先に行っている子供たちと合流させ、今はパーティーの会場に到着しているらしい。一安心だ。


 さて、目の前に転がっている少年はどうしようか。あいにく私にショタ趣味は無いので、お持ち帰りーな展開にはならない。


 うん、取りあえず起こしますか。


「……あれ、俺、どうしてこんな所に」


 あっさりと目を覚ました少年は、まだ醒めきっていないような目で辺りをキョロキョロと見回した。こうしてみると可愛く見えなくもないが、


「簡単に説明すると、お化け屋敷で色々壊して暴れたからね」


「あ、お前はさっきの……!」


 彼は再び立ち上がって戦おうとするが、鳩尾のあたりを押さえてうずくまる。……割と手加減したんだけど、肋骨とか大丈夫だよね? まさか折れてないよね?


「そう、魔王様です」


 つい、どや顔でカミングアウトしてしまった。だって、このまま舐められたままじゃまた無駄な戦闘が起こるかもしれないじゃない。私だってそんなに戦いたいわけじゃないのに。


 さっきと言ってることが違う? 今は早くパーティーをしたいんです。


「……はあ!?」


 案の定かなり驚いたようだが、一旦驚きが収まると今度は疑いの目で見て来た。私の容姿が原因なのは分かってるけど、あからさまに疑われるとちょっと傷つくんですけど。


 どうせ私は魔王歴半年のぺーぺーですよ。ふん。


「証拠は?」


「さっきの私の攻撃見えた?」


 正直、私が魔王であることを直接的に示すものなんてないんだけど、今この少年に見せられるもので一番わかりやすいのは戦闘能力かな。あとは容姿が悪魔よりも人間に近いことも。先代の魔王を初めて見たときも、近所でよく犬を連れて歩いてるお爺さんが一緒に転生したのかと思った。時系列が明らかにおかしいから違う人だって気付いたけど。


「速すぎて全然見えなかった」


 少年は首をふるふると振りながら答える。


「それじゃ証拠にならない? 何ならもう一回実演してみせてあげてもいいけど」


 と言いながら背後にゴゴゴゴッと黒いオーラをまとわせる。魔王限定の数少ない能力なんだけど、脅しとしては大分効果あるんじゃないかな。


「い、いや、遠慮しときます」


 ふふふ、いつの間にか敬語になっているぞ少年よ。


「じゃあ、あんまり遅れるのも悪いし、さっさとパーティーの会場に行きましょうか」


 倒れたままだった少年の手を引いて立ち上がらせ、有無を言わせずそのまま歩き出す。


「え? え? あの、そもそもパーティーって何ですか。俺、何も聞いてないんですけど」


「仮装パーティーよ。まあ来てみれば分かるわ」


「は、はあ」


 すっかり大人しくなった少年を引き連れてパーティーの会場まで急ぎ足で向かい、ドアを勢い良く開け放った。


 あ、会場ってのは会議室ね。玉座の間の隣にあるやつ。


■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 仮装パーティーは特記事項もなく、つつがなく終わった。


 ……お化け屋敷より圧倒的に好評だったね、うん。まあ楽しいもんね、仮装パーティー。お菓子とかも沢山用意したしね。


 お化け屋敷の方が頑張ったのに失敗して、ちょっと傷心です。


 ま、まあ、無事に終わって何よりだよね!


 最後に機嫌を直してくれた高貴なお子様方が親御さんに今日のことを話して、私の株が上がって、色々交流が……妄想は無限に広がっていく。


 何だかんだで私も大分楽しんだけど、元々は政治的なイベントだしね。これをスタートに私も頑張らなきゃ。内政的な意味で。


 取りあえず今は寝ます。おやすみ。


■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ 


 時は流れ、私が魔王になってから十年が経った。


「おいカヤ、さっさと仕事しろよ」


「えー、せっかくスフたんと戯れてるのに」


「……あのなあ、何のために俺たちが結婚したと思ってるんだよ」


「あんたがあたしに惚れたからじゃないの?」


「そういうことじゃなくてだな……まあ、そうなんだけどさ」


 隣国、ヴァンタ王国。私はその王城の執務室でスフと遊んでいます。


 何でこんなところにいるのかは話せば長くなるけど、いや、話自体は単純なんだけど……そう、私結婚しました。人間の国の王子様と。十年前、私が開いたハロウィンパーティーで戦った少年と。


 彼はどうもあの時に私に惚れてしまったらしく、結婚できる年齢になったのと同時に使者を遣わせてきた。その時の書状には惚れたってだけじゃなくて政治的な思惑も云々とか言ってたけど、まあ多分照れ隠しでしょうね。うん。


「で、何をしろって?」


「はあ、もういいよ。俺がやっとくから。……お前はそこにいてくれるだけでいいよ」


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